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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
72/93

作戦


 建国の日の情報を既に持っていたレイ達は反撃の知らせを待っていた。丁度、津宮達が反撃をしてから数時間後、レイの使獣であるナナが樹炎にやって来た。




 そしてレイ達に津宮達の動向をもたらした。悟誘拐騒動でルアがクルに渡したレイのあの十字架はナナの身に着ける十字架と対になっており、レイの左耳に付けていたピアスだった。過去、レイの師、矢辺と勝井が千殊島への島入り前にプレゼントしたもので、矢辺によって遠隔鏡の機能が作られていた。会話をすることはできないが、十字架の上部にある赤い石は覗くと対となっているもう片方のピアスが映す景色を見ることができる代物だ。




「いよいよ反撃の時だ。」




ルア達を前にレイは笑顔を浮かべ作戦の確認を行った。




「結局レイはいつ来るんだ?」




「こっちでもう少し用意してくことがある。お前らが行って、三月たちを送り出した後、準備が終わり次第すぐに行く。」




「あんまり待たせすぎると俺達が全部感動かっさらうからな。」




ソウの言葉にルアが頷き、二人は立ち上がった。




「じゃ、俺達は準備して朝日と共に島に向かう。」




「おう。」




レイは二人に手を振って、残った三月たちへ向き直った。




「三月は石崎と赤松と合流してからロミさんと悟と一緒に島へ行くんだ。」




「任せてよ。」




「ボクは向こう行ったらどうすればいいの?」




ロミは皆ボクのこと知らないでしょ、と言って少し拗ねた顔になる。




「ロミさんのことはルアとソウが紹介してくれるから多分平気です。僕の仲間は皆いい奴らだし、クルはロミさんのことを知ってる。ちゃんと学習してましたから。」




「なら平気そうだねっ。樹はどうするの?」




「小生は零斗とすることがある故、貴殿らとは行けぬ。」




するとロミは顔を膨らませて「え~樹だけズルい~零斗くんと二人で何するんだよ?」と言う。




「ズルくなどない。むしろ、危険極まりないことを小生は手伝うのだ。」




樹の言葉を聞いたロミは何か察したように顔を強張らせ、レイを見つめた。




「もしかして…鬼を…?」




「…この島に誰もいなくなったら試験的に一部を鬼に渡すことをする。それができれば、鬼の力を引き出せるかもしれない。もし、これができれば鬼にならなくても、なんとかできるかもしれないので。」




「なるほどね…それじゃあボクに手伝いはできないね。」




ロミは納得したように目を落とし、すぐに笑顔になった。




「じゃあ零斗くんの分までみっちゃんたちの面倒みとくね☆」




「はい、お願いします。」




三月は途中から話の難しさについて行けず、無表情になっていた。




「三月、先に行って皆をよろしくな。」




「!王の意のままに。」




三月はレイの言葉によって意識を戻し、微笑んだ。






 最終確認が終わって、明日に備えて皆それぞれが寝静まった頃、悟がひっそりと現れてレイの前に静かに座って言った。




「…全部聞いてたよ。」




「…そうか。けど、君は何もできないだろ。」




レイはそう言って、悟が考えを改めろと言う前にその言葉を防いだ。




「…たしかに俺は何もできない。だけど一番意見できる立場だと思うんだけど。」




悟は微笑むが、レイはよくわかっていない、というように眉を顰め悟の目を見つめた


「俺はさ、長い間お前ら三人を見て、生存発表してからのレイをずっと見てきたの。だからさ、わかるよ。レイ、お前、俺達に殺されるつもりなんでしょ。」




悟の真実を射抜いた黄色い瞳がレイの動揺を映す。




「そんなこと―」




「じゃあ、はっきり否定できるの?」




誰かにバレても答えられるよう、自分の中で想定し、イメトレを繰り返したはずのレイだが、悟を前にして上手く言葉が出ない。ソウやルアにもバレないよう、振る舞い、上手く誤魔化してきた口が今は驚くほどうまく動かない。嘘を吐くことが、できない。




