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異端の子  作者: 水園寺 蓮
鬼呪一天編
12/93

新年

 そうして平和な一時が過ぎていき、正月がやってきた。


 正月までかかって、夢願破心戦の後処理もようやく済んだ。ルカ、杉山は行方不明のまま、その他のメンバーも大半が姿を消した。どのみち消えた面子はレイに従う気などなさそうだったが、その行方不明には管理人への報告を困らされた。


 管理人へは戦いの記録、チーム状況などの報告を月に一度まとめて報告する。他にも補充してほしい武器や、食料についても行うらしい。




 レイはチーム以外で個人でもかなり動いているので、その報告量は多く、月末はいつも寝ずに部屋でひたすら報告書を作っているようだ。しっかりその都度作ればいいとは思うが、なんと報告はまた別の紙で行うらしく、その都度作ったレポートをまとめるそうだ。レイは毎日レポートを作る真面目だが、この形式な以上、月末はその作業に追われることを避けられない。ルアが来てからはルアも虚月透真でやっていたこともあり、手伝っているようだが、数日はかかっている。しかし、今回は早いことに三日で終わったらしい。レイは今すがすがしい顔で俺の作ったプリンを食べている。






三十一日。


「今日は騒ぐわよ!」


駒場がルアの肩を組んで大きな声で言う。駒場の手には大ジョッキにオレンジ色っぽい液体が注がれている。これが何杯目だが知るのは誰もいない…

拠点四階のバルコニーは鬼呪一天のメンバーの幹部が集まって、宴会状態である。


「おい、いいのかよ⁉」


ルアが駒場に振り回されながら、ソーダを飲む。


「いいのよ、レイが今日くらいは思いっきり騒げ、って。」






 レイはそんな騒ぎを屋上から聞きながら、月見をしていた。普段なら、一緒に騒いでいそうだが、そういう心の余裕が今はないんだろう。そんな気がする。


「早いな…もう一年か。」


小さな呟き、レイが表から消えていた空白の時間全てを聞いたことはないけど、感傷に浸るだけの出来事を、きっと抱えているんだろう。


「あと、どのくらい時間があるかな…」


レイは仲間の笑い声に微笑んでバルコニーの方を見つめてた。


「レイはいいのか?」


俺はそっと階段を上り切って姿を見せた。レイの方は一瞬焦った顔をしたが、俺だとわかると微笑みを顔に戻した。


「クル…お前こそいいのか?」


「ヴィーリー飲めない俺はボッチなの。」


ヴィーリーは所謂お酒みたいなものだが、アルコールが入っているわけじゃない。でも、飲むと酔うし、飲めない奴は飲めない。俺も鬼呪一天に入ってから初めて飲んで、飲めない側だと知った。


「なら、僕がつき合ってやろうか?」レイは甘酒を挙げて、ニヤッと笑う。

「ハナっからつき合ってもらうつもりだよ。」


レイの横に立って一緒にあの騒がしいバルコニーを見た。甘酒を一口飲んだレイは楽しそうに、悲しそうに、笑って、「早いものでこの島での生活も一年が経とうとしてるんだ。」と零す。


「俺も今があるってのは振り返るといつも驚くよ」

「そうだろうな。僕だって不思議に思う。こんな地獄のような場所なのに、こんなにも幸せなんだ。」


俺は一瞬驚いた顔をしたが、レイの顔を見たら自然と嬉しくなってしまった。


「俺も、ここに来れてよかったって思うよ。最初はやばい奴だとか色々思ったけど」

「助けてやった恩人に、随分な言い方じゃないか」


レイの面白がる調子を含んだ言葉から俺達はしばらく、出会った頃の特訓のことや、互いの印象だとか、今までにないくらい、たくさん語った。


「僕はこんなにも仲間ができてうれしくて、幸せだけど、やっぱり地獄へ道連れにしてることが申し訳なく思うことがある」

「そうなのか…?結構エンジョイしてるように見えるけど」


そう見えるだけなんだろうけど、そんなこと言ったってレイの罪悪が薄れるわけじゃない。


「こんな地獄、だーれも望んで来たわけないだろ。」


確かに、俺達はUNC判定とかいうもののせいでこの島に押し込められて、戦って、奪って、失って生きてきた。望んでここにいる奴はきっといない。それでも、俺は思う。


「そうかもね、でも、地獄だとしても、俺達はレイがいたらどこまでも進んで行けるよ。」


レイと出会ってからは、ずっとこんな地獄も悪くない、と。

言った時、レイがぽかんとした顔をしたから、なんだか恥ずかしくなって手に持ったソーダをわざとらしく飲んだ。


レイは「そうか…僕は地獄の案内人じゃないんだけどな。」と目線をバルコニーに戻してまた笑った。


「鬼は地獄の案内人みたいなもんだろ。」

「おい、僕が鬼って言ってんのか。」

「いいや。でも鬼呪一天俺達の総長でしょ。俺達だけの案内人じゃん。」


そう言われてしまえば何も言えない、というようにレイはだな、と苦笑した。俺は暗に勝手にいなくなるなよ、と言ってみたものの、レイには伝わったろうか。直接はいつも言えない。言ってしまえば、なんだか余計、レイが遠くなる気がするんだ。




