転生
取り戻した拠点での平和な夕食時。それぞれの部屋も決定し、少々改造も終わって、睦月と共にキッチンで俺は腕を振るい、皆の夕食を作った。案外好評で、和議合い合いとした空気が流れている。そんな中、「聞いてよクルー!」とロミさんがカウンター席に出て来て言った。
「どうしたんすか?」
「今日、すっごい変な奴と戦ったの。なんかボクの可愛さに惚れちゃったみたいで、すっごいキモイこと言ってんの!倒したけど、なんか気持ち悪くて。」
「そんな奴向こうにいたんだ…?」
クルは東雲が相手をするような奴で、そんな奴いたっけな、と記憶を探ってみたが思い浮かばない。
「確か井守…だったかなぁ?」
東雲が名前をつぶやくと、ガチャンっと食器の割れる音がした。食器を落としたことより、深刻そうな顔でソウが「井守…?」と呟く。
「ちょっと、総太?皿割れたよ。」
東雲はなんだよ、というように言ってソウを睨んだが、ソウは顔を強張らせて動かなかった。
「東雲殿、そいつは確かに井守と名乗ったのか?」
ソウを横目に、田中が入ってきて東雲に問う。
「うん。間違いないよ。井守って言ってた。下の名前までは覚えてないけど…」
すると田中は深く考え込み、クルを見つめた。
「……津宮…俺は拠点奪還の戦いで井守カノアという男を倒した。確実に、死んでいた。」
田中の告白に驚く間もなく、続けてソウが「俺も、だーいぶ前に殺した。」と言う。
「えー!ボクも今日殺したと思うんだけど…」
東雲は生きてたのかなぁ、と呑気に呟いたが、ソウが皿を拾いながら首を振った。
「あいつは、俺が斧で斬り殺した。俺の右目を奪って、俺はあいつの体を斬った。間違いなく、死んでた。あれで生きてったっていうなら、あいつは人間じゃない。」
「俺も同意見だ。俺の時も、首を切り落とした。」
クルは「どういうこと?」と混乱した。
当然のことだ。死んだはずの人間が生きている。可能性として死ななかったとしても、本人たちが確実に死んだと証言しているのだから、生きていることはないだろう。二人が嘘を吐くこともなければ、吐いて得をすることもない。
「…俺も嫌な予感するから聞くけどさ…」
ソウの皿拾いを手伝っていたルアが立ちあがって食堂にいる人々を見渡した。
「薄川悠寧、戦った人いる?あいつも死んでるはずなんだけど。」
ルアの質問に、紘と樹が手を挙げた。
「自分は戦ってないけど、ドローンで今日、確認してる。何なら映像出せるよ。」
「小生は初戦、ロミの押し流しに反発し、雷を散らす少年と会い、彼は薄川と名乗っていた。」
ここでも、死者が生存しているという事実が浮き立つ。
「……紘、今日の戦いで目立った奴とバク、ピックアップしといて。」
クルは自分の考えを立証する最速の行動を始める。
「ルアとソウは倒した奴のこと紘に伝えて…あと、バクの連中の目撃談は欲しい。俺はちょっと真壁に話し聞いてくる!」
クルはそう言って食堂を後にした。
要田は鬼呪一天に来て早々、念のため行った健康診断で、体内に異物が発見された。取り出したところ、それは紘が真壁の元にいた頃作った監視機器で、要田は知らないものだった。
それから入念に検査したところ、他にも盗聴器などの機器が体に埋め込めれていたため、要田はこの数日、幾度かに分け、摘出手術を受けた。そのため、今は療養している。驚くことに、臓器の中にまであったくらいだ。本人は全く気付かなかったようだが、双燕が要田に仕掛けたもので間違いない。
俺はノックをして要田のいる部屋に入った。要田には地下の空き部屋与え、そこで過ごしてもらっていた。
「ちょっといいか?」
中に入れば、石崎が要田の傍にいて眠っている。
「静かにな。麗奈の奴、寝てなかったみたいだ。」
要田はボソッと言って、開いてる席に座るよう勧めてくれた。
「……単刀直入に聞くけど、双燕は死者蘇生術でもあるのか?」
クルの言葉に、要田はこいつ何言ってんだ、というくらいの顔で「は?」と言った。
「俺も最初は信じられなかったけど、井守、薄川…今はこの二人だけだけど、この二人が殺したはずなのに、今日、生きてたんだ。」
