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異端の子  作者: 水園寺 蓮
異魂継承編
48/93

解散

 夜風が頬を撫でながら、氷に包まれた拠点に着く。


「レイ!」


中に入れば、ルアが待っていた。僕を見つけたらルアは駆けよってくる。


「お前、心配したんだぞ。大丈夫か?この血は?」


ルアが僕の服に染みていた血を気にする。ほとんど返り血だが。


「落ち着け、僕は大丈夫だから。」


そう言って笑った。ルアは悲しそうに目を細め、僕を抱きしめた。


「…頼むから…無理に笑わないでくれ…」


僕は何も言わなかった。この後に話すべきことも、自分の結末も、何も…



**********


 朝日が昇って、静かな朝を迎えたばかりのメンバーを外に集められた。俺は集会に出なくていいと言われていたが、車いすに乗って当然のように出て行った。


「クル!大丈夫なのか?」


表に出てすぐレイがやってきて心配そうに俺を見ていた。まぁそうか。いくら駒場に治してもらったとはいえ、完全な皮膚の再生は終わってない。駒場の負荷も考えて、火傷の具合が酷い箇所だけを治療してもらい、軽いところは自己治癒させる。


 俺は集会くらいならと言ってレイの部屋に戻るよう言う言葉を無視した。自分の時はガン無視で会議出る癖に、人のこととならこうなる。とはいえ、今日はおかしい。どこか必死、というか気まずそうだ。


 レイは時間になって、諦めたように前に立って「おはよう、皆。」といつもと変わらぬ調子で語り出す。


「十日から戦って、早四日が経つ…僕らは真壁達を相手に未だここに残っている。犠牲もあった。皆も今でこそここにいるが、決して無傷ではなかった。」


この言葉、この先に何があるか、それが俺には見えてしまった。


「それでも僕らは誰一人死ぬことなく、集まれている。」


ルアは何もかも察したようで、気づき始めて暴れそうなソウを抑えている。俺達は気づいた。気づいてしまったのだ。


「…無駄に命を散らせたくない。」


レイはもう覚悟を決めている。


「ここに、鬼呪一天の解散を宣言する。」


全員に衝撃が走った。メンバーはざわめき、レイに向けて疑問を投げる。


「…異論は聞かない。」


レイはぴしゃりと言う。


「まーた自己完結か、お前は!」



ルアに抑えられながらソウが怒鳴った。


「レイ…どういうつもりだ?俺達にも相談なしか?」


 抑えながらも、ルアはルアで怒っており、レイへ言葉をぶつける。俺も言いたいことはたくさんあるが、それ以上にレイの考えが見えて、どちらに味方をすべきかわからなくなった。


レイは怒る二人対し二人の方を向いて「ソウ…ルア…すまない。敢えてしなかった。」と告げた。


 次の瞬間、辺りにはパンッと音が響いた。


 俺はソウがルアの壁を抜け出したかと思ったが、その音はルアがレイを叩いた音だった。レイはそれを静かに受けた。ルアが、これ以上怒らないよう堪える顔の横でソウは固まり、展開を見守った。


「どうして…」


ルアの悲痛気な声が響いた。


「君らに死んでほしくないんだよ。」


レイは叩かれた頬を一瞬触れた。それでもルアから目を逸らさずに真っ直ぐ見ている。


「だからって解散か⁉」


ルアが涙を貯めている。

ソウは僅かだが止めるようにルアのマントを引いた。


「……真壁に、君らの助命をしてきた。その条件だ。」


これ以上語ることはない、という目で告げた言葉。レイは恐れてすらいないようだった。聞いたルアは目を丸くし驚きを見せた後、レイを睨んだ。


「昨日のあれは…真壁のとこに行ってきたのか?」


ルアの言葉にレイは黙った。それは肯定の沈黙だった。ルアから目を逸らすと、レイは正面に向き直る。


「ここで終わりなんだ。全員が生きたまま終わるにはこうするしかなかった。」


「待てよ、レイ、お前―」


悟が乱入し、レイに寄った。


「悟、君もだ。生きろ。商人なのに僕に付き合わせてすまなかった。」


悟は涙を流し、固まってしまった。


「レイ!」


田中が叫ぶ。田中のその目もやはり、反対している。

レイは目を逸らし「僕の勝手でも、ここで死んで欲しくないんだよ!」と叫ぶ。


 レイは本当に、本当になんでこんな方法を選んだのだろう。俺達がもっと強ければ、レイにこの選択をさせなくてよかったのかもしれないのに、俺が、こんなことになったせいで、サポート役も満足にできないまま昨日が終わって…


 俺もレイの決断には反対したい。反対したいが、俺もこれしか方法がないのはわかってる。皆わかっていても、納得したくはない。それでも俺は、「わかったよ、レイ」と言った。


