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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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帰還


 秋崎の伝言通り、俺達が反乱を起こして約三十六時間後、夜の暗い道をひっそりとオウムに案内されてやって来る影が三つ。見張りをしていた田中が気づき、すぐに俺に報告が来た。

出迎えれば、ルアとソウと一人はおそらく偉人―東雲露海だった。


「よっ。」


ソウが小突くような挨拶で俺の横を過ぎた。


「反乱成功おめでとさん。」


ルアが土産、と言って無線を渡してきた。


「それ、勝井さん達と繋げるらしいから。あと、勝井さん達は旧拠点近くの海底洞窟にいるらしいから。」と連絡事項を端的に述べた。


俺は頷いて、偉人にお辞儀をした。


「東雲露海さんですよね?俺は津宮来木です。」


「来木くんねっ、話しは聞いてるよ。どっかの戦闘お馬鹿くんより礼儀正しくていい子だね☆」


東雲さんの言葉に先に中へ入っていたはずのソウが反応したが、東雲さんは気にしない。


「ボクは海の能力だから、今ならもう海にも潜れるよ。」


「もしかしてルア達は泳いできたの?」


俺は目を見開いてルアを見つめたがルアは全力で首を振った。


「ボクたちはお馬さんに乗ってきたんだよ☆あんなに泳げるわけないもん。」


「そうですよね…」


とりあえず、部屋に案内します、と俺は東雲さんを連れて中に入った。




 三人が来て落ち着いた頃、ルアは俺のとこへやってきて話がある、と外に連れ出た。


「俺も聞きたいんだけど、三月とか悟は?」


ルアはそのことだ、と話始めた。


「三月は石崎と赤松と合流してからここに来る。言っとくが石崎はもう味方だからな。赤松も、この戦いの間は石崎と共に味方してくれるそうだ。私怨は消え去らないみたいだが…」


恋愛は怖いな、という感想を挟んで「それとその面子だけではここに来るまでが心配だから、もう一人の偉人である高坂樹って人が来る。」と言った。


「苗字からお察しだが、高坂樹はレイの先祖の兄弟みたいなもんだ。しかも常識人。」


俺は安堵した。東雲さんと会ってみて、教えられて想像していた人柄とは大きくかけ離れていたからだ。

しかも、悪い方かもしれないとさえ感じだ。だが、悪い人ではないのは確かだ。


「あと、悟なんだが、樹炎に残って武器の用意をするらしい。すぐにはこっちに来れない。」


「そっか………ルア、レイはいつ来るの?」


その問いに、ルアはニヤッと笑って「ヒーローは遅れて来るものだろ」と言った。

その言葉に納得しか沸かない。まだ来なくたって、レイは必ず来る。それまで俺がレイの代わりに鬼呪一天を守るのだ。レイほど広くは視えなくても、強くなくても、レイが帰ってくる場所を守るのだ。


**********

 ルア達がクル達の元へ着いた頃、丁度樹炎島からは三月一行が島を発っていた。

『レイ、覚悟はできた?』頃合いを見て霊体の真が言った。

しかしレイはその問いに答えることなく、押し黙っていた。


「………俺がいるから、大丈夫。二人ほどじゃないけど、俺だって結構強いよ?」


悟がレイの背を叩いて、微笑んだ。レイはその顔を見つめ、深呼吸がようやくできた。


「悟、ダメだったときは、僕を放って脱出しろよ。」


悟は微笑んで、覚悟を決めたレイから離れた。


「真、悟、今から始める。離れろ。」


レイの言葉を受け、二人はレイのいる場所から島の中央まで行き、爆発音を立てた。それが合図。


「……負けないからな」


器の証のついた右腕にナイフを突き立てる。


 鬼を呼ぶ――このやり方は、真に教わった。真実か否かはもう、この瞬間には出ていた。

それだけで自分の体が熱くなり、痛みに近い感覚がレイを襲う。鬼が、暴れているのだ。気力を保ち、鬼の暴れる部分を部分的に集結させていく。そのことにだけ意識を集中させ、ひたすらに抗う。自分を保ち続け、痛みに耐える。腕から流れた血が、レイの周囲を浮遊しレイの右目の下に付着した。


