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女装して女子の家に侵入してしまった

 一旦、落ち着いて考えよう。


「理太郎、口を開けなさい」


 満面の笑みの姉貴が箸に摘んだ卵焼きを差し出してくる。

 それをよそに、俺は愛好からとんできたメッセージについて考えていた。


(オフコラボ……あんまりやりたくないけど、断るのも無理だしな……)


「理太郎、口を開けなさい」


 考え事をして口を閉じてたら、姉貴が頬に卵焼きを押し付けてきた。

 仕方がないので卵焼きを頬張った。うまい。


「……姉貴、この歳になってあーんは恥ずかしいんだけど」

「何言ってんの。家族なんだから別に普通でしょ」

「そっか。……え、そうかな?」

「大好きなお姉ちゃんからあーんされて嬉しいでしょ?」

「いや、流石にあーんはちょっと」

「良いから食べなさい。ほら、トマト」


 今度はミニトマトをこっちに差し出してきた。


「それは姉貴が苦手なだけでしょ。自分で食べなさい」

「何よ、お姉ちゃんのあーんが食べれないっていうの」

「アルハラする上司みたいなこと言わないでくれる?」

「理太郎の意地悪……」


 俺が顔を逸らすと、姉貴は渋々といった様子で不満そうに頬を膨らませてトマトを口に入れた。

 今は昼休み。

 姉貴に屋上に呼び出された俺は、二人で昼食を食べているところだった。

 これはいつもの光景なのだが、今日はなぜか姉貴があーんをずっとしてくるのだ。

 なぜか満面の笑みで。

 どうしてそんなことをしてくるのか分からなかったので、俺は現実逃避して思考を愛好から誘われたオフコラボへと移していたのだった。

 いや、それもかなり現実逃避したい事柄なんだけど。


「はぁ……どうしようか」


 姉貴がまた唐揚げをこっちに差し出してくるのをよそに、俺はため息をついたのだった。


***


 ピンポーン。

 翌日、俺はマンションのインターホンを鳴らしていた。

 俺が来ていたのは愛好のマンションだ。

 今の格好はもちろん女装姿。

 萌園アリスおよび、本名鈴木アリスとしての姿だ。

 なぜ愛好のマンションに来ているのかというと、もちろん理由はオフコラボのためだ。

 ウイッグがずれていないか、スマホの内カメラで自分を映して確認する。

 側から見れば恋する乙女みたいだが、俺にとってはウィッグがずれるのは危機なので真剣だ。

 すると玄関の扉が開いた。


「いらっしゃい、アリスちゃん!!」


 愛好が出てきた。

 そして俺の服装を見て首を傾げる。


「……今日も制服なんだ?」

「あはは……ちょっと他の服洗濯してて」

「へー、あ、じゃあ今度一緒に服見に行こ? あ、じゃなくて上がって?」

「お邪魔します」


 俺は玄関に入ると、ローファーを脱いで愛好の家へと入った。

 ……ついに、女装して誤解させたまま女子の家に侵入してしまった。

 もう完全に言い逃れできない状況だ。

 絶対に俺が男だってバレない状況にしないと。

 愛好の後ろに続いて、廊下を歩く。


「今日のオフコラボ、昨日からずっと楽しみにしてたんだ」

「そうなんだ……」

「あ、あのね……」


 廊下を歩いていると、愛好が頬を染めて振り返ってきた。


「今日、ウチ誰もいないから……」


 ……その情報を聞いて、俺はどうすれば良いんだろう。

 今すぐに逃げたくなってきた。

 いや、オフコラボだけしてお暇すれば良い話だ。

 気をしっかりと引き締めていこう。

 俺は決意を新たにした。

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