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異端の子  作者: 水園寺 蓮
義焔再団編
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第一世代

 調べ物は建前。調べ物は調べ物でも、この神社を調べないといけない。森を抜けて、細い道に辿り着いた。奥には赤の鳥居。


 ずっと謎なのは、王様とこの鳥居とかいう神社というものは、合わない。本国には既に教会とうものがあって、それはそれで神を崇めているらしい。これは本国より西にある国からの文化らしい。


 じゃあこの神社とはなんだ、となるわけだが、かつての本国では一般的なもので、仏像も本来はこっちのものらしい。今の本国は別の神を崇め、UNCに馴染みがあるのはこの神社。かつての本国では仏教といった。今ではこの神社とかの物体のみ残された、滅んだ宗教という信仰の対象。




 道の両端にある石でできた灯りは僕が進む度に火が灯る。歓迎されているのかもしれない。本国は、UNCに滅んだ宗教を与え、元々人間である存在を祀り、神聖なものとして誰にも触れさせなかった。その中で、偉人たちが囚われているなんて僕だって思いもしなかった。どこにも記録されていなかった。真相がどこにあるか、結局図書館を調べ直してもわからなかった。なら聞くしかないんだ。見てきた人に。


『よく来た、鬼波零斗。』


 本殿の元へたどり着いた時、僕の頭上には人がいた。


「鬼波…千殊…」


 初めて見る本物は黒い髪を揺らしてそこに現れた。吊り目に似た目はいつか兄貴に見せてもらった過去の肖像そのままで、雰囲気は肖像画よりも数倍厳格だった。


『フム、思っていたより早かったな。』


千殊は首を傾げ、微笑む。


 僕は恭しく頭を下げて「お初にお目にかかります、千殊殿。流石は貴方様だ。僕の名を知っていらっしゃる。」と言葉を出す。


『島を作ったのは私だ。当然目はあるものでな。』


「左様でござますか。真に神業と思います。よろしければ、その神眼を通した貴方様の兄である始海について教えていただけませんか?」


そういう僕に真は『そんなに礼儀正しくできたのかい?』と目を点にして言う。


「そりゃできるよ。樹に指導されたから。」


僕の返答に、してなかったろうにと言う真を無視して千殊殿に向き直った。


『そうかしこまらなくていい。何せお前の先祖で、自分達のツケを払わせようという罪人だからな。』


僕は感謝しますと顔を上げて、千殊様を見た。千殊様は空中から降りてきて、僕に歩み寄って来た。


『さて、兄のことだったな。自身の兄の非道くらいしかと把握している。全く…兄者は何処で道を間違えたのだろうな…』


 千殊は僕の傷に触れると一瞬で治してしまった。さっき森の中で熊みたいなやつと戦ったせいでできた傷が一瞬できれいさっぱり消えた。




『私ができることは島を創るだけじゃない…そもそも、兄者は…』


何から話そうかと迷う千殊様に真がどうやって始海が神と交渉したかを教えてくれtと言った。


『真…そうだな。知っているのは本人と私くらいだものな。』



**************


 兄者が即位したのはようやく国が機能し始め、認められた時だった。だが、せっかくつくり上げた国は二年後、不作、疫病、自然災害によって滅びようとしていた。兄者は神に縋った。今は信じられないだろうが、昔は心底信仰し、代償次第では神らしきものに出会えた。兄者はおそらくそれを試した。神であって神でない存在。兄者は命を犠牲にその存在と取引した。国を守る力を選ばれた子供に宿らせる。


 今ではそうなっているが、第一世代はだけ例外的に選ばれた人間に宿った。だからこそ、私にも宿った。


 神らしき存在と兄者が交わした約束の詳しい内容は知らない。だが、命を代償に、というのは嘘だろう。兄者は転生を繰り返し続けている…消える直前聞いた内容は、神の代理…


 意味が理解できなかった。今はわかる。兄者はUNCを生み出させる代わりに、人の命を神に捧げた。兄者自身の命じゃない。UNCの命だ。神に選ばれた子供は能力を持った。人に宿った能力は人間の中で成長していく。その成長した力―命、魂を神に献上した。


 おかしいと思わないか?UNCの寿命は長くても三十で終わる。


…生きていようが、死んでいようがUNCを捧げた。いくつかの魂は逃れたり、私達のようにここに封印された。一番驚きなのは、お前の魂だ。原型は盧寿の物だろう…何代にも渡り、継がれた正義の魂。


