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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
8/98

一神の鉄槌

 王座に腰を下ろし、目の前に跪くミネル・ヤタンを見下ろす夢願破心総代・真宮流過は崩壊戦争の報告を聞いて頬杖をついた。


「ふーん、レイが、ねぇ…」

「どうするんですか?」


ルカの一番の部下で相棒の杉山直也が問う。


「生きていたなら潰すだけだ。が、それは本当にレイか?あいつは泣き虫の雑魚だぞ?」


かつてのレイを思い浮かべたルカは鼻で笑い、ミネルに問う。


「間違いないよ、戦争に乱入して斎藤ルアを殺害した。」


ルカは肩に垂らしているワインレッドの髪を一撫でし、はやる気持ちを抑える。


「…ミネル、ナオ用意しろ。」


彼の用意という言葉は決まっている。ミネルは内心呆れたが、決して表情には出さなかった。出せばその後、自分の身の保障がない。


「戦争だぁ。」

ルカは口角を上げ、サングラス下の目を輝かせた。ミネルは黙って立ち上がる。




 崩壊戦争から一ヵ月、そしてルア達の加入から一週間が経つ。


「羽谷が夢願破心潜入を成功させた。」


レイが会議室での報告でそう告げた。


「夢願破心ってあの…?」

僕はウワッという顔で確かめる。


夢願破心は今、徐々に勢力を強めている侵略戦争大歓迎な組織で、レイもこないだめんどくさそうな顔をしていた。それでもできることは進めていたらしい。


 鬼呪一天は他チームに比べ戦力に乏しいが、圧倒的な情報量を兼ね揃えていた。その情報は潜入という危険な行為にもたらされるものであり、鬼呪一天の半分以上のメンバーが潜入に行っていた。

今回加入した羽谷と睦月も例外ではなく、レイによって潜入の手筈とそこでの行動などを叩き込まれ、今回それぞれ送られたわけだ。ちなみに、睦月は中心街の雑貨屋に入ったらしく、中心街の潜入中だ。


「そう、あの夢願破心だよ。高難易度潜入だけど、虚月透真解体は有名な話だから丁度良かった。駒場だけだと色々と大変だろうから。」

「待って、駒場ってそこに潜入してるの⁉」

「あぁ。あいつはああ見えて結構やるやつなんだ。」


僕はまだまだ自分の認識は甘いのだと痛感する。あの駒場がまさかそんな危険チームに潜入しているとは思いもしなかった。


「それはそうと、そろそろルアの所属も決めないとな…」

「隊を新設しようにも人数いないからね。」

「そうなんだよ。で、何処かに入れようって言ったところで、ルアはそんな器じゃない。」


レイは真剣に悩んでいる。当のルアは訓練場でなまった体のリハビリをしている。

レイが考えたというリハビリメニューをちらっと見せてもらったが、かなりハードで容赦ない内容だった。しかし、ルアは文句も言わずそれをこなし、日に日に鋭い動きを取り戻している。