「…ほら…俺の正解だね。」




 悟は溜息と共に視線を空に向けた。


 元々、自分が最悪鬼に主導権を明け渡して、真壁を殺すという作戦はあって、それを仲間には伝えていた。それを猛反対されたからこそ、じゃあ最悪、僕は処刑されるからということに変わりはしたものの、結局この通り、死んだふり作戦が決行されたわけで、レイはその先の「結末」を誰にも言っていなかった。




 なのに、悟は言い当ててしまった。




「仲間に殺させるなんて、結構酷い作戦だと思うよ。少なくとも、ルアとソウは相当苦しむし、一人ができたとして、後を追うと思う。他にも似たり寄ったり。だって、レイはそんなに想われてるんだ。」




悟はレイの手を見つめた。そこに視えた無数の糸。色取り取りで、パッと見わかるほどの少なさじゃない。一際視える一本に繋がる相手はそれだけレイを想う者の糸。また、レイも想う者だ。




「双燕は馬鹿みたいに少ないのに、レイは馬鹿みたいに一杯の縁に囲まれてる。それを全部捨てて、残していくのは苦しくないわけ?」




そんなのってあんまりじゃないの?と悟は言ってレイの青い瞳を覗いた。


そこにはもう動揺などなく、ただただ申し訳ないような色を醸し、諦めてさえいるようだった。




「………それがレイの計画だとしても俺は納得しないし、ソウ達も絶対納得しない。」




「けど、他に何がある?」




ようやく、レイが言葉を発した。いつものように炎をちらつかせた瞳を強く悟に向けて、射抜かれないような盾を持ちながら、炎は揺らめいている。




「クル達と出会って、生きようと思い始めた。だけど鬼は消えない。争いも消えない。前に話した通り、始海たちがいる限り、僕らは変われない。そして、体制は変わらない。変えるために、鬼を利用して全部持ってく。生きたくても、僕は生きてちゃいけない。」




「でもさレイが消える必要ないじゃん。鬼だけが犠牲になればいい。」




「僕は器だ。鬼に身を捧げれば当然僕も消滅する。平和と引き換えに、僕は鬼を使う。悟の言う通り、その鬼は君らが倒すことになる。鬼という脅威を前に、管理人はUNCを殺せなくなるし、本国もUNCを蔑ろにできない。UNC同士も下手に殺し合えなくなる。」




 レイは諦めたように計画の一端を話し、悟の様子を窺った。悟は顔色を変えることなくレイを見ている。悟は勘づいていたために驚きが顔に出なかったが、内心としてはそんな選択をした幼馴染に怒りと驚きを隠せないでいる。悲しみを奥に仕舞い込んでいる。




「どうしようもないわけ?真だって…」




「真は、鬼化して消された。歴史からも…僕も一緒だ。鬼から解放される術はない。選ばれた以上、選ばれたことを利用して、僕は革命を成功させる。」




悟は深呼吸をして立ち上がると「もう止めない。」と吐いた。




「だけど、―――――――――」




**********




 早朝、まだ霧が立ち込める中、ソウとルアは海岸に出た。


既に浅瀬には三頭の水馬が佇んでいて、その近くには東雲が待っている。




「おっは~」




「おはようございます。お見送りですか?」




ルアが三頭目の馬を見ながら言ったが、東雲は言い切る前に馬にまたがった。




「違うよ。ボクは君らと先に行くことになったんだ。」




それを聞いたソウがゲッという顔をして東雲は二人を馬に乗せた。




「急な変更、俺達聞いてないけど。」




「零斗くんに言ってよ。ボクだって夜中に言われたから急いだんだよ?」


ねぇ?と東雲は浜辺に目をやって、そこに立っていたレイに賛同を求めた。




「あぁ。二人には遅れたが、少し変更があった。」




 レイ曰く、東雲は二人と共に千殊へ渡る途中で、丁度夜中に、管理人内で反乱を起こした勝井と藤井の移動を助けに行く。ようは寄り道だ。その後、勝井達は海底洞窟でこちらの合図を待って待機。