 何分経ったか、ようやく痛みが引き始め最初よりも呼吸が楽になった頃、レイの脳内に唐突な映像が叩きつけられる。


「!?」


あまりの衝撃にレイは倒れ込む。







『まずい。』


真がそう零した直後、悟は何かを感じてレイの元へ走り出した。


「レイの状況は?」


『抑え込めていたところに、レイが動揺させられて鬼が出かけてる。』


悟は今までにないくらい全速力で森を駆け抜けるが、辿り着いた瞬間、突風で木に打ち付けらる。


「ガッ!」


土埃が晴れ、ようやく立っているレイの姿が見える。


「…っレイ…」


悟が呼んだ名に反応して、赤い双眸が悟を貫いた。


「…お前…レイじゃ、ないな…」


『…やられたな……失敗だ。』


真は冷静に言って悟を庇うように立つ。悟は立ち上がったが、真に制される。


『今すぐここを出ろ。レイは鬼に負けた。このままじゃ殺されるぞ。』


「だけど―」


『死にたいのか?お前じゃ救えない。』


悟は真の制止を振り切ってレイの元へ突っ込んだ。


『馬鹿っ!』


「レイッ!」


悟は飛んできたナイフを躱して鬼の両腕を掴んだ。レイに比べれば強い力だが、悟が抑え込めない程ではなく、悟は力のまま抑え込んだ。


「レイ、俺だ!しっかりしろ!飲まれるな!」


鬼は力を強めていくが、悟には敵わず赤い双眸が悟を睨み付けるばかりだ。真は目の前に見える現実を信じられなかった。鬼が人間に抑えられているという事実。悟のパワーがという話しじゃない。


(まだ飲まれてない…!)


『悟!そのまま呼びかけろ!レイはまだ戦ってる!』


真も霊体からレイの精神へ呼びかけ始めた。

確かに表に鬼が出ているが、レイはまだ負けてない。映像―レイがもっとも恐れる仲間の死。

それを見て動揺したところへ鬼は入り込んだが、レイはそれで全てを乗っ取られることはなかった。ある程度抑え込み、今、悟が鬼のパワーを抑えられるほどに抑え込んでいる。


「なぁ、生きたいんだろ!?」



******************


(あぁ、生きたいよ。)


この暗闇の中でも、外の声が響いてる。目の前の黒い影は嘲笑うようにクルの死体

を突いてる。


『…クルに触るな!』


黒い影は醜く口をゆがめ、気味悪く揺れては僕への隙を伺っている。

僕は動くことができない。幻であっても、何もできないのは嫌で、動いてやりたいのに、僕は動くことはできない。それが、どんなに悔しいか。どんなに苦しいか。黒い影は次々に僕の仲間の幻を見せては、僕が恐れる現実を絵にしていく。幻だとわかっているのに、僕は息ができなくなっていく。


 不意に、目の前にクルが立っていた。幻なのはわかるが、その姿はどこまでも同じだ。


『お前のせいで、俺達は死ぬんだ。』


幻の吐いた言葉。そう自分に言っても、痛みに耐えられなかった。絶望に近い苦い感情が一気に溢れて、自分の後悔と恐怖が支配する。黒い影はいつのまにか膨れてるが、僕はそれに構っていられない程、自分に余裕がない。


『お前がいなければこうはならなかったのに。』


クルの横にルアがいる。二人だけじゃない。いつの間にか仲間達が僕の周りに立っている。

口々に言う『お前がいなければ。』という言葉が僕を刺す。どこまでも深く突き刺して、自然と涙が溢れだす。止めようもなく、目の前の光景から目を逸らすしかないが、逸らしても聞こえてくる声。


『レイ!』


一際大きく聞こえた声は、悟のものだった。


『お前が地獄に行っても、お前にはお供が少なくとも三人いる!』


その声を聞いてるうちに、少し軽くなった。


『ルアはお前が大事だから!二度と大切なものを見失わない!』


あぁ、ルアは僕を責めることなどなかった。いつも肯定して、味方して、守って、笑ってくれる。怒る時も僕を責めるんじゃない。本当に僕の為に怒ってくれる奴だ。

息を吸った、と思ったらルアの幻が消えていった。


『ソウの奴は、昔からお前が好きすぎて馬鹿だ!ずっとお前の為に、守るために戦ってきた!』


何度助けられただろう。煽って煽られても、ソウは確かに僕の傍にいて、見捨てなかった。僕を、全部を裏切ってでも助けた馬鹿だ。命を張ってまで助けた奴を恨むだろうか。

いや、恨まないな、と結論づくとソウの幻は割れて消えた。


『俺は、お前らとつるんで、馬鹿やって散々笑ってきた!お前らがいて面白いんだ。一人もいなくなっていいはずがない!』


悟はいつもそうだ。面白そうに笑って事件すらも見ているのだ。

そんな奴が笑いもせずに僕へ言葉を投げることはない。


『お前が見てる(それ)は全部、全部、お前が恐れてるだけだ!馬鹿!そんなお前を選んだのは紛れもない俺達だぞ!』


ずっと君らはそう言ってくれてたのに、僕はずっと怖かった。だけど今ならわかるかもしれない。わかったかもしれない。ルアに貰ったミサンガが目に入った時、ちゃんと息を吸うことができた。


