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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
13/93

春前事件

 年明けから間も無く…平穏だった島の朝は早朝から島内に警報が鳴り響き出したことで掻き消えた。


 この警報は、平和中立連合が非常時に発動するものだ。多くの人間がそれによって起こされただろう。

僕は警報が鳴る前から起きていたが、静かな朝の時間が壊された感覚だ。




『島内に管理人数十名が侵入、無差別に私達を攻撃しています。戦えない人の避難も済んでいない状態で被害が出ています。各グループへ中心街の救援をお願いします。』


 全体放送でかかったラジオ。切羽詰まった声は確か、平和連合のあの冬月だったか。一度だけ会ったことがあるが、常に余裕そうな顔をするタイプの人間で、ここまで焦った声は初めて聞いた。

ともかく、僕は個人の通信機で中心街を治めている平和中立連合へ無線を入れる。


「こちら鬼呪一天総長。ドローンにて、北の海上に管理人の船を確認、鬼波零斗一人で対処する。そちらは北以外に専念せよ。応援も送る。」


 鉄パイプを持って外へ出る。何故管理人が攻めて来てるのか考えるより先に、鎮圧を先行すべきだと思い、今は余計なことは忘れることにした。外には警報を聞いて、既にメンバーが整列しているので、すぐに指示を出す。


「戦える奴は平和中立連合の応援へ。駒場、紘、ルアは拠点に待機し、随時情報の伝達を任せる。応援先での指示はクルに一任する。」


 クルは少し驚いたように表情を崩したがすぐに、副総長としての責を全うすべく、覚悟を決めた顔になる。


 年が明けてから、クルには割と任せられるようになってきた。出会った頃はあんな弱弱してたのに、本当に成長したと思う。人は一年であんなに成長するんだな。




 クルが僕に心配そうな目を向け続けるので、逸らすように隣のルアに目を向けた。


しかし「レイは?」とルアはルアで何を考えてるんだと疑ってくる。

観念して言うしかないだろう。だからこそ、はっきりと言ってしまおう。


「僕は北で管理人共と交戦する。先に言っておくが、誰も来るな。」


メンバーの不安そうな顔を無視してレイは散開と号令を掛けた。





 僕は巨大化した使獣のナナに飛び乗って、北港の方へ行く。


『レイ、聞いてるか?』


「聞いてる。」


ルアからの無線、無視するとこっちに来てしまいそうだから一応応答する。


『北は一番多い、一人なんて自殺行為だ!』


どうやらお説教の為の無線らしい。いつまで僕をあの頃のままに見るのか知らないが、もう少し信じてほしいと内心思う。まぁ一理あるのは否めないのだが。


「ルア、誰もこっちに寄こすな。僕一人で十分だ。」

『レイ、いくらお前でも…』

「ルア、総長命令だ。被害を最小にする。」


 いやルアは僕の実力を十分わかっている。ただ単に心配なのだ。僕が無茶をするのも一番知っているから。だけど、だからと言って一番の危険地帯に仲間を呼べば、あの人を呼べない。今回の事件、あの人を呼んだ方が早く解決できるし、被害を抑えられる。そう考えれば、僕一人で来るのが正しい。


