ダイニング・メッセージ
血生臭い香りが漂っていた。
点々と続いた血の跡は開け放されたままのドアを越えて外に続いていた。
日曜日の夕刻、出張帰りの私を迎えてくれるはずの妻の姿はなかった。
電気はつけたままだが物音一つしない。
台所に血に拭われた包丁が転がっていた。物があたりじゅうに散らかっていた。
何かが急に起こったのだった。
血の跡はいったん居間に続き、そこから玄関へとつながっている。
窓が少し開いていた。窓の下に土の跡が見えた。誰かが侵入したのだ。
駅から電話をかけたときには妻の明るい声がしたのに。わずかの間に何が起こったのだろうか。
玄関には妻の靴もサンダルもあった。ただ血の跡だけがついていた。
居間に戻って、気がつけばテーブルの上に何かがあった。
栄螺だ。どうしてこんな物がここに?
血の跡がついていた。台所に戻ればそこにいくつかの栄螺があった。
妻がここまで持ってきたのだ。何のために?
何かを伝えようとしたのだ!
血のついたサザエが居間に残されていた。妻のダイニング・メッセージに違いない。
まもなく、息を切らせた妻の声が玄関にした。
「ドラ猫に魚をとられちゃった!」
そう、魚を調理中に猫に取られて、はだしで追っかけて行ったのだった。
日曜日の6時半の出来事であった。
完
パソコン通信NIFTYの「推理小説フォーラム」内で企画された、「1000字以内のお題話」に投稿した作品です。
お題は「香る」