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14 初めてのパーティー討伐②

「これで終わり!」


 勇ましい声と共に放った火魔術で、最後の角ウサギが倒れる。威力を最小限に絞っていたので、角ウサギの毛皮を焦がすこともない。


「よし、リャーナちゃん。最後に索敵を掛けて、取りこぼしがないか周囲を確認!」


「はいっ!」


 ダルカスの指示に、リャーナは準備していた索敵の魔術を展開した。ダルカスの気配察知で周囲に魔獣がいない事は分かっていたが、今回はリャーナの鍛錬のための討伐だ。無駄とは分かっていても、冒険者としてセオリー通りの動きをとらせている。


「うん、随分と上達したな。魔術の練度も申し分ない。ただ、魔獣が全て倒したか確認する前に気を抜くのは良くない。討伐に夢中になると視野が狭くなるもんだ。決して油断をしてはいけないぞ」


「はい!」


 リャーナは真剣な顔でダルカスの言葉に頷く。S級冒険者であるダルカスの指導はとても的確で分かりやすい。我流でしかも単独での討伐ばかりだったリャーナにとって、先輩からの指導はとても為になり、しかも格段に討伐のスキルが上がるのを感じるので、もっともっと教えて欲しくなる。


 ダルカスにしても、教えれば教えるほどリャーナの動きがどんどん良くなるものだから、段々と楽しくなってきた。リャーナの素直な性格がダルカスの教えをすんなりと受け入れているのもあるが、元々のリャーナの実力も相当高いのだろう。


 ダルカスは悩んでいた。森の浅い場所で討伐を続け、時刻は昼を少し過ぎたばかり。シャンティが作ったやたらと気合の入った弁当(重箱)を食べたので、ダルカスもリャーナも気力、体力ともに充実している。

 元々の予定では、今日はリャーナの実力を見るために森の浅い場所での討伐に留めるつもりだった。だが、たったの数時間で驚くほど成長したリャーナに、低レベルの魔獣の討伐だけで終わらせるのは勿体ないと思い始めていた。リャーナの未知数な実力を伸ばすには、もうちょっと手応えのある魔獣を相手にした方がいいと、ダルカスは感じていた。

 

 だが冒険者ギルドには今日は森の浅い所での討伐と報告しているし、なによりシャンティやマーサにも危険の少ない森の浅い所での討伐、と伝えている。それを勝手に計画を変更してリャーナを森の奥まで連れて行けば、ギルドからは注意ぐらいで済むだろうが、シャンティとマーサからは何を言われるか分かったもんじゃない。


「ダルカスさん? どうしたんですか?」


 うーんと唸っているダルカスに、リャーナは首を傾げた。その手は休まずに仕留めた角ウサギをポイポイと収納魔術を施した水袋に仕舞いこんでいる。便利だなぁ、収納魔術と思いながら、ダルカスは口を開いた。


「このままもう少し森の奥まで進もうか悩んでいるんだ。この奥には角ウサギよりも強い魔獣がいるが、リャーナちゃんの実力なら問題ないだろう。もしもの場合も、俺がフォローに入れるし。なぁ、リャーナちゃんはどうしたい? 」


「え? わ、私も決めて、いいんですか?」


「ん? 当たり前だろう、パーティなんだから」


 リャーナが目を真ん丸に開いて驚く。ダルカスはなんでそんな事を聞くんだと不思議そうな顔をする。


「あ、あの。学園で討伐の実習の時は、パーティーリーダーである王太子殿下の決定が絶対だったので……」


 学園の討伐実習では、魔獣のいる森で野宿をしながら実践さながらの討伐が行われた。勿論、教師たちが付いているので危険な時は助けて貰えたが、それ以外は生徒同士で組んだパーティーで全ての判断をしなくてはならなかった。成績の良かったリャーナは、漏れなくジェント王子や公爵令嬢のカーラ、そして王子の取り巻きがいるパーティーに振り分けられたのだが、そこでリャーナの意見など聞かれる事は無かった。


「下っ端はリーダーの言う事を聞くのが当たり前だって」


「そんなことない! 冒険者にとっての討伐は、命にかかわる事だ。いくらリーダーだろうと、仲間の意見を聞かずに行動するなどありえない。パーティーでリーダーを定めるのは、パーティーメンバーの意見が分かれた時や危険な時にとっさに判断する奴が必要だからだ。パーティーにおいてメンバーの立場は対等なんだ」


 ダルカスの言葉にリャーナは混乱した。リャーナの知っている常識とは余りに違う。


「下っ端はリーダーの命令には絶対服従で、全員の荷物を運び、食事や寝床の支度も全てやるべきじゃないんですか?」


 同じパーティのメンバーはリャーナ以外は全て高位貴族だった。そのせいか、リーダーである王太子をはじめ全員からリャーナは扱き使われた。全員分の重い荷物を一人で運び、テントを張り、火起こし様の枯れ木を集め、水を汲み、食事を準備した。討伐の時だってメンバーたちが高見の見物を決め込む中、必死になって魔獣を倒したのはリャーナだ。リーダーたちがやったのは、倒れた魔獣に止めを刺したぐらいだ。魔獣を解体したり、後片付けをしたり、倒した魔獣の素材を運ぶのも、リャーナ一人でこなしたのだ。過酷過ぎる討伐実習の後は、リャーナはいつも倒れ、数日は寝込む羽目になっていた。


