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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
3/93

隠密行動?

 この島―千殊島の北端に位置するクロの拠点から、虚月透真の拠点がある東の東豆島に着く頃には、朝日が昇り始めていた。今思えば、僕と紘は相当な距離を逃げていたらしい。逃走中は必死で全く気付かなかった。


 クロの拠点近くの神社から東豆島の方を見ると、見張りがしっかりといるのがわかった。東豆島へ繋がる唯一の橋は当然のように見張りがいて使えないから、その神社から森を抜けて、小船で島まで近づいた。クロは何も言うことなく、船を漕いでくれ、橋の上にいる見張りを見て一度だけ、配置を聞いてきた。僕の知る見張りの配置だけでも橋の両端に一人ずつと、間を取り持つ、海を見張っている一人の計三名。橋の下を通って東豆島の船着き場に行くのは見つかる危険すぎる。


 それを伝えるとクロは船が唯一着ける船着き場とは魔反対の島の裏側に進んで行って、適当な岩に船をつけると、積んでいたクロスボウで崖にロープをかけた。まさか登らないよな、という目で見つめたが、クロは何ら違和感なく、僕に先に行くよう言った。


「無理無理、無理だよ絶対!僕怪我人!どうして登れると?」


クロは冗談だ、と笑ったと思うと僕をロープで縛って、そのまま自分の背に僕を乗せた。


「ちょ、まさかこれで登る気?」


「だって登れないだろ?ならこうするしかない。大した高さじゃないしな。」


 クロは自分にもロープを結び付けて、船から崖へ飛び移ってナイフを両手に崖登りを始めた。人一人背負っての崖登り。いくら僕が軽くたって、流石にきついだろうに。


などと僕は思っていたのに、クロは難なく崖を登り切って、森に隠れた。


 森の中の見張り達も上手く搔い潜り、クロと僕はようやく拠点が見える所まで来た。朝日の差し込む森の中を二人でさらに駆け、拠点から少し離れた岩陰からクロは様子を窺う。クロの行動は慣れていて、しょっちゅう奇襲でも仕掛けているのではないかと思った。この島において、理由のない奇襲は違反と言うが、今回のケースは…今は考えないことにした。罰則があっても紘を救い出せればそれでいい。


様子を窺っているあいだ、クロは内ポケットから小さな物体を出して弄っていた。


なんだろうかと思いながらそれを見ていたら、不意に問われる。


「なぁどうやって敵さんを呼び出すか知ってっか?」


僕は「え…?」と言って困惑した。

敵を呼び出す?まず呼び出したいわけではないと思うが。


「どうやるの?」

好奇心が勝った。


 こう聞いてしまったことを、僕は数秒後に後悔した。クロはニヤッとしてナイフを上着から取り出すと、先程の物体を括りつけて正確に壁へと投げ刺した。何の意味があるかはわからないが、途端に嫌な予感が猛烈にした。しかし、その速さは僕が止める間もなく、終わった。嫌な予感はしたものの、感心してすごっと言いかけた直後そのナイフが爆ぜて、異変を知らせるサイレンの音が鳴り響いた。

 

 そんなことにならなかったら、純粋にナイフ投げの腕前を褒め称えていただろう。


「おま…馬鹿っ⁉バレんじゃん‼」


クロは僕の焦る様を鼻で笑うと、鉄パイプを構え岩陰から降りる用意を始めた。


「あいつらは面倒な能力持ちで、正面からやりあうなんて…お前、強いわけ?」


「んーまずないよ、能力。」

ニャハっと悪戯にクロの口が曲がる。


「は⁉」

僕は無自覚のうちに口が半開きになる。


反対にお気楽な様子で言うクロは敵の数を数えながら喜々としている。


「まぁ安心しろ。僕は強いから。」


 僕は嘘だ、やばいと頭の中で焦りながら連呼する。虚月透真相手に能力無し、さらには単身で乗り込もうなんてこいつ馬鹿だろ。いや馬鹿なんて言葉じゃ測れない程のとんでもない馬鹿だ。僕はとんでもない奴と来てしまった。そう、内心で酷くクロを非難した。鳴り響くサイレンでわらわらと出続けてくる敵を見て、僕はさらに顔を青くする。


