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異端の子  作者: 水園寺 蓮
異魂継承編
33/93

嫌悪

「久しぶりじゃない来木!今は彼女と一緒にいるの?」


「お前には関係ないだろ。」


「ねぇそんな顔しないで?私とあんたの仲じゃない。」


 俺は忌々しいという気持ちを前面に出して、女を睨んだ。忘れもしない。俺が青鎌たちを敵に回すきっかけとなった女。辻先と付き合っていた乙喰美紗紀。


 今では全く理解できない程、どこがいいのかわからないが、当時の俺は片想いをしていた。当時の立場としてはピアノの鍵盤を出せるだけの能力にしか思われてなかった俺は、大層低くて、器用に物を作る紘の手伝いをしていた。同じ島の連中にはよく「無駄な能力」で「無能」と呼ばれて相手にされなかった。その中で、乙喰美紗紀は俺に声をかけて外に連れ出してくれていた。閉鎖的な環境とは人を盲目にするようで、俺は当時まんまとそれに引っかかったわけだ。


 そもそも乙喰は辻先の差し金で俺のことを構い、辻先が俺を潰すつもりで「俺の彼女が誑かされた」と青鎌たちに言いふらした。



「詐欺師とその被害者、だろ。」


俺の言葉に乙喰は笑顔だった表情を消して、真っ直ぐに俺を見た。


「騙されるような子猫が悪いのよ。無能のくせに、誰が相手するって言うの?」


当時の俺なら想像もできなかったあくどい笑み。酷く歪んでいて醜いものだ。


「当時は馬鹿だったよ。」


「今も変わらないでしょう?聞いてるわよ、鬼波零斗の下で尻尾振ってるんですって?」


「尻尾?生憎だけど俺はこの手でピアノを弾くだけだよ。」


たしか乙喰の能力は「信仰」。詳しい発動条件は忘れたが、あいつの愛の「信仰」は厄介なのは知っている。「信仰」した相手の力を数倍にして自分も使うことができるらしい。


「麗奈様はピアノ好きよ。良かったら今日から麗奈様に聴かせてあげて。」


そう言われてすぐに、脳内に知らないはずの石崎麗奈の顔が見えた。急に心をぐちゃぐちゃにされたような感じだ。まるで、かつて片想いをした時のように苦しい気がする。


「麗奈様はあんたの帰りを待ってるわ。帰ってあげなくていいの?」


「俺はレイの…」


「あんな奴はあなたの敵よ。どうしちゃったのかしら?敵を馴れ馴れしく呼ぶなんて」


レイが敵?いや、レイは俺と紘を救ってくれた…


…あれ、石崎麗奈がルアと話してる記憶…銃を買った時、笑ったのは―?


「フフ、錯乱するなんて、あんた相変わらずよっわい心ね。」


そう言われた時には、斧の一撃が迫っていた。

―――斧?



********

「お前レイのこと好きなのか。」


「え」


珍しく食堂に二人きりになった相手はソウだった。俺はキッチン担当だからよくいるけど、ソウが食堂に一人でいることは大層珍しいことだった。


「そ、そりゃ仲間として尊敬してるし、好きだけど。」


「そういうんじゃねぇよ。とぼけんな。見てりゃわかるに決まってんだろ。目がうるせぇ。」


ソウはどこか不満そうでありながら、真剣な顔をしていて、自分の嘘が苦しく感じられた。


「………そういうんじゃなくっても、俺は好きだよ。」


言ってやればソウはやっぱりな、という顔をして俺を真正面から睨んできた。間にあるのはカウンター席のテーブルだけ。逃げ場はないし、何より逃げちゃいけないと思った。


「本気か?」


「本気だけど。」


「どこが好きなんだ。」


「好きって一々言語化できるもんじゃないでしょ。」


言った瞬間にソウから舌打ちが飛んできて、目が逸らされた。


「俺はずっとあいつを変な野郎から守ってきた。あいつを心底愛してるからな。」


 ソウがレイを好いてることはルアから聞かされていたし、本人の顔を見れば一目瞭然だった。普段、黙っていればクールで済まし、口を開けばバカなフリをするソウが、レイの前ではどちらでもない、飾られていない笑顔で言葉を紡ぐ。それは誰だって、ソウの感情に気づく光景だった。


