砦
結局あの後の会議は未知の双燕についての情報共有と動きの最終確認をしたら終わって、各々次の日に備えて眠りに就いた。
翌日、北西部しか残されていない僕らの陣地。この厳しい中でやれことを全うするために、僕は、今最前線に立つ。進行してくる軍を見つめながら、覚悟を定める。
「お前ら!ここが最後だと思って戦え!僕らは全力で死ぬ気で挑み、真壁を討つ。この島を取り戻すためにはそれしかない。双燕のこともあるが、お前らは未知の存在一人で壊されないと信じてる。」
「総長と共に勝利を!」
僕の言葉に続き横に立つクルが声を張る。そんなクルを僕はつい嬉しくなり、目を細め相棒を見た。
「鬼呪一天、行くぞ!」
僕の一歩が戦闘態勢に切り替わる瞬間。真壁サイドも近づくにつれ殺気が増す。
今日という日が終わる頃、僕は…
僕は最前線で仲間を守りながら真壁の元を目指す。双燕か要田どちらかを片付ける。
高坂や幹部の連中ははクルやルア達が相手どる。
『レイ、先の方に高坂を確認したよ。そこから東の森の中。』
紘の通信網が僕達を繋いでいる。紘は拠点からドローンを飛ばして、周辺の様子や戦況を見つめている。
「この辺りの地形は僕らに分がある。存分に利用するぞ。」
「高坂は俺一人で行く。レイ、後でな。」
「あぁまたあとで。任せたぞ、姉を。相棒。」
「任されたよ、相棒。」
僕とクルは拳を合わせて別れた。ソウとルアは僕に続く。昨日は会議後、ちゃんと鬼について話したわけだが、誰一人通報どころか深堀はしてこなかった。ただ『真世界』を多用しないでくれと言ってきただけ。
本当に、仲間であるのが彼らでよかったと心底思う。
「紘、田中の方に三月回してやってくれ。」
戦況を見て、紘に頼んだが『今三月行方不明。双龍組なら大方片付いて今移動させられる。』と返された。
三月がいない…後方で狙撃をしていたはずなのに。
「…三月は探しとけ。双龍を田中の方に…田中が苦戦してる。」
『了解。指示出しした。』
紘が拠点からメンバーたちのことも繋いでいる。拠点の守りは願令魂というチームに任せてある。
それに加え、紘が作った警備システム。つまり、拠点はそんなに心配しなくていいくらいに守られている。
にしても、三月はどこに?配置位置は後方で田中のすぐ近く。紘のドローンに映ってないのか、そこにいないのかの二択。まぁ状況に応じて動くのは当然だから紘のカメラが見失っている線が強いな。問題ない。
今は考えるな。先へ行け。
僕は加速して、目の前の相手を鉄パイプで叩き伏せた。
「ルア、ソウ、突っ切るぞ。」
「「おう。」」
三人は加速。嵐のように真壁サイドの軍勢に喰いついていく。
どこかから見る真壁は密かにほくそ笑んだ。
「足掻くなぁ。」
**********
森の中はあまり人がいない。相手方も地の利を取られていることを理解しているから、そう迂闊には入り込んでこないのだろう。逆にそれを理解していて入ってきている高坂は何が狙いなのだろう。
北舞台付近で影を見た。
高坂は俺をみるなり「来てくれたんだね。」と笑顔を作った。
俺は警戒してすぐに距離を取る。
「そう、驚かないでいいよ、今は殺す気ないから。」
殺す気が合ったら俺は高坂の存在にもっと早く反応できたはずだ。これでもレイに鍛えられた身、当然殺気には相当敏感になっている。
「待ってたよ、津宮来木。」
「…俺も会いたかったよ、高坂優菜。レイに似てないな。」
高坂からは確かに殺気を感じない。それが逆に怖いが、今は安全と言える。
「待ってたって何、俺に話でもあるわけ?」
「ある。」
即答されて拍子抜けする。
「私はレイを知りたい。」
話しの内容も、俺が想定してたようなものとは合わなくて、少し困惑をしてしまう。
「それならルアとかのがいいんじゃないか?」
「そうかもしれない。だけど、私から見たらあなたが一番レイに近いから…ねぇ、教えてよ。レイは何を目指して抗うの?」
その様子からは今まで見せられていた狂気じみた感情が感じられない。それどころか、レイを心配する色まで見える。というか、高坂なのかと疑いたくなるほど、今こいつは別人だ。俺がそう思考を巡らせているのを悟ったのか、高坂は下を向いた。
「私は信用に足らないよね、当然…」
「お前は何を考えてる?」
俺が投げた質問に高坂は僅かに瞳を揺らすと「…言うことはないわ。聞けないなら戦力を削るまで。」と急に殺気に塗れ、動き出した。
「お前も自己完結型かよ…!」
構えた高坂に呼応して俺も戦闘態勢に入る。
私はずっと、監視されている。ここまでやっても双燕からの信頼は監視をされるほどだ。
でも私が私でいる限り、双燕は監視だけで済ませているのだ。ならばそれを有効活用するまで。
あいつらからの微かな信頼を最大限利用し、レイに気づいてもらう。