「あの数を二人でやるんだよ?正気?」

若干震える指。


今の僕の様子はまるで何かに怯える兎のように目を見開き、微かに震えている。


「まさか…」

クロはフッと笑う。


どうやら違うらしく、僕は一瞬安心した。本当に一瞬だった。


「僕一人でやる。君は中に入って津山を助けてこい。」


その言葉でまた衝撃に飲まれた。


「は…」僕は敵の数を再び見る。


 どう見ても能力無しの奴が一人で捌ける量じゃない。パッと数えるだけでも四、五十は見える。中には、真壁が一目を置いていたような奴もいる。少なくとも全員能力者なのは間違いない。


「この人数を能力も無いやつが一人でなんて自殺行為だよ!」


僕はクロが正気なのか疑う中で、本当にこいつは何しにきたのか余計に考え出す。


 絶対に、こんな自殺行為を働いてまで僕達を助けるメリットも価値もない。いくら紘を利用しようにも、命がなくなれば無意味。そして相手は虚月透真―最もやばいと言われる樹炎島出身の四天王の一人が率いるチーム。“樹炎出身”というだけで恐ろしいのだから、なおさら命の危険はわかるはず。こいつがよっぽどの馬鹿か詐欺人間じゃない限りは、この策はしないだろう。そしてこいつは絶対に馬鹿じゃない。それは今までの行動でわかる。同時に、僕達を騙すため尽力しての詐欺人間にしてはハイリスクを選び過ぎている。明らかに不利益を被るレベルだ。


となると、ただのお人好しなのか?


 こっちが利用してやろうとは思ってたけど、こんなの逆に放っとけないでしょ!


そんな心配や考えやらで一秒ほど経った。クロは目線を戦場から僕に移した。


「君は何しに来たんだ?僕の心配は一番要らない。目的を忘れてんじゃねぇぞチキンくん。」


 クロの言葉に納得はするが、相手を考えると素直に頷けない。いくら紘を助ける為だからと、関係のないクロを巻き込んで危険に晒していいものか、と利用する覚悟を決めたはずの心に良心が叫んだ。しかし、布の隙間から見えたクロの目があまりにも本気でしかなく、頷くしかなかった。


「武器庫に行け。津山は多分そこにいる。僕を信じろ。こんな所で死ぬ気はない。」


クロはもう駆け下りていく。あいつ、速い。僕の目では追いきれなかった。




************

「‼」


 爆発の後の土煙に目を凝らしていた見張りは、異様な速さの影を見た。その影は土煙を突きって、こちらに真っ直ぐ向かってきている。そんな真正面からの敵なんて馬鹿かもしれない、と思った。


見張りをしていた者はすぐにアナウンスを流す。


「襲撃者を発見!正面からやってきます。即刻撃退、必要であれば殺害してください。」


アナウンスをそう流したと同時に、再び爆発が起こった。


今度の爆発では何人かが被害に遭ったようだ。





 一体何人飛ばしただろう。今回の爆弾は少し違う材料も入れたんだよな。試せるせっかくの機会、存分に利用させてもらおう。まさか、あいつに狙われてる奴らに出会っちゃうなんてねぇ…いい機会すぎる。挨拶できるし、実験もできるしの万々歳だ。あいつらのチームなら雑魚でも雑魚の質は違うだろうから、思う存分、試すことができる。加減しなくても、死にはしないだろうな。


 実験ができる喜びと共に、久々に味わう殺気に心が自然と躍ってしまう。あの事件の後はずっと裏でこそこそして、正面対戦はしてなかったからな―あぁ、僕は生きている―なんて考えていると、叫びながら仕掛けてくる馬鹿な奴が一人。


「死ねェェい‼」


 上から降りてきた下端らしきその人間を一歩踏み込んで、軽く腹パン決め込み落とす。腕は鈍ってないらしく、見事に飛ばせた。むしろ、加減を忘れていそうだ。


 地面に落ちたそいつは短い悲鳴とともに、気絶してくれた。僕に向かってきていた者たちはそれを見てもひるんだ様子はなく、攻撃を構えている。これは全員倒すまでここを離れらないな。