「薄川は、一度も死んだことないと思うが…」
要田は眼鏡をかけ直し、真剣な顔になった。
「井守は、前にソウが殺したはずなのに、ロミさんの前に現れて、薄川は前にルアが殺してる。二人が嘘言ってるとは思えないだろ?だから…」
クルがそう言うと、要田は何か思い当たる節があったのか、顔を歪めた。
「何か知ってるのか…?」
「……考えたくもない可能性が一つある。」
要田はピアスを外して、さらにそれを分解した。ピアスの中から小さなチップが姿を現す。
「『転生』の能力自体はもうお前達も知ってるだろ?あれは、骨、肉、死体…とにかく肉体に関する情報さえ揃えば、それに転生できる能力だ。確認してほしい。ここへ移る前の死人やその他歴代の死者と、確認されている能力を」
チップを渡して、要田は現代過去全ての能力者の一覧が入っている、と説明するとクルを見つめた。
「確実に言えるのは、蘇生の能力は存在しない。どんなに姿が同じでも、中身は別物だ。」
*********
要田の話しを元に、自室で紘に出してもらった今日の映像と照合作業を行えば、井守も薄川も炎と雷以外の能力を使用していることがわかった。しかもその能力はかつて存在していたUNCのもの。どうやら「転生」は死んだ人間の肉体にも転生できてしまうらしい。
『転生』の能力に関しての詳細なことは、樹と東雲が知っていて、要田の話しと総合すると、生きていても、死んでいても条件を満たせば術者は望んだ者に転生できる。生きている者への転生は、体の一部を奪うこと。死者への転生は、肉体の情報があること。また、その能力者以外が転生することも可能で、その方法は能力者の体の一部を体内に取り込むこと。そうすれば、転生の能力者の助力を得て、他者も転生することができる。
転生者は自分の能力を持ったまま、転生した肉体の能力も得ることができ、転生を繰り返せば蓄積される。さらに転生を繰り返す者は、転生の能力者本人が生きてる限り、死んでも生き返らせてもらうことができるという。
本当に、最悪の能力だ。
さらに会議では今後の動きを確認していたが、その最中、紘のミニロロボットが赤いランプを点滅させ、目覚ましのような鐘の音を響かせた。
『侵入者!侵入者!未登録ノ人間ヲ拠点近クに検知!』
紘がすぐにカメラを確認し、他は警戒態勢へと入るが、紘の隣にいたルアが早々に武装を解いた。
「問題ない。」
「え。誰これ?」
紘はカメラを見て目を点にしていた。それに対し、ルアはソウにも確認させて、二人だけは依然として冷静なままで、不思議なほど余裕そうだった。
紘がカメラの映像をスクリーンに映した。するとそこにはワインレッドの髪を一つにまとめ長く垂らしている。クル達の中でワインレッドの髪色など、知っている者はたった一人だが、その人がわざわざこことへ来ることはないだろうし、そもそも来れるはずがない。
「俺達が出迎えてくる。」
「強力な助っ人だよ。」
ルアとソウが笑らいながら出て行って、会議室に残ったクル達の間には沈黙が流れる。
*********
「客に対して迎えは遅れて登場か?」
サングラスから覗かせた瞳は不満を語る口とは違い、喜々とした様子を秘めている。
「仕方ないだろ。お前が来る予定なんてこっちは聞いてないんだし。」
「島を出たきり、向こうからの連絡なしなんだ。」
ソウもルアもレイからの連絡がないことを心配しつつも、再会した時よりも背と髪の伸びたルカに笑顔を向けて招き入れた。
「俺様を向かわせといて用意無しか。あいつ、何してんだ?」
「お前同様自主トレみたいなもんだよ。」
ルカは双燕の元から運ばれた後、しばらくはレイと共にいたが、その後突然鍛えたいと言い出し、しばらくレイとどこかに行っていた。しばらくして帰ってきたら戻ってきたのはレイだけで、ルカはどうやら偉人様の中でも偉人であり、最強と言われる鬼波千殊の元に行ったらしい。レイとの訓練より、そちらの方が確実にルカには合うというレイの判断だった。
そんなルカは今日、いつの間にか千殊に渡っており、レイの使獣によってここへたどり着いたのだと言う。レイのことは知らない、と言っているが、ルカが無事にここへ来たということは、鬼が暴れているわけではないという証明に十分だった。