そして、三月たちの監督として、樹が残ることなく三月たちと共に千殊島へ渡るらしい。




「あれ、悟はどうすんだ?」




ソウがまさかとは思うが、という顔で問う。




「悟は僕とここに残る。そして、僕が行くときに一緒に行く。」




ソウは咄嗟にズルい、という言葉が出るのを堪え「二人残ってなにすんだよ?」と続けた。


ソウとルアはレイが残って鬼化の訓練をすることを知らない。レイは告げる気もない。




「ちょっとした最終決戦への準備だよ。大きな武器が欲しくなってさ。」




レイはしれっと言ってのけ、いつもと変わらない笑顔を見せた。




「それに、ロミさんの依り代はソウが持ってる。一緒にいなきゃだめだろ。」




「まぁ…確かに…でも勝井さん達迎えに行ったら離れちまうだろ?」


意味なくね?とソウはレイの真意を探ろうとした。




「離れるわけじゃない。兄貴たちは樹炎の近くで待機してる。だから、海上で合流して千殊の付近までこっそり移動するんだ。その時に、潜水艦がバレないようロミさんの力がいる。」




レイの言っていることに微塵の嘘もない。昨夜悟との話の後、ナナが勝井の手紙を持ってきて発覚したことで、急遽合流の必要性が出てきたのだ。そのための変更であったが、レイとしてはわざわざ悟を残すという理由だけを考えることになり気楽になった。




「そういうわけだから、よろしくネ☆」




東雲はソウに向けて意味ありげな笑みを浮かべながら馬を海に歩き出させた。


すると、ルアが馬から降りて、レイの手を掴んでそのまま抱きしめた。




「…わかってる。だから俺は止めない。絶対に帰って来い。」




小さくそう言って、レイに何かを握らせると、ルアは馬に乗って海に出て行った。




「レイ、お前、あんま隠し事してんじぇねぇよ。どうせバレってから。」




バーカ、と煽るように笑って一言残したソウもルアに続いて海に出て行った。




「「行ってらっしゃい。」」




振り返った二人は笑顔だった。




「馬鹿か。お前らが行くんだろ。」




 レイはまたな、と手を振って二人を送り出し、あっという間に三人は樹炎島から離れていった。




「行ってらっしゃい、か…」




 手に残されたのは、青い糸と、白いような糸、それと黄色い糸で編み込まれたミサンガだった。




 レイは最近ルアとソウと悟がこそこそ何か作っていたことを思い出した。


三人が見えなくなってからレイは拠点へと戻る。ようやく起き出した三月や悟。明日には石崎たちがここに着く予定だ。石崎の『魅了』で駒となった管理人が二人の移動を行っている。今のところ、問題なく来ているらしい。明後日にはこの島から発つ。そうすればいよいよレイは鬼の力を使う訓練を始める。




 恐怖がないわけではない。精神世界で行った訓練でさえ危険だった。真がいたことで止まれたが、真がいなければそのまま鬼と成り果て、この場にいたルア達を殺していたかもしれない。そんな危険なことを現実で行うというのは、今まで能力だけを行使するために鬼に触れていたのを、今度は体のおよそ三分の一を鬼に渡し、鬼の能力以外も得ようとするのだ。鬼の力『真世界』は真の持つUNC能力でなく、鬼が持つ能力そのものだった。当然歴代の器だった人間が保持していたUNC能力も鬼の中には存在していて、それを扱うには鬼をコントロール下へ置く必要があった。『真世界』でさえ、未だ鬼のコントロールを成していないレイには負荷が大きく、いつ代償を支払うことになるかはわからない。




 だからこそ、今完全に扱う為にコントロールする必要があり、危険に身を冒す必要がある。もしここで鬼に負け鬼化してしまえば、レイは帰ることができないし、双燕達にバレ、鬼としてただ処分されるだろう。せめて、部分的な鬼化は成功させなければならない。もしなんて、ないのだ。成功させる以外、レイに道はない。

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