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はじまり
母親が再婚した。それだけで終わるはずだった。別になんてことのない、平凡な人生を送るのだろうと思っていた私の希望的観測が、粉々に打ち砕かれたのはすぐだった。
物心がつく前には既に父はいなかった。私の世界は母と兄と私だけで完結していた。強いて挙げるのであれば、兄が知的障害者であったこと。しかし、それも私にとっては些末なことであった。
壊れ始めたのは、私が小学生の頃の話。母が授業参観に見知らぬ男性を連れてきたことが、全ての始まりであった。
母は、体格のいい、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた男性のことを、父になるかもしれない人と紹介した。
母があまりに幸せそうに微笑むので、つい、再婚を認めてしまった。