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異端の子  作者: 水園寺 蓮
異魂継承編
41/93

浜光塔

 ルカを撃破し、次なる敵は真壁そのものとなった。真壁は残っていた他のチームの幹部をすべて、レイが倒す前に手元に集めていた。故に、真壁の勢力は島内において最も強く、いくらレイでも勝敗に怪しさがあった。そんな中、レイ達は慎重に真壁を追い詰めていたのだが、真壁はとんでもない策を打ち出した。


 十月二七日。その日、島中に衝撃が走った。


 緊張感が漂う戦場から少し離れた中心街で、突如、爆音とともに大量の襲撃者が現れた。街の中で暴れ、平和中立連合を攻撃する連中に、平和中立連合はぎりぎりまで抵抗したが、呆気なく敗れ首謀者であった真壁に降伏。平和中立連合、井月は街を傷つけないこと、無駄に命を奪わないことを条件に真壁に屈した。最後の鬼呪一天への連絡は到底天使が吐くとは思ないような言葉もあったが、心までは真壁に売らないと誓い、一人でも多くを守ると告げられた。それに対し、レイは何も言わなかった。


 その翌日には真壁が中心街を完全占拠、千殊島の中枢機関である浜光塔を占拠した。


『俺は中心街を占拠した。その意味が分かるか?俺に従わなければ、この島での立場を失うということだ。俺につけば命を取ることはしない。俺に忠誠を誓えば、命と安全を約束する。』


 島の放送機関である無線には真壁の声明が流れる。鬼呪一天ではリーダーであるレイの判断を外に整列しながら待つ。


『逆に、俺に刃向かう連中は殺す。降伏するなら今だぞ。だが、一人だけはどう足掻いても死んでもらう。レイ、聞こえているだろう?お前にだけはどうしたって死んでもらう。お前が命乞いをしようがどんな無様な姿を見せようが、お前だけは必ず殺す。この世界でお前は生きていちゃいけない。生きてる限り、お前は俺の壁になる。』


レイは無線を聞きながら一つの考えを樹立させていく。


『レイ、お前はもう知ってるだろうが俺は現帝の息子だ。そしてお前は現帝の弟、反逆者の娘だ。俺とお前では俺が王になるのが正しい。これを聞いて降伏する気が出たならさっさとしろ。今ならお前の仲間の絶対の安全とある程度の地位を約束するし、お前にも好きな死に方を選ばせてやる。』


「誰が降伏するか…」


一人きりの部屋にそれは響いて、レイ自身に跳ね返った。


 反逆者、ね…真に出生のことを聞かされた後、兄貴に共有して散々調べてもらった。そして知ってしまった。僕の父は現在の王様に反逆しようとして、処刑された、と。とはいえ、真相はわからなかった。反逆とは言われたものの、具体的な罪がなかったのだ。薄っぺらい報告書しか見つからず、ろくな情報はなかった。だから、父の反逆の一件の真相は不確かで、僕は信じていなかった。だがここまで派手に言われちゃもう真相がどこにあろうが意味はない。


やってくれたな、真壁…



 放送が終わると、レイは外に出て、台の上に立つ。


「聞いての通りだが、真壁は強硬手段を取った…浜光塔を占拠し、各チームに脅しをしている。既に数チームが真壁に流れた。」


レイは重々しい口だが、覚悟の定まった瞳が眠っている。


「僕は降伏しない。たった一人でも戦う。」


レイは台を降り、声を上げる。


「お前らは真壁の元に下ってもいい。生きたい奴は今すぐここを出ろ。ここにいれば命の保障はない。真壁はきっと僕の味方を根絶やしにする。どのみち、これからある道は絶望的な勝率の細い糸の道だ。僕は自信をもって渡れるなんて言えない。だから、生きたきゃ―」


「レイ、ここにいる連中がそんな真壁の脅しに屈すると?」


ソウが笑いながら前に出た。


「ここにいる連中は今までお前にそんな姿を見せたか?俺はそんな覚えないけどな。俺達は生きたいかもしれない。俺だって生きたいね。でも戦うよ。そうだろ?」


ソウが後ろを振り返って言えば、全員が頷いた。レイは目を丸くし、困ったように笑う。


「レイ、お前が言うべきはそんな言葉じゃない。」


クルがレイの隣に立って微笑む。


「…そうだな。やれるだけ、やるさ。」


レイは頷いて、キッと目を上げた。


「今は絶対に死ぬな。抗って生きろ!」


鬼呪一天は戦う姿勢を見せた。それはただ一人の者が旗を掲げたことで始まった。そこに集いし者達はその光に吸い寄せられた。光は潰えることを知らない。旗は一層高く掲げられて、メンバーと逃げなかった者達は確かな反抗声明を上げる。


