拠点奪還
現れた近藤大悟郎は一人で二人を圧倒し、紘のロボットたちをものともせず、無傷でそこに立っていた。
厄介なUNC、「バク」。いくらレイに負けて消えていったチームの長であっても、バクの一人である近藤。伊達にバクは厄介だと言われているわけではない。バクは能力上も厄介なのがほとんどだが、何より厄介だと言わしめるのはその人間性。
例えば、ソウは一見道化のように見え、誰しもが油断するような側面があるが、その裏では確実な攻略法を確立し、自身の信念のもと、牙を磨き続けている。
また、ルアは誰もが認める優秀な頭脳と天才的なゲームセンスを持ち、策略に長けた人物であるが、自分の身内以外には相当冷酷であり、容赦なく利益の次第で切り捨て、場合によっては消し去るような性格だ。
レイもレイで、他二人に比べたら一見平和的な人間性だが、レイは強く在るための努力を惜しまないし、ルア同様、選択に関してはかなり冷たい。どんな相手であっても、倒すために技術も策略も、どんなに自分にないものでも手に入れて磨き、殺すこと以外は手段を選ばない。
そんな感じでバクは皆、それぞれ厄介な面を持っているのだ。
近藤も同様。表の顔はよく、大人受けはいいが、裏の顔は人間を人間として扱う気がない。また、近藤の持つ能力は『影繋ぎ』。自身の影と他者を繋ぐことができ、影の中には空間がある。その空間に引きずり込めば、近藤のほぼ勝利と言われるほど、影の中の世界は狂っているらしい。
管理人の資料にも影の空間に関しては詳細が載っておらず、現状、実情も対策も未知なのだ。
「できればせごちゃんは殺したくないんだけど、どうする?」
「どうするも何も、敵対した以上わかりきってるでしょ」
瀬合の言葉に近藤は眉を下げて悲しそうな顔を見せた。
「じゃ、言い方を変えようか。死にたくなければ、俺に味方してよ」
瀬合は一切表情を変えないで、小さいナイフを異空間から取り出していた。大悟郎もそれを見れば、自身の提案が蹴られたことを簡単に認識していた。
「ずっと不思議だった。八角のリーダーやって、ネイや井守と敵対しても一切変わらなくって、追放されたと思ってたら…これだもんね」
双燕のおかげだったんだ、という言葉は、瀬合なりの軽蔑だった。
守冷の島で、仲の良かった近藤と瀬合。幼馴染だけを大事にしてきた瀬合には珍しく友達といえる存在だった。友達だと思っていたから瀬合だけはこの島に来てからの豹変ぶりに納得していなかった。
「大悟郎ってさ、本当に大悟郎?」
今の鬼呪一天には偉人や管理人、レイが調べたことを聞かされたルア達によって、それなりの情報が全員に行き渡っている。双燕の目的が、UNCの資源化であり、世界進出であることも、この島を始めた存在が転生を繰り返し、生きていて、その仲間がいることも。今ではもう、全員が知っている。
だからこそ、瀬合の中で最も変わってしまった大悟郎のことをもしかしたら、とずっと思っていたのだ。
「…何、どういう意味よ」
「そのままの意味。双燕が思ってるより、鬼呪一天は知ってるよ」
「……じゃあ、隠す意味ないじゃん」
大悟郎の姿が歪んで、大悟郎だったはずの別の男が立っている。大悟郎よりも体格のいい、坊主頭の男。
「はじめまして、せごちゃん。俺は佐藤太郎です。お察しの通りの、転生者」
大悟郎が荒々しい落ち着きのない奴、と端的に説明するならば、この男は静かで落ち着きすぎている。わけのわからない畏怖。
「私は第七世代のUNC。どこまでわかってらしゃることでしょうかねぇ…本当に鬼波零斗というのは双燕様の言う通り厄介らしい。」
佐藤太郎に、さっきまであったはずの大悟郎の存在は微塵もない。瀬合達にとって本物の知らない人がただ立っているだけになってしまった。
「まぁいいでしょう。双燕様の為に、その首持ち帰らせてもらいますよ」
瀬合に伸びた影。大悟郎の能力の「影繋ぎ」に酷似しているが、地面から出てきたことは、違う。八坂が瀬合に襲い掛かった影を蹴り飛ばすと、それにはしっかり当たって簡単に消える。
「転生者って能力一つじゃあないかもね。」
「そうみたいだね」
瀬合の足元から、異空間が広がって、佐藤太郎も瀬合達も中へ入っていく。
「転生者は転生の数だけ能力を持てますからね。相手取るのは馬鹿だと思いますよ」
「馬鹿でもやるしかないでしょ。」
「大体、この中じゃいくら能力があっても意味ないし」
八坂と瀬合は笑っていた。瀬合の空間に入った時点で、能力攻撃は不可能になる。近藤は知らなかったのだ。瀬合と友達であっても、瀬合と戦わなかったからこそ能力がどんなものか、その使い方さえも。
つまり、今の佐藤太郎に瀬合の能力に対する知識はなく、異空間に引き込まれてしまった時点で動きが制限されること、それを知らなかった。笑う二人を前に、やっと違和感を持った佐藤だったが、空間から出れた記憶は彼にない。
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紘がなんとかシステムを復旧させて、拠点を戻した時には瀬合達は休んでいて、傍らには知らない男が死んでいた。紘は顔をしかめたが、瀬合達は埋めてくる、と特に気に留めることはない様子で運んでいった。これが他のチームの当たり前なのだろう、と紘には初めて突きつけられた現実だった。
気を取り直して、拠点を取り戻した紘達は前線組へのサポートを始める。
この日は拠点を取り返した頃にはもう、中心街の方で赤い花火が上がって、敵の方が撤退していった。おそらく、鬼呪一天が拠点を取り戻したことで何か向こうの動きに不具合が生じたのだろう。ありがいと思い、深追いせずに鬼呪一天側も休むこととして、撤退をした。
久々の拠点にそれぞれ想いを馳せながら俺達はつかの間の休息を楽しんだ。その裏で、誰もが抱く希望。
俺達は待っているあと一人の、たった一人の総長を。




