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異端の子  作者: 水園寺 蓮
希望ノ音色編
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抗う者

 五月一日、晴れ晴れとした空の下で、千殊島改め、双国は建国の日を迎えていた。

既に本国王への挨拶も済ませ、統一も完全とし、双燕はすべての勢力を手中に収めたのだ。一度は喧嘩した要田とも和解し、国作りに勤しんだ。そして、ついに今日、念願の建国宣言を迎える。


 朝から用意されていく盛大な宴の用意と自身の即位式。天気さえも双燕の即位を称えるように綺麗な空だ。本国からは王の重臣が数名招かれるほどで、管理人のトップやらと幾人にも偉い人間に双燕は心躍っていた。これからが大層楽しみで仕方ないのだ。


「要田。」


双燕は自身の身に着ける服を着て、双子の弟に見せた。


「どうだ?」


見せられた要田は微かに微笑んで「…双燕、ベルト…」と指した。


「あ。」


双燕は指摘された場所を見て一つ通し忘れているのに気づき、すぐに直す。


「うん、いいんじゃないか。王様みたいだ。」


「あぁ…これでやっとだ…長かったな…」


 双燕は自身の行ってきた偉業を頭に浮かべながら、ここまできたという現実に感心していた。一度は道を違え剣を交えた要田とも無事に和解したことは、双燕の中で当然だろうと考えたいた。


 要田は石崎麗奈の能力に踊らされていただけ、という自身の考え。それは間違いではなかったことを証明するように、石崎が消えた後は要田もいつもと変わらない。双燕の双子の弟に戻った。


 石崎は消えたが、どうやら向こうの連中に助けられたのではなく、単に殺されるために攫われただけだったようで、後日、双燕の元には秋崎の署名と共に石崎の目玉が送られてきた。意外にも、動機はかつての仲間である三月タカという奴が石崎の能力で自身と決別するに至らされたという復讐だったらしい。俺はそういうことなら、と秋崎を許してやり、千殊へ再び迎えることにした。俺が捜索している間、どこにいたのか、と問えば、担当管理人に事情を話し、完遂するまでは匿ってもらっていたらしい。全て辻褄があったのもあり、俺は監視を残しつつも秋崎を警察隊の一員として認めた。要田も賛成していたし、きっとこの選択も間違ってない。


 鬼波零斗がいない以上、既に双燕は自身の天下であり、他に邪魔する者はいまいと考える。


「要田、これから俺達の自由だ。お前も好きにしろ。」


「あぁ。そうするよ。」


双燕は要田に微笑み、要田もまた双燕に微笑んだ。



*************


 それから数時間後の即位式で、双燕は高まっていく興奮を抑えながら壇上へ上がった。即位式と建国宣言はここで行う。ここで言えば、晴れて双燕の目的は完遂される。壇上に立てば、広場に集まった島の者達が拍手と共に花火があがる。


「ここに―」


 早速建国宣言を始めた時、上がったはずの花火が双燕の真横に落下した。双燕は目を落とし、穴の開いた舞台に目を見張る。どう見ても、落下してきたものは花火ではない。護衛をしていた部下が慌てて双燕を壇上から下ろしたが、次々に花火だったはずの弾が落下してきて会場を破壊し、集まった人々を混乱へと陥れていく。


「どうなってる?」


 双燕は重たしい衣装を脱ぎ、軽装に着替えるとすぐに塔の上から広場を見下ろした。


「双燕!」


 丁度、双燕が顔を出した時、混乱し、人々が蠢く広場から、大きな声で叫ぶ者が現れた。その人物が先頭を務め進んでくる集団が双燕の部下と交戦をし始めている。


「まだ終わってないぞ!」


「津宮…!」


 双燕に反逆の刃を向けるのは、津宮の率いる旧鬼呪一天の面々。唇を噛みながら双燕はすぐに自身の軍へと指令を下す。しかし、軍もまた混乱の渦へと陥っていた。どうやら、軍の半分が反乱分子となり、津宮達に助力しているのだ。その反乱分子を率いているのは、見間違うことない者―秋崎である。


「…クソ共が!」


 当然、そんな反乱が起った建国即位式は中止。本国の重臣は慌てて帰国することとなり、千殊島は再び戦いの場所へと戻った。しかし、以前とは違うことに、双燕達には本国から派遣された管理人軍と本国軍が味方し、戦力の差は圧倒的だった。すぐに鎮圧できるだろうと考えていた双燕は、悠長に構え、城で報告を待っていたが、その日上がってきた報告は…


「管理人軍の半壊。危険を恐れ、撤退。本国王より勅命にて、休戦せよ。」


 本国王、双燕にしてみれば父に言われた言葉。そうとなっては休戦する他なく、双燕は頷いた。相手方も休戦の旨を受け入れた。津宮側にしてみれば時間はあればあるほどありがたいもの。約二週間の停戦は、建前上、本国貴族の安全確保、また、調査や管理人救護とされているが、両者ともに準備を進めるためであり、双燕側にいたっては情報の整理から始めなければならなかったた。