 まさか今、とてつもなく真剣な顔でレイへの想いを口にされるとは思ってなかったけど。


「正直てめぇがレイの右腕ってのから気に入らねぇが、どう見たって悪感情はねぇ。」


「そりゃどうも。」


「俺はそれなりに自分の見る目に自信がある。お前はいい奴だ。だから好くことは認めておいてやる。」


「好くのは勝手だと思うんだけど。」


ソウの耳には今何も届かないらしい。俺の方を見ていない。なんやねん、と思っていると、どこからともなく首に斧が当てられた。


「もしレイのことを裏切ったらお前のことだけは俺が殺してやるからな。」


四天王の殺意は侮れない程恐ろしい。レイの殺意にはわりと慣れたと思っていたが、ソウはソウで気迫がある。その恐ろしい灰色の瞳の奥には死神が眠っているようだ。


「じゃあ俺は()()()の時、射殺するから。」


俺は殺意に押されないよう言い返しておいた。するとソウは笑って望むところだと言っていた。


*********

―斧。

 目の前に来た斧を後ろに下がって避けた。乙喰は嘘、と言わんばかりの顔で勢いのまま前のめりになってバランスを崩した。


「斧で助かったよ。こわーい約束を思い出した。」


 斧を見た瞬間に脳を駆け巡った記憶は、今この瞬間にあの時のソウの殺意をも思い出させた。

そのおかげで俺が本来想い続けるべき人間の姿かたちをはっきりと思い出した。もう揺らがされることのない、青い炎をもう一度はっきりと思い出したのだ。


「どうして?倍加された魅了を破れるはずないわ…」


恐怖にわななくとき、人は少しずつ距離を取る。その距離を利用して、ピアノの鍵盤を展開した。


「もう魅了されてんだよ、とっておきの音楽に。」


 鍵盤は俺の思いに必ず答える。そっと撫でた一音から始まったフィールドの完成と共に、耳に心地よい諳んじたような旋律が俺の指を動かしている。一音一音が紡がれて、徐々に音が輪郭を成す。まるで青い炎の揺れるあいつのような強く優しいメロディーは、乙喰にも聞こえている。乙喰は耳を塞いで動かない。

怯えた顔をしているが、斧を地面に捨てて、ただただ震えているようだった。


「おやすみ、哀れな盲信者。」


そう言って最後の不協和音を奏でれば、糸が切れたように乙喰が地面に倒れていた。


**********


 「貴方だけは昔から気に入らない。」


この人を見ていると様々な感情が交錯する。余裕そうなあの顔が怒りを彷彿させて、私の余裕そうな仮面は剥がれ落ちた。それでもいい、こんな奴に敬語を使う方がどうかしている。こんな…


「奇遇だな、僕も君は嫌いだった。」


またこの人は余裕そうな顔で笑っている。今も昔もこの人は周りと違う…自己中なお人好しだ。本当に嫌い。大嫌いだ。


 私が尊敬したのは、いつでも美しく輝く石崎麗奈。きっかけはない。ただ出会って、その優しさを見た時。私には忠誠心が芽生えた。今思えば、麗奈様の能力のせいだったと思う。それでも、解けた今も私は尊敬をしている。一方、私は四天王であるレイが嫌いだった。レイは花摘みより剣術を。噂話より組手を選んだ。それでいて、ルアやソウと共にいる。二人は女子の間で人気だった。


 あんな閉鎖的空間且つ守ってくれる存在なら、当然といえる。そんな二人とレイは一緒だったから、レイは女子にもその存在を疎まれていた。それでも、レイの強さは本物だった。私はレイが陰ながら努力していることを知っていたから、そこだけは評価していた。


 でも、ある時私の嫌いは度を越えた。

私はずっと片想いをしていた。片想いなのは承知していた。だから、私にその目が向くことはないことはしっかり理解していた。それでも私はあの人に告白をして、絶望した。私が好きだったその人はレイに惚れていた。私はどうしていいかわからなかった。私の方が、優しさも可愛げもあると自分で言えてしまうほど、レイと私では違いがあった。レイ以外なら諦められたが、レイだから私は納得できなくて荒れに荒れてしまった。私はレイの根も葉もない悪い噂をその人に流したのに、その人はレイを好きでい続けた。


 私はもうどうすることもできなかったが、その失恋を麗奈様に救われた。その人をものにすることを提案されて、協力してくれないかと頼まれた。それがあの追放騒動だった。レイを裏切り者として、処刑する。

