火の鳥
火の鳥
お昼をすぎますと、
強い風が。
山の上から、
野原へと、
かけおりてきます。
赤い花は、
足元から、
よじ登って来た、
小さな蟻に、
話しかけました。
海を見たこと、ある?
ないよ。
鳥たちが、よく、
話しているね。
それは大きな。
水たまりなんだってね。
そうなんだって。
見てみたいな。
僕も、見れるんなら、
見たいよ。
じゃ。
風が、
そろそろ。
来るから、
のってみようか。
いいね。
のってみよう。
風が、
強く。
吹きました。
発進!
蟻は、
はりきって。
赤い花の、
指に、
体当たりしました。
ぽつり。
と、
鳴り。
花は、
茎を離れて、
飛び立ちました。
飛んだ!
花は、嬉しくて。
花びらを、
細かく、
震わせました。
ほんとうに、
飛んだね!
蟻も、嬉しくて。
ずうっと、
下に見える、
野原を眺めました。
いろんなところを、
眺めながら、
進んで行きますと、
やがて、
海が、見えてきました。
青い地面じゃ、
ないんだね?
柔らかいのかな?
動いているね。
風に、
運ばれて行きますと。
波たちは、
赤い花を、
とても、
珍しがります。
次々に、
体と両手を、
長く、
伸ばしてきます。
何だろう?
あいさつかな?
ひときわ、
高く、
伸び上がった波が。
花に向かって、
しぶきを、
はねあげました。
小さな花ですから。
一滴が、
かかってしまうと、
すっかり。
重たい体になって、
しまいました。
蟻は、
花の指に、
しがみつきました。
そうしていないと、
体が、
持ち上がって、
しまうのです。
花が。
波間に向かって、
落ちて行くのです。
波が、一斉に、手を伸ばして、
花を、捕まえようとしたときです。
真っ白い、鴎が、
素早く、降りて来て。
いっぱいにひろげた翼で、
波を、なぎはらいました。
鴎は、
体を起こして、
何度も羽ばたき。
花を、
宙へと、
浮かせました。
きみら2人は。
そんなにも、うまく、
風にのり。
こんなにも、遠くまで、
やって来た。
きみらには、
鳥になる資格が、
在るってさ!
鴎は、はきはきと、言って。
一度。
一番、強く。
羽ばたきました。
吹き飛ばされた花は、
蟻を抱えるために。
ぎゅっと、
花びらを、閉じ。
丸くなりました。
いくつかの、
火花が、
散りました。
丸まった花が。
くるくる、回り。
平たく、拡がり。
一瞬で、膨らみ。
鳥の体に、なりました。
たくさんの、
火花が、散り。
鳥の全身から。
炎が。
噴き上がりました。
外の世界の、拡がりを。
花と蟻は。
一対の、
左右の、目で。
同時に、見ました。
羽ばたきを!
さあ!
できる!
ずっと上のほうで。
鴎が、叫びました。
花と蟻は、力を込めて。
一対の、
左右の、翼を。
大きく、動かし。
精いっぱい。
羽ばたきました。
飛んだ!
飛んだね!
大喜びで。
二つの声で、
叫びました。
日差しになど。
当然。
負けない、
眩さを、
放ちながら。
高温の火花を。
絶えず。
翼から引き、
波を蒸気に、
変えながら。
炎を纏う、
火の鳥は。
海の上を。
ゆうゆうと。
飛んで行きます。