開戦
三月達も合流して、いよいよメンバーは揃いに揃ったし、要田という新たな味方もいる。久々に全員が集まって和気あいあいと話す中、俺だけは浮かない顔で一人、外に出ていた。
仮拠点の場所は、東豆島。見つからずして島に侵入することは不可能な千殊島に属する孤島。
かつては虚月透真の拠点があったが、今ではどこの拠点でもないこの島に仮拠点を設置している。
不安なのだ。この戦いは今度こそ勝てるかどうか、皆を守れるかどうか。不安で不安で仕方がない。それでもやらなければいけない。本当の平和のために、UNCが普通に生きていける未来のために。
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5月13日
調査という名の準備期間が終わり、本国王である鬼波双一の名の下、真の統一者を決める戦いが始まった。とはいえ、双燕側には国の軍隊も管理人の兵も付いている。鬼呪一天との戦力差はわかりやすく、対等な開戦とは言えないだろう。
それでも鬼呪一天側もそれなりに戦力を揃えてきた。管理人内部で分裂し、UNCに味方した勝井率いる管理人軍。一人でかなりの戦力を誇る、偉人方。メンバーそれぞれも自己を鍛えてきた。望みがないわけじゃない、第一の目標は―
「俺達の拠点を取り戻す!真壁の軍勢を南へ押すんだ!」
開始の合図は大きな花火。
クルはレイのように先陣を切って進むことはなく、ルアと共に後方で戦っていた。前線はソウ、東雲、樹、三月、田中などが走り、後方は支援を基本とし、確実な一撃を放っていた。特に、クルの形成したフィールド内から放たれる銃弾は、時に仲間の危機を助け、時に敵方の腕を捥ぎ取っていった。あまりの速さに敵方は目視することができない。その速さこそ、体の一部を抉るだけの威力を発揮し、致命傷を与える。
また、フィールドは現状戦闘を行わない参謀のルアや、連絡を繋ぎ、機械を操縦するリトと紘を守る盾であった。攻撃も守備もやってのけるクル。
皆が知らない内に、あの気弱でひょろかった津宮来木は、総長代理として堂々指揮を執り、攻守を担う鬼呪一天の一武器として立派に存在している。
最も成長した人物は?と問われれば、鬼呪一天の面々はきっとクルだと口を揃えて答えるだろう。
「ロミさん!」
クルが無線で言い、作戦の開始の合図である青い狼煙が上がった。前線で戦っていた東雲は視界の端に青い煙を見つけ、すぐにソウが反応した。
「へますんなよ!」
ソウが煽り面で言いながら東雲を鋼の細い柱に乗せて、東雲は戦場を見下ろす形となる。
「誰に言ってんだよ。」
いつもの東雲から一変した低い声と鋭い眼差し。青い狼煙が上がってから、鬼呪一天の前線メンバーは全員下がっていた。敵方はそれを大層不思議がったが、恐れをなしたのだと解釈し、攻め込む。
それこそが、作戦。
東雲が空に手を伸ばし、途端に水が降ってくる。その量は雨どころの量ではなく、大きな滝が急に敵方の目の前に現れたのだ。前線で戦っていた敵はその水に飲まれ流されていく。
東雲たちが若干高所で、双燕の軍勢がいたのは坂になっている傾斜だったために、水の勢いは増し、それと共に兵士たちは流されていく。東雲の能力は『水』。水であれば彼がすべて行える。アバウトすぎて本人すらもその詳細はよくわかっていない。けれど、『水』は川の水を飲料水にすることや逆に汚染水にすることである「水質変化」や、水を操ること、生み出すことはよく理解できていた。能力とは使用主でも把握できないままのことがあるらしい。
水の勢いは増すばかり。兵士は流れ、中心街の方へ消えていく。それに乗じて、ソウを先頭にした三月たちが水の中を走り出す。水は、ソウ達の行く道を阻むことなく、道を開き、兵士が絡まるところへ導く。
その結果中心街の方で戦闘が成され、双燕の軍勢もそこに集中し出す。それこそ、クル達の作戦通りの成り行きだった。
