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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
84/93

邪神

 戦いが始まってすぐ、自分達のリーダーの仇を探して双龍の二人は仲間の元を離れていた。


 クルも黙認していることで、誰も引き留めはしなかった。自分の信じたリーダーがやられたら、それは当然の行動であり、現状自分達もレイの仇を取りたいという思いを持って、革命を起こそうとしているのだ。言えるはずもない。


 二人のお目当ての男はすぐに見つかり二人は顔を見合わせた。


「一条満とお見受けする」


 空中を歩いている男へ、羽谷は叫び、その後ろで睦月が微笑を浮かべている。男は何も言うことなく、代わりにスケッチブックを出して何か書いた。


『君達は敵か?』


「ルアの仇を取りに来た!」


「あんたが昨日倒した男の仲間よ!」


 男はそれなら、という殺気を出して、早速二人に襲い掛かった。当然二人は応戦をするが、あまりスピードに危うく衝突しかけた。


「由芽ちゃん!」


 睦月が羽谷より先に火で龍を作り出し、男へと泳がせていったが、男は空中へ跳ねて全て躱してしまった。羽谷も睦月に続けて水の龍を泳がせたが、男になかった逃げ場が空中で出来上がってしまう。


「あいつただの浮遊じゃないな……」


 由芽が舌打ちすると、一条が肯定するように周囲の瓦礫を浮かべて二人に仕向けた。二匹の龍が、二人の周りを守るように旋回してその瓦礫を防いだが、二人は一条に攻撃できない。


 永遠と降りそそぐ瓦礫の雨では動くことができない。



 動けずにいる二匹の得物。じっくりこのまま攻撃して隙間から仕掛けに行けばいい。一条はそう考えて周囲の瓦礫を手当たり次第に二人の方へ投げつけていた。


――咄嗟に前かがみになって、地上に降りた。


 咄嗟のことだったために、操っていた瓦礫はただ落下して、一条は攻撃をやめさせられた。


「完全に獲ったと思ったんだけどなぁ」


「「ソウ!」」


攻撃が止んで外へ出てきた二人は、自分達の救世主の名を叫んだ。


「ずりぃぞ、お前ら!ルアの仇、俺にも取らせろよ」


 一条は新たに現れた存在に眉を顰めたが、一人増えた所で変わらないと判決を下し、即座に武器を構えた。


「ルアがてめぇに負けたんなら、俺が勝てば俺はルアより強い!」


 ソウは新しい武器である杖のようなものを振りかざして空中へ飛ぶと、そのまま一条に向けて細い糸のような鋼を無数に伸ばした。一条は適当な屋根を盾にそれを防ぐも、すぐに空中へ逃れてソウより上に立つ。


「ソウ!俺達も援護する」


「空中戦は私達だってお手の物よ!」


二人はそれぞれ攻撃の時よりも小さな龍に乗ってソウの隣に立った。


「ルアが手元に置いてた仲間、今更ながらお手並み拝見だな。言っとくが、あいつの能力は多分、俺達の能力には干渉できない。強ければ強いほど制限が付くらしいからな」


 ソウの説明を聞いて頷く二人とは反対に、一条は僅かに顔をしかめているように見えた。




************


 おかしい。


目の前の惨状は、俺達三人が不利という現実を露わにしている。


 おかしい。


 地面に俺が寝そべっている。立っているのはあの一条とかいう奴だけ。


 触れられたことにまずいと反応してすぐに、体が浮いて、一気に地面にめり込んだ。一度目の落下で羽谷と睦月は気絶した。俺は何度か耐えたが、今はもう体が動かくて、起き上がることができない。


 矢辺さんに散々対策は聞いていたが、それ以上に一条は自分の制限を理解し、補うだけの力を持っていた。


 誤算…


 すると一条は『そこで寝てれば危害は加えない。無駄な血は嫌い』という文を見せてきた。


『双燕様は殺せと言ったけど、殺さない。時間が経てば、そこの二人も君も動ける。すぐにこの島を出ろ。君達には管理人も付いてる。船があるなら、すぐに出て行け』


「…お優しい人間だな。敵に御情けか?」


 何が真意なのかわからなくて、吹っ掛けるようにって様子を窺ってみた。


『大人と子供。無意味で無駄な争い。僕はこの戦いに反対してた。でも、強いから』


 こいつ、話しは通じると思った。そう言えば積極的に俺達に攻撃はしてこなかったし、命を奪う戦い方ではなかった。


 こいつは、戦う気がなかった…?