私とレイは目的が一致しないのはわかってる。きっとレイは仇でも、あの現帝を殺すことなど計画していないだろう。私はあいつとあいつのお仲間全員を殺す気だ。私がその気で、レイもあの現帝を放っておく気はないはずだとしても、きっと殺しはしない。ここを統一したら、当然本国を狙う。それはわかる。私は仇を取ることが目的で、あの王を滅ぼすことが目的。家族を引き裂いた仕組みを作り出した王を。
私はその後、レイと暮らせたらいいと思ってる。レイと生きたいと思ってる。それは何処までも私の本心。
レイを殺す気はない。ただ、どうやってこの思いはレイに届くのか。
目の前の津宮はレイにとって大切な存在なのは今まで見てきてわかってる。離れていても私は姉だから。
同時に、私が持つ、鬼によればこの二人には確かな縁があり、レイの中の鬼もそれを恐れているのだ、と。私の鬼は物知りで、最初から話が通じて助かった。私のレイに対する思いが鬼を制御させた。
だからレイのように大暴れをする可能性もなく、鬼の力を扱える。
「ねぇ、津宮来木。一つだけ教えて。」
私は攻撃の手を止めて、フィールド外から話しかける。
「レイは人を殺さない?」
その質問は私が聞きたい回答が得られるか怪しいが、真壁に気取られないならこれくらいが限界だと思う。
「…レイは殺す時は殺すよ。誰かを守るために。」
悲しそうに言った津宮。
私は今まで人を殺すという意見を聞いて、こんなにも悲しい顔を見たことがない。
「できることをしても殺すしかない時、俺達を脅威となる存在から守る時、レイは罪を背負う…」
「…そう…レイはレイなのね。」
狂人らしく振舞うのには慣れた。真壁を騙し続けるにはこれしかない。
「なら、私も殺すわ。」
そう言って、『反転世界』を使用する。
「あ―」
津宮の能力を使えなくした。私は可能を不可能にする。能力を使うことができる、からできないに。
「早くレイのとこに行かないと。」
炎を津宮に浴びせ、自分は去った。
**********
先へ進んで行くと、ようやく幹部共に巡り合えた。そこには先の戦いで逃げられた青鎌も井守もいる。
「やっぱここにいたか。」
僕は苦笑しながら氷で障壁を築く。
「無神のレイと戦えるの、楽しみにしてたんだヨ。」
井守の能力は確か『炎海』。姉とは違ったタイプの炎使いだ。味方もお構いなしに巻き込んでいくその炎の中で井守は笑う。
「大惨事じゃんかよ…」
あまりの惨状に引いてしまうのは仕方あるまい。
「レイ。俺が相手する。お前は先いけ。」
ソウがルアと僕に言って、井守の前に立った。
「ソウ、任せた。ルア、行くぞ!」
素直にソウに託して、先を急ぐ。僕らは止まってちゃいけない。
『レイ、俺がそっちで青鎌の相手はする。放置しておいてくれ!』
無線から田中が言った。
「そっちはもういいのか?」
『あぁ。双龍のおかげで片付いた。』
「了解。任せる。」
僕は速度を上げる。ルアは普通について来てる。僕らが目指すは真壁の元。
この戦い、僕らはまだ負けてない。
**********
視界の先に見えた存在に、一気に距離を詰めて大剣を下ろした。
「久しぶりじゃのう~凛。」
目の前の男は踊るようにかわして俺を見ている。
「あ、久しぶりじゃないのう、昨日も会っとるわ。」と言って青鎌は笑う。
「で、わしに何の用じゃ?」
「わかるだろう?倒す。」
こいつを倒すまで俺は女に戻らない。その覚悟でここにいる。
レイに助けられなければ、こいつに縛られていた人生。今此処にいてもその影響が全くないわけではない。
だから、今日こそその鎖を壊す。それが俺の解放される唯一の方法だ。
「いいのう…わしは戦えればどこでもいいんじゃ。かかってきぃ、凛。」
「俺は凛太郎だ!」
『人形』
裾から人形を取り出し、怪我の場所から出てくる己の血を付ける。
「ほぉ…凛の能力、初めて使われるのう~」
俺は好奇の目を無視して、その人形を青鎌に投げる。人形は目を光らせ、青鎌に向かって飛び掛かる。
それに続いて俺の大剣を振るう。
「お手並み拝見じゃ、凛。」
**********
すばしっこい。炎の上を歩く相手は俺を嘲笑う。
「俺は無神のレイとやりたかったのにナ。なんで邪神のソウなのかナ?」
「ご不満か?俺だって強い方だぜ?」
相手は両の拳を頬に添えて、目を潤ませた。いわゆるぶりっ子ポーズだ。
「俺はね、無神のレイに一目ぼれしちゃったんダ。」
突然に始まった恋バナに俺は固まった。
「戦う姿が綺麗で、血を流す姿はもっと綺麗だっタ。前、高坂サンの炎に包まれながら血を流す姿なんて本当にきれいだったヨ。俺、そんな無神のレイが好きなノ。」
「じゃあ―」
俺はじゃあそっち側から寝返れよ、と言いかけた。
「だから、無神のレイを殺す。」
こいつも狂ってやがる。
俺の言葉を読んだのか、井守は「俺は狂ってないヨ?ただ、一番綺麗な彼女の姿を見たいんだ。君ならわかるでショ?無神のレイのこと好きなんだもんネ。」と言った。
にこっと口だけが笑う井守は気味が悪い。というかどこでそれを知ったんだ?
