転機
つい先日、要田と双燕が喧嘩をして要田の方が、本国へ強制送還されたらしい。噂で聞いただけだが、実際、監視の目が減ったような気がする。その直後にの出来事だ。
「どうなってんの?」
突然、注いでいた水が止まったと思ったら、秋崎がこれまた突然部屋に現れた。
「俺の能力で時間を止めている。」
「ついに―」
「時間がないから手短に話す。」
褒めようとした言葉は制止され、素直に話を聞く。
「俺達は能力を伸ばし、俺に至っては十分程度なら時を止められるようになった。色々、制限はあるが…それと、三月は俺達が匿っているが、駒場の治療が必要だ。どうにか俺達の元に引っ張りたい。俺はもう他とも接触している。お前が最後だ。以上。」
秋崎の報告を聞いた俺は「すごいな…」と言っていた。裏切りの件はもはや関係ない。レイが言っていたことを信じていた俺にしてみれば、確かに秋崎が裏切っていなかったと明確に判明した瞬間でしかないのだから。
「お前の話を聞きたい。ただぼーっと過ごしていたわけじゃないだろ。」
秋崎の言葉に俺は笑った。秋崎もなかなかに鬼呪一天に染まったもんだ。
「あぁ。俺の方は悟と連絡が取れてて紘ともうまいこと話してて、はあるものを作ってもらってる。」
「それは津山自身に聞いた。で、預かってきた。」
秋崎は俺にボタンのような小さなものと鍵を渡してきた。
「この鍵はあいつの部屋の鍵の複製らしい。俺はおすすめしないが、戦力としては最高だろうな」
「あいつか…」
「もう時間がない。集まる時は、俺と遊喜が隙を作る。お前がしっかりしないと始まるものも始まらないぞ」
俺は頷いて、秋崎にある紙を渡した。作っておいてよかった。毎日せっせとカメラから外れて少しずつ描いた甲斐があったというものだ。
「ここに、とある作戦が書いてある。お前の信頼できる仲間にだけ見せて、動いてくれ。」
秋崎は驚きながら受け取って「…これ、俺が来なかったらどう渡すつもりだった?」と苦笑する。
「…ここでの監視生活は慣れたもん勝ちだ。」
俺が笑えば、秋崎は笑って「あいつもそんなこと言いそうだな。」と目を細めた。
またな、と言って秋崎が消えると再び時は動き出した。
静止していた水は再び流れ始め、コップから溢れてしまった。
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地下牢まで降りて行けば、敵意も殺意も恨みすら籠っていない双眸が要田と喧嘩別れしたばかりの俺を射抜いた。喧嘩したことをしらないはずの相手に、どことなく非難されているように感じるのはきっと、気のせいだ。
「相変わらず気味の悪い奴だな。」
牢に入れた日から、こいつは何も言わない。
要田とは何か話していたようだが、俺の問いには一切答えもしなかった。
「石崎、年が明けたらお前を処刑する。」
告げた内容に石崎は眉一つ動かさなかった。なんてつまらない奴だろう。命乞いでもすればいいのに、なんて思ってしまう。決定は覆すつもりはないが、あっさり受け入れられてしまうのはどうも味気ない。
「…なんだお前は。」
つい口に出た。
するとジッと見つめてくる瞳に初めて瞳に感情がこもった気がした。
「…まだ希望を持ってると言うのか?要田は本国に送った。お前を助けることはできないぞ。」
そう言っても石崎は何も言わずにただ微笑んだ。
「…ほんと、要田はお前のどこに惚れたかさっぱりだ。」
「……簡単な話よ。」
初めて言葉が返って来た。
「運命の赤い糸。」
石崎は僅かに俺を威嚇するような目を見せた。
「…正気か?」
俺はハッと鼻で笑った。
しかし「えぇ。正気よ。」と答え石崎は悠然と笑った。
俺は馬鹿らしいと思いながら牢を去った。やはり到底理解できるもんじゃない。恋だの、愛だの…
要田は石崎の能力にかかってるんだ。早いとこ解放してやらないと。
双燕が去って静かになった格子から目を逸らす。外へ通ずる、僅かな隙間の鉄格子が外の様子を教えてくれる。外はもう冬で、酷く雪が積もっているらしい。
気温が低いが、双燕は見せしめに殺す私達を凍死させないよう、常に暖を取れるよう、ストーブを設置させていた。しかも服装や布団は頼めば求めただけ与えられた。余程見せしめを大事にしているらしい。
ここは脱走もできない。正面は双燕の見張りが、仮に出し抜いてもその先には双燕の部屋がある。
小さな鉄格子は人が通るのには小さくてとても通れはしない。
真壁…もう隠す意味はないわね、要田。私は、死んでも変わらないわ。
そう思いながら膝に乗っている兎を撫でた。この兎はかつて、樹炎島に移る前に要田が本国から連れてきた子だ。それからずっと、私の使獣。白い兎。要田はぎこちない顔で私に渡してきた。想いはそれだけで十分伝わった。それからもずっと、あなたのの目は正直だった。だから、私は現状を受け入れられる。今もあなたの気持ちを信じていられる。
ふと影が私の顔に入って、鉄格子の方を見ると、小さな生物が鉄格子に巻き付いている。
私は双燕がいないことを確認して、そっとその生物を手に乗せた。
「…ウーパールーパー?」
そのウーパールーパーは襟の部分から紙切れを渡しに差し出した。
「私に?」
ウーパールーパーは頷いて、私が受け取ると、壁を登って外に消えてしまった。
紙は小さいながら数行の文字が書かれていた。




