解放
それぞれの戦いが決着へ向かっていく中、森を抜けて、中心街の商人が囚われる施設へ辿り着いた一団。昨日は一条満の妨害により、成し遂げられなかった。それだけでなく、司令塔であったルアが重傷を負い、戦線から離れるということまで起った。
井月たちはリベンジとし、再び戻り、秋崎を迎えて進んでいた。秋崎が時間を止めることで、その間を井月たちは進み、難なく施設まで辿り着けたが、施設の前には、当然の如く、守りがある。
「貴族軍の方々ではなさそうですね」
「あれ…多分、田崎だ」
「田崎さん?追放された?」
秋崎は守りとして施設の前に立つ人物に心当たりがあった。見間違うことのない顔。田崎だと確信するには十分で、追放されてどうなったかまでは一切聞いていない。
「……井月たちはここで待っててくれ。本当に田崎なら話ができるはずだから」
「わかりました」
井月達を置いて秋崎はそっと施設の前に進み出た。施設の前に立っていた田崎とその部下は秋崎を見ても攻撃せずに、じっと見ている。
「田崎…だよな?」
秋崎は見定めるつもりで聞いた。
「俺以外誰に見える?」
「……俺はお前の後ろの扉の先にいる商人たちを解放しに来たんだ。開けてくれるか?」
「…いやだ、と言ったら?」
田崎は本気のトーンでもあるかのように声を低くした。
「強行突破する」
しばらく二人の睨み合いが続いて、ようやく動いたと思えば、田崎が笑い出した。
「…何がおかしい?」
「いや、実は俺は先にここ来て強行突破したんだよ。で、ここの警備のフリしてただけ。レイに聞いてない?俺も途中参戦するってことになってたんだよ」
田崎は扉に手を掛けて早速開いたが、秋崎には驚きが勝っていて行動できずにいた。
「お前は、追放されたんだろ?」
「あぁ。追放されて、レイの仲間っていう管理人に助けられた。鬼呪一天の拠点に辿り着けなかったけど、こうして合流できた次第だ」
秋崎は「なるほど。」と返すので精一杯だった。
扉の先には寄り集まっている商人たちがいて、救世主に喜んだ。
井月が商人たちに現状を説明して、なんとか混乱を治めつつ、商人たちを鬼呪一天の拠点の方へ移動させ始める。移動は簡単で、瀬合の用意したゲートを通るだけ。注意すべきは、これ以上敵がいないかどうかということくらいで、さほどの問題はない。
「もう終わりそうだね。楽勝じゃん。なんで昨日は失敗したの?」
「田崎…お前それフラグを立てるって言うんだぞ」
商人をある程度送ったところで、井月たちも拠点に送り、残ったのはとうとう秋崎と田崎になった。
二人も拠点へ戻ろうという時「遅かったようですね。」と田崎のフラグが回収された。さっと振り返ってみれば、きっちり着こなした燕尾服を纏う勝呂寺二葉が立っている。
「こんにちは。貴方方がやってくれたのですか?秋崎さんでしたっけ、貴方は昨日もお会いしましたね」
秋崎は苦い顔をして勝呂寺を見つめ、剣を構えた。
「そちらの方は初めましてですね。私は双燕様の執事をしております、勝呂寺二葉と申します」
「へぇ、俺は田崎。昨日秋崎と会ったってことは、秋崎をボコしたじいさんってこと?」
「そうなりますね。昨日はどうしても戦わなければならなかったので。私も仕事なのですよ」
田崎は余裕そうな態度で勝呂寺としばらく話していて、秋崎はその現実に置いてかれていた。
「じゃ、そういうことで」
急に現実に引き戻された秋崎。
「はぇ?」
「帰るぞ秋崎。じいさんが見逃してくれるってさ」
「いや、え?」
現実に引き戻されてもこの現状を何一つ秋崎に理解することはできなかったが、勝呂寺までもが頷くもので、とにかく何もしてこないことは理解できた。
「待て、何がどうなった?」
「だから、じいさんはただ商人が逃げ出したことの確認に来ただけで、俺達が
大人しく帰ればとりあえずは無傷で帰れんだよ。こっちから何もしなきゃ、じいさんは見逃すってさ。もう逃げられた、って」
田崎はさらっとまとめて、さっさと歩き出した。
秋崎は二、三度田崎と勝呂寺を交互に見た後、慌てて田崎を追う。一度、振り返ってみても、勝呂寺は一切追う様子も攻撃してくる様子も見らなかった。
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勝呂寺二葉という人間は命令されたこと以上のことは行わない。執事として、主人の要望は必ず叶えるが、それ以上をすることはしない。貴族軍として、鬼呪一天の殲滅は命じられたが、勝呂寺の頭の中にはUNC達のチーム区分がはっきりと記憶されていて、秋崎達が鬼呪一天ではないことはわかっていた。
屁理屈とも言える話ではあるが、執事として、主人に命じられたことをこなす、それがどこまでも大切だ。ならそれ以上に労力を割く必要性は微塵もない。命じられたことに全てを注ぎ、命を全うする。
今回のもただ商人たちの様子を見てこい、という命令。ならば、秋崎達を追ってまで戦う必要もなければ、ここで殺す必要もない。ただ、昨日秋崎と会った時には貴族軍の力を思い知らせて来い、という命令だったから、それなりにやっただけ。
血が嫌いだと言ったことも嘘ではないが、本当は服が汚れるのを嫌だっただけであり、勝呂寺は実を言うと、ただの面倒くさがりであり、散々主人の命を全うするとは言ったものの、命令以上のことをしないのは、勝呂寺が面倒くさがりだからである。何年も生き抜いてきた男が、まだ十数年のただの若者に仕えることはない。勝呂寺は待っているのだ。自分の王が戻って来ることを。
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解放された商人たちが拠点に送られ、秋崎達も無事に着いた頃、他のメンバー達も一戦終え、一度拠点に戻っていた。救護を担当する駒場は大忙しだが、戻ってきたロミが連れてきた花沢という人の助けを借り、なんとか間に合わせられた。
拠点に戻った井月は務と協力しながら拠点へ保護した商人たちを確認していき、拠点の地下の部屋へ案内していく。今や拠点内は大人数で、混雑しているが、動ける者で戦闘員はすぐに戦線へ戻っていった。
そんな中で『大変だ!』とスピーカーから叫んだ。