今はいいかと思うも、こいつは許せなくて。
つい「…レイはほんっと変な奴に好かれんな…」と言って俺は斧を担ぐ。
「俺が何年あいつから虫を払ってきたと思う?あいつは鈍感だから、お前らみたいなクソな奴に言い寄られても、あいつは気づかないんだ。その度に俺が片付けてた。」
「わお、ガチコイ。」
井守はまたもきゃぴッというあのポーズをする。
「俺はおまえみたいな奴にレイを譲る気はないよ。」
即効鋼を細く伸ばすが井守は炎で溶かし、逃げる。
その後を他の鋼の筋が追う。何本も炎の海を抜けて井守を刺そうと伸び進む。
―いつか、この想いを言う時がくるとしたら、それは…
唇を噛み締め、俺は鋼を土台に炎の海に入る。
「自滅☆じゃん?」
にやっと笑う井守に斧を投げた。
「そんなのとどか―」
鋼で押し出して、俺はそれに引っ張られるように井守に近づく。井守は届かないと高を括っていたから、反応が遅れ、小刀を俺に向けるので精一杯だった。俺とて、この高温の炎の中にいるのはかなりきつい。
――…一撃だけだ。
井守に斧を振り下ろす。井守の体を即座に鋼で拘束してそこに振り下ろせば、井守の左腕を肩から切り落とす。足元が酷く焦げ臭い。同時に、暑さで義足の接続部分が痛む。
それでも斧を振り切って、完全に切り落とした。だが、井守は死の直前俺の目を小刀で刺した。
斧を全力で振り下ろした俺の一瞬の隙を、小刀が右目を襲った。
井守の腕が落ちて、欠損した井守の体が地面に落ちた時、周囲の炎が消えて、井守の体は呆気なく地に這った。俺も続いて崩れる。
足に力が入らない。熱で義足がいかれたようだ。火傷が思ったより響く。右目は開かない。
「…レイ…」
俺は愛おしい名を口にして意識を手放した。
**********
ナナは旋回しながら、主人の仲間が倒れているのを見つけては背に乗せ、拠点に運んだ。忙しなく拠点内を動くこの人は顔色が良くない。たしか、名は駒場だったか。
私が運んだ怪我人を中に入れて、忙しなく包帯やらを巻いている。手伝っている紘は片手に機械類を持っている。
次、飛び立とうと思ったら、中から紘の叫びが聞こえて、振り返れば、駒場が倒れていた。私は迷わず飛び立った。主人に伝えなくては。いや、紘がきっと伝える。私にできることは一人でも多く拠点に返すこと、それだけだ。
『レイ!レイ!』
まもなく中心街に入るという時、紘からの無線が入った。
「どうした?」
『駒場が倒れた!どうしよう、今さっきソウが…』
「落ち着け、悟と務がいるだろ、二人に手伝ってもらえ。」
『わ、わかった。』
紘はいくらか落ち着きの戻ったようだ。
「…手の空いてる連中を戻す。ルア、お前は負傷した仲間の回収に当たってくれ。」
「レイは?」
ルアはまさか死ぬ気じゃないよな?と言わんばかりの顔で問う。
「…今から、できるだけ真壁の戦力を削る。」
『レイ、無茶だよ!確認できるだけで、相手は―』
「無茶を率先すんのが、この僕だ。」
そう言い、どこか苦しそうに笑ったレイを俺は止められなかった。
仲間の命も、敵の命も無駄に散らせまいと戦場を駆けるレイ。一人でその責を背負うことを俺は止められなかった。俺がレイと同じ立場にたったら俺もそうするだろうから。仲間が傷ついて、手当もままならない、それならこれ以上被害を酷くしないために、当然仲間は後退させる。
レイは本当にわかっていたんだ。この戦いが、勝てるものではない、と。それでも諦めないのは、やっぱりあの作戦があるからなのだろう。俺達では止められなかった。俺達じゃ届かなかった。
それでもただ一つ言えるのは、レイも俺達もまだ諦めていない。