「じゃあなんで双燕なんかと……」


零れた言葉に一条は答える気らしく、またスケッチブックに書き出した。


『弟がいて、病気。弟生かすために、転生した。元々能力が強かった。始海様、兄弟で転生させてくれたのに、僕が戦わないと弟を殺すって言った。弟を守りたい』


「じゃあ…弟が、無事なら戦わないのか?」


一条は頷いてスケッチブックをしまった。


「弟はこの島に?」


 急に体が軽くなって動けるようになった俺は、すぐに立ち上がった。


 首を縦に振った一条は、浜光塔を指さしながら、何も見ていないというように俺から目を逸らして、手を振った。さっさと行け、と言うことだろう。特に何もしなければ、一条は攻撃しない。なら、この二人は眠っている間無事だろう。


 紘に連絡して、回収させておきながら、俺は単独任務と行くか。


「一日くれ。俺がお前の弟を連れてくる」


 そう言うと、一条は懐から写真を撮り出して俺に差し出した。そこには幼げな風貌のどこかで見たことあるような顔の子供が映っている。


「任せろ」


 俺は早速塔を目指して飛び出した。


 塔への潜入だけなら簡単だ。拠点に一度戻って、瀬合に協力してもらい、中へ入る。そうすれば後は、捜索するだけだ。


************


 城の中に入ればこっちのもの。中に人はほとんどいない。そのはずだ。戦力があるとはいえ、俺達相手に油断するはずのない双燕はほとんどの兵を外に出しているからだ。


 となれば、当然中はスカスカで、警備なんてろくにできているはずもない。そもそも、敵の本拠地にこんな戦場から乗り込むような馬鹿はそうそういないのだから、警備より戦いに兵を割く。


 正直、自分の行動は馬鹿だと思うが、血を流さずして、あの大きな戦力を減らせるのなら、立派なもんだ。前に、ルアとルカを回収に来た時、ある程度この中のことは把握している。この期間の間に内装を変えることはほぼ不可能で、実際変わっているところは見受けられない。


 なんとなく付けた目星は、双燕が目の届かない地下か、逆にお膝元。この二択だ。一先ずは地下に行くしかない。いきなり双燕と戦ったって仕方ないし、双燕の元には護衛くらいいるだろう。それと戦って俺が負けでもしたらそれこそ最悪だ。


 現状、一条の弟のことはまだ紘に言えてないし、レイがここに来るまでは俺が主力の中でも上位だ。負けるとは思ってないが、一条は実際強くて俺は敵わなかった。その現実を踏まえて考えれば、双燕の元にはもっと強い奴がいてもおかしくない。わざわざ最強カードを最初から外に出しておくなんて、双燕はしないだろう。


 地下は簡単に行ける。前に石崎が幽閉されていたし、以前の襲撃の時も俺が捜索している。


「誰?」


 静かに降りて行って、油断した。僅かに、布が壁に擦れた。それに反応した声は双燕ではないが、鋭く軽く殺気が乗っている。俺は諦めて、ゆっくりと進む出た。


「レイの…」


「高坂?」


 地下にいたのは高坂優菜。何しているのかは見ればわかった。高坂の立つ牢の前には子供がいて、すやすやと眠っているのが見える。つまり、見張りだ。


「なんでここに?ここは敵の本拠地よ」


「無駄にくるわけねぇだろ。そこのガキを迎えに来たんだよ」


 高坂は子供を一度見つめ、すぐに俺に目線を戻すと「この子が何かわかってるの?」と眉をひそめた。


「一条満の弟だろ。んで、一条を動かすための人質」


 高坂の雰囲気が変わったから攻撃してくると警戒した。だが、高坂は動かない。ただ「…レイは?」と聞いた。


「ここにはいねぇ。だがもうすぐ来る」


 俺にはそんな確信があった。赤い花火が上がって、俺達も戦いで必死になっている最中、ふと現れるレイ。そんな姿がありありと浮かんで仕方ない。


「そう……」


 高坂が動く様子は見られなくて、俺はただ揶揄うつもりでと「双燕の周りは裏切り者だらけだな」と笑って言った。一条にしろ、真壁要田にしろ、心から双燕を味方していなかった。それを知れば、つい口が言っていた。

 

 高坂が「そうかもね」と言って、ナイフを出したと思うと、自分に刺した。


「おい!」


「静かに!」


高坂は俺を止めて、もう一度ナイフで自分を刺すと、地面に崩れた。


「これくらいじゃ死なない。あんたがやったように見せかけてあいつを騙す」


「は?」


「ボケっとしてないで早くその子連れて行ってよ。もちろん、牢は自分で壊して。そうじゃなきゃ、双燕は騙されないよ」


 俺は状況に困惑しながら牢を壊して、子供抱き抱えた。高坂はいつの間にか俺が刺したかのように怪我を負っていて、気絶していた。


「お前……」


 気絶している相手に何を言ってもしょうがないが、こいつは自ら『反転世界』を使って、俺ができなかったことをできたことにした。俺を、助けたことになる……


 高坂が気まぐれか、単に何かあったにしろ、この機会をくれたことを逃してはいけない。俺は子供を抱えて、さっさと地下を脱した。


 そうかもね――あれは、高坂も双燕を裏切っているとでも言いたかったのか……?


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