「…ルアは頭良くて、冷静で…あ。あいつ、参謀とか絶対似合うわ。」


レイはすげぇ適任、と手を叩いた。


「よし、ルアは鬼呪一天の参謀にする!」

早速伝えに行こうとしたレイを僕は全力で引き留めた。


「ねぇちょっとちょっと!?元敵だよ?しかも元敵将!そんなやつに組織の参謀なんて…」

「ルアなら大丈夫だ。僕が保証する。」


満面の笑みでそういうレイに僕は困惑を隠せない。


「とりあえず、皆に伝えるから手紙出さないと。」


レイはさっさと屋上に行って手紙を出しに行った。さらには当のルアにも伝えに行った。





「レイ…流石にそんな冗談はよくないと思うぞ…」


ルアは驚いていた。まぁ当然だろう、とクルは思う。


「冗談じゃない。冗談でこんなこと僕が言うと思うか?」

「ならお前正気じゃない。俺は途中加入の虚月透真のリーダーだったんだぞ?」


ルアがまともなことを言っているのだが、レイはむしろなんでダメなのか、という顔だ。


「ルアなら参謀適役だろ。大丈夫だって。」

「そうじゃなくて、信用の問題だよ。俺は特に、津宮や津山に…」

「クルは反対しなかった。ヒロにも聞いたら別にいいってさ。」


いつのまに紘に聞いたんだろう。手紙出した後はここに直行してきたのに。というか、紘も反対しなかったんだ。やっぱり真壁の方が憎いのかもしれない。


「それでも、だ。組織運営を担う立場になるなら、信用は絶対だぞ」

「知ってる。だからこそ僕はルアを推してるんだ。」


レイの無邪気な笑顔にルアは完敗だという顔を見せたが、一つ条件として、全員が認めたらと提示した。

しかしその条件はあっさりクリアされることとなる。


 レイがルアを参謀にと言い出して一週間後には、ルアが参謀になることを承認するという旨の手紙たちが届いたのだ。僕も見せてもらったが、しっかり直筆のサインと共に異論なしと書かれていた。

レイは届いた手紙をルアにも見せて、ほらな、と言いながら就任式を開催し、晴れてルアは鬼呪一天の参謀となる。

これって僕はおかしいの?というくらい、鬼呪一天の面々はルアの参謀就任を認めた。異論なしという言葉と共に、一様にレイが決めたことならば、という言葉が見えた。それほどレイの目は確かだということだろうか。僕にはわからないが、ルアと共にこれでいいのかと話しているうち、なんとなくルアの中に苦労人気質を見出して、レイに振り回され出した僕と振り回されてきた者同士、これ以降、一緒に食事をするようになったのはいいことだった。


 ルアは生存がバレてはいけないから、ということでキツネの面をして、活動することになる。キツネの面はレイの趣味らしく、紘とのお手製らしいので、きっとただのお面じゃない。




 十一月の始め、意外な訪問者にルカは対応していた。先にナオが案内していて、客間に入れば既に紅茶を飲み、くつろぐ客人の姿。


「…どういう了見だか知らねぇが、とんだユダ様のお越しじゃねぇか。」


笑顔の中にルカは疑惑をひた隠して平静を装った。


「…久しぶりだな。」


ルカが入って来たのを見ると、客人は真顔で告げる。

ルカは反対のソファに座って、正面から客人を見据える。アッシュグレーの髪に特徴的なヘリオトロープの瞳は、この島で見間違えることない、怪しさをもつ。お互い、一挙一動を決して見逃さない。


