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異端の子  作者: 水園寺 蓮
義焔再団編
64/93

祭り

 麗奈の逃亡後の時間のズレ、秋崎の失踪。証拠がない以上、双燕は津宮を追い詰められなかった。

秋崎の独断による犯行としか立証できない。純粋な観点から見れば、確かに秋崎の独断で話は着く。それでも双燕が津宮に固執したのは、やはり警戒からだろう。


 双燕は事件から一ヵ月経った頃にやっと津宮への嫌疑を晴らし、秋崎を指名手配し、単独犯行として管理人に報告した。秋崎の部下たちは平和連合直属へ下り、事は終わった。


 津宮の嫌疑が晴れたとはいえ、その後も双燕は何かと津宮を厳しく見張っていた。その裏で、津山と悟の尽力によって旧鬼呪一天が繋がりつつあることは気づけなかった。津宮に集中するあまり、他への監視が蔑ろになったのだ。双燕から見れば、津宮こそ危険分子そのもの。レイの意志を最も継いでいそうな存在。そういう警戒があったからこその失念だった。


 二月にも入ると、津宮は強化された監視にも慣れ、隙を見ては津山との連絡を再開した。


 そして、二月十日。再び双燕達を揺るがす事態が起こる。

唯一の鍛冶屋であり、双燕も重宝していた新悟の失踪である。



**********

悟失踪一週間前―


「あ、クル~」


 食堂で顔を合わせた悟は元気よく声を掛けた。

双燕の監視下であっても、普通に挨拶程度の会話は許されていた。もちろん、食堂だから双燕の手の者がいて、会話は聞かれている。


「悟、おはよう。」


「おっは~、相変わらずよく食べるねぇ。」


 悟はクルの盆に乗った量を見て笑う。盆の上には山盛りに盛られたご飯と大皿にうまいこと盛りつけられた野菜や魚やらの山である。元々クルはよく食べるらしく、時々レイが食費がかさむと愚痴っていたのを悟も聞かされていた。


「…まぁ…」


 クルは笑って、さらにパンを一つ追加した。悟もパンを取って、先に一歩進む際、ボソッと言う。


「向こうも元気みたい。」


 それだけ言って、悟はまたね~と去って行ったが、津宮にはどういうことか理解できなかった。




***********

 悟は、食堂でクルと会った早朝、突かれる痛みで目を覚ました。見れば親友のオウムが俺を突くではないか。


「あ…お前、三日もどこ行ってたんだよ?」


 このオウムは親友であるソウの使獣で、たしか名前は真っ白な見た目からシロと名付けられていた。ソウが失踪して以来、世話をしていたが三日前に突然姿を見せなくなった。今までそんなことは一度もなく、いなくなってそれなりに心配していたが、微かに本来の主人に会いに行ったのではないかと期待した。


 オウムを止まり木に止め、食事を出してやった時に、足に括り付けられた手紙に気づく。俺の期待は、裏切られなかったようだ。

手紙を開いて一行目、俺は期待を超えた衝撃に刈られた。


************


―現在。

「いやぁ、まさか迎えに行くから!なんてお熱いねぇ?」


 隣を走るレイは俺の言葉に苦笑した。どうやらあの時から髪を短く切ったようで、今は風に吹かれる銀髪は短くもどことなくかっこうよさを増している。


「今までお疲れさん。」


「ほんと、俺頑張ったよ~?」


「僕らだってやることはやってたよ。」


「そりゃそうでしょうよ、レイだもん。」


 十日の朝、俺は現れたルアによって千殊島の東豆島に転移されて、そこでソウから海上の途中まで送られた。二人はまだやることがあるらしく、千殊島に残ったが、俺は海上でソウから代わったレイと共に懐かしの故郷、樹炎に向かっている。