“我等は鬼呪一天なり”


真壁へはそれで十分だった。



**********


『レイ、いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?』


真壁の「王国軍」と名付けられた連中との戦いを控えながら、兄貴から久々の連絡が入った。最近は管理人も監視されていたせいで、連絡を控えていた。


「そうだな、じゃあ短そうないいニュース。」


『失礼だな。短かそうだからって…』


「時間が惜しいんだ。手短に頼む。」


僕は絶賛、真壁への対策をルア達と練っては紘と一式訓練を続行、さらに新武器の開発にも勤しんでいる。


『そうだったな。いよいよ終盤…死ぬなよ。』


「僕が死ぬわけない。」


『まぁ…そうだな。で、いいニュースなんだが、管理人の上層部が癒着の一件の責任と一部も癒着していた罪で現帝直々に首にされて、俺が今№1なんだ。』


「嘘だろ…」


兄貴が絶対向こうで自慢げに笑っているのがわかった。


『とはいえ形だけな。上にきてみてわかったんだが、どうやら№1の上には政府の連中が就いてやがる。』


「それは残念、天下には遠いようだな。」


それで、悪いニュースは?と急かした。急かすまでもなく、悪いニュースなんて予想は付くが。


『お前の師匠…矢辺の処刑が決まった。十一月二十日にあいつは処刑される。本当は年明けにって話だったんだが、真壁と繋がりがある連中が早めやがった。』


とうとう迫って来たか、と流石に焦りが沸いた。


『それと、現帝が真壁の父親って時点でわかっちゃいると思うが…このままじゃお前は負けるぞ…』


「……重々承知だ。僕は何も、今回の戦いで真壁を打ち負かそうってわけじゃないのさ。ただ…」


『…本当にやるのか?』


兄貴が向こうで泣きそうな顔をしているところが思い浮かんでしまった。だからって、僕は取りやめる気も、引き返す気もない。


「あぁ。僕らが勝つにはもうそれしか方法がない。」


『…わかった。矢辺の件は追々詰めるでいいな?』


「あぁ。あの人なら大丈夫だ。兄貴…」


『なんだ?』


「ごめん。」


それだけ最後に言って僕は無線を壊した。


パソコンに向かって、USB内のデータを確認し、兄貴からの新情報を急いで移した。

それを服の内側にしまい込む。その後はパソコンも破壊した。外界との繋がりを真壁にこれ以上感づかれてはいけない。兄貴の存在はバレちゃいけない。


 日々はいつ爆発してもいいような雰囲気のまま過ぎた。一式の者は増えたが、真壁の用意した兵は全員一式と考えていいだろう。幹部級は全員手中だ。作戦も可能性を潰しながらちゃんと立てた。


「鬼波。」


「どうした?」


「話がある。」


秋崎が僕を呼ぶなんて珍しい、と思いながら訓練場から離れた。


「で、話とは?」


「お前は何を考えてる?」


秋崎は何か不安げで怪しんでいるようでもある。


「あー…そうか君らはまだわからないよな。」


僕は納得した。


「そうだ。鬼呪一天のメンバーは自分達が不利なのをわかっていて戦う気だぞ。あいつらを想うなら、お前は真壁に降伏して助命をすべきだ。」


秋崎は申し訳なさも持った顔でそう言ってきた。


「そうかもしれない。でも、今ここで終わらせたって誰も幸せになれない」


「だが、このままじゃ…」


「僕だってわかってる。それでも僕らはできることをするしかない。僅かな可能性に賭けるしかない」


秋崎は不安そうに顔を歪めた。


「君は多分、向こうにいたから余計不安なんだと思う。けど僕だってそれなりに作戦があるんだ。今は勝てなくても、必ず僕らは勝つ。」


そう言われた秋崎はレイの自信満々な笑みを見て、初めて津宮達が逃げないでいる覚悟を理解した気がした。


「まぁそういうわけで明確に考えは言えない。僕は誰にも言ってない。それでも必ずこの戦争もUNCの戦いも終わらせる。」


「ハハッ…本当にお前は理解しきれない。でもあの日、三月が鬼波を選んだことは間違ってなかったんだろうな。俺はリーダー失格だ。そこまで全部背負っていけなかった」


秋崎は沈んだ瞳で服の裾を掴んだ。僕はそんな秋崎の横を過ぎる間際肩を叩いて呟く。


「それに気づけた君は変わったよ。」



************


 真壁が中心街を占拠したことは明らかに戦況を傾けた。多くのチームが真壁に従い、反抗勢力は容赦なく殺された。鬼呪一天側もとうとう始まった連日の戦い。疲弊していったのは間違いなかった。