 誰が裏切り、誰が消えたのか。


 どれが信用できるのか。

 

 どれだけの戦力が消えたのか。

 

 全てやられた側は把握することから始めなければならないが、双燕は駒の正確な数まで把握していなかった。要田と高坂も当然知ることなく、人事を完璧に把握していたのは、平和中立連合である井月遥だけだった。その井月は双燕らからすれば驚くことに、中立を捨て、鬼呪一天側についたのだ。平和中立連合は消えた。その影響は正確につかめるものではない。双燕としてはコントロール下に置けていたと思っていたのだが、それが出来ていなかった、という話しだ。




**********

 日が沈み、建国式という双燕の大舞台で反撃の狼煙を上げた鬼呪一天は、旧拠点から少し離れた仮拠点に戻り祝杯を挙げていた。


「「「「乾杯!」」」」


「とうとうやってやったわね。やっと激務から解放されるわ!」


駒場はウィーリーを飲みながら踊るように語っては久々の仲間達と戯れている。


「駒場は双燕のお膝元だったもんな。」


「ほんと、大変だったわよ。すーぐキレるから周りの人たちの怪我を治す頻度が多すぎて。」


駒場はそう言ってまた一瓶ウィーリーを空けた。


「でも、もう一度戦う為なら大人しくできたわ。」


遠くを見つめ、どこか悲し気に呟いた駒場につられ周りの数人は暗い顔になった。

確かに鬼呪一天は反撃を開始したが、その場に、ここに、彼らを救い出し、希望だった鬼波零斗はいない。


「何暗い顔してんだよ。」


そこへ秋崎がやってき俺達を見つめた。


「秋崎…」


「対面で話すのは久しぶりだな、津宮。大層綺麗な花火だったよ。」


秋崎は駒場の隣に座り、ソーダを開けた。


「秋崎、ルア達は元気そうだった?」


 悟誘拐騒動以降、ルア達とは連絡を取れていない。悟はあの時、二人が来ることを知っていたのか、この拠点の隠し倉庫の中に大量の武器を残していた。そのおかげで俺達は武器に困らなかったわけだが、いくらか疑問が残ったままだ。最新の状態を知るのはこちらに戻ってきた秋崎だけ。


 秋崎はソーダを一口飲んで苦笑いすると、「かなり元気そうだったよ。サバイバルをエンジョイしてたな。なんなら偉人様を解放して仲間にしてたよ。向こうにいる間、毎日驚いてばっかだった。」と言った。


「そっか、良かった。」


自然と笑みがこぼれる。


「それはそうと、伝言を預かってた。無線で言わずに直接言ってくれってな。」


秋崎の真面目な表情に俺も駒場もつられて真面目な顔になる。


「狼煙の上がった約四十八時間後、帰島する、だってさ。」


二人が、戻って来る。


 それは今の俺達にとって朗報であった。戦力差が厳しい今、二人の知恵と戦力は必要だ。しかし気になるのは狼煙の上がった、ということ。樹炎と千殊は確かに見える距離ではあるが、島の中で何があったかまでは見ることができないくらいの距離だ。にも拘わらず、一体どうやって反乱を起こしたと知るのだろうか。俺が首をかしげていると「不思議がったって仕方ないだろ。あいつらはそういうやつらなんだから。」と秋崎が言って笑った。


「確かに。」


釣られて笑った俺と駒場。秋崎はそこへわざとらしい咳を一つ。


「なによ」


駒場が言う。


「もっとお前らには面白いニュースをやるよ」


秋崎は俺に意味ありげな視線を寄こした後、一枚の紙を出した。


「これは先日、管理人共に知らされた情報だ」


 そこには、ヘルベルク監獄が崩壊したという話と脱獄した研究者について書かれていた。


 監獄のことは知っている。島のことを教えられた時に、管理人の管理する天然の島で、本国の罪人や追放されたUNCの処刑が行われる場所として説明をされている。難攻不落と言われた監獄の崩壊、それがどういうことかを理解するのは俺達にとって容易いことだった。

ってなわけだ、と括った秋崎は自身を迎える瀬合と八坂の元へ向かっていった。



 秋崎が教えてくれたこの事件が本当に、本当に起こったのなら、レイは生きている。俺はそう思う。

ここはレイの師匠が幽閉されてた監獄。それが崩壊した。レイが消えた翌日に!

レイが生きている。生き延びている。やっぱりレイはすべて考えていたんだろうな。

本当に、最低な作戦で、時間は確かに貰ったけれど、帰ってきたら、一発ぐらい殴らないと気が済まない。




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