スナイパー対決
同時刻、中心街の一角では三月と八乙女ダンのスナイパー対決が繰り広げられていた。
一発が水に着水して、もう一発が見事に血を散らしたと思えば、一発が屋根に当たって、もう一発がダンの腕を掠めていった。
「1-1か」
ダンの視力をもってしても、水の中にいる三月をしっかり視認できず、進路を想定し、水の動きからおおよその位置を割り出して当てているのが現状。水に電気を流し、感電させるのも一つの手だが、ダンはそうしなかった。条件を同じくとした、ただの腕前勝負。狙撃の冷戦。静かに、互いを見つめ、隙を見せて、見つけて撃ち合う。
いくら双燕という上司に鬼呪一天の人間を全員殺せと指示されていても、信条までは変えない。それがダンだった。同じスナイパーを見つめ、正々堂々勝負をする。
ダンが屋根をフィールドとして、三月は水をフィールドとしている。どちらかと言えば、水中にいる三月の方が不利なのだが、それを微塵も思わせないほど、狙撃の腕は同等だった。三月が使うのは『水鉄砲』という能力だけ。ダンもそれに合わせて最初から自分が持っていた『狩人』だけを使って挑んでいる。
赤い花火からおよそ一時間。二人は集中力の限り、撃ち合った。片方が腕をやれば、もう片方もすぐに腕をやった。三月はダンの腹に一発を入れた。貫通していくほど鮮やかな道だった。
ダンが三月へ撃って、僅かに姿勢を整える、ほんの一瞬の、ビー玉ほどの隙間。そこを撃ち抜いた。
その際に三月は右足を打ち抜かれた。
頬、足、腕、脇腹、髪、姿勢、タイミングによって、さまざまな場所を掠め、三月は途中で水中を放棄し、両者ともに中心街の中で戦っている。屋根を影に移動し、瓦礫を盾に相手を探し、撃ち抜いた。時には銃の種類を変えて、相手を追い迫った。
ダンが持ち出したマシンガン。三月が隣の屋根に移るまでの間、後ろからひたすらに撃ちかました。三月は水で勢いを緩和させてそれをしのぎ、なんとか屋根を盾にできた。
また、三月が撃った特大の水玉。形は当然の如く円球にも関わらず、楕円に見える。意志のようであり、その勢いは大砲にも劣らない程で、ダンに向かっていった。そればかりはダンも思わず『雷』を使って防いだほどだった。
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あぁ、懐かしい。オレは昔もこうやって誰かと対決していた気がする。何度も転生していくうちに、そんなのは忘れてしまったが。
転生にすることにもノーリスクということはなくて、事前に言われていたことだが、「回数を重ねるごとに、宝を失う」。宝なんて持っちゃいないオレは笑ったが、「宝」とはどうやらオレ達が持っていた「記憶」のことらしい。転生者は皆何かしらの記憶を失っている。
オレも例外じゃなく、自分の生きた世代の記憶がほとんど残っていない状態だ。
だから、今三月とのこのやり取りが懐かしくて、楽しくて仕方ない。同時に僅かに心が痛い。
一発がオレの右耳を撃ち抜いていった時、頭の中で誰かが笑った。動揺しそうになっても、隙を見せれば間違いなく撃たれる。隙を噛み殺せ。
だけど、お前は誰だ?
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互いの位置は知らず知らずのうちに、近づいていた。
一発撃てば、位置がバレるため、すぐに移動する。少しでも遅れれば、移動中の隙を狙い合うことになる。
両者とも一歩も引かず、言葉が飛び交うこともなきままずっと弾だけが飛び交う。
不意にダンが言った、「そろそろケリ着けないか?」と。
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」
三月も言って、二人は地上で向き合った。
「お前もオレも早打ち得意だろ。正確な早打ち。だから早打ち勝負と行こうじゃねぇか。あのままじゃいつまでも終わんねぇよ」
「同意見だ。腕前は同等と見た」
「ま、オレはお前よりウン百年生きたスナイパーよ。経験の差は圧倒的」
「だとしても、受けた弾数に大きな差はない」
三月がそう言って笑えばダンもつられて笑っていた。
「早打ち、狙うならオレの場合、ここを狙え」
ダンは額を軽く叩いて見せた。
「オレ達転生者は普通の人間の体だが、死んでも次に転生できる。それを阻止するには、ここを撃ち抜く以外には術者を殺すくらいしか術がねぇ」
「…なんでそれを…?」
三月の不思議そうな顔にダンはまた声を出して笑うと「オレは勝負が大好きだ。同じ条件、同等の条件を持ってないとつまんねぇだろ?」と言って銃を構えた。
「……そうかよ…」
中心街中央の浜光塔の時計の針が動いたら、互いに撃つ。静まり返る二人の間。互いに微笑を浮かべながら、動く瞬間を待っている。
カチッ
針が動いた瞬間に響くのは、甲高い銃声と、空気を切り裂いた音。
「…おまえ…」
ダンは目を見張り、三月の背後に揺らめく姿を見つめた。
「あぁ…そうか………サ…キュ…」
ダンが倒れた後、三月は自分の手を見つめた。ダンの額には綺麗に貫通した穴が一つ。笑って倒れた男は、二度と転生しない。三月にとって、初めての命の重み。けれど、見つめた手は不思議と温かい。
拠点に戻ろうと三月が一歩を踏み出した。その時視界がぐにゃりと歪んで三月は倒れた。
「……ただでは死なないか…」
最後に食らった一撃は、当たりはしなかったものの、三月の腕を掠めていった。
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あの日救われて、間違えてまた救われた。王が俺にとっての一番で、最愛だった。俺に想いが向くことはないとずっとわかっていた。他の恋敵に敵うことはないと知っていた。
それでもただ傍に、ただ仲間として共に在れたらそれでよかった。
「レイ…」
馬鹿でも、愚かな選択をした時でも、俺を捨てないでいてくれた俺の王様。
親友として仲直りさせてくれた秋崎。俺を対等なライバルとして、戦い続けた津宮。
俺を信じてくれた、仲間達…そのために死ぬくらい、怖くない。あの時俺は死んでいるはずだった。それでも今日まで生きてこれたのだから、それでもう十分だ。だけど、せめての心残りを言うのなら、二度と宴会に参加できないことだな。また、レイもいる宴会で、馬鹿みたいに踊って騒いでたかった。
目を閉じて、失われていく感覚に身を任せた。最後にうっすら見えた誰かの影。レイであればどれほどよかったか…
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紘の飛ばすドローンは、戦況を映し、時に重傷を負った仲間を回収するほど有能だ。機械によっては、援護射撃の性能を持つドローンもいる。矢辺はそれを利用し、味方の現在地把握のためのGPSを整備した。矢辺の力も借りれば、効率よく観察、機器の運搬が行えるようになり、紘は連絡発信に集中できた。
「あっ」
短い驚きの悲鳴。矢辺とリトの目も集まって、一つの画面を見つめていた。
「津山、これどこの辺りのやつだ?」
「多分、西の方だ。三月が映ってたはず」
三人の見つめる先には何も映さなくなったモニターが一つ。確認はできていなかったものの、映っていたのは三月だと紘は断言した。
「…俺が直接見に行こう。西なら森を抜けて戦場を迂回していける」
「でも……」
「ガキは大人しく観察しとけ。大人の出番だ」
矢辺はさっさと何個かの端末をカバンに詰めて、銃を持つと出て行ってしまった。