「僕は旧友に挨拶に来たんだ。道を開けろ。全員殺すゾ?」


僕は一際強い殺気と満面の笑みをお見舞いしてやった。まぁ布でわからないだろうが。


あぁ、面白いなぁ。


自然と上がる口角。そのまま目の前に来ていた敵に鉄パイプを振り下ろす。



***********


 僕はしばらく心配でクロの動きを見ていた。クロは冗談とかではなく、本当に能力が使えないらしい。あれだけ能力を相手に使われてもクロが使う様子は一切見られず、鉄パイプと己の身だけで敵を倒していくのだ。鉄パイプでの技は多彩で、突くわ、撃つわ、殴るわ、回すわでまるで体の一部のようだ。


 時々支えにしては飛び上がって空中から敵にドロップキックをかましていた。あんな綺麗に決まるのは初めて見た。普通にすごすぎてビビった。また、上着からか出したナイフで、綺麗なまでに急所をずらし投げ刺す。その動きに魅入ってしまうほど、美しい技術だった。何本仕込んでるか知らないが、軽く十本は見ている気がする…え、まだ出てくるの?


 それに、戦う様子からクロは人のことはできるだけ殺さない主義だと察せられる。とはいえ、たまに飛び出す爆弾はかなりやばそうな威力をしている。それでも、吹っ飛んだ人間は生きているようだ。


「あれで能力無しか…」


 僕は心配が失せ、途端に恐ろしく思った。今は味方で良かったと心底思う。同時にクロの実力は真壁達に匹敵するかもしれないと思えた。ただやっぱり、能力がないということは真壁達に勝てると信じ切れなかった。加えて、クロは女…だよな。正直判断しづらいが、女に見える。いくら強くても、女と男では差がある。特にUNCはそれが顕著だ。


 僕達はUNC能力と言われる異能力を持っていて、大半のUNCが一〇歳までに発現させる。真壁の元で底辺だった僕でさえ、能力は五歳くらいの頃に発現している。僕達はもう一五歳。未だに能力を使えない奴なんて、この島においては圧倒的不利且つ雑魚のはずだが、クロはそんな中で能力を使う連中を圧倒している。


僕は安心してクロの言う通り武器庫へ向かう。あくまで紘を助けるために僕がクロを利用するんだ。


心配しているなら、その心配は紘にすべきだ。紘を助けに来たんだから。


にしても、何故クロは武器庫と断言したのだろう…今はとにかく進もう。




************

「真壁、襲撃だってよ。」真壁直属の部下、薄川悠寧は部屋に入るなりそっと告げる。


彼の得物である鎖が何かを待つようにその手で光った。


「こんな時に…」


 真壁は虚月透真の首領である斎藤ルアと、今後についての会議をしていた。その中での襲撃者。重要な会議とも言えるこんな時だからこそ、その怒りは表に出てしまう。


イラつきを表に出した真壁は「悠寧、任せた。殺しいてこい。」と不機嫌な声で命令を下す。


「了解。」


薄川は霞んだ紫色の髪をかき上げると、鎖を肩にかけ、礼をして出ていく。その背は戦いに心躍らせていることを隠せていない。


「脱走の次は襲撃か。」ルアは薄く笑い、足を組み直す。


青みがかった黒髪が紫の瞳と相まってその表情を怪しくさせる。


「どうせそこらの馬鹿な奴だ。すぐ片づく。」


真壁は溜息と共に思考を巡らす。

(薄川なら苦戦しないだろう…)


「流石だな、要田。俺達なら今度の戦いでも勝てる。」


裏のない笑みで言うルアに真壁は黒い感情を隠す。


「…そうだな。天才の俺がいれば問題ないよ。」

真壁はいつものように言い、視線を僅かにそらした。


次の報告があったのはそれからすぐのことだった。




**********

 突然の閃光で僕は鉄パイプを手放した。これはまずいのが来る、と直感が告げたからだ。直感の言った通り鉄パイプに雷が落ち、煙が上がった。煙が晴れればすぐに雷の主と目が合う。