『…レイ‼』


ぶち、と無線を切って、僕は違う所へ繋げた。

しばらくノイズが鳴っていたが、音が鮮明になった時、舌打ちのような音が入った。


『誰だ?これはUNC管理人の内線だ!』苛立った声。


当然だろう。今はきっとたくさんの報告で溢れかえっている。それでも僕は恐れず呑気に続ける。


「僕だよ、兄貴。」

『なんだ、お前か。悪いが今は忙しい。』


僕だと知るや、相手は溜息を吐いて声が少しだけ柔らかくなる。


「知ってるぜ。やべぇんだろ?何十人もおかしくなって消えた。」


笑っている僕には兄貴のムッとした表情が想像できた。


『正解…お前が知ってるってぇと、もうそっちいんのか?』

「正解。兄貴にしてはよくわかったな。」


溜息が大きく聞こえて、落ち着いた声が聞こえた。


『一応聞いておくが、一人じゃないよな?』


兄貴も僕を心配してばかり。だが、僕はもうそこまで子供じゃないんだよな。


「僕?今はボッチちゃんだよ、さっさと回収に来てくれよな。北、北西、南、南西に出現してる。僕は北だよ、勝井虹奇団長。」


僕は視界の奥に黒服の集団を認めた。

頭がおかしくなった行動でも整列はしてるし、ばっちり装備をしているようで…まるで人形のようだ。

整列した状態で上陸してきている管理人は徐々に進行している。よくもまぁ崖を登って来たものだ。


『それで呼ぶのは止めろ、お前に言われると恐怖でしかない。』


僕はそろそろだな、と表情を硬くした。


「僕のチームの連中が殺さないことは保証してやっけど、他は知らんよ。」

『ま、今回はこっちの責だから何とかなる。』

「そ?じゃあ僕はこれから軽く二十人やるからよろしく。」


ナナが降下し始める。僕もゴーグルを外して戦闘準備に入る。


『おい、お前正気か⁉じゃじゃ馬娘!一人は―』


それも途中で切ってやる。

無線自体の電源を落とし、戦いに集中することにした。その直後、ナナの上から飛び降りて、空中から管理人に氷の雨を降らせた。特性の爆弾仕込みだ。



煙が晴れてきた頃、着地すると同時に銃撃された。氷で防ぎつつ、相手を見れば、誰一人傷ついていない。


「流石は管理人様の特性装備。すべてに対策済みってわけか。」


僕は苦笑いをして空中へ飛ぶ。




 対UNC破壊銃。UNCにのみ効力を発揮する特殊な植物由来の毒が練り込まれた銃で、その毒は能力を使用不可にするだけでなく、UNCの体を痺れさせるという効力もあるらしい。ただ、個人差はあるようで、当たっても動き続けられる奴もいるし、能力が弱まるだけで済む奴もいる。とはいえ、能力頼りで戦うようなUNCにとっては普通の人間と同じにさせられるわけで、管理人からすれば、UNCを容易く殺すことができる代物だ。しかもこれ、銃としての殺傷能力もかなり高いものでかなり厄介だ。


 僕はそれなりにその銃への対策を幸いにも知っているので、事前に対抗薬を摂取している。だが、完全には防げないのはわかっている。どのみち面倒な銃だ。


あの天才先生様はあれから研究を進めて改良してるらしいしな。気は抜けない。




「はーほんとその銃ムカつくよねぇ。」


まぁ僕に当たって効力を発揮したところで、長年能力無しとして戦ってきた経験値のおかげで使えなくなったって戦える。麻痺効果に関しては実験のおかげで慣れきってる。


銃弾だけ体内に入り込まなきゃいいか。

僕は鉄パイプを構えると、体を捻って銃弾を躱しながら突き進む。


「さぁて何人やれるかな?」


空中を捨てて、戦渦へ身を投げた。





**********

 南西―


 「大人たちがやってきたよ~さぁ丁重に礼儀正しく迎えてやろうぜ。」


 ソウの合図で銃が放たれる。管理人達からも鉛玉のプレゼントが贈られるが、彼らのプレゼントは鋼の壁に阻まれる。跳弾で管理人に返るものもあるが、管理人の装備もそう簡単に銃弾を通さない。跳弾なんてお構いなしに撃ち続ける。


その銃撃戦の中ソウはただ一人、斧を持って駆け抜けて行く。


「相手は十と数名…とっととお帰り願おうか」


斧を一振り―鋼の蔓は管理人に真っ直ぐ伸びていく。





**********

 西―


 平和中立連合副代表・冬月亜依は戦況報告を待っていた。その表情には不安と焦りが募っている。


「冬月様。」

「佐和っ。」


冬月の補佐官・青葉佐和はフクロウの姿から元の姿へと戻る。


「北西は鬼呪一天の方々が加勢してくれています。私達は西へ集中すべきかと…」

「そう…」

「北西は西より多いですが、数名の鬼呪一天の方たちのおかげで優勢です。」

「ならあとは北…」

「先刻、無線で鬼呪一天の総長がお一人で対応する旨をうけており、加勢は不要と言われています。」


冬月は徐々に落ち着いていく。あの人なら一人で問題はさほどないだろう。むしろ、加勢してこちらが巻き添えをくらう可能性の方が心配だ。


「佐和、私たちは西へ行くわよ。」

「了解です。」


冬月は猫になって、再びフクロウになった青葉は猫化した冬月を乗せた。






**********

「あと何人…?」


今までに八人は倒したと思う。目まぐるしい変化だらけで、何人倒したかの正確な数はわからない。


 八人倒すのにこの様だ。管理人の強さは伊達じゃない。能力はもう上手く使えない。恐らく数発が体に入ったままだ。下手に使うよりは使わない方がまし。そう判断してもはや鉄パイプを武器に振り回しつつ、相手を蹴散らす。幸い、こいつらはあまり頑丈ではないらしい。


