罪
十月九日、正午 夕叶崖―雨が降り出しそうな空は、睨み合う二チームを見下ろしている。
重い空気の中レイが先頭に進み出て、遅れてルカが姿を見せた。
「前より、殺気立ったお仲間を連れているな。」
ルカの後ろに整列するメンバーは以前とことごとく違っていた。同じなのは杉山くらいだ。
「新しい駒だ。俺様にはいい奴らだよ。」
「…いつ始める?」
「今からでも俺様はいいぜ?あの時はお前が覚醒したから危なかったが、俺様は勝つ。」
サングラスの奥の瞳は焦りすら浮かんでいるように見えた。
「サングラスは外した方がいいぜ?いつまで僕を雑魚に見るんだ?僕は君より強い。何倍も、君に負けられない理由がある。」
レイは鎌を作り出した。
ここでルカを殺す気らしい。俺にはそんな気がした。
「今回は前より楽しめそうだ。」
「馬鹿かよ。」
ルカの先制攻撃が始まりの火蓋を切った。
乱戦状態から始まった戦場はトップ二人を中心に相手が出来ていく。
「ルア、真壁の命でお前をここで殺す。」
「薄川…まだ真壁のお人形してたのか。」
俺は俺でレイ並みに口が悪い自覚がある。まぁ当然だろう。一緒に育ったのだから。
薄川は短気だが、この一言で雷をまき散らすとはさらに短気になったか。
「真壁は俺の親友だ。」
「なら、利用されてるぞ。あいつは人を利―」
「真壁への冒涜は俺が許さない。」
鎖鎌を構えた薄川に、俺は苦笑してしまう。
(あ、こいつ頭イッてるわ。)
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「俺の相手はお前か。」
とんがり頭で額にバンダナを巻いたこいつ、久々に会うな。
しかし相手はただ黙って俺を見ていて、動こうともしない。
「だんまり?俺を裏切ったこと、一応気にしてたの?」
「…真壁に逆らえば、立場をなくす…お前を裏切ったことは後悔してない。」
そう言って俺の元部下・深川拓也は二本の刀を構えた。
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「またお前か…」
俺の相手は辻先奏。こいつは俺を目の敵にしているのだが、最初から俺達に何があるのかわからない。
「そう嫌がらないでくれよ。前の復讐だよ。」
そう言う顔はそれだけじゃないと語っている。
「だから嫌なんだよ。」
俺は鍵盤を用意した。
「今度の俺には勝てないよ。」
辻先はどこまでも爽やかな笑みを浮かべるのに、俺には見えるその言葉の裏の憎悪。
絶対に殺してやるという、おぞましい殺意…今は戦いに集中しよう。
レイの予想では今日戦う相手のほとんどが二式。主要は一式。つまり、この辻先も一式である可能性が高い。俺達は今日の戦闘で勝つ。一式を倒して、自分がさらに強くなれるように。
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鬼波零斗VS真宮流過
ルカの爆発は時差ラグが減った。間が短い。代わりに高さが下がったか?
ま、氷で防いでいけば問題―なくなかった。こいつも強くなってる。能力だけじゃない。
こいつのハンマー重さが変わってる。風圧が前と違い過ぎる。
振り回されるハンマーと頻発させられる爆発をよけながら氷で足場を作り、距離を詰める。ようやく届いた鎌の一振りが、ルカの頬をかすめた。ルカはサングラス下の目に一瞬焦りを見せた。
僕とて、前と違う。今の僕は殺しができない甘ちゃんじゃない。
「なぁ、ルカ。僕はできるならお前を殺したくない。」
それでも、殺したくはないと思う。
「…レイ、情なんて敵にかけるもんじゃないぜ。」
僕は何も言わず、ルカの命を狩る為に戦うことにした。
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斎藤ルアVS薄川悠寧
戦況は主力が相手の主力とぶつかることで、拮抗しているように思えるが、人数に差がある分、鬼呪一天が押されている。田中と三月、紘など、まだ戦えるものが多くいるが、誰かが破られれば、相手に飲まれる。だから四人の誰かが早々に片を付けなければならない。
