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異端の子  作者: 水園寺 蓮
反撃攻進編
24/38

一人目 狙撃手

 師の助力もあり、情報収集のやり方には困らなかった。兄貴も当然既にチーム申請をした奴らについての情報はすぐに流してくれた。僕は考え、守冷出身のチームから仲間を集めようと考えた。最初は…




「…こいつにするか。」





***********


 俺は今日も無駄に生きる。


 千殊島へ移って二週間が経った。仲のいい秋崎寧衛と二人でチームを創って、他の守冷出身のチームを潰すために戦い出した。しかし、秋崎と意見が割れた。



 俺は北に進むことを提案したが、秋崎は南で固めるべきだ、と言った。北は樹炎出身が多く、危険だ、と秋崎は言ったが、俺は逆に攻めやすいと思っていた。北は早々に四天王である三人が地盤を固めていて、そこに乱入すればいいと思った。四天王に関しての情報はたくさんあったから、こっちが有利だとも説明した。それでも秋崎は首を縦に振らず、俺達は段々離れていった。秋崎派、三月派の二つに分かれだし。守冷連合は徐々にひび割れていった。それが四月頭の話だ。


 今は秋崎の方が認められ、俺はいるだけ無駄という空気さえあるように感じる。秋崎はそれでも俺を対等に扱ってくれるので、俺は諦めてない。ただその秋崎と先週言い合いの末に冷却期間に入った。お互いヒートアップして話にならないと悟ったからだ。俺はその冷却のために、中心街に来た。まぁ、買い物をするついででもあるが。その中心街で、俺は道に迷った。まだ千殊島こちらに来て日が浅いために迷うのは仕方ない。




 お目当ての薬草を買い、帰る途中に猫を追いかけた結果だった。



「…どうしよ。」


 あたりは確かに道は続いてるが、森に近く、少し中心街から離れてしまったようだ。迷子になったなんて知られたら恥ずかしい。誰にも会いたくないな、なんて思っていたら声を掛けられた。




「道に迷ったのか?」


少々明るく、何か裏のあるような声音。

見るからに怪しい奴だった。木の上でしゃがんで俺を見ている。


「そ、そんなことない。」


 咄嗟に嘘を言い、そいつのいる場所から離れようとした。

そいつは銀髪、顔は黒い布で隠されていて…まぁよくわからない。


「そうか、まぁどうでもいい。」


そう言いながら、そいつは機から降りて俺の前に立った。


「じゃあ、なんで声かけたんだよ?」

「……君、近いうち、死ぬよ。」

「は?」


俺は固まってしまう。


 新手の詐欺か?え、敵対チーム?

 てか、まじで誰?


 頭の中を色んな思考が飛んで、まとまらない。




「悪い、急に言われてもわからないよな。」


 そいつは苦笑すると、近くにあった樽の上に腰かけて話し出した。


「僕はクロ。占い師みたいなもんだよ。」

「占い師…」


俺はポカンと阿保みたく言った。


「そう、それで、君はもうすぐ死ぬ。」


淡々と、しかしクロは真面目に語った。


「うん、わからない。なんで俺が死ぬの?」

「心当たりはあるよね?」


 俺は頷きはしなかったが、秋崎と上手くいってないことが頭を巡った。言い合いをする以前から、秋崎派による圧で苛立ち、当たったりそのことでも時々揉めていた。現状、二派閥に分かれているが、正直秋崎の方が圧倒的に人望がある。


 もし、秋崎が俺を殺すなら?


「…僕は君が死ぬのはもったいないと思ってね、アドバイスをしに来たんだ。」

「占い師が?」

「僕はただの占い師じゃない。情勢はよくわかっている。」


得意げに、もっと言うなら怪し気にクロは笑った。俺はもう頭があまり回ってなかった気もする。


「何かあったら、全て捨てて迷わず逃げろ。二大トップはいつか片方が消える運命だ。」


そう聞いて、俺が瞬きをしたら占い師はもういなくて、俺は中心街のメイン通りに戻ってきていた。


「え…」


わけがわからぬまま、拠点へと帰った。ただ、クロの言葉は頭に強く響き続けた。


**********

 クロとの一件は夢だったかのように一日が終わり、また一の日が終わった。昨日の言葉を胸に、今日も眠りについた。夜は思考が無駄に回ってしまう。



 秋崎がいくらなんでも俺を殺すと思えない。親友だぞ?意見が割れていても、友情は変わらない…よな?