「三」 「二」 「一」


「「明けましておめでとう!」」


駒場はさらにヴィーリーを注ぐ。炭酸の入った瓶を振ってぶちまける輩もいる。

ルアは羽谷にもたれかかって爆睡。

紘は花火を上げ、ヴィーリーの瓶も撃ち上げた。各々馬鹿をやって笑っている。


「レイー!明けましておめでとー」駒場が屋上に向かって叫んだ。


駒場はもう出来上がっているようで、レイと俺の予想はもう潰れるな、というほどだ。


「フッ、バカ騒ぎもいいとこだな。」(どいつもこいつも、僕を選んでここにいる…)

「いや、あれはもうバカ騒ぎだよ?」


俺の今年初のツッコミ。だけどこのツッコミは「ずっとこうであればいい。」と小さく零されたレイの呟きに流された。


「レイ…」


俺はどこまでレイを知れたんだろう。あの、わけがわからない出会いの頃から、一生理解できないと思ってたけど、今は少しだけならわかってると思う。もちろん、俺達は人間。絶対に理解し合ってるなんてあり得ない。あり得ないけど、俺はレイの鬼を一緒に背負えるくらいには理解できてるんじゃないかって思ってる。レイにもそう思われていたい。




「クル、安心しろよ。僕はいなくならない」


レイはそう言ってバルコニーから目を背けた。

俺は途端に向けられた言葉に驚きつつも、俺が言葉に隠していた本心が伝わっていたことに安堵する。


「地獄の案内も楽園の案内もこの僕にお任せあれ。」


笑顔で言うレイは無理に笑っている気がしたのは俺の気のせいか。


「レイ、言ったからには約束だぞ。俺達はお前を選んでここにいる。」


片手に持ったソーダを飲んで、少し俺にとっては言いづらい本音を吐いた。

レイは照れたように笑いながら、「よくわかってる。だからこそ、僕は生きてる。」といった。


しばらく騒ぎに耳を傾けて、新年の花火を見ながら静かに時を過ごす。

花火が終わると、「ソウも動き出すだろうし、も少し厳しくいくかな。」とレイは言った。


「ヒャーコワッ。」


茶化すように言ったが、訓練の恐ろしさは夏に散々味わっているので、まじで怖い。


「アメは任せるぞ、相棒。」レイはグラスを掲げた。


「おう。」


俺達は乾杯、とグラスをぶつけた。






翌日・・・


 「……………。」


レイはやはりかと思いながらも実際に見るとその惨状に呆れてしまう。が、僅かに微笑んでしまう。


今の食堂とバルコニーの様子は酷く荒れている。ごみは地面に落ちて散らばっているし、雑魚寝している奴らまでいる。当然レイはこうなることを予想していたが、仲間達に外で寝てほしくないと内心言う。




(こんな冬の時期に寒くないのだろうか…)


レイがさて起こすか、という時、俺は起きて昨日部屋に戻ってこなかった紘を迎えに来た。しかし、「おはよ…って…うわっ…。」と言ってしまうほどの食堂の惨状に呆れ顔をした。


やばいね、と苦笑して地面に寝そべる三月を踏まないよう、進み食堂への扉の前に立つ。


「クル、先片付けしててくれ。僕はこいつら起こす」

「りょーかい。」


レイの言葉から何をするか察しつつ、早速食堂へ入ってゴミ袋を用意し、レイの行動を見ながら散らかったゴミを回収する。レイは伸びをして能力で氷を作り出すと、寝ている全員の頭にコツンッと落とした。


「「冷たっ!」」


見事なまでに全員同じことを言って飛び起きた。

そこへレイは「いくら何でもハメ外し過ぎだ!」と一喝。


「ヒャ~ごめんね、レイ。」


目覚めた駒場は慌てて瓶のゴミを片付けだし、そこへ面白がりながら俺は瓶を食堂のカウンターに並べるよう指示した。この瓶の数…このうち駒場が飲んだのは一体何本なのだろう、軽くここには十五本ほど並んでる。