それは驚くほど上手くいったのに、その人は去って行った。結局、手に入れられなかった。それでも麗奈様は私を励ましてくれた。私を愛してくれた。

―だから私は死んでもあなたを守る!これ以上、レイに奪わせない。



「…人殺しはしたくないんだけど、君がどいてくれないと邪魔なんだよね。」


レイの氷の壁をレイピアで貫いて穴をあけた。

私とレイを隔てる氷の壁はレイの足場であり、私の能力を防ぐ盾だ。


「今更綺麗言を…貴方は此処までたくさんの犠牲を築いてきた。なのに、殺したくない?笑わせないで。そんなにうまくいくんなら、この島はとっくに平和よ。」


氷の壁越しに言葉をぶつける。

今もあの人はレイを好きでいるらしい、それは真壁が教えてくれた。だから、こんなにも最低なレイが私は今も憎い。あの人は今レイと共にいるのに、レイはその人の感情に気づいてない。好かれているのに、贅沢なことだ。そんな妬みの醜い感情が止まらずに溢れてレイピアに乗る。さらには何処までも掲げるこの殺さない主義がなめられているようで、余計恨めしく、レイに対しての黒い感情が私を突き動かす。

しばらく間があって、レイは悲しそうに言う。


「そうだな…とっくに平和だよな…僕は今まで、違うということを証明したくて殺さない主義を貫いてきた。厳しいことは誰よりもよくわかってるつもりだ。」


レイは鎌を薄く鋭い形に変形させた。


「僕はいよいよ、人を殺すのかな。」


氷の向こうからレイが飛び出て、暗い表情のまま鎌をぎゅっと握り直し、回した。


「それが貴方の本性、麗奈様なんかより何百倍もクソなのよ。」


あえて隙を突くために能力を使わず私は飛び込んだ。この能力の不便なところは発動までのインターバルが長いこと。だが、鎌が回されて空いた胸にレイアピを突いて、レイの心臓を目指した。


これは勝ったと思い、僅かに笑みがこぼれた。


「クソ、ね。」


暗かった声が明るくなって、狙っていた心臓が消えた。


「お前の主より、僕は立派な平和主義だよ」


そう言って私の言葉を蹴るように笑うと、レイは懐から出したナイフで私の突きを防いだ。ギリギリと鉄が鬩ぎあう音を立てながら、レイはいつの間にか鎌を鉄パイプに戻し、私の後頭部を叩いた。


「君もまた…狂わされた一人だったわけだ…可哀想に。」





 私が、可哀そう?

無くなっていく意識はレイが最後に言った言葉を告げた。


私は麗奈様の…麗奈様のなんだっけ?






 レイは赤松から出てきた玉を砕いた。


「例外もあるのか…赤松は二年くらい麗奈の能力にとらわれていたんだな…」

フム、と考え込むレイを呼ぶ。


「レイ…」


「そっちは終わったのか?」


「まぁね。」


レイが歩き出したのに俺は続いた。


「乙喰は何仕掛けてきたんだ?」


流石はレイ。あいつの能力のことも知っていたようで、面白がって聞いてきた。


「魅了だったらしい…魅了って確か石崎のだよな?」


レイは一度俺を見て、「そうだ」と答えてくれた。そしてククッと笑った。


「そうか、倍加された魅了が通用しなかったか。流石に乙喰も可哀そうだな。」


「えぇ…もしかしてわかってて俺のこと連れてきたの?魅了なんて危険じゃん。」


レイの奴…乙喰が石崎の能力を倍加させてるのをわかったうえで俺を連れて来ていたとしたら、よっぽどリスクのあることをしたということだ。もし俺が魅了にやられてたらどうするつもりだったんだ…?


「そうだな。麗奈の能力は大抵の人間が勝てない。信じた人間の能力を借りて倍加させられる乙喰がそれを使おうものなら、大変厄介なのも承知だったよ。だからルア達は怪我を理由に置いてきた。」


門を潜ると、レイは一度止まって氷壁を築いてまた歩き出した。


「俺はたまたま効かなかったからいいけどさぁ、効いてたらどうすんだよ。」


正直石崎の話を聞いた時に「魅了」の能力が怖いと思った。自分なんて、かかりやすい人間の一人で、遭遇したらやられてしまうと思ってた。なんなら、俺が鬼呪一天で一番意思が弱い気がする。