「とりあえず、むこうで全部話す。この水馬のこともな。」


「ほんと、この馬何~可愛い。」


「それ作った人に言ってやって。喜ぶから。」


 水を走る馬は水でできているが、俺が触れても水に濡れない。不思議なものだ。


 その頃、千殊島では丁度、サイレンが鳴り響き出した。俺は振り返って「…まさか、やることって…?」となんとなくの予想の言葉がもれる。いや、わかってしまったが故の期待の笑みがこぼれたのだ。レイも振り返って、双燕が上げたと思しき襲撃用の蛍光色の狼煙を見つけた。


「せっかく頑張ってる仲間にエールは必要だろ?」


 ニヤッと笑うレイに、俺はこの幼馴染達の行動に慣れた笑みを浮かべた。


 狼煙のサイレンの中で、今度は鮮やかな赤と黄色の花火が打ち上がった。一発、二発と立て続けに五発ほど。最後の一発はレイの瞳によく似た綺麗な青色の花火で、誰が上げたのかはすぐにわかった。

レイの笑う顔を見て、ほんとに、変わらねぇなと俺は心の中で言っていた。


「ソウ、見つかったか?」


「いいや、見つかってねぇ…どこいんだか…」


 二人はレイが倉庫だとか使っていた島に点在する準拠点を回ってお目当てのものを探したが、どこにもいなかった。そもそも自分達が島を出た後に拠点がどうなっていたかも知らないで、帰ってきてみたらどうやら入れない、という状態なのだ。探し物がどこに移動したかなど尚のこと知らないはずだ。


「こうなったら…」


「本丸行っとく?」


 ルアの言葉に続いたソウの言葉。ルアの意見は同じだったようで、二人ともよく似た悪戯な笑みが重なる。


**********


 海上でレイと悟がサイレンを聞いた時、二人は浜光塔のてっぺんからバズーカで花火をあげていた。


「よし、こんなもんか。」


 花火を打ち上げた二人は騒がしくなってきた辺りから離れて、塔の中に潜った。


「ソウ、俺はついでにクルに接触する!」


 塔の捜索には二手に分かれようということで、ソウは上階、ルアは階下と決まった。ルアは階下にクル達がいることを知っていて、もし会いに行くなら説明とかはルアのが適任だとソウも判断した。代わりにソウの役目はついでに双燕の足止めだ。クルに接触しているルアに気づかれてはいけない。


「オッケー!十分後、舞台でな!」


「あぁ!」


 二人はサイレンによる警戒の網を抜け、塔から降りつつそれぞれ何人かを倒し、ルアはクルの元へ、ソウは目的の物を探しに出た。



***********


『ちょ、ルアとソウが来てるよ!』


「え?」


 一発目の爆音の音の後、サイレンが響き出した。すぐに紘から入った無線に驚き、窓の外を見ると、花火が上がっている。しかも見たことのある花火な気がして、紘の送ってくれた映像を見て見れば、まごうことなきあの二人。今まで姿を隠していた二人の生存が確認できた瞬間だった。


 一体、どこにいたのだろう?

今、この状況下で接触を図ろうとすれば、完全に双燕に追及される。ただでさえ厳しい現状、これ以上原因を増やすのは困る。それでも、話さなきゃいけないことがあるのは事実だった。レイならどうする?と考えてみたが、すぐにレイならこのリスクだって利用して物にするとすぐに結論が出た。


「…紘、カメラの方、よろしく。」


『え?まさか…』


「これくらいのリスクにびびってちゃ、この先は行けない!」


俺は扉を開けた。


「や。」


「あれ?」


 扉を開けた俺は拍子抜け。そこにはルアが、さっきまで塔の上で花火をバカスカ上げてたルアが立っていたのだ。無線の方でも紘がえぇ?と言った声が聞こえ、拍子抜けした顔が思い浮かぶ。


