処刑
「本日御集りの皆さま、これは建国前の儀式公開処刑です。これから作られる国にとって不穏分子となる罪人たちは今日ここで裁かれるのです。」
新年一日目の今日、中心街の中央広場では人が集められていて、これから起こることを見つめていた。『鏡』の能力者で真壁のお気に入りの宮崎は様々な場所と繋ぎながらその様子を伝えた。
「さぁ、罪人の登場です。」
石崎と赤松は絞首台の前に立つ。石崎は堂々と前を見据え死をものともしない。
浜光塔の最上階から見ていた双燕はまたもそんな石崎を気味悪く感じた。
「彼女たちは麗華連合の者達。石崎の能力は今後の国にとって危険極まりなく、我々は無意識のうちに彼女に利用されてしまう可能性がおおいにある。故に、ここで消さなくてはなりません。」
「…麗奈様…」
赤松は前に立つ石崎に悲痛そうな声で語り掛けた。
「赤松…こんなことになって、ごめんね。」
「…いえ、麗奈様と共に在れるなら本望です。」
赤松は心底麗奈に惚れていた。
麗奈の能力以前に麗奈という人間の本質に。それに気づいたのは、レイに能力を解除されてもなお、麗奈を大切に思う自分がいたからだった。だからこそ、赤松は今もここに立つのだ。
石崎の首に縄がかかる。赤松が麗奈のうしろで泣きそうな顔をしている。
「…赤松、最後は笑うのよ。」
麗奈はその場に大層似つかわしくない笑顔を浮かべていた。赤松はポカンとして、双燕は違和感に気づいてすぐに周辺の部下に連絡を入れた。
「すぐに罪人を―」
連絡はする前に止まった。双燕の声だけじゃない。目の前の雪の粒も、見ている人間も止まっている。麗奈は微笑んで、目の前に現れた人間を見つめた。
「…まさかこれもレイの指示とか言わないわよね?」
赤松は驚きながらも、自由になった手首を回し、状況に追いつこうとあたりを見回した。
「指示というか…レイならこうすんだろ。」
津宮は麗奈を自由にすると、二人を連れて異空間に入った。
「あと、悟と真壁要田が取引をした。」
異空間の中を麗奈と赤松は津宮に付いて行った。
「真壁要田は、俺達にお前達を救うよう頼んでいた。何かあった時の保険にな。」
「要田が…?」
石崎は目を丸くした。
「今は時間がない。ここを出れば、海に出る。浜に迎えが来てるからすぐにこの島を離れるんだ。」
石崎は頷いて、今はとにかく逃げることを考えた。事前にあのウーパールーパーから助けるということは知らされていたが、こう来るとは思っていなかった。津宮の脇を通り、赤松と共に船に乗り込んだ。
「藤井さん、二人をお願いします。」
「もちろんだ。」
船の運転は管理人の藤井。津宮と二人は藤井に一礼した。
「それとあいつから伝言。必ず迎えに行く。だとよ。」
津宮が最後に告げた言葉に石崎は涙を流して座り込んだ。津宮はその様子に気づかないよう異空間に戻り、消えていった。
「…麗奈様…」
赤松はそっと石崎に寄り添う。
異空間のゲートが完全に閉じて津宮が見えなくなると、船は動き出した。
「ほんと、バカね…」
離れていく島を見ながら麗奈は止まらない涙に笑った。
********
「―殺せ!―は?」
双燕は連絡内容を言い切ってから画面を再び見て混乱する。罪人はいない。中央広場はざわついている。
「おい、何してる?」
すぐに担当していた連中へ連絡を入れて状況を問うも『それが、石崎たちが消えました。』と返ってき、混乱を解消するどころか、さらに理解不能へ追いやる情報にしかならない。
「だから、何故だ?」
双燕は声を荒げた。
『全く、わかりません。今の今までいたのに、急に…』
双燕は盛大に舌打ちして、高坂を呼ぶ。
「どーしたの?」
高坂は何も知らないようなレベルの呑気な様子で現れた。
