中心街戦
翌朝、鬼呪一天は双燕軍がたむろう中心街へ攻め入った。二チームに分けて、北と西から攻め入った。
北はロミが最前線で荒波を起こし、敵を押し流しながら翻弄し、その波の後ろを三月、田中、秋崎達が敵兵を潰していく。西はルカと樹を先頭に爆破で道を切り開いて、開かれた道をソウとクルが駆け抜けて行く。中心街の戦いでの目的は、商人たちの解放。
商人たちは双燕が天下を取ってから、平和連合の庇護下に置かれてはいたものの、重労働を強いられながら生活していて、今も中心街の一部で軟禁状態にある。
そこで、鬼呪一天は仲間を集めるためにも、双燕から解放するためにも商人の奪還が最優先作戦となる。
さらに言えば、双燕を追い詰めていけば、双燕ならば商人を人質にする可能性もあるために、早々にどうにかした方がよいということ。
拠点の方では紘とリトがメンバーの連絡を繋ぎ、状況を常に見ている。何かあれば、拠点で待機しているルアが迎えに行き、拠点へ回収。すぐに治療できるよう、駒場も待機している。
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北―
「そ∼れっ☆」
ロミが沸き起こした荒波は建物と味方だけは流すことなく人に襲い掛かる。
「じゃんじゃん流されちゃえ!」
「ロミさん、援護おなしゃす!」
三月が波に飛び込んで消える様に、ロミは「はいはーい。」と返しながら三月を波で飲み込んだ。
敵兵は高い場所に上って、ロミを狙いながら波から逃げ続けている。敵方にもちらほら水を扱う者はいるが、ロミの前ではあまり役に立たない。多少の操作をしても、ロミのように広範囲で操ることも、大量に沸かすこともままならない。
「東雲殿、俺を一時の方向へ!」
田中の頼みにロミは水馬を出してすぐに運ぶ。
「もうっ!ボクだけ重労働じゃないっ。」
ロミが水の柱の上で不満を垂れた時、不意にロミの髪を何かが霞め、切り落としていった。二発目が目の前に飛んでくる、という時、ロミの体が浮いて、二発目は回避された。
「大丈夫ですか?」
「龍トくん、ありがと。」
八坂は自分のすぐ横にロミを降ろして、飛来してきた方を見つめた。
急襲の衝撃で、ロミが起こした波は静まり、水だけが辺りにある状態になっている中、飄々とした表情で悠然と佇む和装の女がいる。
「東雲露海とお見受け致します。」
女はゆっくりと歩を進め、二人に近づいた。
「おねぇさーん誰?ボクの知り合いじゃないと思うんだけど。」
ロミは八坂に下がるよう合図しながら応じた。
「お忘れですか?あたくしですよ。」
女は袖から扇子を出して振り上げた。ロミはすぐに反応して、近くにいた仲間を水で覆った。女が降り上げた扇子は花ビラを舞い起こし、ロミ達に襲い掛かる。ロミがすぐに水で覆ったことで、花弁は水に浸かって止まったが、ロミは険しい顔で女を見ていた。
「花沢ウサ!」
「覚えていてくれたのですね。あたくし嬉しいですわ。」
女―花沢は口元に扇子を当てて微笑んだ。
ロミは小さな舌打ちをして、上空のドローンにもわかるよう指しながら「紘君、ちょーっとボク都合悪くなっちゃったから上手く動けなくなる。」と伝えた。
紘は短く了解と返しながら、ドローンをロミの方へ向けた。
「龍ト君、しばらく皆のサポートできないから代わりに浮遊頑張ってね。水は残しておくから活用して!」
ロミは花沢に向かって一歩歩き出すと、そのまま八坂から離れ、花沢とどこかへ行ってしまった。
ロミが花沢と接触したことを皮切りに、各所で急に現れた連中がいる。
クルの元には、何度も戦い続けた辻先。ソウの元には、顔を隠した長身の男。田中の元には因縁を持つ青鎌。秋崎の元には戦場で紅茶をたしなむ男。樹の元にも戦場に似合わぬこどもが現れ、他にも鬼呪一天の主力には一人の敵が立ちはだかっている。