俺がこう言うしかないんだろう。


「津宮?」


ルアの目が睨んで来た。レイに味方したからだろう。


「…考えてみろよ。真壁はなんでレイの助命を聞き入れたと思う?」


俺は俺でできるきることをしよう。レイがそうするなら、そうしてくれるなら、俺達はもう一度できることをして待とう。今はこの場をレイと共に終わらせる。


「レイは解散が条件だった、といった。それだけであの真壁が聞き入れたとは思えない。レイは何を差し出したと思う?答えは一つ…」


ルアが気づいたようで、涙を流しながら「レイッ!」と叫んでレイを殴ろうとした。その拳はレイに当たらず、レイに止められた。


「…すまん。」


レイはルアにどうしようもないんだよ、という顔を見せ、それでも笑って見せた。


「…レイ自身が死ぬこと。俺達はもう決められたそれを覆せない。できることはレイの望み通り、生きることだ。決まってしまったことは変えられない。ここでさらに抗えば、俺達はレイの命を無駄にすることになる。それは仲間としてやっちゃいけないことだ。」


俺はそう言って唇を噛んだ。言ったのは自分だけど、酷く苦しいんだ。


「レイ、いいんだな?」


「…これでいい。」


レイは俺に頷き、拠点を覆う氷を溶かした。


レイに「あとは俺がどうにかする。」と言ってやれば、「任せる」とだけ返されて、レイは俺をもう見なかった。






 最期かもしれない二人の会話は今までで一番淡々としていた。僅かな二人の笑みに気づいた者はどれくらいいただろう。下手したら、一番二人のその関係を見ていた俺だけなんじゃないか。そう思った。


 レイはルアとソウを連れて拠点に戻り、クルは他の皆を集め、話を始めた。


自分は一人、タイマーをセットした。



**********


 怒る二人を前に僕は淡々と全てを話した。


全部を話し終えてもその目からは怒りが消えず、僕は逆に怒りたくなったが、怒るわけにはいかない。


「…君らが怒るのはもっともだ。ただ、僕だっていつまでも守られる身じゃない。いい加減にしてくれ。」


「…お前は俺達が何に怒ってると思う?」


そう言われ、少し違和感が生まれた。


「?僕が勝手に決めて実行したからだろ?さらに言えば、単身真壁のとこに行ったことだろ?」


ルアの溜息が不正解だ、と告げた。


「…お前はそういう奴だよ、昔から。」


「無駄にある行動力。」


ルアに合わせてソウが言う。


「責任感。」


「…優しすぎるお人好し。」


「馬鹿みたいに背負いこむ。」


「挙句、超自己完結自己犠牲。」


「…背負い過ぎだ、お前は。」


最後、ルアが優しく言った。


「お前は仲間を信じるようになっても、その接し方がまだわかってない。」


僕はルアのその言葉に「は?」と言いかけたが次の言葉ですぐに引っ込んだ。


「お前は仲間を何だと思ってる?守る対象でしかないのか?」


「違う。」


即座に答えたが、自分でどこか不安になる。


「なら、もっと上手く使えよ。」


ルアとソウは言う。この二人、使うと言うがその使うが僕にはわからない。


「使うって言い方、お前は嫌がるかもしれないが、どんな関係だろうと、お互いが互いを使って成り立ってる。俺の言う使うは利用じゃない。頼れ、だ。」


ルアが答えを言った。

僕はまだまだ二人よりも未熟な部分があるのは知っていた。僕は全部一人でやればいいと思う。それが的確で安全で、簡単なことだから。だけど、二人は人を使えという。


「…なら、二人を頼っていいかな。」


言ってみろと二人の目が優しくなる。


「…許さなくていい。でも、自分勝手な僕を信じ続けてほしい。言ったろ、僕らには時間が必要だ。」


二人はレイの青い瞳の中に未だに燃え続ける微かな炎を見つけた。



**********


 時間いっぱいまでレイは仲間達に別れを告げ、夜になりかけた頃やってきた平和連合にメンバーを引き渡し、レイは真壁に拘束されていった。直後、拠点に踏み入ろうとした真壁達は扉に阻まれ、ガラスもシャッターが降り、鬼呪一天の拠点は誰も入れなくなってしまった。


「どういうことだ」


真壁の問いに、紘が答える。


「建物壊されちゃたまんないから。防衛システムを起動させた。解除できるのは自分だけ。しかも操作機器は中。」


真壁は舌打ちをして、紘の頭を掴む。


「中に何か隠してるのか?」


「強いていうなら自分らの思い出かな。それ以外何もないよ。中からも自分が解除しなきゃ出られない。安心しなよ、中には誰もいないから」


昔は怯えていた紘もここで変わった。今の真壁を見たって怯えないどころか、自ら強気に出て言ってのけたのだ。


真壁はもう一度舌打ちして引き上げるよう言った。


 レイは何も言わずに連れて行かれた。最後、俺に一目だけ投げて、その後は誰のこともみなかった。


 俺達は平和連合に保護という形で入った。その中にルアとソウがいないことが発覚したのは保護されて数時間後。二人は拠点にも中心街にもいなかった。

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