管理人は毎日、UNCに対する訓練を行っているんだったか?確かそう聞いた気がする。

更に殺さないように戦うことが僕を不利にする。

殺そうとして戦う方が何倍も楽だろうな、と一人倒して笑った。





**********

「チッ。」


勝井は切られた無線を投げ置いて部下を呼び出した。


「団長全て整っております!」呼び出された部下は敬礼して、上司の指示を待つ。


「すぐに出発だ。北へ向かへ。徐々に南下して仲間を回収していく。UNC達には無暗に手を出すなよ。」


勝井は、俺は先に出る、と部下に告げてプライベートヘリに飛び乗った。


「全く…あいつは…」


深い溜息を吐くとともにヘリは上昇していく。





**********

拠点で紘はモニタールームからドローンを飛ばし、レイの場所を探す。

やっと設備が整い、レイの裏ルートからの材料調達によってドローンの性能は格段にあがった。

今や拠点から島中をドローンで見ることができ、今現在レイの戦う様子も見れる。


「レイはすごいよね、こんなに管理人を倒してる…」


 他の場所の様子も見てはいたが、一人で二十もの管理人を相手取る様は他より目を惹いた。紘もそうだが、一緒にいていたルアの心配もあったかもしれない。

俺は目を輝かせる紘の横で、画面を見ながら何となく罪悪感を持った。

あの日の事件以降姿を消し、何年越しかの再会でのレイは変わっていた。昔のような笑みはなく、あの瞳の奥には何かが宿っている気がした。度々思う。“アイツ”なんじゃないかって。


“アイツ“の正体はレイなんじゃないかって。そんなのを生み出したのは…

レイは十何人目かの管理人を倒し、鉄パイプを杖のように前を見据えた。


流石に一人での限界だろうか。ボロボロになっても、絶対に倒れない姿勢にはいつも驚かされる。昔のレイなら考えられない。俺は画面から目を逸らし、転移した。





**********

 あと一人倒せば終わるという時、UNC管理人の見知った人物が現れたのに気づいた。一気に気が抜けて、膝を着いてしまった。久々に直接見るそいつは伸びた髪を団子でまとめているらしい。よくみると、サイドのあたりに編み込みがある。器用になったものだと感心さえしてしまうレイは笑みを浮かべた。


「…兄貴一人か…説教は勘弁してくれよ?」

「どうかな?俺は部下に指示出してプライベートヘリ飛ばして、どこぞのじゃじゃ馬娘の心配で頭が痛いんだが。」


そいつ―勝井は残っていた一人を軽くあしらい倒すと、レイに近づいた。


レイとしては、そいつがちゃんと強くなっていることを初めて見れた光景だった。


「酷ェ怪我だな。」勝井はしゃがんでいるレイを覗き込んだ。


「大したことない。内臓は無事だ。」


レイは血をペッと吐いて、鉄パイプを杖に立ち上がると、己の作り上げた人の山に目をやってみた。


自分でも驚くくらい、体格差のあるような管理人をも倒していたようだ。


「お前の化物っぷりを改めて知ると同時にこいつらが情けねぇよ。操られているとは言え、たった一人のUNCに全員やられるなんて…」


やれやれ、と言う勝井にレイはフンっと笑う。


「甘ェな。僕のチームの方が強いかも。」

「お、やっか?」


勝井はニヤッと笑う。

こういう大人げないノリの良さも変わらないのだとレイは知る。


「誰がやるか。無駄な争いはしない主義だ。」


レイが笑って言い返すと丁度声がした。


「「レイ!」」


「クル、ルア!」


駆けてくる二人、ルアは転移で来たらしい。


「お仲間か。丁度俺の方も来たな。」


管理人の大きなヘリが近づいてくるのがわかる。勝井は咳払いをして寄ってきた二人を見た。

咳払いだけで勝井の雰囲気は立場に相応しい威厳を持った。


「UNC№・0014,0062、0015を連れて戻り給え。0015は暴徒化した管理人との交戦で肋骨及びいくつかの骨を折ったらしい。おそらく銃弾も体内に入っている。早急に取り除いてやれ。」