 何度も始海の手を逃れ、お前に渡った。




************




「…初代王は僕らを作り出すために、神にUNCを捧げることを約束し、献上し続けて今の時代が出来上がった、ということですか?」


簡潔にまとめて確認した。




『そういうことになるな。神というのは、悪魔とかそういう者なのかもしれない』


「悪魔、ですか?」


僕の言葉に千殊様は『本国より西にある国にいるという存在。魂と引き換えに願いを叶える。』とすんなり解説を成したが、自身もよくわかっていない、と最後に付け足した。


「……謎ばかりだ。」


『詳しいことは本人に聞くしかないだろう。』


 確かにな。結局全てを知るのは、本人だけ。誰も、見ていても、理解しきることなど不可能だ。


「…千殊様は来てくれますか?」


 千殊様が来てくれれば、と少し思ったが『…行きたいのは山々だが、私が此処を離れれば、島の均衡が壊れかねない。』というのを聞いて納得した。


ここは樹炎にある魔の森の中。しかも千殊様は島の創造主。何が起こるかは未知だ。連れ出すことはしない方がいい、という判断を下し、僕はすんなり引き下がった。


千殊様は『私は行けない。』と言って、レイに手を伸ばす。


『それでもお前の目を通して全てを見よう。零斗…すまないな。私たちが終わらせるべきだった』


 千殊様は心底申し訳なさそうに顔を歪ませていて、僕は何も言えなかった。


『お前ならきっと終わらせられる』


「……はい、終わらせてみせます。」


 誰もこの地獄を望んでない。この連鎖を止めたかったはずだ。それでも続いてしまったのは…


 誰しも奪われたくて生きちゃいない。死にたくてここにいるわけじゃない。


僕らは、神のおもちゃでもなんでもない。


 やっぱり、最後は殺さないといけないんだ。全て、終わらせるために。



************




『叔父さん…』


 何とも言えぬような顔の甥を見た千殊は『真、私達の失敗は彼女が全て断ち切る…盧寿の意思を超える彼女の意思、彼女は歴代で最も強いだろうね。』と微笑んだ。


『レイはすごいから。』


千殊に言われて初めて真は自分の選択に自信を持てた。


『でも不安なのだろう。確かに強すぎる光に影はつきものだ。』


言い当てられた不安。真の描く「最悪」は多分、千殊にも視えている。


『彼女は大丈夫だ。歪んだ正義も、また蘆寿の形であり、彼女のもの。彼女は扱い方を間違えない。お前が信じて助けてあげることだ。彼女は大丈夫だ。』


真は千殊に会釈して先を歩き出したレイにすっと消えた。


************


 帰り道でも危険は一杯。どうやって帰ろうかな、なんて思っていると、レイの前方からルア達がやって来た。


「レイ!」


「あれ、なんでいんだよ?」


「馬鹿か!」


勢いのままルアにデコピンされたレイはもう一度、なんでといった。


「遅いから迎えに来たんだろうが。」


ソウもデコピンしながら言った。


「…え、生物は倒せたのか?」


 二人がドヤ顔の如く笑う中、「問題ないぞ。彼らに足りなかった実戦経験。この場所で急速な成長が見られた。零斗、お前の友人はすごいぞ。」と樹が微笑んで言った。


レイは嬉しくなって、自然と口角が上がる。


 四人になった帰り道。不思議と襲ってくる生物はいなくて、魔の森がごく普通の森みたいだった。レイは道中に千殊から聞かされたことを伝え、レイの知った話をまとめてルアとソウにも明かした。


二人からも樹に聞いた、という話が出て、三人はUNCの過去を見つめ直しながら拠点に戻ったのだ。





**********


 「盧寿、どこ行く気だ?」


「あれ、起こしちゃった?」


 無邪気に笑う少女に似つかわしくない鎧。しかし少女の足取りは鎧に負けないくらいしっかりしていて、鎧の重みを見せないでいる。


「いや、元々起きていたのだ。」


「そっか。」


 月を眺める彼女の瑠璃色の瞳はいつになく、悲しい色をしている。時折風でゆられて瞳を隠す淡い水色の髪が悲しい瞳の隙間に炎をちらりと見せていた。


「それで、どこに行く気なのだ?こんな時間に。」


「…話したら、止めないでくれる?」


そう言う彼女はやはりどこか悲し気で、しかし力強い意志があった。


「危険に突っ込む貴殿をみすみす行かせる気はないが。」


小生は自然と顔をしかめていた。

すると少女は再び窓の外を見つめて「…樹はこの戦いどうなると思う?」と呟いた。


少女の見る方向には自分達の戦う相手の本拠地である城がそびえ立っている。


「…いくら小生らが強くとも、勝てない、というのが正直な意見だ。」


小生は彼女の真意を測りかねていた。


「だよね。私もそう思うの。私達は強いよ。でもそれって私達だけで、皆じゃないし、環境もあまり良くない…どんどん死んじゃう…」


彼女は窓を開け放って上半身を外へ出した。


「樹、皆には内緒ね。」


「待て―」


そう言った時にはもう手が空を切った。


「このままじゃいけないでしょ?だから変えるんだよ。何百年かかっても。」


空を切った手にそんな言葉が降って来た。


次の瞬間、夜空に彼女の持った扇子が月の光に反射して輝いた。小生はその景色を何年も見ている。

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