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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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覚悟

 今日の戦いが始まって、樹が月森を倒した頃、田中も自身の敵を見つけ出し、戦い出していた。


「よぉ逃げ回る猫さんだことで。」


「そちらはよくしゃべる猿だ!」


 青鎌は田中に言われた言葉通り猿の真似をして、田中へと爆弾を投げつける。

永遠と互いを追うようでは決着がつくはずもなく、ただただ体力だけを消費していく。


「そろそろ飽きんか?わしは飽きた。」


「それはこちらのセリフだ!」


「ならそろそろ終わろうかの。」


 青鎌が何か取り出したと思ったら、田中は空の上にいた。


「まさか…!」


 一つ、覚えのある技があった。『キセキ』で引き寄せられる、青鎌にとって都合のいい現実。宙にいる人間が落下死すれば、青鎌にとっては終わり。今、さっき青鎌が取り出したものは爆弾であり、『キセキ』発動されたことで、田中は空に浮かんだ。爆風で、人を空へ吹き飛ばせたという奇跡。あとは落ちるだけ。

田中が下を見れば、青鎌が勝ち誇ったように笑みを浮かべて、落下していく田中を見ている。


 ここで死ぬわけにいかないだろ。


 いくら、これを使いたくないと思いながら生きようと、この状況下ではいつか使うと覚悟していた。

生きていたいし、私も仲間を守りたい。―強さは守るためにある。


『人形』


 田中が落下仕切る寸前に、田中が倒したはずの青鎌の配下が田中の落下地点に集まり、落下した田中のクッションになった。


「はぁ?」


「青鎌…俺はお前に何としても勝つ。俺の因縁を終わらせたい!」


「…なるほどなぁ。とうとうみせてくれんやな。お前の、能力。」


 田中の周囲にいるのは青鎌の部下だが、全員死んでいる。なのに、動く。

その奇妙な光景の真相は簡単にわかることだった。田中の能力『人形』である。

『人形』は洗脳よりも下手をすれば厄介なものであり、生者でも死者でも能力者の血液が体内に侵入すれば、いとも簡単に能力者に操られる。

能力の中で最も恐ろしく、最も相手にする側としては悪い能力であり、逆らえないものだ。


「死体遊びか?気味の悪い眺めやなぁ。」


 田中としてはいつまでも消えない薄ら笑いを消し去ってしまいたいほどうんざりしていた。


「いつかのお前ほどマシな光景だよ。」


「はて何のことか?」


 馬鹿らしい顔でとぼけているのは間違いなく、誰が見ても青鎌が面白がってしらばっくれていることが分かった。


「………絶対お前を殺す。」


 鬼呪一天の中でも冷静な方である田中の怒りは凄まじく、以前に青鎌と戦っている時の様を見た仲間の驚きは大層なものだった。


 一方の青鎌はどんな状況も薄っすらと笑みを浮かべて戦いに身を投じるおかしなやつ。いくら田中が不当な扱いをされて所属させられていたとはいえ、そこまでの怒りを理解できるものではなく、レイもかつて不思議がっていた。


 田中がまだ青鎌の仲間になって間もない頃の話だ。

この時はまだ渡来とサクラは会うことができて、レイに救出される頃ほど酷い仕事量でもなかった。


 無理矢理に仲間になってからの唯一の癒しは、サクラと会うこと。渡来は毎日のように通っては、サクラに自分が外で見たものや、中心街の様子を話して時間を過ごした。


 だがある日、サクラの姿が見えず、渡来は拠点内を探し回った。夜になっても見つからなくて、とうとう青鎌に直接聞いた。


 すると青鎌はなんの躊躇もなく「あぁ、あいつは仕事に行った。」と笑った。


 その笑みが何か嫌な予感を助長させるもんだから、田中は場所を問いただした。青鎌が大人しく吐くはずもなく、結局は待つことしかできなくなった田中だが、青鎌の部下である一人が哀れんでか、「仕事」について教えてくれた。決して、いいものではなかったが。


 仕事とは、青鎌が繋がる管理人の元へ送られること。つまり、サクラは売られらた。一日ほどすると帰されるそうだが、それはどこもいいはずがない。傷ついたものは癒えることがない。


 管理人も管理人だが、問題は青鎌がそれを斡旋していることであり、サクラが売られたということ。約束を違えたと、渡来は怒り、青鎌を殺そうとしたが、そこで返ってきたサクラを人質にされ、逆に痛めつけられた。