一時間ほどして、赤い狼煙が上がると水は止み、兵士たちは体制を立て直し始めることができた。しかし、攻め込まれ、水によって被害を受けた側としては、押されているのが現実だった。数は勝れど、現実は押されている。その裏で、鬼呪一天は別動隊が動き始めていた。
別動隊―それは、拠点を奪還するために拠点へ潜り込む紘達だ。
鬼呪一天の拠点は紘による改造によって、ただの拠点ではなく、真壁達でも容易に中へ入って調査することができない程、要塞と言える建物となっていた。紘は真壁になんと言われようと、拠点に関しての情報だけは譲ることなく黙秘を続け、脅されてもついぞ口にすることなかった。双燕は紘を重宝していたこともあり、紘の根性に折れて、鬼呪一天の拠点の調査、及び破壊を諦めた。そのため、鬼呪一天の拠点はあの日…解散宣言がされ、レイが消えた日から何も変わっていない。ただ、紘は拠点を出る際に防衛プログラムを起動させ、現状鬼呪一天の拠点は防衛要塞状態のまま。周辺に配置された双燕の軍勢の人間を追い出し、それを解除することが奪還成功の条件だ。
「敵は全方位にいると思っていい。拠点を囲むように配置されてる。数は…」
リトの能力は『千里眼』。長い前髪から覗く金色の瞳が、紘達の隠れるこの岩陰から拠点を見つめる。
「…うん、十七人いる。それ以上は見えない。」
「十七か…勝井さんが提示した厄介な人は?」
「見えなかった。ただ気になる人がいて、ルカのとこにいた時に見た女がいる。」
リトはもう一度見つめ、間違いないと、言う。
「どうするの?」
瀬合が言って、紘は頭を抱える。
紘達別動隊は紘を筆頭に、リト、瀬合、八坂、務の五人だけだ。しかも、紘とリト、そして務に関しては非戦闘員だ。十七人を相手取るにはかなり厳しいのが実情となって見えている。
「……真っ向からやれるわけないしね…」
「俺の能力で屋上には飛ばせると思う。」
瀬合は異空間への道を出す。
鬼呪一天の拠点は秋崎の襲撃以降、紘によって、瞬間移動などの能力で拠点内に入ることが基本的に不可能になっている。可能なのは、紘がシステム上に登録して認めた者だけであり、今のところはルアだけだ。そのため、瀬合は内部に異空間を繋ぐことができない。
「屋上なら多分システムの範囲外だけど、見張りに気づかれるかもしんない…」
「でも拠点内に入れればこっちの勝ちなんしょ?」
八坂がにこやかに言って、紘の端末を指さした。
「倉庫に色んな機械があるって聞いた。それでなんとかならない?」
紘はそう言われテンションが上がってきた。自分の機械の出番なのだ、と心が騒ぎ始める。
「自分の子たちならできる!瀬合それでいこう。自分とリトを屋上に!」
「俺らは?」
「中に入って、準備が出来たら爆竹外に投げるから、それを合図に務さんが『溶岩』を拠点の方に向けて放って、八坂と瀬合は好きに暴れていいよ。」
そっちの方が二人も動きやすいでしょ?と紘は笑顔で作戦を告げた。
二人は頷いて、瀬合は早速紘とリトを異空間に入れて、拠点の屋上まで送り届けた。
屋上について早々、紘とリトは開錠作業を始めた。この時だけ、紘は自身のシステムに少しばかり腹を立てた。頑丈過ぎて、簡単には開けられないのだ。しかし、ハッキング技術の高いリトと二人がかりで行えば、不可能ということはなく、三分ほどで中に入ることができた。
「リトは爆竹をお願い。確か、食堂の冷蔵庫の横に一箱置いてあったから!」
屋上を下りてすぐ、食堂に辿り着く。リトと紘はそこで一度別れる。
「二階の一番奥がモニタールーム。すぐ来てね!」
紘は走って先にモニタールームに着くと、自身の端末とモニタールームの大元であるデバイスを接続して復旧作業に入る。外で爆竹が炸裂し始めるころには三割程度復旧させることに成功し、倉庫で眠っていたドローンたちを動かすことができた。