殺気がなかなかの奴で僕はつい口角が上がる。そいつは体の周りに電気を纏っていて近づけそうにない。


「真壁の名において、この俺、薄川悠寧がお前を殺す!」


薄川と名乗ったやつは鎖を回しながら、電気を散らし、こちらを威嚇している。


「ひゃー怖いなぁ」

僕はワザとらしく言ってみせた。


それは見事に薄川の癪に障ったらしい、目つきが険しくなった。類は友を呼ぶ、真壁の部下ならやっぱこういう人間だよね、と心の中で笑った。


僕はナイフを出して構え直す。相手も鎖を構えてさらに電気を走らせた。


あの電流には近づけない。僕は能力が使えないから、近接でやるしかないというのに…。


「…これは相手が悪そうだ。」

僕は苦笑いをするとともに動き出す。




 投げたナイフは弾かれ、鎖を駆ける電撃が僕へと迫る。薄川自身を纏っている電気は僕を遠ざける。


電撃の最中は電気を纏っていないようだが、距離を詰める前に再び纏われる。


他にも残っている外野からの攻撃。僕は防戦一方だ。一応ナイフは投げているが…


「襲撃者!逃げてばかりいないで戦え!」自分優勢なことに薄川は笑う。


「戦ってる。お前こそ頑張ったらどう?」


僕は余裕こそないが、明るい声に聞こえるように言い放った。薄川は馬鹿か、と言う顔で僕を見つめているので、僕は足元、と指を指し笑ってあげた。


薄川の目が僅かに下に向いた瞬間に僕だけさらに距離を取った。


「‼」


気づいた時にはもう遅い。


「はい、終わり。」


そう言うと同時に、薄川の地面が逃げる間もなく爆破した。―爆弾仕込みナイフ


 確認すれば、見事に気絶している。己を電気で包んでいても爆撃は防げなかったらしい。

邪魔は消えたと、僕は残党狩りに向けて走り出す中でふと思う、真壁にしては弱い部下を出してきたな。


そう思ったが、今は残党狩りに集中しようと雑念を払い、駆けだした。





「真壁さん、薄川がやられました!」


 ノックも無しに、と入って来た部下を怒ってやろうと思ったが、それを聞けば怒りは消え失せるしかなかった。たった今聞いたことを再度頭で再生してから驚いて席を立った。


「嘘だろ?あいつだぞ?」


 俺はルアと共に屋上へ駆け上がった。表の惨状はところどころ、何かが爆発したような痕と、気絶した者達の体、気絶者の山が築かれていた。その中に確かに、薄川が倒れているのが見えた。さらに、表のこの庭にはたった一人の人間が何人もの人間を鉄パイプで飛ばし、素早く距離を詰めては蹴り飛ばしているのが見えた。たった一人で、何人も相手どっているのだ。


薄川は確かに最強ではないが、島の中では一応強い方…あいつは一体?


「一人で、だと…?」


真壁は気づく、先日の者のことを。先日の奴も黒い布をし、鉄パイプを持っていた。


「あいつやるみたいだな。」ルアが感心したように目を細めていた。


「ルア…この前津宮を助けてった奴だ。」


「…なんで今更来たんだ?」

今度は忌まわし気に目を細める。



これが挨拶か?冗談じゃなかったのか?


急速に頭が回る。俺達に真正面からやってくるなんて、ルアと同じく四天王か余程の馬鹿か…。いや、どちらでもない。奴の目的は―


「津山だ!」


急な大声にルアは一瞬驚いたが、すぐに冷静に聞いてきた。


「津山がどうかしたのか?」


俺は武器庫に向かいながらルアに説明する。


「…なら、奴も津宮も始末する。行くぞ、要田。津山を奪われるわけにはいかない」


ルアは歪んだ空間から剣を出した。





 鉄パイプで敵の腹を突き「これで終わり!」と思い切り叫んだ。

突いた敵は宙を舞い、僕が倒してきた敵の山にドサッと乗った。なんだか清々しい気分だ。


「能力ないってやっぱ辛ぇ…」鉄パイプを持ち直し、武器庫の方へ向かい始めた。


 武器庫と断言したのは大体真壁が考える構造が簡単だからだ。あいつは秘密を強さで隠す。武器はその象徴だ。断言したものの、真壁の考えが変わってなければという前提の予測に過ぎないが、おおよそそういう場所にこそ隠し部屋などはあるというし、多分合っているだろう。