そんな時、銃弾が部屋の窓を割った。


「まじかよ…」


 窓枠に隠れ、外を見れば秋崎が指揮を執っている。内部争いは勝手にやっても違反にはならない…

それは、UNC内でのルール…これではどうしようもない。俺はすぐに武器を持って、階段を使って屋上へと走った。俺の過ごすこの棟は、かなり長い階段だが走り切れる。


 本当に秋崎が俺を殺しに来るなんて…と思うが、どこかわかっていた自分がいたことも否定できない。

逃げるにしても囲まれているのが屋上から見てわかった。


「秋崎…」


俺は逃げる気も失せた。

親友を殺そうなんて、親友と思っていたのは俺だけだった?


「思ったより、酷いな。」


すぐ横から声がして、俺はぎょっとした。


「やぁ、調子はどう?」


最初に会った時と変わらぬ様子でクロという占い師が微笑んだ。


「う、占い師!」(なんでここに⁉)


そんな驚きもあったが、案外、こいつならやりかねないと脳は理解していた。


「時間がないから、秒で決めろ。ここで秋崎友に殺されるか、全部捨てるか選べ。」


 先程までと一変した占い師の真面目な顔。風に揺らされて見えた青く深い瞳が俺を貫く。

建物が炎に包まれていく。秋崎は此処を焼き払うつもりらしい。まぁそうか…この建物は所詮俺が使うだけの見張り塔。秋崎にとっての必要性は低い…


「俺…あいつにとってはダチでさえなかったのか」


 秋崎が天下を取る、と夢を語って、俺はそれを手伝うと約束した。しかし、そんなものはもうない。親友を失えば、もう俺には何もない。あいつが俺を必要としたことで、俺はこのチームに居続けた。


 あいつは人望があったけど、俺は昔から友達も人望も少なかった。


「しっかりしろ!ここで死ぬ気か?」


占い師は少し必死めいた調子で言い、俺の肩を揺さぶった。


「生きたって、俺はこれからどうすればいいんだよ、ここは捨てられたら生きる価値がない!」


 ここは生き残ったって、一人で生きられるほど安全な場所は存在しない。それはこれまでを生きた俺達には十分すぎるくらいわかっていることだ。誰にも見向きされなければ死んでいくしかない。強くなければ生きる価値さえ切り捨てられる。ただ生きていいとは誰も言ってくれない場所だ。


「君は秋崎以外を知らなかった。だから世界を知らないし、生き方を知らない。」


占い師は淡々と述べる。


「もっと世界を見ろ。このままじゃ、自分の価値が本当に廃って見える」


占い師は、多分占い師じゃない。ここでその事実に初めて気づく。だが、そんなのどうでもいいくらい俺は今、絶望し、炎に迫られていた。同時に、クロに差し伸べられた救いの手に気づくのも遅れた。


「……あいつ以外、俺にはいない。馬鹿だから世界なんてわかんねぇし、知ろうにもできねぇよ。」


 俺は、今まで秋崎に心酔していたのではないか?それがよくわかってしまった。唯一の友達だった秋崎。一緒にチーム作る時も、言い出したのは俺で、あいつはどんな顔をしてたっけ?