「で、何の用だ?真壁。」


真壁は眼鏡をかけ直しながら不敵に笑う。


「このタイミングで、何の用だと思う?」

「さぁなぁ…次の寝返り先のご所望か?」


茶化すように言ったが、ルカは返答までにあったわずかな目線の泳ぎを見逃さなかった。


「…外れだ。今回はお前にとって利になる情報を持ってきただけだ。」


ルカはそうか、と言ってナオにコーヒーを持って来させる。


「なんだ、興味なさげだな。」


真壁はルカが思ったより興味を示さなかったので、不満げに眉を下げた。


「今忙しんだよ、あいつ潰すために準備中なんだ。」

「あいつ…?」

「レイだよ。」


ルカはニヤッと笑みを作った。

真壁はそう聞くや声を上げて笑い出す。


「ならお前は絶対に喜ぶ。」


そこでルカがようやく真面目に真壁を見てほう、と笑った。

真壁は笑ったまま「お前のとこにレイの仲間がいる。」と言って、二枚の写真を出した。


「駒場亜海、羽谷由芽。この二人は鬼呪一天所属。しかも駒場は隊長代理だ。」


ルカがそれを食い入るように見つめ、クククと笑いを漏らす。


「…やるなぁ…まさか潜られてるなんてなぁ…」


一通り笑うと、ルカは再度写真を見つめ、名案を思い付いた、というように真壁を見た。


「…こりゃいい餌になる。どうふっかけるか考えてたが、解決だぁ。」

「それは良かった。俺はレイを潰してくれればそれでいい。」


真壁は立ち上がると、「帰る」と歩き出す。


「精々待ってな。すぐにでもレイの死を報せてやっからよぉ。」


その言葉を聞いた真壁は満足そうな笑みを浮かべてドアの向こうへ消えた。

ナオは外まで送ろうとしたがルカに止められて留まった。


「どうせ出口までの道は覚えられた。送る必要はねぇ。それよか駒場と羽谷を拘束しろ。」

「どうするんですか?」

「そうだな、無傷で籠に。」

「仰せの通りに」

風が吹き抜けると同時に、ナオは消え、ルカだけが部屋に残った。


「待ってろ、レイ。」


ニヤッと笑ったルカは既に勝利を描いていた。





 地味に寒くなってきた日々、レイは鉄パイプを数本担いで早朝から山内を走りこんでいた。

そこへ一羽の鴉が現れる。レイの使獣、鴉のナナだ。遠目からでもナナが手紙を持っているのは見え、その手紙が悪いものだと察した。


「こっちだ、ナナ。」


ナナは声のする方へ旋回し、レイの肩に止まる。その手紙端にあるマークが地味に見えていた。

レイの予想通り手紙は悪い代物で最悪の相手のマークだった。




「ハイ。」

「はい、津宮。」


 この日は何もなく、ルアもリハビリの休養日で僕と紘がお茶してるところへ参戦していた。談話室ならぬ、食堂のある四階は、共有スペースだが、僕ら以外基本的にいない。僕ら三人のこの光景を見ていたら、朝から呑気なものだ、とレイには言われていただろう。


「レイって本当に人殺したことないの?」

「んー俺の知る限り最高で瀕死まで。大抵は半殺しで済ませてたな。」


ルアは確かめるように天井を見上げた。つられて二人の視線も上を向く。


「でも、レイって守冷の方じゃ無神のレイは何人も殺してるって有名だった。」


紘のそれにルアだけでなく、僕も驚いた。そんなことは聞いた覚えがないと頭を巡らせたが、やはり微塵もない。精々、人を殺すのに躊躇いがないとかで、そんな何人も殺めたという話ではなかった。確かにあの殺気立った時の目は何人も殺してそうだけども。


「まぁあいつ、努力が度を越えてて怖いからな~」


ルアは苦笑して言った。


「へぇ、そんなに僕って怖いんだ」

「優しんだけどね~」

「今はああでも昔は本当に泣き虫だっt…」


僕らは四人目の声に気付いた。一斉に振り返って、バルコニーに通じるドアにもたれていたレイを見つけた。紘が「いつから…」と囁くのをレイはニッコリ笑うだけで教えてくれない。

なんとなく始めからいた気がしてきて、僕と紘は目を全力で逸らした。


「やぁレイ…」


ルアの顔が青くなりながらも平静を装おうとしている。


「いやぁ、三人が仲良くなってくれて僕は嬉しいよー」


目を細め、笑いながら言うレイの言葉は綺麗な棒読みだった。それがまた怖い。


「レ、レイ僕達レイのこと知りたくて、ね?」


僕は何とか言ってたが少し声が上ずっている。やっぱり下手なことは言うもんじゃないらしい。


「そう。俺の知るレイを教えてたんだ。悪くないだろ?」


ルアはレイに「僕に関して余計なことを言うな」と事前に言われていたところにこのやらかしなので、相当焦っていると思う。

レイはレイで何も言わず笑っているだけで、怒っているのかもわからない。いや怒ってるのか、これ…


「レイ…?」


ルアが様子を窺った。


「てめェの黒歴史晒したろか?」


満面の笑みで言われたルアはやっべという顔で速攻謝った。幼馴染ってやっぱ黒歴史の一つ二つ余裕で知っているようだ。僕も紘のは知ってるし、紘も僕のを知ってる。この二人もお互いそういう話をいくらでも持ってるんだろう。

レイはルアがもう一度謝る前に「フンッ、なんてな。」怒ってない、と言い、ドアを開けて歩き出した。


「さっさと会議室に来い。緊急集会だ。」


笑っていた先程までとはうって変わって、今のレイの表情は真剣そのもの。緊急集会というのも何かまずいことが起こったのは察せられる。僕らは出て行ったレイにすぐに続いた。



**********

「これより、緊急集会を始める。欠席の者にも伝書はしてある。」

「遅れてごめん。」


ドアが勢いよく開いて飛び込んできたのは、三番隊・隊長三月。

今日の恰好もチャラさが出ている。そんなんで潜入できんのか、といつも思うが、三月は失敗したことがないらしいので、口にはしない。


「三月よく来た、さっさと座れ。」


レイは一瞬微笑んだが、すぐ真顔に戻った。改めて事の重大さが全員に伝わる。


「先刻、夢願破心より人質を取ったとの予告が来た。潜入していたのは駒場と羽谷だ。」


ルアがそれを聞いて一番不安そうな顔をした。


「二人との連絡も途絶えてることから、この予告は事実と考えられる。」


あの二人に限って信じたくないが、とレイは付け足した。

こないだまで、潜入って嘘なんじゃないかって僕は思ってた。だから羽谷も正直本当か疑ってたけど、皆本当に潜入していて前にうっかり中心街でメンバーに声を掛けようとしたらレイに怒られた。そして今回はこんなことに…