「眠い…」


むにゃ~という状態でルアが目を覚まし、もたれていた羽谷に叩かれている。


「ルア、ほらちゃんとしろ、レイがいる。」


寝ぼけていたルアは羽谷にそう聞かされると、途端に目を開き、レイに見た?という顔で焦った視線をなげていた。俺も初めて見る、ルアの朝の弱そうな顔にレイはにやっと笑ってた。


「直ったわけじゃなかったんだな。」


レイがそう言うとルアは恥ずかしそうに笑った。レイとしてはルアの懐かしい面を見れて嬉しそうだ。




「…おはよ、レイ~」と三月もやっと起きる。


「はいはい、おはよ。三月も片付け!」


レイは全員に声を掛けながら、片づけを進めていく。

溜息を付いているのが視界に入ったがそのレイの瞳が優しげで、俺は笑ってしまう。


――レイが変わろうとしてる。――

確かに出会った頃より今のレイはどこか変わった気がするな、と思いながら紘と共に朝食の用意を始めたのだった。






速鬼邪天拠点・・・


「ねぇ真壁、レイとはいつ戦えるの?」


年明け早々、戦闘狂はレイと戦う気しかないらしい、俺に呑気に問う。


「近いうちにやれるだろう。年末のクソみたいな戦闘禁止日もそろそろ終わりだ。」

「やっとか…守んないといけなかったわけ?その戦闘禁止日」

「当たり前だろう。管理人の定める戦闘禁止日内で戦えば、処罰はもちろん、最悪追放案件だ。しかもこの間は暗殺でさえ、殺人をした時点で管理人に捜査され、追放される。」


戦闘狂はめんどうだね、と肩をすくめた後、ソファにダイブした。


「樹炎の頃はそーいうの気にしなかったからつまんない」


もっと戦ってたいな、などと呟いてゴロゴロしてる姿に呆れが全面に飛び出しそうになる。こいつはほんとに戦うことしか考えていないのか。


「もうすぐだと言ってるだろ。レイはお前を警戒してる。必ず戦うことになる。」

「早くルアのとこにレイを送らないと、だもんね。」


それには適当に答えて俺は俺の問題をぶつける。


「作戦なんだが、俺はレイをしっかり殺したい。お前とレイでタイマンをし、その隙に殺るのがいいと考えている。」


俺の提案、間違いなくこいつは乗る。にしてもタイミングがよかった。こいつがレイの話題が出してくれて、違和感なく提案ができる。わざわざこっちから振ると、いくら戦闘狂でも何か気づくかもしれないからな。やはり俺の計算は完璧だ。


「へ~タイマンか。いいね。」


迷うことなく戦闘狂は答えた。その目には戦闘狂の相棒である斧が映っている。


「鬼呪一天との戦いはレイと俺のタイマンでやろう!俺は、レイを倒せればなんでもいいよ。」


戦闘狂のソウは無邪気に笑った。こういう無邪気且つ戦闘馬鹿は扱いやすい。

俺は上手くいったと内心喜ぶ。しかしその反面、上手くいきすぎて自分のすばらしさに恐怖している。


「にしても、真壁はレイがそんなに嫌いなんだねぇ。」


珍しく鋭く刺さる質問だった。焦りが出ないよう、眼鏡を押し上げた。ソウに限って、俺の裏を読めるはずがない、と自分を落ち着ける。しかし、それとは裏腹にソウの目は探りの色を出している気がした。


「あぁ嫌いだよ。アイツは何処にいようが生きている限り、俺の邪魔でしかない。」

「ふーん…」


俺はこれ以上話しているとボロが出ると思い、ソウの元を去った。


ただの興味本位で聞いてきたんだろうが、あまり心地よい目ではなかった。それを気にして話すと、俺はどこかで本音を言いそうになるから、逃げて正解だと自分に言う。あれでも十分素が出てしまったが、あの戦闘狂が気づくわけではないだろう。






―???の独白―


 今、レイを真壁の刃から守れるのは俺しかいない。ルアはレイが殺してしまったし、他に真壁の狙いを知ってる奴はいない。


レイを守ろうと思う誰かに俺から言うなんてできないのも仕方ない状況だ。今はそういう状況なんだ。


俺も、あいつの闇の原因だ。きっと最後には殺される。でも、真壁から守れるのは俺だけだから。あの日のように、俺だけが守れる。俺しかその脅威に気づいていない。どんな結末でもレイを守れるなら、俺は受け入れよう。レイを守ることが本望だ。もう失敗はしない。必ず守るから。俺だけはずっと味方だから。


心までは俺じゃ救えないけど…。俺はきっと、何年かけてもあいつの一番にはなれない。

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