俺は、なんだか弄られるようなポジで…あぁ、最初からずっと親友だと思ってのは俺だけだったのかもしれないな。本当に馬鹿みたいな場所にいたようだ。俺はハハッと笑いを零した。

すると「何の為に僕が君に会ったと思ってるんだ?」と占い師が俺の顔を掴んだ。


「言ったろう。君がここで死ぬのは惜しい、と。」

「それがどうしたって言うんだ?救えないくせに!」

「救えるさ。そのために来たんだ。僕は君を攫いに来た。」


そのまま満足げに笑ったクロは俺から手を離すと堂々と屋上の淵に立った。

俺はまた呆気としてクロを見た。


「人の可能性を奪う友人は友人じゃない。ましてや、意見が合わないだけで殺そうなんて、知り合いすら名乗れない。」


その言葉に、俺は涙が出そうになった。たった今、自分を嘆き、死ぬしかないと思っていたのに、クロに言われてそれが俺の存在を肯定した気がした。


「自分の価値を見誤るな。一人と合わないことがわかっただけだろう?」


クロは俺に手を差し出した。


「まずは自分に問うことだな。お前はどうしたい?」


 この手の先に何があるかはすぐに見えた。こいつの言葉一つ一つが今、俺が必要としていたものだと酷くわかる。そのすべてをこいつは持っていた。そして俺に与えた。与えてくれた。


(俺はどうしたい…?)


久しぶりに聞いた自分の声はまだ全てを諦めていなかった。だから俺は、もう迷わずその手を取った。

すると、クロはニヤッと笑って、屋上の縁に俺を引っ張った。


「秋崎!三月は僕がもらう。精々手放した存在の価値を考えるといい」


秋崎の目がクロと俺に刺さった。この距離じゃ、表情の意味を読み取れない。



 クロは、周りが炎なのに、恐れもせず、飛び降りた。俺達はただ落下していて、俺は悲鳴を上げたが、クロは笑う。落下の衝撃を構えたが、俺達は何かに落ちて、クッションのように受け止められた。


「よくできた!」


クロはそんな声を上げ、着地した場所を撫でている。冷静に見れば俺は巨大な鴉に乗っていた。


「え…」

「この子は僕の使獣、鴉のナナだ。僕が作った薬で大きくなってる。」

「お前…」


俺は驚き過ぎて言葉を失った。

深呼吸をして再び落ち着きを取り戻してから後方を見れば、炎が建物を崩していく。


(秋崎…)


「どこまでいっても、どんなことがあっても、思い出は消せないよな。」

「…うん。」


 ちらとクロを見れば、横から微かに見えた瞳は偽りの同情などではなく、心底その痛みがわかるというような悲しい瞳をしていた。もしかしてこいつも似たような過去があったんだろうか。

燃え盛る塔からだんだん離れて行って、北の方へ入った。


「さて、改めて聞こう。君は今何にも縛られない自由な存在だ。これからどうしたい?」


 さっきは新しい世界に飛び出したくて手を取った。生きたいから手を取った。俺はこれからどうしたおいか、それは心にずっとあった。つい先ほど、生きていいと言われた時に。俺の中で自分の価値が、茶柱一本だとしても、確かに立った瞬間に湧いて出た。しばらく考えて、俺は自分の頭を整理するとともに言葉を吐き出す。


「俺は気づいてたんだ。俺は人の上に立つような器じゃないって。なのに、秋崎といたくて、無理して…」


自嘲も含んだ言葉をクロは黙って聞いてくれていた。


「俺はただずっとあいつらと馬鹿みたいに遊んでられたらよかったんだ。それだけで、よかったんだ…」

「そうか…」

「この島じゃ本当に生き辛れぇ。友情もろくに守れない。だから俺は本当の親友がほしいなぁ。弱くてもいい、一緒に騒げるような奴で、そんな場所」

「……ならどうだ?僕のチームに来るってのは。」


驚きの目でクロを見ればまた面白そうに笑っていた。




「僕も色々あるんだが、僕のチームには多分そうやって訳ありばっか集まって、馬鹿騒ぎできる仲間になる。僕も馬鹿騒ぎは好きなんだ。」

「俺強くないよ。」

「一緒に強くなればいい。仲間ってのは一緒に強くなるだろう?」


 もちろん、親友だって一緒に成長していくもんだろうとクロは言った。そんなクロが、俺には急に現れた女神に見えた。脱出の時はただの怪しい奴だったのに、欲しい言葉をくれる、全てを見ているような、そんな見透かされたような俺にはどこまでも遠くて、どこまでも信じたくなるような心を見た。