「相手はルカだ。この話が本当なら一刻の猶予もない、と言いきれる。」

「今から乗り込むとか言わないよね?」


紘が恐る恐る聞く。


「…夢願破心は余裕でウチの倍の人数はいる…総長である僕は未だ能力にも目覚めない…冷静に考えれば、大層な愚行だよ。」


僕達は知っている。レイが誰よりも人を想うことを。一番冷静さを装っているが、おそらくル誰より二人を心配しているのはレイだ、と僕は思った。


「それでも僕は今夜乗り込む。」


誰よりも己を弱いと謳う能力無しの強き総長。しかし、他のチームのリーダーに引けを取らない実力を持ちながら、僕達を気遣う姿勢は誰よりも尊敬を集め、いくら馬鹿げた策でもレイがいれば、僕達は突き進める、と思わせてくれる。


「いいか…?」


不安そうに僕達に目を向けた。確認するところもまたレイらしさだ。


「「異論なし。」」


僕達はニッと笑って応えた。不安そうだった紘も、あくまで確認なのだ。今や笑顔で答える。

レイは頷き、力強く言う。


「今夜二十二時、人質奪還襲撃を行う。目的は奪還だが、恐らくこれが夢願破心との戦争になるだろう。」



 レイが緊急会議を開いている頃、ルカは見張りやらの強化を部下に命じていた。レイが仲間を見捨てない人間であることはよく知っている。よくわかってる。誰よりもお優しい人間なのだから。特に仲間に対しての情が強い。

当然今日明日には人質を助けに乗り込んで来るだろう、そう自信満々に部下に告げた。

一人、ククッと笑みが漏れる。


「俺様の勝利、それがこの世の決定事項だ。」


――いつか手にするクラウンはこの手にある。


 二十一時五十八分―

 千殊島の北東に夢願破心の拠点はそびえ立っている。鬼呪一天の東の森へ入り、川を越えて、北舞台をという少し開けた場所を通り過ぎた先に、王様の住まう宮殿はある。


「皆、面付けたか?」


他チームに潜入している者達を考慮して、レイはほとんどのメンバーに面とあだ名をつけている。それを数時間で覚えさせられた僕は既に疲れ気味だ。


「相手は強い…最悪逃げても構わない。ただ逃げ出したところで生き残れる保証はない。この島はそういう場所だ。」レイは酷い現実をはっきりと述べた後に、「そんな確証もない人生にするくらいなら、信じた仲間のために戦え。」と続けた。


 レイの言葉は時として残酷で正しくて、心に刺さる。ここにいるメンバーはそんな面も含め、レイを尊敬し信じている。先頭に立つレイはもう戦う準備が整った顔をして言う。


「最後によく覚えておけ。戦場において人の命の価値はそこらの石と変わらない。死ぬなよ。」


二十二時―

 レイ達が動き出した頃、丁度雨が降り出した。視界が悪くなるが問題ない。

こちらは来るのを待つだけなのだから。


『ルカ様、無神のレイがやって来ました。』


見張りからの無線連絡。俺様は喜々として返す。


「出迎えてやれ。」


ルカは王座から立ち、己の身長の半分はある大きさのハンマーを持ち、構えた。



 真正面から鬼呪一天の面々は敵を散らしていく。夢願破心の拠点内からは止まることなく人が出てくる。レイもメンバーと共に戦渦に身を投じていた。各々が強いことを知っているからこそ、レイは自分自身の戦いに集中できる。

