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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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貴族軍

 ひっそりと千殊島に戻ったレイと悟は最初から拠点に直行することはなく、先に敵方の調査に潜っていた。悟はレイに手伝ってもらい、金物屋に一度戻り、店の地下工房で作業をする。後々、レイが迎えに行くまではそこで待機してもらい、その間にレイは浜光塔へ侵入した。


 調査、とは言うものの、双燕の拠点の方に潜ったとて、知りたいはずの転生者は出払ってるんだろうから意味はない、とレイはわかっていた。それでも来たのは、現在の双燕の動向探り。レイは適当な部屋に潜りながら探っていく。


 拠点に残された軍勢は、双燕側についたUNCの面々、と言っても、死んだはずの井守や双燕側のバクの部下達。守戦力はどこかしらで暴れているんだろう。何より問題の転生者は、見た目だけでわかるものでもない。双燕の側には管理人もいるし、本国から派遣された皇帝直々の部隊も来てるという。夜間偵察をしていた青葉によれば、夜中に船が来ていたようで、そこにも双燕の増援が乗ってきているはずだ。


 バクや転生者は実力もあり厄介だろうが、管理人やバクについてた連中はそれほど問題じゃない。管理人は、兄貴たちが反乱を起こした際に、システムダウンさせられたうえ、所持していた装備品が師匠によって総入れ替えされている。管理人の今の装備は対UNC専用ではない、ごく普通のもの。それなりの仕事はするが、UNCの攻撃が通らないと知っている装備を身に着けているはずの彼らは避けもしない。となれば、今のUNC達の攻撃が簡単に通ってしまうだろう。


 兄貴と師匠は恐ろしいものだ。


 なんなら、師匠はこれから来て僕らに対UNCの物質を破壊する薬を作ってくれてるらしいから、なおのこと管理人は敵じゃない。


 バクの部下達だってそれなりに戦えて生き抜いてきたんだろうが、現状を見る限り、ボロボロ。残されたこの待機組がそういうだけなのかもしれないが、彼らは無茶する上司によって散々使われてきた存在だ。今更前線に出ても、すぐにやられる。


 となればやはり知りたいのは転生者たち。死んだはずの連中が動き回ってることも調べたいところだが、双燕の拠点にはまずまず人が少なくて調べようもない。ここに作戦資料が置いてないかとかを調べても、残されていない。


 調べ終わった本を本棚に戻した時、入っていた部屋の扉の方で音がした。とっさに、机の下に隠れた。


「ここにはろくな資料ないよ」


バレている。僕に向けて言っている。

バレているなら仕方ないと思って机の下に出れば、そこには姉が立っていた。


 机の下に隠れたのは失敗だったのか、姉は僕を真っ直ぐ見ている。


「双燕は?」


「ここには来ないわ。今はジャックと観戦でお楽しみだもの」


 なんで、と問おうという時、先に姉は口を開いた。


「可能を不可能にする力は、侵入を察知させないでいられるレイの侵入を不可能にしたの。だから私だけは気づける。安心して。双燕には言ってない。」


「何、姉一人で僕とケリを着けようって?」


 警戒はある。姉は、ずっと僕への愛を向けているが、双燕の味方をしているのだから。処刑の前日、双燕にいたぶられているいる間も、黙って見ているだけだった。なのに、今は双燕に告げ口せずにここにいる。見放されているようで、守られている。


「今は双燕の監視が外れているから、ただ話に来たの。私は、あなたのおねぇちゃんだから。」


 姉の顔は今までのどこか狂気的な笑みを張り付けたものではなく、穏やかな、写真で見たことのある母の優しい顔によく似ていた。


「私は、一緒に過ごせなかったあなたを知らないし、一緒に苦しんでくれなかったことは怒ってる。でも、目的は同じ方向を向いてるわ。私は、鬼波双一を…始海を殺したいの」


 今までの殺意も、行動も、笑みも全部嘘だと知った。今、姉の言葉に乗っていた殺意こそが本物の感情。姉は、僕なんか殺すつもりもなくて、ただ始海を殺すためにここにいる。


「残ったレイといたいとは思うの。でもそれよりも、私は復讐したい。そのために、滅茶苦茶してる妹を手助けするのも悪くないと思って双燕の方に来たの。」


「じゃあ、双燕を裏切っていると?」


「そうよ。レイのところの人間を傷つけたのも双燕を騙す為。殺さない程度のつもりだったけど、津宮だっけ、あの人には悪いことしたわ。」


 今までと違う雰囲気に、喋り方。僕なんかより、よっぽど演技の上手い姉。姉は姉の目的の為に生き抜いてきた。僕も姉を知らずに育ってきた。だからこそ、僕達双子はこんなにも遠い。


「ねぇレイ、私はあなたに死んで欲しいと思ってない。鬼のことも、私の鬼から聞いてる。制御できてるなら、今のまま制御しきって、感情に身を任せないでね。そうすれば、紅月もきっと乗り切れるから。」


「姉は鬼と仲いいんだ。」


「そうね。話のわかってくれる人だったから。」


『可能を不可能にする力』は『反転世界』という能力だと真に聞いた。その持ち主は、第一世代の真の姉である鬼波舞依という人のもので、一番最初に亡くなった第一世代のUNCだそうだ。


「ねぇレイ、おねぇちゃんって呼んでよ。私はきっと、あなたの助けになれる。だから、一緒に過ごせた時間はほんの少しだったけど、双子として、始海を殺そう。仇を取ろう。」


 始海のことは僕も、殺さないといけないと思っている。あいつだけは生かしてちゃいけない。あいつがいる限り、転生は繰り返されて、あいつは僕らが消え去った後にまた好き勝手やる。なら僕達が、あいつの転生をできない状態にして殺して終わらせないといけない。鬼のこともそうだけど、鬼よりも鬼波始海は生かしておいてはいけない存在だ。


「おねぇちゃんって呼ぶような年でもないからさ、せめて姉さんでも…」


「妹はおねぇちゃんのいうこと聞きなさい」


「強情な妹を持つと、苦労するみたいだね、姉さん。」


「おねぇちゃんって一回でも呼んでくれたら貴族軍の情報あげる!」


「おねぇちゃん。」


「現金な妹…」


 姉さんは溜息を一つ吐いた後、貴族軍という転生者たちについて教えてくれた。


 貴族軍の筆頭は勝呂寺二葉という老年の男で、鬼波家の執事長らしくその実力はよくわかってないらしい。次席はジャックとかいう狂人で、おそらく貴族軍の中でもっとも厄介だ、と。佐藤太郎、もとい、近藤大悟郎は瀬合が昨日殺したうえ、その遺体を樹が焼き払っているので、二度と戻ってくることはないので一人いない。他にも、一条満、花沢ウサ、クイーンララ、九井凪、樂蓮、五十嵐水吹、八乙女ダン、辻先音羅、江東獅都、青鎌普の以上十三名。


 十三人いることはまぁ聞いてはいたものの、名前と主な能力がわかったのは大きい。ただ、姉さんも昨日来た連中のことは把握しきってないようで、まだまだ彼らには能力があるだろうし、動き方もあるんだろうと締めくくった。


「そろそろ双燕が私の不在に気づくわ。さっさと戻りなさい。レイは鬼呪一天の総長でしょ。仲間を守らずこんなところにいるのはもうおしまいにしないと」


「そうだな。ありがとう。」


僕は姉さんの言う通り、出て行くことにして、窓を開けた。


「窓は閉めといてあげる。さっさと行きなさい。またね」


「じゃ、また」


僕は笑って飛び降りた。

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