「すぐに脱走を不可能にしろ!」
高坂は状況を理解すると、冷静に告げる。
「無理だよ。脱走は最初から不可能だったみたい。」
「現状、脱走してるんだぞ⁉」
「言ったでしょ、終わった結末は変えられない。それより、」
高坂は時計を指した。
「双燕の時計、遅れてるよ。」
双燕はそこでようやく何が起こったのかを理解した。
********
「じゃあ、俺は消えるぞ。」
秋崎の淡々とした別れの言葉に津宮は頷いた。
「あぁ、早く行った方がいい。」
「これから気を付けろよ。」
秋崎は念を押す。
「秋崎のおかげで大方整ってる。お前が失踪すればあとは完璧だ。」
じゃあな、と言って秋崎は三月と迎えの潜水艦に乗り込んで行った。
秋崎が勝井の潜水艦に乗って島を脱出したのを見届けると、津宮は異空間を通ってすぐに自室に戻る。合図を出せばもうすぐカメラ映像は元に戻る。
麗奈の救出は要田が悟に頼んでいた。要田は薄々双燕の脅威が麗奈に降りかかることをわかっていたのだ。悟はチャンスだと思い、救出を承諾し、条件を出した。
“津山に会わせろ”と。
要田はそれを承諾。悟は紘に現状と、真壁から得た情報を伝え、そこから秋崎が接触してきたタイミングで一気に動き出した。
俺は最初から紘とこっそり連絡を取っていたため、それを把握していた。今回の功績は秋崎と瀬合にあるだろう。二人は三月を匿う為、能力を向上させた。三月は異空間で時間の流れを遅くさせることでなんとか生きていた。秋崎は三月を助ける為、時間を停止させ、その間に駒場を異空間へ呼び込むことも成功させた。
瀬合は異空間をゲートでつなぎ、自由に行き来できるようになり、限られた時間停止の範囲で遠くまで移動できるようにした。紘もまた要田の協力で監視カメラをハッキングし、映像を差し替えることを可能にした。そして、今日要田との約束と共に行動を開始。秋崎は全体の時を止められるわけではない。何処かでずれが生じるのだ。だから、安全のために島から逃がし、双燕を残った面子で欺く。
カメラは多分戻っただろう、俺は読書をしていた体を装って、これから来るであろう来訪者に備える。
「津宮!」
ノックも無しにやはり双燕は現れた。
「秋崎は何処だ⁉」
「知るわけないだろ。お前のおかげであいつは俺達を裏切った!今更会う気もない。」
「嘘を言うな!秋崎以外時間を操る能力者はいない!」
双燕は俺の胸倉を掴んで睨んでくる。
「待ってくれ。話が見えない。」
俺は必死に言葉を出す、ように見せかける。冷静じゃない今の双燕にはこれで十分なようだ。
「とぼける気か?」
双燕はさらに殺意を乗せてくる。
何も知らないはずの俺は「は?」と声を出した。
「お前が秋崎と共謀して石崎を逃がしたんだろ。」
「石崎を逃がす?俺が?」
呆れて笑みが込み上げた様子を見せつける。
「何がおかしい?」
「いや、レイを裏切った連中に貸す手はないし、ましてや敵を救ってお前に目を付けられようなんてするほど俺は善人じゃない。」
やりすぎかというほど冷たく言い放った。双燕の目は疑ったままだが、どこか確かに、と納得もしている。
「お前が今そんな顔をしているのは、石崎が逃げて、秋崎もいないからってことか?」
「そうだ…知ってることがあれば今すぐ話せ。」
双燕は俺のまとめに睨んだまま素早く脅すようにすごんでくる。
「何もない。」
「……お前は今まで何をしてた?」
「本を読んでた。お前のもとじゃ訓練も碌にできないからな。」
双燕は俺を睨んだまま部屋を出て行った。このあとは紘の元でカメラ確認を始めるだろうな。
完全に去った後、俺は溜息を吐いて、水を飲む。
まずは一勝、ってところかな。今頃はもう島のセンサーに引っかかりはしないくらい離れてるだろう。