ふと屋上の方を見上げた。なんとなく勘のようなものが僕の目をそこに運ばせたのだ。そこには笑っているルカがいて、サングラスの奥で光る目が合った。


「…泣き虫だった雑魚のレイが俺様と戦う日が来るなんてなぁ…もう泣かねェのか?」


ルカは雨に打たれながら、余裕そうに屋上から僕を煽る。残念ながら、僕はルカの煽り耐性は強い。

昔からルカのレベルが変わらないのだ。僕はルカを真っ直ぐに見据え、堂々と高らかに述べる。


「お前の知る僕はとうに死んでいる。そこから降りて来いよ、横暴キング。お前の全部ぶっ壊して、人質も取り返す。」


ぴくっと眉を動かし、ルカがハンマーを握る力を強めるのがはっきりと僕の目に映った。短気は健在らしい。成長しないこの独裁者は敵とするなら一番樹炎で厄介だろう。


「お前…正気か?俺様に、俺様の下僕共に勝てると思ってんのか?」


仲間を下僕扱い、ほんと変わらない。


「勝てる勝てないじゃない、勝つんだよ!」


ルカはそれを聞くと屋上から飛び降りて、僕へ重たいハンマーを振り下ろす。


「調子に乗るなよ。お前らが負けることは決定事項だ。」


僕は重く圧し掛かる一撃を鉄パイプで止めるも、鉄パイプは歪んだ。足にまで響いて、微かに痛んだが、気に留める暇はない。鉄パイプを投げ捨て、今度はナイフを構えた。


「てめェらが負けんのが決定事項だぜ。」


苦笑いでもあのルカ相手に笑えているという現実に僕自身、狂ってんなと思う。



**********

 この島に来てから初の戦場。虚月透真から脱走した勇気も戦場じゃ戦えるものにはならず、僕はトップ二人が戦い出したのを遠目に見守っているだけだ。レイも「クルは無理に戦わなくてもいい」と言ってくれていたからお言葉に甘えて正直逃げたい。だけど、戦場から離れているとはいえ、付近に潜伏して皆のバックアップをしている紘を思うと、自分も逃げてる場合じゃないと思って戦場から離れられない。


「あれ、津宮じゃないかい?」


嫌な声だ。僕は恐る恐る振り返る。森に隠れてたのに、森の中にも入ってくるのか。それより、こいつが夢願破心にいるなんて思いもしてなかった。


「やっぱり津宮だ。こんなところでの再会だけど、会えて嬉しく思うよ。」


無駄に目に入る明るい青髪は同じ青系でもルアとはやはり大きく違って見えた。僕にとってこの青は濁った川のような青にしか映らないし、僕と同じような浅緑色の瞳もどこかくすんで見えてしまう。


「僕はもう一生会わなくて良かったよ。」

僕は苦笑いを浮かべた。


最悪だ。こいつにだけはもう会いたくなかった。僕を嵌め落としたクソヤロー、辻先奏。


「まさか、鬼呪一天に入っていたなんてね。どうやったんだい?お前みたいな雑魚ちゃんが、あの無神の目に留まるとはとても思えないよ。もしかして雑用係かい?」


相変わらず嫌な奴だ。口から僕を馬鹿にするネタがいつも垂れ流れていた。


「お前こそ夢願破心にいたなんてな。確かこっち来たら、チーム作って天下とるんじゃなかった?」


辻先口元だけ笑った。まさか僕が言い返すとは思わなかったのだろう、歪な笑みだ。

その笑みには怒りも隠れているのがよくわかる。


「俺は今でも忘れていないよ、今はルカの元で他の四天王の死を待つ準備期間なんだ。」

「なら、お前は一生天下どころか、自分のチームも持てないね。」


心はまだ怖いって叫んでる。戦える自信だってない。あの戦場を駆けられないのがその証拠。

でも、僕はもうただ打ちのめされる人間じゃないってことは確かだ。紘が、かつて僕に勇気を教えてくれた。レイが強さを教えてくれた。怖くても、僕は戦える。


「……津宮のくせに酷く言い切るね。なんの根拠があって俺を馬鹿にしてるんだい?」


辻先はやっぱり挑発に弱い、今にも飛びかかってきそうだ。今までやり返すことなく、絶望に落ちていた自分がやっと前を向ける。


「根拠?そんなもんじゃないよ、僕は現実を述べたんだ。レイは死なない。」


辻先は黙って僕に突っ込んできた。得物は短剣。

昔はこいつのこのスピードを追えなかった。でも、今は―突っ込んできた辻先の勢いを利用し、姿勢を低くし懐へ拳を入れた―こいつのスピードに合わせられる。なんなら、レイの方が圧倒的に速いと感じた。

