花に毒あり
花沢ウサは一言で表すなら、「毒」。
そういう女だ。
俺の知る限り、もっとも腹黒く、面倒な奴。とうに死んで、消えたと思っていた。二度と会わないと思っていた。なのに、こいつは俺の前に立っている。
「東雲、東雲、あたくしそんなものでは全っ然満足できませんわ!もっと、もーっと激しく!」
「うるさいよっ☆」
何度波で押しのけても俺の方が押し返される。
昔のこいつと姿が違うことが、単純に転生したのだと教える。転生までして、俺に執着すんのか。
「東雲、あたくし何百年も待っていましたの。貴方に会えることを」
「ボクはそんなの望んでないけど」
本当に、昔から変わらない。転生して馬鹿は治るかといえばそうじゃないのと同じなのだろう。まったく変わらない。姿だけ変わったって、魂が変わっていないこいつは面倒くさくて、俺に執着したままの狂った奴。
「あぁ、あたくしの東雲、どうして?どうしてそんな顔をなさるの?昔の貴方はもっと素敵でしたのに…」
「アンタのじゃないし、そもそもアンタが気持ち悪かったからでしょ。」
「まぁ!あたくしが気持ち悪い!?」
花沢は扇子で驚いた口元を隠した。こういうところがまた俺にとってこいつを嫌いにさせたとこだ。
「東雲、それはあんまりですわ。あたくし、貴方の次に可愛いはずです。この体もあたくしちゃーんと始海様にお願いして転生させていただいたのですよ」
「今も昔もボクよりブスならブスなんだよ」
苛立ちと、嫌悪の合体。つい、素の方へ吐き出してしまった。すると花沢が「あぁ、その顔です!」と喜々とした声を上げ、恍惚とした表情へと変わった。
「あたくし、そのお顔が愛おしくてたまらなかったのです。もっと見せてくださいまし!」
あぁ、もうとにかくこいつを目の前から追いやりたい!てか殺したい!
「だから嫌いなんだよ!この売女!」
毒を含んだ水で花沢を襲う。まだ恍惚とした表情でその場でくねくね動く以上、この波にのまれてしまえ。
だけど、こいつがそう簡単にいかないことを知っていた。
「東雲」
波が勝手に引いて、花沢が俺の一メートル先に着地して立っていた。
「貴方が手に入るのなら、今すぐにでも引き上げますわ!あたくしその顔をずっと見ていたいの」
「はぁ?」
「昔言えずに死んでしまって、あたくしは転生するほど後悔したのです」
花沢は武器である扇子を放り投げ、武装していないことを示した。
「あたくし、貴方を愛していますわ。あたくしのものになってくださらない?」
呆気としてもはや何も言えなかった。
確かに、こいつから一度もそんな言葉聞いたことはなく、ただただ付きまとわれては驚かされたり、誘惑されたり、毒盛られたり…何がしたかったのかわかんなかったが、そういうことか、とどこか納得した。
「は……」
やっと出た一文字だけの言葉。
「で・す・か・ら!あたくし、貴方を愛しているのです!」
「つまり、俺が好きでずっと絡んでたのか?」
「そうですわ!親父さんが言ってましたの。狙ったものはガンガン攻めて手に入れろ、と」
どうするべきかな、と俺は悩む。
正直言って、こいつは苦手だ。苦手と言うだけで花沢というこの人間全てが嫌いではない。一部、本当にこいつのごく一部は嫌いだが、当時のこいつは普通にモテるほど、できた女だ。面倒だけど。
料理、洗濯、戦闘、裁縫、看病…あれ、こいつ普通に見たら滅茶まともじゃねぇか。俺に執着してる面がやばいだけで、面倒なだけでごく一般的な部分を見たら、普通すぎる。
「ねぇ東雲、あたくし貴方が手に入ったらすぐにでも始海様を捨てますわ。貴方と共に戦います。貴方の仲間にもきっと役に立てますわ。どうか、いつかあたくしを愛してくださらない?」
冷静になってみても、こいつを今ここで殺す必要もなく、余計な戦力を割かなくていいベストな方法。
こいつも俺が好意を持っていない前提で話を進めている。だったら、今すぐ好意を抱く必要もない。
とにかく、この戦争が終わるまでそういうフリでもしておけばいい。
「……アンタのものにはならない」
花沢が傷ついたような顔をした直後に「アンタが俺のもんになるんだ。」と続けていった。
「……!えぇ喜んで!あたくし貴方のものになりますわ!あたくしを好きになさって」
「とりあえず、仲間を助けたいからヨロシクな」
「あぁ、そのお顔とても刺激的です…先程の戦いでも見せて下さればよかったのに」
俺は横で何かまだ言っている花沢を伴って、すぐに他の援軍へ向かった。




