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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
17/93

 5月2日―北舞台


 北の方にある、少し開けた場所で盛り上がった土地がある。タイマンや管理人主催のイベントでよく使われる場所で、UNC達の間では北舞台と呼ばれている。


そこが今回の戦場だ。




鬼呪一天の面々はレイとクル以外全員面をし、レイの後ろに並んでいる。




「やぁ、レイ、元気ー?」

「おかげさまで、全快してるよ。」


レイは反対側にいるソウへ睨みを効かせて言う。ソウは物怖じもせず堂々立っていて、レイの睨みの効果はないようだ。むしろ、喜んでいる気もする。


「楽しみで仕方ないよ。もう始める?」


予定の開始時刻より、現在時刻はまだ早い。


「僕は別に構わないよ。さっさとケリを着けようか、ソウ。」レイは舞台の中心へ立つ。


「いいねぇ。やっぱレイだ。」


ソウはステップを踏みながら進み出た。今のところあの目には狂気に似た喜びしかない。


戦闘狂と呼ばれる所以はあそこにあるのかもしれないが、レイの語った過去のソウはそこまで狂った様子ではないし、俺の印象としても、なんだか戦闘狂と言われる像に違和感さえある。違和感はあるが、確かな狂気もあの目にある。レイ同様、よくわからない人物だ。





 緊張が高まる中、両者だけは緊張に囚われておらず、レイは微かに微笑み、ソウは鼻歌を歌っている。


「レイ、組手でいいよね?昔みたいに。レイも能力が発現したわけだし、俺に強くなったこと、証明してよ。」

「わかった。武器は互いに部下に預けよう。うっかり使いかねない。特に、そちらは。」


レイはそう言って俺に鉄パイプを預けてきた。突然投げられたそれに驚いて、落としかけたがしっかりつかむ。


「いいけど俺のこと、少しは信じてくれてもいいんじゃない?ま、仕方ないかー。」


ソウも武器を預け、改めて舞台で対面する。すると、ソウが腕時計に目をやり、カウントを始めた。


「じゃあ、00でスタートしようか。」


レイも腕時計に目をやり、確認すると深呼吸した。




 57…58…59…00




 一回の瞬きで二人は駆け出し、次に目を開けば既に拳と蹴りが交わっている。ソウは顔面を狙い、レイは足崩しを狙ったが、互いの狙いは失敗に終わる。失敗しても次の拳が、蹴りが向かう。


いつの間にか、互いの背に氷と鋼。同時に壊し、また拳を放つ。


「昔よりやるじゃん、泣き虫。」

「弱くなったか?戦闘狂。」


手を止め二人は睨み合う。けれどその口元は相手への感心を漏らしている。


合図はない。二人はただ、氷と鋼を、拳と蹴りを。ぶつけ、壊し、当て、避けてまた交わらす。

片方が傷を作って、片方が切り傷を付ける。繰り返し、繰り返し、傷ができてく。




**********

 一角で真壁は仲間を従えて時を待っていた。当然真壁には、ルアを切り捨てソウのとこに来てもお仲間ごっこをする気は更々なく、己の目的のためにまた一人消そうという考えである。


「どうしますか?真壁さん。」


部下が指示を待つ。用意は完璧のはずだと自負している。


「まだいい。…もう少し待て。」


真壁は眼鏡を押し上げ、興奮するこの状況にポーカーフェイスを装いながら、隠す。


まだ気づかれてはいけない。上手くいけば、邪魔を二人とも消せる。そう思うと、やはりこの興奮を抑えることはできない。





*********




 どのくらいやったか…多少息切れしてきた僕ら。あぁ、こいつも息切れするのか、なんて思いもするが、それよりも心のどこかで同じ舞台に立ったのだと実感し、安堵している自分がいた。