 認めて貰えなかった昔、一番の居場所には認められたのに、ずっと居場所はあったのに、それに気づけなかった。優しさに、気づけなかった。裏切られたことだけを引きずって馬鹿みたいに恐れて、クルに出会って変わったはずなのに、結局、怖くて仕方なかった。だって、失いたくなかったんだ。

失いたくない存在(もの)は囲うんじゃない。互いにつなぎとめて成り立つんだ。

僕は、囲ってばかりで見てなかったんだ。やっと、見える。やっと、進めるきがするんだ。

幻の消え去った空間で、黒い影だけが残り、笑顔は消えている。


『帰らなきゃな。』


僕は影に向けて思い切り拳を突き出した。



*************

 レイが飲まれかけている中、真の制止も振り切って掴みにかかった。我ながら馬鹿な行動だとは思ったが、レイが負けるはずないと信じていた俺は、迷わず走り出せた。びくともしないが、絶対に離してはいけないと力の限り抑え込んだ。

真が「レイはまだ戦っている!」と言った時、流石だと思ったよ。俺がずっと見てきた折れない炎。


 今も赤い目をしてるのに、あの青い光がちらついて仕方ないくらい、その炎は輝いてる。


「なぁ、生きたいんだろ!?」


そう呼びかけた時、「あぁ、生きたいよ。」とレイが言った気がして、一瞬俺が油断してしまった。

その油断が、鬼に隙を与え、氷の支柱が俺の腕を貫いた。


「―っ!」


『悟!』


真がすまん、と言いたげな顔で何かを唱えた。すると鬼は能力を使おうとしたのか、自分の周りに氷が現れないことに首を傾げた。


「放さないから。」


腕が痛くして仕方ない。正直、感覚あるのかというくらい指先には力が入っているかわからない。だけど、この手は放しちゃいけないんだと強く思う。二度と、見失っちゃいけないと思う。



*********

 四年前―

商人として勉強しながらの樹炎島での生活。ソウ達とは離れてて、まともに話すことが減ってしまった。だけど、俺が知らない間の出来事もあの三人の話はたくさん聞いた。賢神のルア、邪神のソウ、無神のレイ。四天王の内、三人が幼馴染の俺は三人の話を聞かない日などなかった。特に、レイ。


 レイは四天王最弱と言われ、かなりなめられていたし、何より自分が強いと自負する連中には目の敵にされていた。下剋上の決闘も、嫌がらせも絶えないレイは、その中でも見事に勝ち抜いていた。俺はレイが負けたという話が上ることを心配しなかった。毎日会っていたわけじゃないが、時折見かけたレイは一人でも、万全な状態じゃなくても、ずっと努力していた。素振りから体力作り。本を見ながら何か技の練習をしていた時もあった。常に戦いを学び、努力する様は誰よりも綺麗で、現状を消し去るくらい、未来に出会うであろう縁の数は誰よりも多かった。


そんなレイを見てきた俺は、同時にソウとルアのことも見てきたわけだ。


 戦えない俺と、強い三人。幼馴染三人がそんなんだから、当然戦えないことを悔やみ、自分を卑下したことがあった。その感情が三人へ当たってしまったこともあった。


だけど…


「どんなに強い奴も武器がないと戦えないよ。」


あの怪力野郎だって、武器使うじゃん?と笑って言った奴がいた。

俺は確かそれにぽかんとした顔で何も言えないでいた。そしたらそいつはさらに言ったんだ。


「管理人だって、銃使うし、素手で戦う人間だって、生身っていう武器持ち。人間は皆なんかしらの武器持ってんじゃん。俺だって使うし。だからお前はすげぇよ。」と。


 そんなこと言う奴に俺は笑って「馬鹿だな。」と言ってしまった。

だって、身近にそうやって俺を尊敬して、ちゃんと見てくれてる奴がいたのに、俺は勝手に嫉妬して卑下していたんだ。馬鹿だと言いたくなる。


 俺はその日から、そいつを親友だと思うようになった。そしたら気づいたんんだ。そいつもだけど、他の二人も俺を見ててくれてて、戦えない俺だとしても、仲間なのだと思っててくれた。