「私は平民だから。高貴な方々の為に働くのは名誉な事だと……」


「リャーナちゃん。それは正しいパーティーじゃない。何度も言うが、パーティーメンバーは対等で在るべきだ。命がけの討伐の時に、身分だなんだと拘っていたら、あっという間に全滅しちまうだろう。……学園ってところは一体何を教えているんだ。身分が大事なら、そもそも貴族に討伐なんてさせるべきじゃないだろう。俺のパーティーにそんな心得違いなアホ貴族が混ざっていたら、邪魔だから魔獣の餌にしたかもしれん」


「……! 」


 おうぞくだろうが貴族だろうがすっぱりと扱き下ろすダルカスに、リャーナはポカンとしてしまう。カージン王国において、身分というのは絶対的なものだ。貴族だらけの学園で、平民だったリャーナはいつだって最下級の扱いだった。いつの間にかそれを当たり前だと思い込んでいた。だけどS級冒険者とはいえ、リャーナと同じ平民のダルカスは、なんのてらいもなく王族と貴族を邪魔だと言い切った。

 国柄の違いといえばそうなのかもしれないが、リャーナには全く思いつかないような考え方だ。だって、王族や貴族を邪魔だから魔獣の餌にするだなんて。


 呆然としていたリャーナは、段々とおかしさがこみあげて来て、クスクスと笑い出していた。確かに邪魔だった。口ばっかりで偉そうで、何一つ役に立たなくて、仕事ばかり増やして。いっそ一人で討伐をした方が負担が少ないと思えるぐらい。


「ふ、ふふふ。いい考えですね。次は、私もそうします。魔獣の餌に。ふふふ」


 リャーナが笑いを堪えながらそう言うと、ダルカスがクワッと目を剥いた。


「何言ってんだ! ウチの可愛い娘をそんな馬鹿とは二度と組ませねえぞ。俺以外の奴とパーティーを組むなら、俺が直々にメンバーを吟味するからな! 実力も勿論だが、性格もちゃんとした奴じゃないと俺は認めねぇ。それに、女好きだったり、賭け事をするようなやつも冒険者には多いから、その辺もきっちり調査して……。ううん、冒険者をリャーナちゃんの相手にするのは嫌だな。あいつら、気は良いけど、だらしねぇやつばかりだからなぁ……」


 真剣に言い募るダルカスは、もはやパーティーメンバーを選んでいるのか、リャーナの将来の伴侶を選んでいるのか分からなくなっている。リャーナはダルカスはやはりシャンティの父だと実感した。過保護な所が本当にそっくりなのだ。


「……おっと、すまん。話が逸れたな。それで、どうする、リャーナちゃん。森の奥に行ってみるか? それともここで続けるか?」


 ガシガシと照れ隠しに頭を掻いて、ダルカスは再度聞いてきた。過保護っぷりを晒したのが恥ずかしく、耳まで赤くなっていた。3人の娘を育てたダルカスは、年頃の娘をあまり構い過ぎるとウザがられるのは分かっていたので慌てて誤魔化したのもあったのだが。


 そんなダルカスに、リャーナは自分の素直な気持ちを伝えたくなった。ダルカスなら自分の意見をちゃんと聞いてくれると信じられたのだ。


「あ、あのう。ダルカスさん。私、さっきの『付与魔術』が楽しかったので、もう一度やりたいです。だから、森の奥に行って試してみたいです!」


 リャーナからキラキラした眼で、それでも甘えてもいいのかと躊躇う様にモジモジとそう言われ、ダルカスは思わず相好を崩す。ああ、やっぱり娘のオネダリはいいなと。3人の娘が大きくなり、オネダリなんてされなくなって久しい。しかもリャーナのオネダリは、娘たちが小さい頃、おもちゃを買って欲しいがなかなか言い出せない時の様な、破壊的な可愛さがある。あの頃のダルカスは、娘たちにオモチャを手に『パパ、ダメ? 』と潤んだ目でネダられると、なんでも買ってしまっていた。マーサには後からしこたま怒られたものだ。


「『付与魔術』か。あれは俺も面白かった。俺の剣に魔術を纏わせると、あれ程凄い威力になるなんて思わなかったからな!」


 それに、オネダリももちろん可愛いのだが、リャーナの言う『付与魔術』が楽しかったのも事実だ。ダルカスはS級冒険者らしく魔力量も多いので魔術は使えない事はないのだが、剣を使う時は常時身体強化を発動しているせいか、戦闘の際は殆ど魔術を使わない。あくまで魔術は補助的な役割だ。そんなダルカスの剣に魔術を付与しておくと、ダルカスの魔力を吸った魔術陣が剣を包み込み、まるで魔力剣の様な働きをするのだ。ダルカスも初めて見る魔術で驚いたのだが、これもリャーナがソロでの討伐を楽にするために開発した魔術らしい。


 ちなみに、ダルカスが剣に火魔術を付与して魔獣と戦った結果、魔獣が燃えるどころか、あまりの熱量に地面に大穴が空いて溶岩のようにドロドロと溶けていた。『付与魔術』であのS級冒険者のダルカスが更に強くなったのだが、2人にはやらかしている自覚はない。『なんだかいつもより調子が良かった』ぐらいの印象だ。穴の開いた地面はリャーナが水魔法で鎮火した後、ササッと土魔術で埋め直したので、何も問題はなかった筈だ。


「よぉし! それじゃあ、森の奥まで進むぞ! 」


「はいっ! 」


 パーティーリーダーであるダルカスの力強い決定に、リャーナは頷いた。

 前を歩くダルカスの大きな背中を見ながら。

 パーティー討伐って、こんなに楽しくて安心できるものなんだと、自然と笑みがこぼれていた。



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― 新着の感想 ―
これ絶対2人とも膝詰めで怒られるやつだわ アーメン†┌┘墓└┐†
ハイファンタジーでは….ない?
やらかす未来しか見えませんわ~
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