「ちょっとやばめ…」
紘は戦況を見て呟いた。リトも横でドローンを操縦しながら顔を強張らせている。
『津山さん、こちら井月。商人たちの場所まであと一キロの地点で、正体不明の敵が現れました!どうやら例の複数種の方で―』
そこで井月との連絡が途絶えた。
「ルア、すぐに井月のとこ行って!連絡切れた!」
ルアが頷いて消えると、すぐにまた別のとこで悲鳴が聞こえる。
「…っ、こんなときに勝井さん達どこ行ってんだよ!」
ここ数日、鬼呪一天の味方をする勝井達管理人は行方が知れない。裏切ったわけでも、攫われたわけでもないのはわかっているのだが、行方が知れない。レイの迎えかとも思ったが、ここから樹炎は一日で往復できる距離なので、数日も帰ってこないはずがない。
いない人に文句を言っても仕方がない、と紘は自分の作ったロボット達を出動させる。
「時間稼ぎくらいにはなるっしょ!」
「紘、東に船が見える。」
リトが金色の瞳を光らせて言う。
「勝井さん?」
「多分…だけど、少し違う船に見える。」
「……ルアが戻ってきたら確認に行って貰おう。今は手を出してこないなら構ってる暇ないよ。」
待機組も暇ではない。相当忙しいというのが現状。
「その確認、私が行くわ。」
そう言ってモニタールームに顔を出したのは石崎だった。
紘は「え。」という顔で石崎を見た。石崎は本気よ、という顔で見つめ返す。
「真壁は?」
「要田はまだ胃の方が響いてて動けない…でも私は動ける。」
石崎の瞳には私も戦うわ、という意志があり、紘は現状を思うと頷くしかなかった。
「なんかあったらすぐに連絡して!ドローンかルアが行くから!」
「私を甘く見ないで。私は石崎麗奈よ。」
石崎は軽く微笑んで東の方へ飛び出して行った。
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貴族軍は全部で十三人。求めるものはそれぞれ違えど、大半は、欲望のためにその身を悪魔に委ねた。ある者は金。またある者は肩書。権力。不死。強さ…
「双燕様、なんで俺は出してくれないんだ?」
双燕に野生の牙を秘めた瞳をぎらつかせる男もまた、転生者である。
「お前は最強なんだろ。なら俺を守れ。それが役目だ。お前以外も下で大人しくしてる奴いるだろう。」
「それはそうだけど、俺は強いんだし、双燕様だって戦えるだろ?わざわざこんなちんけな塔に籠ってゆったり見るんじゃつまねぇよ。」
男は俺も戦いたいと叫びながら部屋の中を動き回る。
「俺も戦える。だが無駄に労力を使うことはないだろ。これは喧嘩じゃない。戦争だ。」
男はピタリと動きを止めて「俺、双燕様のそういうとこ好きだよ。」と笑う。
「戦争には戦争の勝ち方があるだろ、ジャック。」
「やっぱ俺、大人しくしとくわ。」
ジャックはジャック・ザ・リッパーから取って付けられた愛称であり、この男の本名は別にあるらしいが、双燕にはどうでもいい話。
初めて会った時からずっと変わらない、この薄気味悪い男は、殺人を楽しむ面があるのと同時に、最強を求める狂人だ。だが強ければ誰でもいいというわけではないらしく、彼自身が見つけた「強い奴」とだけ戦い、ジャックは強さを突き詰める。
勝った証にジャックは心臓をくりぬいていく。それがジャックと付けられた所以でもあるのだが、もっともなのは、解体捌きなのだ。つい見惚れてしまうほど鮮やかな解体ショーはマグロの解体を見ているかのようで、気持ち悪さも恐怖もない、一種の薬のような高揚に包まれる。過去に双燕も見て、目が離せなかったのを覚えている。
今も、きっとジャックは得物を探している。その証拠に、ジャックは塔の下を見つめ、煙が上がり、怒号の響く戦場を笑顔で見下ろしている。