だから俺は全体のサポートに入るはずだったが、まさか未だに俺が真壁に狙われているとは思わなかった。
薄川は電流を鎖に乗せて俺を追いかける。当の俺は転移し、避けながら薄川の背後を狙う。武器の相性柄、殴りつけることしか思い浮かばない。薄川の電気は鉄製のものに喜んで飛んでくる。俺の剣にも飛んでくるので、剣はその辺に投げた。レイは以前、爆発で吹っ飛ばしたが、俺は爆弾も上手く扱えないから、それは無理だ。ならどうするか…俺は口角を上げて、転移する際の空間の歪みを意識した。
薄川の電撃をよけながら、一か所に力を集めて俺は離れた。
『空間転移・無限時空』
青白い空間が俺に向かって走り込んできた薄川を吸い込んだ。
「呆気な…頭イってた割に呆気な…」
俺は一人ながら繰り返した。
思ったより、早く片付いたので俺は紘と合流して紘を守りながら戦況を見ることにした。
必要であれば、時空に引きずり込んで消してしまえばいい。
あの時空に入った者は死んだも同然、とは言えない。ただそこに閉じ込められている。訓練で、俺自身が入ってみたが、そこは時間が止まっているようで、腹も空かないし、水も飲まなくていい気がした。あそこに死にかけの人間を入れたら、延命が可能ではないか、とレイは言っていた。
斎藤ルアVS薄川悠寧 決着
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起継総太VS深川拓也
「真壁のとこに居る割には、低い立場だね。」
「貴方に何がわかる?」
ソウの斧の一撃を深川は二本で止める。
「さぁね、俺がわかるのはここでレイが勝つことだけ。」
「貴方は昔からそうだ。鬼波のことしか頭にない!」
深川は宙に浮かんで、自身の能力である『腐敗』を展開する。
深川の元の能力は『毒』だったが、変化は恐ろしい方へ傾いたらしい。
ソウは鋼を空中の深川へ伸ばす。
「鬼波にはここで死んでもらう…俺は目的の為ならなんだってする。」
深川の薄い膜は広がっていく、この幕こそ深川の攻撃範囲。
「させない!」
人を腐敗させるには、深川の作った円の中にいる必要がある。同時に、壊す為にも、接触しなければならない。ソウは幕を破壊した。当然、毒を浴びる。
「ほら…鬼波を狙えば、貴方は喰いつく。」
「レイは俺の大事な仲間だからな。」
かすり傷から体に入り込んだ毒が、ソウを襲うがソウは平然と構えを崩さない。
深川の攻撃の仕方は単純だった。レイを狙って、俺が庇うとこを狙う。
わかっていても、俺は受けに行ってしまう。何回も刺され。服が血に染まって破れる。合間、俺も深川に攻撃をしているが確実に俺の方が傷を負っている。俺が傷を受ける度、深川との差は開いていく。
ここから、レイとの距離は開いているが故にレイは気づかない。レイは悪感情で反応し動く奴だ。深川はレイへの殺意や悪意はないから、殺意に敏感なレイでもここからなら、攻撃を受けてしまうと思う。
厄介なことに、深川の攻撃は毒性を含んでいる。受け続ければ…
体の動きが思うようにいかなくなって、深川への攻撃が当たらなくなった。
「やっと…」
深川が小さく何かを言ったが、ソウは遅くなった動きの合間を斬られた。胸に負った傷から血があふれる。
「…あとはルカの加勢をすればいい。そこで、鬼波の死ぬところを見てろ。貴方の記憶に、刻み込んでやる。貴方の絶望した顔を見た後、ちゃんと貴方も殺すから。」
「ま…」
喉に血が逆流してくる。さっきのはかなりまずかったみたいだな…昔より、毒性が強い…
今まで受けてたダメージのしわ寄せもある。倒れた後、深川にどこかを貫かれている。もう痛みという感覚が全身に響いて、どこが貫かれたかわからない。声がかすれて、上手く出せない。
真っ直ぐ、深川がレイの方へ向かっていく。
俺は体を動かせない。動かしたい…でもいうことは聞いてもらえない…
レイが危ないのに、俺は何もできないのか?
「…レ…イ…」
二度も、守れないのか⁉
――― 「一式には特徴がある。まぁぱっと見わかるものじゃない。」レイは自身の腕をまくって見せた。
「その能力によって違うらしく、それぞれに合った文様が現れるらしい。」―――
俺はレイを守りたかった。二度も死なせるようなことはさせない!