 どうしようもなくなった。


 サクラは幽閉する代わりに、今後一切そういうことはさせないし、服作り以外の仕事はさせないと、なんとか契約させることができた。その契約によって、渡来は青鎌の懐刀となり、処刑を請け負った。その間もずっと、ずっと、サクラという唯一無二の親友を傷つけられた怒りは煮え、青鎌と敵対する度爆発するのは、煮え切った癇癪球だ。


************


 奇跡なんて馬鹿らしいものだ、と。よぉ言われた。よぉ言われてよくその奇跡に倒れていった雑魚ども。


 バクであるわしを、同じバクの面子は誰一人としてわしを馬鹿にせんかった。それはわしの能力の真髄を知っているからであり、同じバクであることをよく理解していたからだ。バクは全員賢く、強い。昔からそうらしいが、わしらは殊にそうらしかった。バクの中でも、当然落ちこぼれはいるが、わしは能力が少し他に劣った。発現したのはレイを覗くバクでは最も遅く、UNC全体で見れば早い方だった。


 『キセキ』というわしの能力は、島入りしてからの仲間にかなりの頻度で乏しめられた。実際、しょっぼい時もあるが、ほとんどはわしにとって最高と言える結果を招く。わしが死にかけても、途端に回復することがある。仲間が裏切っても、なぜか逆に裏切ってわしが勝つ。他にもそういうエピソードがいくつもあるが、そんなことが続くうちに、わしはとうとう四天王にまで登りつめた。樹炎の四天王の発表で、まさかあの落ちこぼれレイが入っていたことは驚いたが、それ以外は概ね予想通りと言ったところ。


 そのうち、双燕と出会って、わしの夢に共感してくれたそいつについて行こうと思った。


 わしの夢、ハーレムの楽園!


 わしは女に囲まれて生きていたい。本国のお貴族どもがそうであるように、わしもそう在りたいと思った。


 別に今すぐそうしたいわけじゃない。大人になった時、綺麗な女を隣においておきたいのだ。そのためだけに、わしは国を作りたかった。あぁ、それで言ったら凛は惜しかった。惜しくて惜しくて、今もたまらなく惜しい。元々は戦力目当てだったとはいえ、凛は美人だ。あのままわしの元に居てくれたなら、いつかはわしが可愛がったものを。


 目の前の凛は怒っていても美しさを残していて、純粋なパワーでわしを追い詰めに掛かる。


「凛、ゲームせんか?」


「戦場でするゲームなどない。」


「いいや。わしと凛でただ一撃ずつ当てるゲームじゃ。逃げ回っていては終わりが見えん。防ぐことと、攻める以外はなしとしよう。」


 わしとしても、凛としても、早く終わりたいことに間違いなかった。なにせ、逃げ回るのには体力が持ってかれるばかり。どちらもダウンしては面白くない。ならば、ゲームを用いて、確実な終わりを作る。


「先攻は譲ってやろう。ほれ、一撃入れてみぃ。」


 凛は怪しんでいるが、乗らないはずはない。凛も体力には限りがあり、逃げ回ることに終わりはないと理解している。さっさと乗っかってくれる。

すると凛は人形として操っていた人間を急に地面に放った。

わしの目にも見える形で、人間の中から何か、靄のようなものが飛び出て、凛の剣に纏わりついて行く。


「先攻を譲ったこと、後悔して死ね。」


 早口で放たれた言葉と共に、わしに向かってきたのは今までにない程の衝撃。

『キセキ』で生きていることは確かなのだが、自分のいる場所が先程いた場所から何キロも離れていることを見れば、死んでいたのだと現実を見た。奥の方で凛は立ったままただこちらを見ている。


 死ななかったのか、という意思が見えたがわしは黙って元の場所に戻った。


「次はわしの番じゃな。いやぁ、さっきのは痛かったが、これで終わりと行こう。」


 わしも凛が防げないという『キセキ』的な未来を引き寄せて剣を刀を振った。

しかし凛は防ぎ損ねることなく、真正面からわしの刀を受け止めて、無傷のまま立っている。


「なぜ…」


「…ここで効果を成してくれるとは、本当に素晴らしいものだ。」


 凛はブローチらしきものを軽く叩いて、すぐに二発目を振るった。

それが、わしの最後の記憶だ。


 憎き存在を討っても、案外すっきりとはしないもので、ただただ何かから解放された感覚だけがある。それでもどこか重たしい。


「サクラ…」


 終わったことを一番伝えたいが、今は伝えられない。少し休みたい思いが爆発して、私はそのまま地面に倒れてしまった。

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