思い続けてくれてたことに。ソウ、ルア、レイ。俺の最高の幼馴染達。

あいつらはそれぞれ戦うから、俺も全力で商人として戦っていこうと思うようになった。


 その矢先、あの事件が起こった。

俺はソウがある日やってきて涙ながらに語ったことで全貌を知った。そして、レイが殺されようとしていることを知った。ソウはそれを助けるために俺に協力を仰ぎ、俺は当然了承した。真壁の脅威と、たった二人の抵抗。危険しかないことは承知。失敗し、露呈すれば俺だってただでは済まされないとわかっていた。それでも、俺は能力でレイの人形をつくり上げ、ソウに協力した。


 俺の能力は『鉱物変化』だが、それは嘘だ。本当は『変化』鉱物だと限ったのは、商人として生きていくうえで、下手に情報を開示していくのはまずいと思ったからだ。管理人にもその事実を言ってない。つまり俺は嘘を吐いているのだ。真の能力を知っているのはソウだけ。

だから俺は『変化』を使って大木をレイそっくりの人形に作り、あの入れ替えを成功させた。


 あとはソウの演技次第で、俺はレイの保護をしようとした。だが、指定の場所にレイはいなくて、あったのは血痕のみ。血痕を辿ってみたが、途中で消えてて追い切れなかった。だが、その血痕は魔の森の方に続いていたために、俺はそれ以上追うこともできず、レイを見失ってしまったのだ。 


 ソウに伝えれば、ソウは心配そうに顔を歪め、魔の森に消えそうな勢いだったが、探しようもなく無暗に行動して真壁にレイの生存がバレるとまずいと判断し、俺達はレイが生きていると信じ、諦めた。


 その結果、レイを一人にし、絶望に飲まれさせてしまったわけだ。

だから二度と俺は見失わない。一人にさせない。


**********


 鬼が俺を突き離そうと蹴ってくるが構わない。レイが戻るまで耐えるだけ。

俺じゃ役不足でも、レイを取り戻すことはできる。一人にさせないでいられるから。


「………津宮だって、待ってんだろ。」


その時、真が後ろでまずい、と呟いた後、鬼が一際強い力を出して、真を吹き飛ばした。俺はなんとか耐えたが、片手が離れ、鬼が作り出したつららが俺の喉に当てられた。


「――――」


何と言ったかはわからないが、これから俺を殺すのだということだけはわかった。

当てられた氷、ひやりと冷気が肌を這いながら、鬼がつららを―消した!?


「馬鹿だろ。」


悲しそうな、少し震えた声に目の前を見れば青い瞳があった。赤い瞳を片目に残し、青い瞳に涙を浮かべるのは、紛れもないレイだった。


「逃げろって言ったのに…」


「レイ…おかえり。」


俺はレイからもう片方の手を放して座り込んだ。真も安堵したようにやってきてレイの様子を見ている。


『どういう状況になってる?』


「なんとか半分に鬼を抑え込めてる感じだな。自分の体なのに、異物があるようで気持ちはよくないな。だけど、今まで以上に動ける気がしてならない。」


レイは軽く動いたり、能力を試したりしている。一通り試すと、レイはしゃがんで血の流れる俺の手を掴み、じっと見つめた。


『真世界』


一瞬にして俺傷が消え、痛みも消えた。


『…………どうだ?』


真は見届け様に聞いた。


「うん…問題ない。これなら使える。」


レイは立ちあがってよしっとガッツポーズをしていた。


「ね、レイ、俺で良かったでしょ?」


 俺はあの日の夜、レイに俺を残すように頼んだ。樹ではなく、俺にしろ、と。

レイは当然渋った。危ないことをするんだ、と。いかに鬼が危険で、残ることのリスクを説いた。


だけど俺は聞き入れることなく「俺も戦いたいんだ。お前のことで二度も嘆きたくない。」と強く言った。


 するとレイはじっと俺を見た後、頷いてくれた。多分、何もできない無力を嘆くことを一番わかっていたからだと思う。


「……そうだな。」


 レイは腕に付けていたミサンガを見つめながら笑った。

いつぶりに見ただろう。自然と見たら、涙が頬を伝ってた。

心配して慌てだしたレイを俺は、何年ぶりかに見た、晴れたような綺麗な笑顔と共に抱きしめた。



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