ソウは腕に力を込めて、なんとか、起き上がった。
「うそだ…俺の毒は…」
立ち上がったソウに気づいた深川が、怯えた顔で刀を持ち直した。
「俺しかろくにあいつを守れねんだよ…」
灰色の細い粒子がソウの周りを浮遊しながら、群れとなり、液体のようにソウの後ろで渦巻く。一粒がソウの首について、そこには十字架を守るように細い蔦状のものが取り巻いている文様が―
「レイを殺そうとする奴は俺が殺す。」
『鋼づくり』が深川に向けて伸びていく。液体状に伸びて…
深川は腐敗で食い止めようとするが、それは止まらない。逃げ出したが、スピードは上がってくる。それどころか、液体は深川を包んでいった。
深川は触れて腐らせようとしたが、逆に手がおかしくなった。
「これは…」
匂いもおかしいことに気づく。
「鋼じゃない…!」
『水銀』
ソウは一式になって完全に鋼から、化学なんて無視の水銀へと能力を変えた。
自分の死を悟った瞬間、深川は抵抗を止めた。
「……俺は、ただ…貴方に認めて貰いたかったのに…」
水銀のドームの中で涙を流した深川は、口に流れ込む水銀と共に意識を手放した。
ソウがそれを解くと、中には死んだ深川がいる。
「ごめんな、俺はレイみたいに優しくないから、罪悪はあっても躊躇はしない。守るべきものをわかっているから…」
起継総太VS深川拓也 決着
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ルカはここが最後の戦いだと言った。俺自身もそう思う。あの真壁はここで俺達を捨てるつもりだ。
無神のレイが消えるか、俺達が消えるか。真壁にとってはどちらでもいい。あとで両方とも結果としてはいなくなっているだろう。でも、俺はルカを守る。そのためなら、どんなことだってやってやる。
杉山は戦場から少し離れた場所で、戦況を見ていた。風を戦場の上空にまとめていく。
一時間もあれば、終わる。『竜巻』。すべてを飲み込む、風の龍だ。
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津宮来木VS辻先奏
辻先はやはり一式になっていたらしい、ここにきてどの輩も段階を意識している。真壁が斡旋しているんだろうか。とにかく、辻先は強くなっていた。一式になったことで、辻先は絶対先制攻撃から、加えて神速を手に入れたらしい。前は合わせられたスピードが追いつけない。フィールドを展開しても、そのフィールド内でどこに現れてくるかわかってないから、気づく前に剣が降ってくる。
なんとかそれを止めるので手一杯だ。
「どうやら、今の俺の方が強いみたいだね。」
「…チッ…」
「まぁ仕方ないよ、君は所詮、その程度の能力なんだから。」
レイとの訓練が頭を巡る。
――「君は僕の研究において論外だ。」
最初の訓練でレイはそう言った。
「え…雑魚過ぎて?」
「違う。分類がわからない。想像力か、経験値か…はたまた、他からの干渉か、僕の現在の知識では測れない。紘は完全経験値派だろうな。」
「俺…無理?」
「阿保か。僕がいるんだ。無理とはさせない。」
レイはまず、俺の技術を確認するということで、レイ→ルア→ソウの三人と順番に組手をすることを訓練とした。三者三様の戦い方は連続で、俺は死神が近くに見えた気がした。
スピード×体術型のレイ。能力×パワー型のソウ。能力×スピード型のルア。俺はレイのルールで能力を訓練では使わない、と決められていた。そのため訓練では怪我が絶えなかった―
「そうだな、俺は論外かも。」
自然と呟いていた。
思えば、あの訓練は想像力も経験値、戦いという場所…全て備わっていた。
―自信を持てばいい、お前は強い。―
俺はレイを救うと決めた日、相棒として、あの背を守ると決めた。こんなとこで…
頭にすら思いつきもしない、適当な音を奏でると、フィールドが透明から、青色へと変わったのがわかった。辻先は一度、変化を感じて外に出ようとしたが、フィールドがそれを拒む。
「なんで…」
戸惑いを隠せない辻先はそっと俺に目を向け、まさか、と思いながらも攻撃を超速で仕掛けてきた。だが、思ったよりスピードは出なかった。いつもと変わらない、いやそれより遅い気がする。もはや…自分がどうなっているのか、辻先には理解ができなかった。
「ここは俺だけの舞台だ。ようこそ、お前の断頭台へ。」
満面の笑みで俺は向かってきた辻先へ銃でアッパーを決めた。