「そう、だな。」

「勧誘しといてなんだけど、僕の行く道は地獄行きだ。だから安々おすすめはしない。他にもきっと君ならいい場所を見つけられると思う。ちゃーんと僕はその辺のツテもあるから責任取るよ。」

「あんたは俺を買いかぶりすぎだよ。どんだけ高く見積もっても、俺はそこまで人気になれるもんじゃない。地獄に行くくらいが丁度いい。」

「奇遇だな。僕はきっと地獄に案内できるよ。」


 秋崎は確かに俺の友だった。だけど、友ではなかった。こんな場所じゃろくな友情はなくて、友愛なんて夢物語だとさえ思ったけれど、一瞬にして希望をくれたクロなら対等に、友達にだってなれると思った。


「案内人さん、この島に来た時点で地獄と変わらない。だから連れってくれよ。」


俺は自分で言って笑ってしまうほど真っ当な言い当てだと自分で思った。そして地獄でもクロとは仲良くやれそうだと思ったら、笑いは顔にしっかり出ていた。


「ド正論だな」

クロも笑って、ついに布を取った。


「僕は鬼波零斗だ。三月、ようこそ鬼呪一天へ。」


そこで初めて本名を聞いた。偽名だとは思っていたが、まさか…


「え…まさかあんた四天王の…」


驚きは脳内で完結しなかった。


「生存はまだ秘匿だ。だが、四天王なのは間違いない。樹炎四天王無神のレイだ。」


内緒だぞ、と片目をつぶって笑ったクロ改め鬼波零斗は噂よりもいい人間だった。

俺はその正体に叫ばない代わりに倒れた。


***********


 それから俺はあの鬼波零斗の仲間になった。噂ではチームを組んでいた他の四天王を裏切って殺されたと聞いていたが、俺への態度の限り、到底裏切りをする人には思えなかった。


 一週間ほど手続きの書類などの作業を手伝い、レイの仲間第一号として俺は強さを試されるテストも受けた。レイはすべてにおいて俺に勝っており、圧倒的な強さを見せた。四天王の名は伊達じゃない。だけど、俺は俺が思っていたよりも実はいい腕をしていたらしい。お遊び感覚だった水鉄砲は、実は他にない威力を有しているらしく、レイは俺を褒めてくれた。他にも俺の長所を見つけては褒めてくれ、ついつい用意された訓練をどんどんこなしてしまった。


 二週間目には任務ということで、俺はわくわくしていた。この時にはもう一人仲間にしているらしいが、まだ俺は会ってない。


「レイ、今日からの任務って?」


俺は荷物を持って、レイの部屋に入った。

一応、任務は潜入だと聞いているが、どこでどんな目的かまでは聞いてない。


「君には願零魂への潜入を頼む。丁度、スナイパーをお求めらしい。」

「潜入…」


俺は緊張が筋肉を固まらせた。


「大丈夫だ。なにかあれば、必ず助けに行く。」

「その心配じゃなくて、俺が上手くできるかの心配で…」


そう言うとレイはそんなことか、と笑って俺を見つめた。


「君にしかできないから任せてるんだ。自信をもってくれ。僕のスナイパーさん。」


俺は頷いた。そう言われてはやるしかないな。


「王のご期待に添えるよう頑張ります。」

「王?」とレイは首を傾げた。


「レイは俺を救った友人で、俺が唯一忠誠を誓う王様。あんた以外に忠誠を誓わない。」

「友人に大層な肩書を貰ってしまったな。なら君は僕の騎士か。期待してるよ。」


 レイは満足げに笑ってくれた。救われた日から俺の王は輝いている。秋崎の刃が、俺をレイに引き合わせてくれた。そこだけは秋崎に感謝している。

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