「で、偉人様のマンツーマン訓練受けたわけだけど、どうよ?」
ソウは煽るように言ってルカを見つめた。
「今なら軽くレイを倒せると思うな。元々俺様の方が強いが。」
「あ?俺は眼中になしか?」
ルカを煽ったはずのソウがむしろ煽られたようで少しキレかかっている。
「俺様が負けたのはレイだ。それ以外の奴には負けてねぇ。」
ルカも楽しそうに乗ってしまい、今にも戦いが始まりそうだ。
「それくらいにしとけ。レイの前じゃ全員負けたんだ。今は味方同士、言い争うもんじゃない。」
ルアの言葉にヒートアップしかけていた二人は一旦冷静になり、互いを睨み合いながら会議室へと進みだした。
*********
「「「「「ルカ!?」」」」」」
二人に続いて入ったルカに浴びせられたのは、驚きを隠せないどころか、まさかあり得ないという衝撃に満ちた叫びというある種の祝福だった。
「おーおー、レイんとこの連中は元気がいいな。つかうるせぇ。」
ルカは衝撃でズレたサングラスをかけ直して副総長であるクルを見た。
「副総長さんがそんなんじゃ心配だなぁ?」
「まさかあの間宮流過が仲間になるなんて思わないでしょ。」
「いやー俺様も自分でびっくりしてるよ。だってレイは俺様を負かしてナオを殺したんだぜ?」
ルカは俺様の親友だったのになぁ、と零すが、その顔は恨みも怒りもないようで、少し無関心に近い様子だった。
「ま、俺様にも少し非があるしなぁ…あいつは全部終わったら殺しに来いって言ったんだ。ムッカツク真壁ぶち殺した後に仇殺せるなんて十分だろ?だから今は一緒に戦ってやる。」
ルカは皮肉めいた笑顔を浮かべながらクルの様子を窺っていた。
クルは臆することなく見つめ返し、手を伸ばし「よろしくな。」と言った。
「おう。レイの精鋭共なら俺様の邪魔すんなよ。」
今ならクルにもわかる。レイがルカを助けようとしていたのは、自己中でも、本当の敵までは間違えない芯があるからだ、と。それと同時に、ルカもまた、自分自身が仲間と認めた者にはどこか優しい面があることを、レイはきっと知っていたのだろう。
ルカは挨拶のあと、鬼呪一天のメンバーを紹介され、偉人様や要田の存在に大層驚き、敵対していた時は考えられない程呆気となった顔が見れた。驚きと言えばこちらもで、ルカは高坂樹を知っており、尊敬していたそうだ。高坂樹がいると知って対面してからのルカは、初めて人に敬語を使うし、サングラスも取るしで、ルアとソウまでもが驚いていた。人の面は無限大なのだと一同は知ることとなった。
*********
丁度、ルカが千殊島に辿り着いた頃、樹炎島では一隻の船が島を離れた所だった。
「こんな綺麗な星空とも今日でお別れかー」
「向こうじゃ見てる暇ないだろうからな。終わるまでお預けだよ」
「じゃ、焼き付けとかないとね」
悟は船の上で完全にくつろいでいて、寝そべりながら鼻歌を歌っている。
「ルア達元気かな~」
悟の呟きにレイは微かに微笑む。
「全員元気だといいが、戦力差は心配だ。現状、僕は戦場の状況を何一つ知らない。」
くつろぐ悟と対称にレイは立って、千殊島を見つめたまま険しい顔をしている。
「ま、仕方ないよ。向こう着いたらすぐわかる。」
悟は励ますように言いつつも、真面目さを発揮するレイに苦笑していた。
鬼化の訓練前後、レイは唯一の情勢を知る手段であったナナに「そのうち戻るから、戻るまで来なくていい」と言い、ナナが来なくなったのだ。しかも、鬼化訓練は思ったよりも回復に時間を要し、レイは鬼化してから丸一日眠っていた。
その睡眠から体を戻すためにまた一日を要し、他の用意をするのにもまた一日と経って、結局今日まで渡ることができずにいた。
「怒るかな…」
「大人しく怒られなよ。死んだふりって相当性質悪いからねぇ。」
悟の言葉に「やっぱり?」とレイは不安そうに顔を歪めた。
「もうみーんな生きてることわかってるだろうけど、ほんと良くなかった。」
だよな、とレイは苦笑した。潮風に流されて進みゆく船は、刻一刻と、島へ近づいていく。