辻先は驚いた顔で吹っ飛んで行く。すかさずその隙を突く。


 UNC能力『調律』。鍵盤が周囲に現れ、僕は片手でその鍵盤を強く素早く叩き、高い和音を作る。直後にトリガーを引いた。高速高威力。銃弾は辻先の頬をかすめ、後ろの大木を倒した。

高ければ高い程強く。低ければ弱い。長い音程遅く速ければ速い程高速になる。こんなにも使える能力の技術を身に着けてものにしたのは最近だ。レイにもったいない、と言われるまで自分は弱いと思っていた。


「おま…ぇ…ほんとに…津宮か…?」


威力を目の当たりにした辻先はそっと目線を僕に向けた。その目には恐怖も交じり込んでいる。


「あぁ…僕は…俺は鬼呪一天・副総長津宮来木だ。」


僕を落としてくれたこと、許しはしないよ、辻先。僕は立ち上がり睨んでくる辻先に笑みを向ける。少し強くなったくらいの僕で勝てるかなんてわからないのに、笑えてしまう自分。

―お前は誰よりも強くなって行ける。もう逃げなくていい。

人は変われる。僕も変われる。強者に支配されることに絶望していたあの頃はもうない。

支配されるなら抗う。絶望するなら戦う。それだけだ。それだけが僕に足りなかった。

今はできる。守りたいものが、負けられない理由が僕には増えてしまった。



**********

「ねぇ凛。」


三月は先の方を見て、隣の田中を見る。 三月と田中は夢願破心の拠点内を慎重に進んでいた。


「馬鹿。外では毘沙と呼べ‼」


田中もまた潜入している身である以上、例え今のように身を潜めているような時でもいつどこで聴かれるかはわからないために、最新の注意を払うべきだった。

しかし三月は気にした様子もなく「この数どう思う?」と続けた。

壁の陰から前方を見れば、見張りにしては多い人数の出現に三月は引いている。


「……外にも大分いたが、中も中でいるものだな。しかも、厄介な奴もいる。」


田中は諦め半分の溜息を吐いて、冷静に状況を判断していた。二人は外で戦っている隙に中へ侵入して駒場と羽谷を救う、つまり救出組だ。しかし中にも相当数の人が配置されている。流石は一神のルカの組織である。そうはいっても、事前にレイがある程度告げていた規模は実際目の前にすると、聞いていた数よりも多く思えてしまう。


「ま、どんな人数相手でも王は挑むよねぇ、仲間の為なら。」

「あぁあの人はそういう人間だ。」


三月が能力で水を作り出すと、田中は大剣を背からするりと抜いた。


「そんじゃ、我らが王の為にやりますか~」

「全力でいけよ。」


二人は互いの役割を意識して進んで行く。


「侵入者は殺しちゃうよ~」


進んで早々、厄介でしかない奴が二人の前に傘を持って現れた。


「本元怜勇…」


本元はニッコリ笑う。傘の柄からは刀が抜かれる。


「さぁどっちから死ぬ?」

その問いに二人は答えなかった。代わりに田中が一太刀浴びせた。しかし細い刀でも大剣の一撃は防がれた。加えて、本元は目を輝かせた。


「ワァ、アンタあれだ。ルカ様の剣だった人だ」

「だったらなんだ」

「オレ、アンタのこと捕まえたらルカ様に褒めてもらえると思うんだよね。来ない?」


誰が行くか、と田中が言うや、すぐに本元の視界から消える。


「ありゃ」


田中に代わって本元の目の前には三月の放った一発が迫っていた。



**********

 ドローンやら盗聴器で戦場の状況を把握し、皆を繋ぐ。それが紘の役目だ。

まだ精度が高くないドローンは長距離飛行が不可能で、皆が戦う場所から少し離れた場所からルアと共に行っていた。紘は各メンバーにももちろん小型カメラを付けている。

ドローンがルカの連絡の様子を捉えてから、動き出したただ一人により、紘は自分達が一気に追い詰められていくのを見た。それを伝えようにも妨害によって伝えられない。どうやら、向こうにもいる。

紘はモニターと手元のキーボードを見て唇を真一文字に結んで気合を入れた。




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