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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
16/93

約束

 春が徐々に景色を夏に向けて変えるより先に、一枚の手紙が戦争ことを告げた。


梅雨空の暗雲の中で重く垂れ込んだ空気に緊張をもたらしたものであり、酷い雨が降り出す頃には、その手紙がすっかり悲しい過去への切符になり下がったように思えた。





レイへ


 そろそろ完治しているよね?全力のお前とやらなきゃつまらないから、大人しく待っていたよ。

5月2日、午後4時北舞台で待つ。俺もお前も無駄な死人は出したくないだろう。

だから、俺とお前のタイマンでケリを着けよう。


俺が勝って、お前が死んでもお前の仲間には手出ししない。俺は昔から変わらないから。

ま、俺からはとしか言えないけどな。

お前はこういうの、逃げたりしないって知ってるから敢えて言わないよ。


もう一度言う俺は昔から変わらない。お前が嫌いだよ。レイ、速鬼邪天の俺と最初で最後の殺し合いだ。


             ソウ




 レイは手紙を読み終えると机に投げ置き、天を仰いだ。


「……馬鹿だなぁ。遅いよ…ルアも君も。」






**********

「さて、先刻急に呼び出してすまなかった。速鬼邪天から手紙が来たんだ。」


 レイの緊急招集の時点で、集まった幹部一同はある程度覚悟していて、手紙が来たことには驚かなかなった。緊急じゃない限り、レイが彼らを呼び出すことはほぼあり得ないことなのだ。


唯一ルアが「ソウから⁉」と、不安そうな顔をする。


「ソウは僕とのタイマンでケリを着ける気らしい。だから、お前らは大人しくするようにって話だ。」

「「は?」」


 一気にセコム勢は立ち上がり、何か言わんとばかりにレイを見た。その様子を見て、レイは溜息を吐く。なんとなく反対されるのはわかっていたから気することはないが、こうもセコム勢の存在があるとたまに、面倒に思ってしまうと前に零していた。


「全員人の話は最後まで聞け。」レイはたしなめると、一息置いた。


「君らは別件をこなしてもらう。僕とソウが戦っている間、真壁が大人しくしてるとは思えないからな。」


「作戦案はあるんだな?」


 ルアの問いにレイは強く頷いた。レイとしては十分に考えたつもりだろう、なにせ相手は邪神のソウ。下手に相手どればレイでも厳しいのではないか、と思う。レイは前に言っていた「ソウは強いやつだ。」と。俺が知る中で、レイが素直に強いと認めていたのはソウだけだ。


 また、十分な作戦でなければ俺達は総長のタイマンを素直に認められない。相手側に真壁がいる以上、向こうが卑怯な真似をしてくることは有り得るし、何より、戦闘においても過保護な奴は過保護なのだ。


 セコムを納得させて、タイマン勝負を実現させる。ルアは特にソウ相手ならなおさら心配しているだろうから、よく考える必要がある。かくいう俺も、いつものように突っ走るようであれば止める気だ。



「ソウに対する策はあるが、真壁もいる…あいつは手駒を増やしているに違いない。作戦は各隊に後で伝達する。少しまとめる時間がいる。」


レイは何故かここでは言わなかった。いや、確かに考えあるならセコムも引き下がるけど!

いつもならさっさと用意して突っ走る気満々だから、ちょっと今回は何か違う…?




 一通りの会議が終わった頃、ルアがレイの元に進み出て「レイ…」とどこか遠慮がちに名を呼んだ。


「ルア、大丈夫だ。僕は負けない。」


レイはルアが己の心配をしていると思って、安心させるように微笑んだ。


「そうじゃないんだ…」


レイは不思議そうな顔をしてルアを見つめていた。どうやら何かをわかってないらしい。

ルアはそんな様子のレイを見、地面を見て微かに笑うと、「いやあとでいい。」と下がった。

そう言うルアはどこか苦しそうだ。それもそうか。ルアからすればソウもレイも等しく大事なんだろうから。たとえ、敵対しても、その裏にあるのは彼らにしかわからない。






 ソウは忘れてしまったんだな。


 俺とレイは生まれてすぐUNC判定を出された一次UNCな上に、奇跡的に俺とレイの間に判定を受けた奴がいなかったために、同じ一次保育担当だった。だから俺とレイは誰よりも長い付き合いで、管理人の元で育った。生まれて間もない頃から一緒だった俺達は、兄妹のように育った。


 そんな俺達に加わった、同じく一次UNCのソウ。俺達はほとんどの時間を共に過ごし、ソウは俺の相棒だった。レイは親友というより家族的な思いが強かった。なにせ、気づいた時には傍にいて、三歳頃までは本当に兄妹だと思っていたから。ソウとレイは仲良しというかなんというか…まぁ俺達には確かな絆があった。二人を止める俺。何かやらかすソウ。乗ってしまうレイ。そうやって何となくバランスが取れていた。




 年を重ねて、男の俺達とレイでは力差は現れていった。元々、レイは決して強いわけではないから、俺達二人に守られていたのだが、島に入って、一緒に戦うようになってもレイは守られるということが多かった。レイは昔から不満気だが、仕方ない。