「事前に部屋の場所聞いといてよかった。」


ルアはお邪魔します、と俺の部屋に入ってきた。


「…紘、カメラは?」


『大丈夫。もうやってあるから。』


紘の言葉に頷いて、俺は衝撃から急いで現実へ戻る。


「ルア、俺達は―」


俺達の現状を伝えようと口を開いたが「そんな慌てんな。ちゃんと把握してるから。」とルアに言われ、俺はここでまた驚きを隠せなくなる。


「俺達の使獣がお前らのこと教えてくれてんだよ。」


「ナナも?」


「あぁ。あいつは頭いいからな、定期的にやってくる。」


俺は初めてナナが時々どこかに行ってしまう理由を理解した。


「今までどこに?」


「ちゃんと話す。でも時間がないから、かいつまんで話すな。」


ルアはまず最初にレイのピアスだった十字架の片方を俺に渡した。


「これは、上手く使え。」


一気に感情が溢れて、聞きたいことも山ほど増えたが、ルアは語り出してしまった。


「俺達は今秋崎達と一緒に樹炎に潜伏してる。そこで偉人たちの解放と、協力を貰いながら訓練を続けてる。偉人たちの協力で海の呪いは既に解除し、雪が解けたら、本番だ。」


それを聞いた後は、やるべきことの為に、聞きたいことをしまい込んで、話すべきことを口にする。


「そのまま秋崎達は頼む。石崎もいるんだろ?俺達も、雪が解けたら反撃に出るつもりで準備を進めてる。監視されてるけど、前に秋崎と瀬合が作ってくれた時間で一度集まって、連絡は取れるようになってる。双燕は、足元固めで忙しくしてて、他の連中で双燕に不満を持つ奴もこっちに引き込んでる。」


そう話せばルアは微笑んで「さすが…レイもきっと、感心してるぜ。」と目を細めた。


「…だといいな。」


「俺はもう行く。ソウと合流しないと…」


 ルアは転移の用意をして、じゃ、と入りかけた。そこへ俺は慌ててとある鍵を差し出す。あいつの、と言えばルアはすぐに理解したようで、鍵だけさっさと飛ばしてしまった。


「レイは」


俺がそう口にすると、ルアは笑う。


「…お前の信じた通りだ、とだけ言っておくよ。」


そう言ってルアが帰り、一人になった部屋。

俺は嬉しくてたまらない。だって、俺の信じたレイは今も戦う、折れない存在だから。


**********


「あ…」


「お前か…!」


ソウは目が合った双燕に苦笑して「お邪魔してまーす」とだけ言った。


「ってことは、もう一人はルアか?二人揃って何の用だ?」


「逆に何の用だと思うわけ?」


双燕は余裕のある笑みで剣を構え「レイの復讐か?」と言う。

ソウは言いたい言葉を飲み込んで、逃走経路を考えた。


「言っておくが、逃がすつもりはないぞ。」


全ての逃走経路が一瞬にして塞がる。なぜなら、何の合図もなしにソウは囲まれたからだ。


「うっそ…」


 流石のソウも驚きで静止した。同時に奥の扉の中に、お目当てのモノを発見する。そこから飛び出してくれた的には感謝しなくては、とソウの口角は自然に上がった。先が見えたらすべきは一つ。


「…ルア、作戦変更だ。」


無線にそう告げて、ソウは斧を構えた。


「一分後に祭りで会おう。」


 無線の向こうでは苦笑と共に「了解」と言う声がして、ソウは双燕達が動くよりも先に辺り一面に水銀を巡らせて動きを制限した。その中でソウだけが自由に動いて、張り巡らせた水銀の糸を超え、素早く双燕の後ろにあった部屋の扉を開け放った。