距離を取った。黒い前髪の隙間から、グレーの瞳が僕を見た。


「おい、レイ…お前…変わったか?」


息切れしてきたソウの口元には微かに楽し気な笑みが見える。


「今も昔も変わらないよ…僕も。」


またソウが動いた。僕も合わせて動き出すけど、ソウの意識は他へ向いてるって、ずっとわかってた。






「今だ。よく狙え。」


二人とも息切れしてきて、集中が切れかけている今ならいけると思った。この一撃で成功させる。


「了解。一~八、構え。」


真壁の指示で中心の二人の方へ銃口がひっそりと向けられる。そのまま片方へ集中していく。


「撃て」







 視界の端で鈍く光った黒。その正体は知っている。俺は来たか、とレイを庇う。レイは驚いた顔をしたまま、俺の胸の中に収まった。

案外華奢で小さい。俺はさらに周りを鋼で覆って鉛を吸い込んだ。銃撃が止んでからすぐさまレイを放す。


「レイ、大丈夫か?」

「あぁ…」


状況理解の早いレイは、何も言わずに仲間の方へ目を走らせた。どうやら何かあるらしい。


「なーるほどね…レイはあれが狙いだったわけだ」

「そういうお前こそ、ここであいつを潰す気だったんだろ」


俺が目にしたレイ側の動きは、レイの仲間がレイのピンチに動かなかった理由を教えてくれた。道理でレイに意識を向けてる奴が津宮と狐面の野郎だけだったわけだ。


「お互いいい方向にもってけんだろ?」

「全部終わってから言えよ。目の前に残ってんぞ。」


俺はそうだったな、と真壁の方に目を向けた。




「ソウ、なんでだ⁉」


真壁の声が響いた。悲痛とも言えるが、俺にはどこか演技染みた声に聞こえた。


「なんでも何も俺は昔からレイの味方だ。」


今までのものは全て演技。一気に雰囲気が変わった俺に少なからず真壁は驚いているように見える。

だが、「……なんてな。」とすぐに真壁の顔が歪んで下衆らしく笑った。


あっちも演技だったか…。


「ハナから俺の狙いはお前だ。」


真壁は言い切る少し前に手を振り下ろし、仲間に合図を出した。

俺は再び鋼を展開するが、放たれた弾が赤いことに気付いた。あれは熱弾―鋼が貫かれる―展開は間に合ったが焦る。あいつがそれを用意してたことは予想外だ。

全部当たったら、鋼は意味を成さなくなって俺が撃たれる。今から避けるのは間に合わない―死





「ソウ‼」






 レイの叫びが俺達に届いた。任務中だった俺達の意識は戦場に引き寄せられて、鬼呪一天の面々の誰もがレイの方を見る。


煙たい戦場に、氷が打ち上がった。


合図だ。レイがあいつと俺に出した合図。


そっか、やっぱりレイは、レイ達は特別なんだな、と俺は俺に課せられた役をこなす。






 空高く氷を撃ち上げた時、また三人で笑えるか?そんな甘い考えが頭を過った。僕は甘いな、と自嘲してしまう。けれど、どんなに仲間ができたって、あいつらの存在は変わらないから。またお人好しの甘ちゃんだ、と笑われてしまうだろう。それでもいい。今はそれを願わせてくれ。死なせたくないんだ。失いたくないんだ。だから、また三人で笑おう。




**********


 「殺ったか?」


煙が晴れて、ソウが立っていたとこが見えたが、何も見えなかった。


正確にはそこには誰もいなかった。抉れた地面があるだけで、ソウも、ソウを心配して駆け寄ったはずのレイもそこにはいなかった。血すらないように見える。


「どこ行った?」


その直後、後ろに殺気を感じた。すぐさま、前方へ転がって振り返れば、レイが俺に鎌を振りかざしていた。空を切ったが、その圧は避けていなかったら確実に命を狩っていた。


「レイにしては…殺気がだだ漏れだな。」


こいつの殺気隠しは俺の知る中であいつよりも相当上手い。だが今はそれを知らないとでもいうように溢れている。


「ソウはどこだ?」

「…ここだよ。」


唐突にレイの横の空間が歪んで声が響くと、ソウが現れた。あり得ない。あの空間がこの世に存在することは―


「あり得ない…嘘だ…!」


どうしてあるんだという言葉が出かかった。だがこれを言ってしまえば、レイが生きていたとわかった時と同じように、自分達の計画の失敗を認めることになる。

俺がそう思ったところで、レイは「嘘じゃないぞ。」と現実を押し付けてくる。

やっとわかってしまった。あの時から俺は踊らされていたんだ。ポーカーフェイスが崩れかけた俺にレイは淡々と続ける。


「とんだ誤算だったろうな。でも君が悪いよ。君は僕らを甘く見ていたんだ。」レイが笑みを浮かべた。


また、空間が歪んだ。その歪んだ場所へレイは笑みを向け「なぁルア。」と声を投げた。


歪んだ空間からすっと現れたのは、あの時レイに殺されたはずのルア。手には狐面を持っている。俺はその狐面を知っている。知っていたのに、気づかなかった。気づけなった!


「生きてたのか…!」


ルカとレイの戦いでも、管理人の襲撃の時も鬼呪一天にいた正体不明の狐面はルアだった。俺は一切それに気づかなかった。


「僕がルアを殺すとでも?残念だったな、僕らの絆は君じゃ壊せない。」


レイの声が腹立つほどに頭の中で踊っていた。




 こいつらは俺を騙していた。ソウは俺を騙し続けていた。戦闘狂の馬鹿だと侮っていた。

でもいつレイがちゃんとソウと話す時があった?