「…自分はクル達みたいには戦えないけど、戦えるから!」
紘の作ったドローンは映像の撮影、採集をはじめ、爆弾化、銃撃などの攻撃にも特化したまさに小型戦車のようなドローンだ。今まで実際の戦いで使用したことはなかったが、ドローンは問題なく機能し、双燕の軍勢に襲い掛かる。
「どう?」
「まだ四割…!」
リトがやってきても、紘は目を動かすことなくモニターに向かってひたすら入力の羅列を止めない。自分がつくり上げたシステム。もしものために、築いてあった防衛システム。防衛システムの解除コードを知るのは、紘とレイだけだった。
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自分は、ここに来てすぐにこのシステムの制作に取り掛かった。有事の際にこの拠点を守れるように、自分の身を守れるように。自分の中で、この場所はきっと自分の唯一の最高の場所になるという勘が働いていた。
実際、今までこの場所から逃げたいと思ったことなど一度もない。過ごせば過ごすほど、仲間が好きになって、大切になって、弱い自分でもどうにか仲間を守りたいと思った。レイに救われて、この場所に来て作り始めたこのシステムも、その思いが増す度に新たな追加事項が増えて、なかなか完成することなく、真壁との戦いが始まった。
システムの破壊コードを先に完成させて、レイに渡すことはできたけど、システムは一度完成したとしても、真の完成はレイがいなくなる数日前だった。
「レイ!やっと完成した!」
真っ先に伝えたのはレイだった。
誰よりも自分の作業に興味を示し、時には手伝い、作業に必要なものも全部揃えてくれたレイ。
「おめでとう。流石だな。」
伝えた時、レイは綺麗な笑顔で自分を褒めてくれた。解除コードと発動の仕方を伝えて、自分は大層上機嫌だった。だから気づけなかった。レイは多分、あの時にはもう自分達の助命を考えていたと思う。
今、自分はその時気づけなかったことが悔しい。あのメモだって、自分は知ってたのに…
解除コードはただ長いだけじゃない。それぞれに意味があり、入力にも指定がある。我ながら面倒なものを作ったとは思う。だけど、それが自分の守りたいという思いで、今戦う為に必死な思いが指にまで乗って、面倒だとしても手は止まらない。リトが後ろで解放したシステム部分を操作してドローンを操ってくれている分、自分はこっちに集中できる。
不意に無線が音を立てた。
『紘!そっちに面倒なのが行った 気を付けろ!』
その無線はクルからで警告を示した。面倒なの―それはきっと勝井さんに提示された厄介なUNCの誰か。厄介なUNC、バクは約十六名いるらしい。そのうちの数名は味方でも、半分は敵だ。
バク―それは一次UNC達のことで、レイや真壁を示す。レイ、ルア、ソウはもちろん、実は悟も厄介なUNCとして管理人は警戒されているらしい。その十六名の中でも敵である人たちに関しては勝井さんが資料を奪取してきてくれて、自分達に共有してくれた。そのため、大体は頭に入ってる。しかも、敵だったうちの数名は既に死去している以上、誰なのかはほぼ二択となっている。自分としては、近藤じゃないことを祈るばかりだ。
復旧進度七割。
散弾銃装備猫ロボや爆弾鼠達が動かせるようになった。このままあと三割を取り戻せれば…
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祈る時ほど、叶わないことのが多い。丁度、紘が七割の復旧に成功した時、外で双燕の軍勢を相手取っていた務が倒れた。瀬合と八坂がすぐに気づいて、八坂の能力で務を保護した。
「せごちゃーん。なんでそっちいんのよ。」
瀬合は地面から現れた人物を見つめ、制止した。
「なんで…大悟郎…」
「なんでって…双燕の友人だからな。」
ニッと笑って影を揺らしたのは近藤大悟郎だった。