 レイは勝井を睨んだ。何暴露してんだ、と。勝井はその様子を内心笑った。

迎えに来た二人は勝井から聞いて、レイにジト目を向けた。


「レイ…お前無茶を…」


ルアは止めたのに…という目でレイを見つめる。

レイにとってのその視線は痛く刺さる。


「別にたいしたことない…」

「クル、レイ抑えとけ。」

「りょ。」


レイは抵抗せずクルに抱えられ、ルアはレイにデコピンをした。


「だから言っただろ⁉馬鹿か、お前は。」

「うっせ。」

「お前が死んだらどうすんだよ!」


二人からの説教は続くことをレイは悟る。なんなら帰ったあとは駒場の説教付きだ、と。

そんな光景を勝井は密かに笑う。


「0015、後日、平和連合の方へ調査資料を送っておく。受け取りに行け。」

「りょーかいしました。」


レイは怒っているからな、と目で訴えながら答えた。





「あれ、結構偉い人だよな。」


勝井から少し離れた辺りで俺は問う。


「さっきの奴はUNC管理人団長・勝井虹奇。全体の№3サマだ。」ついでに降ろせ、とレイは言った。


「レイよく知ってんな。」


俺それを無視してレイを降ろさないようしっかり抱えている。


「あの人レイの担当だからな。」ルアが付け足した。


「え…レイ迷惑かけてなかった?」

「誰目線だよ。別に迷惑なんてかけてない。」


ルアは一瞬笑っていたが、レイに睨まれて慌ててその笑いをひっこめた。




 UNCには一人につき一人くらいの担当が就く。管理人は一人で二、三人を担当する。

さっきの勝井さんはレイの担当らしい。だからこそ、今もレイと繋がっているというのを後に知るのだが、本来の管理人ならUNCと繋がらないし、二人のように親しくなれなない。あ、でも俺と紘の管理人も優しい人ではあった覚えがある。




「つーか、下ろせ。歩けるから。」


レイはそう言って再び暴れたが、ルアが寄ってきてまたデコピンをしてきた。


「怪我人は大人しく抱えられてろ!」


レイは諦めたように大人しくなる。しばらく歩いてから、ルアが転移を使った。

管理人の近くで能力を使うのは良いとされていない。今回の戦闘は特例だけど。






 勝井は去って行くレイ達をそっと見ていた。


「会えて良かった、ねぇ…まだまだガキだな、レイ。ま、俺も良かったよ。」


 久々に直接会ったレイはあの頃よりかなり変わっていた。まぁ当然だよな。最後に会ったのはあいつがまだ十の時だ。樹炎を出る時、俺は船担当外れてたからな…。あの時はまだここまで無茶をする…いや変わらないか。昔から無茶ばかりだ。危ない。あいつの無茶に慣れて、昔は大人しかった、なんて言いそうになった…いつの間にか、仲間に慕われて、有名になって…成長が早く感じる。


 転移していく直前、レイは口パクで確かに会えて良かったと言った。

アイツにとっちゃあ俺は親で、兄でしかないんだろうなァ。

三人が消える直前まで見送り、俺は後片付けに入った。


 一体誰がこんな騒動を引き起こしたのか、俺には見当がついていた。とはいえ…下手に動けねぇなぁ。






 「お帰りーってうわっ。」


出迎えた紘が驚いて固まった。

それもそのはず。ボロボロのレイを見たら当然だろう。


「紘、駒場呼んできて。」


俺は出迎えた紘に言いながら、レイを医務室にそのまま運ぶ。


「レイ、大丈夫?」


紘は苦笑いしながら駒場に内線で連絡した。日々鬼呪一天の連絡システムは進化していく。


「大丈夫だ、離せ。」


運ばれても尚、レイはクルに抱えられている。


「お前はすぐ怪我放置するからダメ。」

「クル、逃がすなよ。俺は後処理しておく。」


レイはさすがにこうまで言われては諦めるほかないことを察し、はぁ…と零した。そして、やってきた駒場の処置を受ける。駒場の能力で外傷はすぐ治るが、骨折は完治しない。


「レイ、しばらくは安静にね。レントゲン診た限り、肋骨二本、右腕に罅、左指一部骨折、足首に罅。訓練は一週間、絶対禁止よ!」


レイは黙っている。


「っていっても意味ないでしょうけど。」


ジト目で言う駒場。

それに対し、レイは「当然だ。」と、訓練は毎日するもんだという自信に満ちた顔で言った。


「当然だ、じゃないわよ、せめて誰か付けておいてね。あと、ほんと無茶は止めて。わかった?」

「んー気が向いたらな。」


レイはいたずらっぽく笑うと早速走って駒場の元を離れた。


「レイ!」


それを見て怒鳴ったがレイはもういなかった。


駒場は俺をレイ監視係に任命し、メンバーにレイの訓練を見かけたら、止めるよう勧告を出した。


うちのリーダーは普段冷静なくせに、怪我した時こそ落ち着きが本当にない。ほんと、こっちは心配でたまらないってのにね。

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