手紙の内容もソウの行動も俺は見張っていた。話す隙はなかったはずだ。話しても、あれぐらいは何も話せていなかった。盗聴していた限り、変な会話はなかった。他にも監視はしていたが、怪しい様子はなかった。そもそも俺はレイをちゃんと嵌めて二人と分けた…一人にした…




「種明かしは君にだけはしてやらないよ?僕のすべてを奪った君には全てを聞かせて貰おうか。」


構えたレイに俺は反撃を仕掛ける。


「…殺れ!」


しかし、俺の叫びに誰一人反応しない。後ろを見れば俺の仲間は、鬼呪一天の連中に取り押さえられている。


「い、いつの間に⁉」

「僕の仲間は優秀なんだよ。裏切り者を除いてね。」


レイは悲しそうな目を津宮に抑えられている裏切り者に向けた。


「残念だよ、三月…」


近くに面の割れた破片を散らした三月は困惑と絶望を混ぜた顔で俯いた。





**********

 俺達に任せれた任務はきっちりこなせた。真壁の部下達は確保したし、裏切り者と判明した三月も捕らえた。レイはあの作戦会議で、三月を潜入先に返した後、三月以外を集め直して裏切り者の話と、真壁の動きについて話した。その中で可能性として、真壁が銃火器を大量購入した話を出して、銃に警戒するよう言った。だから俺達は、レイとソウが戦っている間、紘の作ったホログラムで真壁の正反対にいるように見せかけた裏で、真壁の発砲隊の後ろに潜伏して、レイの合図とともに制圧した。また、三月に関しては、俺が鬼呪一天の陣営にルアと紘と共に残って見張り。不審な動きをした時点で捕獲。




 レイへの報告も済んで、真壁も拘束した。真壁は観念したように大人しくなったので、俺達は後片付けを進めていた。皆意識が散っていたからかもしてない。


「なーに諦めてんの?」


何処からともなく、真壁の前に黒髪の少女が現れたのに気付かなかった。それだけでなく、少女が現れた直後、数十の人が沸いて出たのだ。


レイも自分が気づけなかったことに大層驚いていて、一瞬フリーズしていた。


「さぁ、逃げるよ。」


少女は顔を上げた真壁を引き、空中へ泳ぐ。そんな様子を持て、現実に彼らは引き戻った。


「待て!」


俺はレイのその声でハッとなって現実に意識を戻す。

レイが少女たちを引き留めようと氷を展開させたが、黒い炎でそれはかき消される。


レイの氷は簡単に消されない。同等か、それ以上の力。レイは消されたその現実も信じられなかったようで、珍しく動揺が表に出てきた。


「待たない。待つのはレイだよ?待っててね。次会う時は連れてってあげる。」


そう微笑む少女にレイは顔を強張らせていた。

少女は真壁の拘束具を焼き切ると、呆然とするレイ達を無視し、真壁を連れて消えてしまった。




 




 数十人は行方不明だった夢願破心のメンバーがほとんどで、鬼呪一天のメンバーは、不意討ちによって傷ついていく。今回は全員揃っているが、それでも鬼呪一天は数が多いわけではない。一度、戦いが終わったことで集中力が切れた今の彼らには、戦い抜ける気力があるか怪しい。


「レイ、どうする?」


レイはクルの問いに暫く答えられずいる。

自分でもわかる欠点は、仲間が傷ついていくと冷静さを欠いていくことだ。わかっていても、すぐに治ることはない。だからこそ、冷静でない頭でも必死に回すのだが―


 そんなレイにルアがポンッと頭を撫でた。髪が乱れないような優しい撫でつけ。ルアは昔からそう撫でる。その隣には試すような、しかし懐かしい優しい目のソウが立っている。

単純だろうが、急速に落ち着いていくのが自分でわかった。一呼吸置いて、レイは言葉を吐き出す。


「…クル、君らを撤退させる。拠点に戻ったら、皆を頼む!」


「レイ⁉」


そんな決断を下すと思ってなかったクルは嘘じゃん、と止めようとするが、クルは真っ先に消えた。

ルアの転移だ。


 レイは無線を繋げて、拠点に送られたクルに「心配すんな。僕にはルアとソウがいる。」と言った。

反論が来る前に無線を切って後をルアに託した。ルアは頷くと、転移で仲間だけを拠点送りにする。

クル達が消えたことで相手の標的は残っているレイ達に向いた。



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