遅刻
紘が叫ぶよりも十数分前のことだ。
一機のドローンについたカメラが故障し、三月が映っていたはずだが、様子が分からなくなって、動けない紘の代わりに矢辺がその場所へ向かっていた。幸いなことに、ドローン自体は壊れておらず、位置情報は確認することができた。
「なるほどな…」
位置情報をもとに辿り着いた場所には一つの死体と血痕だけがあった。そこに草むらから人影が飛び出してくるのを見て、矢辺は「遅いぞ」と冷たい声で言った。
「お前が来てない間に、一人やられた」
鬼波、と矢辺がレイの胸倉を掴み、血痕を指してみせた。レイは血痕から数メートル離れて転がる死体を見て、誰に何が起こったかの予測が脳内で出来上がる。
「三月タカは、攫われた!」
矢辺が突きつけた現実に、レイは何も言わずに、矢辺の時計に示された座標に目を丸くした。それもそうだ。赤く光る座標は、とある場所で点滅している。
『浜光塔』
レイが駆けだそうとしたのを矢辺は首根っこを掴んで的確に止めた。その光景を見た、レイとここへ直行してきた悟が思わず「すご」と言って草むらから顔を出した。
「鬼波…焦るのはわかる。だが、助けに行ってなにになる?」
「見棄てろと言うの?」
「そうじゃない。今すべきことを放置して助けに行って何になる、と言ったんだ」
矢辺がそっとレイを放すが、レイはもう動かずそこに立っている。
「三月タカは人質としての価値を見出された。このGPSで場所を突き止められているのがその証拠だ。だったらお前がまずすべきは、傷ついている戦場の仲間のサポートじゃないか?」
人質として生かされている一人と、命を削る他の仲間達、どちらを今取るべきか、そう問われれば答えはすぐに出る。
「悟、師匠と拠点に行っててくれ」
「え、レイは?」
「戻ってきたんだ…戦う以外ないだろ」
そう言ったレイに矢辺は黙って丸い銀色の弾を投げた。レイは驚くことなくすんなり受け取って、すぐに中央のボタンを押した。すると、球体だったものは、悟も見慣れた鉄パイプへと変形する。長さこそ、少し短いが、レイの使う武器に変わりはない。
「それと、これ持ってけ」
矢辺はレイに向けて銀に光った何かをまた投げ、レイもこれまた平然とキャッチした。
「復帰祝いだ。戦況は追々教えてやる」
矢辺はそれだけ言うと、悟を連れて歩き出した。
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レイの手に残ったのは銀色のリング状のピアス。だが、レイはそれがただのピアスではないと早々にわかっていた。何せ、あの師がわざわざ渡してきたものだ。ただのピアスであるはずがない、と。
よくよく見れば、中央に細いラインが入っており、その中は何か通っているようにも見える。
付けた時、裏側になる部分になる場所に、小さな石がはめ込んであるのも見える。
「流石師匠」
レイはそれをカチッっと付けてみた。すると、ピアスが変形してラインだった部分が線となり、先端にマイクらしきものが付いていた。さらには、耳には小さなスピーカーが入り、何か音がする。
『付けたか?』
「あんたほんと気持ち悪いですね」
『最高の褒め言葉だな。どうだそれは、自分の集大成、最高傑作だ』
もはやピアスとしての原型を残していないそれにレイは苦笑するしかなく、いつのまにか先程のまでの重さから解放され、動き出していた。
「流石の出来っすよ。そりゃもう呆れるくらい」
『だろ』
矢辺は一先ず状況を、と早速メンバーの位置や状況をわかる範囲でレイに教えた。レイはそれを聞きながら、中心街の激戦となっている場所へ向かっていた。現在、激しい戦いが行われているのは、クルが最前線で戦う北舞台より少し南の場所――