「君がかかるわけないだろう?」


レイは笑っていた。

その考えがどこから出たのか聞きたかったが、もう既に一度打ち勝った能力に対して恐れはあまりない。


「たとえ石崎と乙喰で条件が違おうが、君は魅了されない。」


レイは中に入るなり、さらに正面の扉を氷漬けにした。


「たいした信頼だよ、まったくもう…。」


たまに、俺に対する過剰な信頼が嬉しいようで怖い。あの青い目に俺がどういう風に映っているかわかりはしないが、常々俺はあそこに映る俺とのギャップに怯えている。


「君の目を見れば明らかだ。既に魅了され切ったもんがあるんだろう?それに、仮に君がやられても、僕は物理的に覚ますこともできる。」


レイの物理は相当効くだろう。普通に痛いことを俺はよく理解している。だが魅了されきった、というのは少しばかり引っかかる。まさか気づかれているのか?と焦ったが、レイが鈍感であるという経験則から、顔には出さずにただ笑って「そうかもしれない。」とだけ言った。




 先を行くレイについていきながら、俺は持っている銃を握り直す。長い階段の先は、なんとなく会ったこともない石崎がいる気がして気を引き締めた。

長い階段を上りきって、一際豪華な扉を開けると本で見た礼拝堂のような部屋が広がっていた。

どうやらここが本丸らしい、石崎麗奈が静かに立っている。


「やぁ、石崎。」


佇む石崎麗奈の風貌は外の世界で言う、モデルのようで、容姿は整っている。

レイは臆することなく石崎のいるこの部屋に足を踏み入れる。

石崎まであと数メートルというとこで止まると、石崎が目線を上げてレイを見た。


「…早かったわね。」


「そうか?なら僕たちが強すぎたんだね。」


ぴくっと反応した石崎は、すぐに気にしていないというすまし顔に戻った。


「…私は倒されないわよ。」


「どうかな?真壁が来るまでの時間稼ぎは意味ないよ。」


「な、なんのこと?」


一瞬すました顔が動揺の色に変わり、上ずった声の返事が来た。

俺も驚いた。真壁がここに来るのか?

レイはとぼける石崎も、わかっていない俺にもわかるように言う。


「さっき、僕らがここに攻撃を仕掛けてすぐ、兎が森に入っていくのが見えた。」


君の使獣だったよな?とレイが言えば、石崎は舌打ちの代わりに正面からレイを睨んだ。

俺は全然気づかなかったが、レイが言うなら本当なのだろう。門と入口の扉を氷漬けにしたのは真壁が入ってくるのを遅くするため…そう結論づく。


「君には選択肢がある。僕と戦うか降伏するか、だ。」


レイは若干声を低くして交渉に入る。

どんな相手であってもレイはできるかぎり、殺さないつもりらしい。


「…あんたなんかに降伏しないわ!」


言い切るより少し早く、レイの心臓を狙った石崎のレイピアが真っ直ぐ向かってくる。


「オーケー。君を倒す。いや…君だけは殺さないといけないか。」


 レイは残念そうに溜息を吐きながら石崎を右に避け、右足を軸に勢いのままレイとすれ違った石崎に鉄パイプを振る。俺は久々にレイの本気の殺意を目の当たりにして「レイ⁉」と叫んでしまう。

殺す発言と、この本気の殺意に俺は驚いた。手には既に鎌が形成されていたのも驚いた。


 先ほどまで…今までずっと守ってきたその主義を自ら破ると言い出したのだ。

石崎は向かってきた鎌をよけ、レイと距離を取った。


「クル、言っておくがこいつが生きている限り、真壁の手駒は増えてく。不本意だが殺すしかない。」


レイは最初から本気らしい、鎌が鋭く輝く。納得はするが、レイは今までせっかく守ってきたものを捨ててしまうというのか…




 レイは殺すために戦う。今までとは確実に動きが違う。

レイの速さに喰いついてる石崎は決して弱くはないだろう。とはいえ、押されている。石崎の一撃がレイの脇腹をかすめ、白いシャツを赤く染めた。つい、反応しかけた俺をレイは視線だけで止めた。