 鍵はどういうわけかきっちり刺さっていた。本来、鍵は侵入してきたはずの二人に何のに…


 双燕は瞬時に剣を下ろしたが、扉に当たっただけで、ソウに侵入される。


「クソッ!」


 双燕は慌てて扉を開けようとしたが、開けた時にはもうも抜けの殻だった。



 丁度、ソウが動いて一分後のことで、双燕が扉を開けたと同時に外では再び花火が撃ちあがっていた。そこから離れた旧北舞台ではソウとルアが落ちあっていた。


「いたいた。まだこの様子だと目覚めてないっぽい。」


 ソウはお目当てだったその人物を下ろし、その顔からサングラスを取った。


「遅かったな。」


「「うわっ!」」


 二人はその人物が目を開き、起き上がったことで大声を上げた。


「おい、気づかれんだろうが。」


「起きてたんなら言えよ!ルカ!」


 ソウはルカに向けて文句を言った。しかしルカは気にした様子もなくむしろ面白がっている。


 リベンジ戦でルカはレイに敗れ、治療をされていたのだが、レイが真壁に降参したことで拠点を封鎖されると共に真壁のお膝元に移された。そして長らく眠っていたわけだが、どうやら目覚めていたらしい。


「とにかく、移動するぞ!」


 ルアの転移で海上に出ると、二人を待っていた水馬が小船を牽引してきた。


「用意周到だな…」


 ルカが感心する中で、三人が乗り込めば、二匹の馬は猛スピードで海上を滑り出した。

一時間もしない内に樹炎の島に着いて、先に着いていたレイと悟が出迎えた。


「なんだ、ルカ起きてたのか!」


レイもルカが起きていたことには驚いたようで、目を丸くしている。


「俺達もびっくりだよ。サングラス取ったら目が合ったんだぜ。」


「最近目覚めたんだ。」


そう言うルカにふうん、とレイが目を細めてナイフを向けた。


「もしかしてあいつらと繋がってたりするのか?」


 それは最もな警戒だった。ルアとソウは脱出のことで考えに至れなかったが、前から起きていて、こちらの迎えを待っていたとしたら、それは真壁の罠かもしれない。何か取引しているかもしれない。レイは嘘を見抜けるよう氷を操ってルカのサングラスを弾いた。


「いいや。寝たふりをして双燕を誤魔化していた。真壁要田はもはやお前らの味方になったのか知らねぇが、双燕に俺様のことを言わなかった。しかも最近、あいつは本国に強制送還されたらしい。」


「まじか。」


レイはルカがもたらした情報に驚きを隠せない、と言った顔でナイフを下した。


「俺様は双燕と繋がっていないし、むしろお前に協力するつもりだ。」


 ルカがそう言ったが、レイは気まずそうな顔をした。それもそのはずだ。ルカの唯一ともいえる存在だった杉山を、レイは殺したのだ。


それを察してか「もちろん、ナオの死に関しては憎いところもある。お前が嫌いなのは変わらない。だが、あれは俺の責任じゃないとは言い切れねぇ。それは頭でわかってるつもりだ。」と言う。


「今はそれを考えてる場合じゃねぇってのもわかってる。双燕をぶっ潰した後に俺様はお前を殺して結論を出す。」


ルカのその言葉にレイは目を丸くして「…なんか、怖いな。ほんとに、ルカか?」と少しばかり驚きで口を開いていた。


 ルカは目を彷徨わせ、何か迷ったかのように口を少し開いて、閉じて、また開いた。


「…信じられないだろうが、ナオが俺様に会いに来た。そして、ナオの亡骸の行方…本来UNCの死体は管理人が回収するところを、お前が墓に入れてくれた。だからナオの魂はちゃんと逝けたんだ。本当は、管理人に縛られるのが死後の話らしい。だから、その恩くらいは返すさ。」


レイはそっか、と言って弾いたサングラスを拾う。少しひびが入ってしまった。


「…平和になったら、いくらでも僕を殺しに来い。今は、仲間だ。」


 レイの手で、サングラスは元に戻り、ルカはそれを受け取る。微かに笑った顔を見れたのは、悟だけで、レイもルアもソウもルカのその変化には気づけなかった。同時に、その笑顔は、かつてナオに向けていた笑みに似ていたことは、誰も知らない。


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