のびをして肩を一回しし、改めて能力のない己を悔いる。そう、僕は未だに能力を持たない唯一の存在だ。


 UNCであることを証明するUNC値は他と同等、それ以上に高いにも関わらず、僕だけが十五という年にもなってただ一人、能力を発現させていない。圧倒的に生き抜いていくのは不利だ。とくに、この島で頭角を現しているチームの幹部級の連中ともなれば、無能力で勝つことは誰だってあり得ないことというのがこの島の現実だ。だが、僕は無能力ながらそういう奴らと対等に戦う為に強くなったのだ。目的を果たす為に。ここでその努力が目に見えたことは先程、心の中で踊るほど喜んだ。樹炎島とは反対に位置する守冷島出身の薄川はそれなりに噂で聞くような奴ではあった。僕はそいつに勝った。そして今、転がる能力者共にほぼ無傷で僕は勝利した。これは僕の望み通りの結末はずだ。


だからこそ、あいつらに会わなきゃいけない。あいつらにも通用すると信じたい。今日が証明をする時だ。




*********

 武器庫のドアを蹴破って中に入るなり、紘の名を呼ぶ。しかし物音もなくただ沈黙が流れた。


「来木…?」


遅れて聞こえてきた声の方には、鎖で拘束された紘がいた。やはり多少なり暴行されたようで、いくつか傷が増えている。


「紘、今度こそここを出よう。」


「それじゃあ来木が!」


紘は傷ついた体でなお、僕を心配する。最初、逃げ出そうと言った時もそうだった。


「大丈夫。助っ人がいるんだ。何かあっても僕が守る。だから僕を信じて。」


鎖を壊して手を差し出せば紘は黙って掴んだ。もう引き返せないことは確かだった。




 しばらく走ると、二つの影が飛び出てきた。反射的にナイフを構え、紘を背に庇う。


「「行かせないぞ。」」


 僕は現れた最悪の二人に舌打ちした。当然どこかで遭遇はしてしまうだろうと薄々思っていたけど、会いたくはなかった。会わないで済むなら是非ともその可能性を享受したかった。だが目の前にこの瞬間がやって来た以上、どれだけ言ったところで腹を括った覚悟を向けるしかない。


「津山は置いて行ってもらおう。虚月透真に必要な人間だ。」


そう言うルアの圧はすごい。飾りだと思っていた王だが、ちゃんと王であるだけの器はお持ちらしい。真壁からは殺意しか感じないが、僕はそんな二人をしっかり睨み返す。


「紘にこれ以上辛い思いはさせない。紘は殺人兵器を作る為にいるんじゃない…」


「津山の才能を生かしたいいモンだろ?今後の戦いで重要になる。」真壁が説くように言った。


その目からは人に対する思いやりが感じない。やはりこいつは人を駒にしか思わない。なんでこんな奴に騙されたのだろう。今の真壁は確実にここで僕だけは消すのだ、と決めているようだ。


「…わかったら津山を置いていけ。今ならお前のことは見逃してやる。」


嘘の言葉。


それが顔からも、言葉自体からもはっきりとわかった。真壁は僕を逃がす気がない。


 僕は強く二人を見る。例え、殺されようとも、僕は紘を渡すつもりは一ミリもない。必死にこの二人を突破する方法を考えるが、出口は向こうしかない。飛び降りるなどしたところで、落ちた所を拘束されるだけ。この二人に正面からやって勝てるわけもない。それだけこの二人は強い。


