あいつは普通だろ?
「おい、お前辻先にいい加減勝てよ。いつまでそうやってんだよ。」
背中にいるクルへソウは「何回目だ。」と煽るように言った。
「戦闘狂ともあろうソウがなんでそんな奴に押されてんの?」
クルもまた、背中にいるソウへ言った。
二人は互いの敵との戦いの合間、背中を合わせ、呼吸を整えている。
クルの相手は何度も戦い、逃亡されてきた辻先奏。今までと違うことに、以前よりも技が洗練され、クルの絶対音感でも上回ることができない。
ソウの相手は顔を隠した長身の男。ブツブツと何か言っていて、聞き取ることはできないが、クルの耳にはいつか覚えさせられた念仏のように聞こえる。
「なぁ…」
ソウの問いかけに「多分、考えてること一緒。」とクルは返す。
「…みじけぇ間によくもまぁわかるようになったことで。」
「同じ奴好いた仲だろ。それはまぁいろいろと読めるようになるよ。」
二人は自分の進むべき方へ一歩を踏み出して、武器を構えた。
「初めまして辻先奏!」
「その顔晒させてもらうよ!」
辻先も男も急な入れ替えに反応できず、咄嗟に自分を庇うので精一杯だった。
辻先は弓を盾にしたために、ソウの斧で斬られ、男は放たれた銃弾を刀で切り落としたが、態勢を崩した。
((結構こいつ動けるじゃん。))
初めて背中を合わせた二人はそんなことを思う。
ソウとクルはライバルであり、互いに刃を向けることは幾度とあったが、背中を合わせたことは今までなかった。動きやすい、と感じればそれはもう二人で戦える。互いが知らない内に口角が上がる。
「さっさと突破すんぞ。」
「了解っ!」
ここに、珍しい共闘が幕開けとなる。
*************
石崎は紘に戦場を迂回するルートを案内してもらい、北の森を駆け抜けて行った。
すぐに船の止まっている場所に着いた。あの船は確かに初日に見せてもらった管理人の船に似ている。もう少しよく見ようと思って私はそっと船に近づいて、周辺を窺った。
「おい。」
背後にひやりとした感触。この銃は間違いなくデカイ。頭が余裕で吹き飛ぶ。けれどそれで臆する私ではない。まだ勝機はある。
「……なんですか。」
「なんですか、はこちらのセリフだ。お前、双燕の手の者か?」
この声は勝井さんではない。かといって、女の声でもない。
「いいえ。私は鬼呪一天の方よ。」
堂々言って振り返った。敵方の人間でも『魅了』を前にそう簡単に倒れないはずがない。
「なんだ、鬼波の方か。」
あっさり男は銃を降ろして私を見ていたが、『魅了』にかかった様子は見られない。
「あなた…」
「お前、石崎だな。悪いが自分に能力は通じない。」
男は淡々と説明している。見るに、どこかの学者のような風貌で、顔にあるマスクが特徴的だ。
「鬼波と一緒に色々開発してたもんでな、洗脳だとかの無効化眼鏡があるんだ。まぁもとより、自分はこんなガキに惚れるほど飢えちゃいないが。」
「レイの知り合いなの…?」
「あぁ、言うなら自分はあいつの師匠だな。聞いたことないか?」
そこへ勝井が顔を出して「何してる。」と言った。
「勝井さん!」
勝井は「石崎…なんでここに?」と目を丸くしている。
「こっちのセリフですよ。どこ行ってたんですか。私達大変なんですよ。」
「悪かったよ、このお偉い野郎を迎えに行ってたんだよ。」
勝井は呆れた様子で男に目をやり、石崎に説明した。
「この人はなんなんですか?レイの師匠って…」
「そのまんまだよ。あのじゃじゃ馬娘の探求心を唯一満たし、手なずけた天才師匠。管理人研究開発部主任、矢辺亮だ。迎えに来いっていうもんだからよ…」
矢辺は「師弟関係だ。」と言ってフンッと眼鏡をかけ直し、勝井に向けて微かに笑っていた。
石崎は「嘘…」と驚いていた。
「なにがだ。全部ほんとだぞ。」矢辺はムスっという。
「嘘よ。あのレイを手懐けるような人間がこの世にいるはずないわ。」
石崎はもう一度嘘だ、と繰り返して固まっている。
「……あいつは獣か何かだったのか…?」
矢辺はあまりのレイの評価に目を点にし、勝井に問う。
「お前以外に対してのあいつは、厄災も同然だ。俺の胃に穴が開くのも大体あいつのせいだ。」
勝井はお前だけが平和なんだよ、と訴えるが矢辺としてはピンとこない。
そこへ『石崎、大丈夫そう?こっちは今やっと話せるくらいにはなったけど…』という無線が入る。
石崎は二人に断りを入れてからすぐに「大丈夫よ。勝井さんだったわ。」と報告する。
『それならできるだけ早く戻ってきてくれる?ちょっと戦況はよくないから…』
「わかったわ。」
石崎はそのことを二人に話し、二人も同行すると言う。
「藤井!船を拠点の方に回せ。俺とこいつは地上で行く!」
「丁度試したい道具がある。」
指示する勝井の横で、矢辺はどこからか出した道具を背負い、立っている。ついでに勝井にも装着した。
「よし、行くか。」
指示出しを終え、一歩進んだ勝井に矢辺は「あぁ。」と返し、何かのボタンを押した。
「は?」
すると、勝井は宙に浮いてそのままどこか上空へ上がって行った。
「ふん…やはり威力が強すぎたか。こっちで正解だな。石崎もこれを背負え。完全自立のジェットパックというものだ。あいつには改良版を与えたが、これは安全だ。」
「あ、ありがとうございます。」
石崎はまだ勝井の飛んでいった方向を見ていたが、矢辺が飛び立てばすぐについて行った。