「ルア、僕が行く!他は休ませろ。」


僕は誰よりも戦いに赴いた。しかし、次第に真壁は投下勢力を増やした。

追いやられているのは明らかで、このままじゃ敗北はすぐに追いつてくるのが見えた。


戦いの日々は駆けるように過ぎて、疲労を作り上げたまま十一月十日 鬼呪一天VS王国軍の衝突が最終局面に向かった。



鬼呪一天サイドは北の一角に追いやられていた。真壁達が迫っている。明日の開幕を前にレイは一人屋上に立つ。


今のままじゃ僕は勝てない。僕達に勝ち目はない。それは誰が見てもわかることだった。



******************


レイは突然拠点を出て北舞台に降り立った。


「レイ、よくわかったね!」


そこには高坂が微笑んで待っていた。


「今にも拠点を襲わんとする殺気には困ってね。」


「だって、レイを呼ぶにはそうするしかない。」


何の用だ、とレイは高坂を見つめた。高坂はステップを踏みながら、月明かりの元くるくると回る。


「レイにアドバイス。」


そう言われたレイは警戒を強めながら睨んだ。


「レイが真壁のとこに来て死んでくれれば、レイ以外は本当に助かるよ。真壁はレイしか警戒してない。」


「だろうな。」


「あ、わかってた?ならなんで抗うの?」


高坂の目は光がない。


「真壁が王になったとして、あいつのやり方じゃ歴史を繰り返す。何の為にUNCはずっと戦ってきたって言うんだ、姉も今のままじゃずっと続くのはわかるだろ?僕は僕達の代でこの連鎖を壊す。そのために抗う。姉こそなぜ真壁といるんだ?」


高坂の笑みがいびつになる。


「レイを手に入れる為だよ。双子は一つじゃなきゃ。」


「そう思うなら、姉がこっちに来てくれれば―」


「私はレイとずっといたいの。」


高坂の足元から黒い影が伸びてくる。


「レイが死んで、私も死ねばずっと私といられるでしょ?私達だけの世界で。」


レイは知った。姉はまともな感性を持っていない。いや、失っている。何があった?とにかく姉は僕を殺そうとしている。この殺意は愛故の大きな殺意だ。レイはとっさに氷に乗って宙に浮く。


「姉の言う通りにはできない。僕は死ぬわけにはいかない。」


「私といたくないの?」


「家族は大切にしたい。でも…」


「あなたは家族を知らないわ。」


明るかった高坂の声のトーンが一気に下がった。


「目の前で処刑され、目を逸らすことも許されない。終わっても、罪人に光はない。暗い中で壊れていった。貴方はそこにいなかった。」


高坂の片目は黒く、赤目が光った。


「姉…まさか鬼を?」


「…鬼は一匹じゃないわ。私の鬼は愛を司る。レイへの愛を気に入った鬼が私に力をくれる。貴方の鬼とは対の存在。私には勝てないわ。」


「…そうか、なら片方が死ぬまで終わらないんだな……ごめん、僕だって父と母に会いたかった。」


それだけ言って、レイは高坂に背を向けた。


「…次会う時は戦場だよ。」


「わかってる。」


高坂は中心街へ、レイは拠点へとは帰って行く。



***************


 十一月十一日


「クル、前線を任せる。僕は中心街を攻め入ってくるから、専ら指揮系統はオマエが中心になる。」


「任せろ。」


レイの指示にクルは力強く頷いて笑顔を見せた。


「ソウは僕に付いて来てもらう。別ルートでいくつか落としてもらいたいポイントがある。」


「ルアは?」


「ルアはここでサポートと、拠点の守りだ。」


レイは確認の連絡を無線で流しながら、ナナを撫でる。


「全員いいな?死ぬなよ。」


 

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