「クルは動くな。手を汚すのは僕だけでいい。」


レイは脇腹を気にする様子もなく、石崎だけをその目は捕えている。


「…なんなの、あいつ。私の能力が効かない…」


どうやら、石崎は俺に『魅了』の能力を発動させていたようだが、俺は全くの害がなかった。まぁさっきも効かなかったし…


「やっぱり?石崎のでも効かないか。僕が一番信頼してる仲間なんだ。君なんかの能力に奪われない。」


レイは自信満々に笑い、一瞬俺に目を向けた。


「身内には甘い顔…昔から変わらないわね。そんなんだから、裏切られたのよ。」


石崎はその様子を見て、レイのトラウマに語り掛けた。動揺を狙ったのか、苦し紛れに出てきた言葉はレイを非難するが、レイは揺るがない。


「そうだね。今はそのおかげで目利きがよくて、良い仲間に恵まれたよ。」


「…そういうとこが嫌いなのよ…全部。」


レイは石崎の言葉を流す。全く気にしていないような顔だが、微かに怒りが沸いているのがわかる。不意に、レイは鎌を避けるために距離を取った石崎の足場を氷に変えて、バランスを崩させた。石崎はただ地面に向かって倒れていく。その様をレイの青い瞳は悲し気に、憎まし気に映していた。


「石崎…今の僕はそんな言葉に傷つかない。」


バランスを崩して、武器を手放した石崎は目を見開いた。レイの鎌がそんな石崎を捉えて、落ちていく。


「さよなら、麗奈。」


『不自由』



 レイの鎌だけが止まって、石崎はその隙になんとかレイから離れた。

石崎がほっとした顔で「遅かったじゃない…」と扉の方に向かって言った。


「すまない、道中氷のトラップが張られていて手間取った。」


レイの目が険しくなった。俺はレイに駆け寄って銃を構えた。


「…真壁…」


真壁は鎌に向けた手を下ろして微笑んだ。鎌は垂直に落下する。


「…こうして対面するのは久々だな、邪魔者レイ」満面の笑みは眼鏡の奥に黒い感情を隠していた。


「悪いけど、退場願おう。僕は石崎に用がある。」

レイは毅然と言い放つ。


「俺も麗奈に用があってきた。」


真壁は石崎に近寄った。

ここで真壁に手を出すのは得策じゃない、と俺の頭は訴える。レイの視線が一瞬だけ俺に向いて、動くなよ、と言われた。俺もそれは同意見だと返しながら銃を持つ手を落ち着かせた。

外に音を集中させれば、人が多くいるのがわかった。


「そう言うわけだから、じゃあな。」


真壁は石崎の手を取った。


「待て!」


レイが一気に距離を詰めたが、何か光った直後、真壁は石崎を連れて消えてしまった。


「今の能力は…?」


「ルアが僕の方にいる以上、考えられるのは他の異空間系能力者だ。多分…」


レイは心当たりがあるらしい。

もう一度、外に意識を集中させたが、そこには何の気配もしなかった。


 とにかく、二人だけで本当に一チームを壊滅へ追いやった。

レイはまた中心街で騒がれ、メンバーにも知られて、今はルアとソウによる説教の声が上から響く。




 レイは麗華連合を潰した帰り道で、まずいなと呟いた。曰く、『不自由』能力発動の定義を真壁は変えていた。確かに、レイは赤松の視界内の敵を停止させると言っていたが、真壁は物体、それも選んで物体だけを停止させた。真壁のコピー能力が変わってきている、とレイは言っていた。どういうことか俺には理解しきれなかったが、道すがら横で考えるレイを見ていたら、それがやばいことに気づく。


 真壁のコピーがもしも欠点を補ってコピーされていたら?もしも強化されて使用されていたら?


 今の段階では真壁のコピーがどこまで働くか不明だが、考えとしてはこう考えることになるのは間違いない。レイは俺が考えた以上に可能性を考慮してやばいと言っているんだ。同時に気づいた。真壁がなぜレイを止めることなく、鎌だけを止めて麗奈を助けたか、それは真壁からレイへの挑発。俺はまだ先にいるぞ、というメッセージを持っているのだと伝えている。

わざと伝えてくるあたり、まだ何か隠し玉があるのではないか、俺はそうも思った。


********

「真壁…助かったわ。」


石崎は真壁の拠点で席に着くとお礼を言った。


「勘違いするな。俺はお前の能力がなくなったら困るから助けたんだ。」


真壁は石崎を入れた部屋からさっさと出て行こうとする。


「わかってるわ。」


悲しい気持ちを隠したような声に真壁は扉にかけた手を少し止め、一瞬立ち止まった。


「…ならいい。」


そう言って逃げるかのように扉を閉めていった。


―守冷の連中は樹炎のようにはいかないから、麗奈の能力を使って短期で終わらせる。

レイを殺せば、大方問題は片付く。レイを片付ければ、麗奈の能力がなくても困らない。


「駒に一々心を取られるな。」


廊下に響いた声は無性に真壁を貫いた。

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