 俺達は別に一緒に居られるならどんな形でも良かった。レイを守ってばかりでも気にしていなかった。

でもレイは、それで納得するような奴じゃないから、必死に強くなろうと、毎日誰よりも鍛錬をしていた。


 だから、いつしか並の奴よりは戦えたが、突飛しているわけじゃなかった。それにも関わらず、レイは負けず嫌いと、強くなるという一心で四天王にまで這い上がってきた。発表された時、俺とソウは誰よりも驚いた自信がある。同時に、誰よりも喜んだ。


「まさかレイも四天王入りとはねぇ。」


四天王発表後、レイは俺達に報告すると、四天王として管理人の元に挨拶に行った。

四天王は選ばれたら一度管理人に会いに行かなければならないのだ。


 俺達は帰って来るまで先に祝杯を挙げて、ヴィーリーを二人で飲んでいた。


「流石俺達のレイだな。」

「まぁそうだな。」


乾杯の後、俺はヴィーリーの代わりにソーダを飲む。


 驚きを過ぎれば、今後も一緒にいれるという事実が俺達は嬉しかった。四天王でなければ、どこか周囲の目が厳しく、様々な行事でも何かしら駆り出される四天王ではどこか離れてしまいがちになりかねなかった。そうなれば俺達の見れる範囲を飛び出て、レイを快く思わない奴らにリンチにされるリスクもあった。だが結果として、レイは四天王になったために、下剋上で狙われること以外あまり心配がなくなったのだ。




俺達は過去を語らいながら笑い合う。


「賢神、邪神、無神…性格まで現れてるよな。」


フッと俺は零した。一神に至っては特にそう思った。


「でも俺、心配だな。レイは確かに、認めるとこはあるよ?だけど、レイは四天王の中で弱い。口も上手くない。純粋過ぎるしね。悪く言えば単純。この先戦ってけんのか…」


やれやれ…という風に言うソウに俺は笑ってしまう。


「ソウ…心配症だな。」

「おまっ…笑ってってけど、お前が一番レイに甘いし心配症なの知ってるからな!」


レイは俺にとって妹で、姉で、半身のような存在だった。同時に一番の心配だ。


「まぁな。心配はするが、俺は誰よりもレイの可能性を信じてる。」

「は?俺のが信じてるし?」


張り合ってくるソウはレイのこととなると一層わかりやすく張り合ってくる。


「はいはい。ほんと、ソウはレイが好きなんだなぁ。」


ニヤつくルアにソウは耳を赤くした。


「べ、別に好きじゃない。」


ソウは慌てたせいで、手に持ったグラスからヴィーリーを少し零した。


「わかってるって。でもまぁほんと、レイは危なっかしいから心配だよな。」

「うん…」


俺はソウに小指を立てた。


「ソウ、男同士の秘密の約束だ。何時でもレイを信じ、守る。」


ソウは強い瞳で頷き、小指を絡めた。


「あぁ約束。ルア破んなよ。」

「ソウこそ。」




 何時だったか、そんな約束をし、俺達はあの日まで守り続けた。今じゃ、ソウは破って…って先に破ったのは俺だけど。そうか…今思えば俺達の絆を壊したのは二人じゃない。俺自身だ。ソウは…。


俺は気づいてしまった。


そしてソウに謝ることなく、ソウの前から消えた。この戦いでレイが勝てば、ソウはレイに殺される。最後の戦いだからな。せめて、一言言いたかった。でも俺は死んだことになっているから言えない。


俺はこのままでいいのか?


「おい、ルア?」


レイに呼ばれて、ハッと我に返った。


「大丈夫か?」心配そうに俺を覗く青い双眸。


「あ、あぁ大丈夫だ。少し考えてて…」


昔を思い出していたら、そのままぼーっとしてしまっていたらしい。


「そうか。幹部会は終わった。話あるなら聞くけど?」


周りはもういなくて、会議室に残っているのは俺とレイだけだった。


「…あ」


 言おうとしたのに、俺は言えなかった。自分が絆を壊したことに気づいたから。怖くなって言えなかった。言葉が出てきてくれない。話してしたら、許されない俺なのに、そう考えていたら、余計何も言えなくて。


誤魔化しの言葉も出て来ない。それを見兼ねたのか、レイは黙って俺を自室へ連れた。




 レイは俺をソファに座らせると、反対のソファに座った。


「話したくなったら話せ。僕はどんなことでも聞いてやる。」


こういうというところがレイの姉貴らしさだ。


 俺は迷って、しかしあの青い双眸に貫かれ、すこし話し出した。すると思ったより言葉はするする流れるように出てきた。レイに問われて黙っていられなかったのもある。いや…正確には黙っていたくなかったのかもしれない…。俺とソウがかつて交わした約束も、レイに対する心配も、あの事件の時の俺の判断の結果も、全部、全部ぶちまけた。


気づいたら泣いていたことにレイは触れないでいてくれた。




 全て語り終えるとレイは静かに微笑んだ。その微笑みにどれだけ救われたか。


「お前は何も壊しちゃいない。僕らの絆は壊れちゃいない。」


俺より傷ついたはずのレイが、そう言ったことに驚いて固まっていると、レイはソウから来たという手紙を俺に見せた。


―もしも、なんてありはしないが、俺がレイと居続けていたらレイは壊れず、俺達は今も三人一緒に笑っていたかもしれない。今からでもあの頃に戻れるだろうか。




 僕は罪を背負う。




 俺は自分の罪を知る。




 俺は罪を見ていた。



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