二人は僕達が動かないと見るや、僕を殺しにかかった。が、急に天井が落ちてきて僕は助かった。


二人は確かに僕を殺しにかかったが、爆ぜるような音と共に落ちてきた天井に反応して下がっったのだ。


 パラパラと砂埃が舞う中、「見ーつけたっ。」と、僕が知る声が聞こえた。


煙が晴れて見えたのはクロの姿。唐突に現れたクロへ二人は殺気を向ける。


「てめぇ…」


キレ気味の真壁を無視し、クロは僕にこの緊張溢れる場に似合わない笑みを向けた。


「来木、後は任せろ。僕がどうにかする。」


一方、冷静なルアは落ち着いた様子でクロを観察していた。


「誰だ」ルアが目を細めて問う。


気のせいか、その声は微かに震えていた気がした。


クロが僕へ向けた笑みを消してルアへ向く。一瞬のうちに変わった雰囲気はルアと似た威圧を感じた。


「誰だろうな。そこのクソ眼鏡くんに挨拶に来る奴がいるって聞いてないか?」


さも面白いというような調子のクロは全く恐怖の色を一切見せない。二人はただでさえ、酷く有名で、その実力もまた確かで恐れられるというのに。


「要田知ってたのか?」

ルアの声は依然落ち着いている。


「すまん、こいつは小物だと思って…」

真壁はどこか悔しそうな顔だった。


クロはニコニコしたままだが、小物扱いされたことが気に食わなかったらしい、一瞬左手で拳を作る。


「あぁそうだ。」


ワザとらしく口元に手を当て、声のトーンを下げた。―クロは声の使い方が上手い。

これはこの短時間で僕が知ったクロの少ない情報。


「さっきクソ眼鏡くんが大好きな隠し部屋にあったもの…爆破させてもらったよ。」


その言葉に、真壁の目が見開かれた。同時に「ふざけんな!」と、真壁が一直線にクロに向かって剣を突いた。怒りに満ちていて、いつもの余裕そうな真壁はいない。初めてこんな真壁を見た気がする。


 真壁もまたクロの言葉に乗せられてしまったようだ。一方、悠々と微笑み、向かってくる真壁の剣の行く先をクロは鉄パイプで反らした。そのままパイプを地面に突き立て、体制を立て直そうと下がる真壁より先にクロは突き立てた鉄パイプを台に真壁を飛び越えた。


「焦ると一気に冷静じゃなくなるの、命取りだって昔、教えたよな?」


真壁の背後を取って小さく言い、クロは着地と同時に鉄パイプを回した。

見事にそれは僅かな動揺で鈍った真壁の脇腹へ入り込み、真壁は壁に激突する。


「要田‼」


ルアは表情こそ崩さなかったが、冷静を装った顔には微かな心配が混じった。


真壁がそのまま座り込むのを見ると、クロの目線はそんなルアに向く。


「邪魔が大人しくなったところでお話と…」


クロが言い切る前にルアは姿を消した。すぐに僕はルアが何をするか予想がついた。


「クロ逃げろ!いくらお前でも、ルアの攻撃は避けられない!」


 ルアの能力は『空間転移』。何時、どのタイミングで何処に現れるかなんてわかるはずない。どんなに速くても無駄だ。しかし、僕の心配を他所にクロは不敵に笑った。知らないから笑えるのだ、と僕は焦った。


「大丈夫だ。言っただろ?僕、こいつらのこと知ってるって。」


クロの背後にルアが現れた。僕はクロを助けようと動いたが、確実に間に合わないことがわかった。


「死ね。」


クロの心臓めがけてルアの剣は突き進んだ。




***********

 真壁は震えていた。半分、恐怖。もう半分は怒りだった。あの時感じた恐怖は間違いなかったのか…


 先程の言葉…かつて一人の四天王が俺に言った。大嫌いな奴の言葉。俺はそいつを忘れたことはない。あの邪魔者を―脳裏に消していたあの憎い顔が、青い瞳が蘇る。


その言葉を、こいつが言った。どうして、そういう思いが頭を埋め尽くした。


考えたくもない可能性が頭を過るが、俺は自分を落ち着かせようと努める。あいつは確かにあの日、死んだのだ。俺達の計画は成功したはずだった。あいつを消し去ってやった。


銀髪なんて他にもいる、そう思ってたのに…なのに、どうして?


途端に否定できなくなって、今まで築いたものが崩れ始めた。


全て順調に進むはずだった。俺達は確かにあいつが死んだことを見たのだから。

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