放送部!!!
「どうもはじめまして、総理大臣です」
「いやいや、校内放送に総理が来るわけないでしょ? 皆さんこんにちは、お昼休みに彩を。放送部部――早瀬なるです」
とある学校の放送室で、長い黒髪でスレンダーな女子生徒のボケに三つ編みボッ、キュ、ボンの眼鏡が似合う早瀬なるがツッコミを入れる。
早瀬なるは制服のカッターシャツの腰部分にジャージを巻いていた。
今の時間は昼休み、二人の声はマイクを通して、教室のスピーカーから流れいる。
「まって、今凄く失礼な声が聞こえたわ。確かに私は日本美人で、なるっちはグラマラスだけれども、私の体をバカにするのは許せないわ。やり直しなさい――」
すみません。グラマラスな女子生徒の向かいに座る生徒は日本人女性の理想で、立てば身長165センチ
。腰まである美しい長い黒髪、切れ長の目の下の涙黒子。この容姿に男性はとりこになるでしょう。如何ですか?
「まあ、よろしいんじゃないかしら? あ、飲み物を持ってきてくれないかしら?」
「あの、ごめんなさい。どこから突っ込めばいいか分からないけど、とりあえず一人で話さないでくれる? 放送始まってるの」
「え、天の声は言わないほうがいいのね。初めまして、テニス部のシャラポワ。天満翔子です」
悪びれたようすもなく、天満翔子は自己紹介をする。
「うん、もういいよ。てなわけで、本日は県大会の個人戦で見事優勝を果たした、天満さんに来ていただきました」
「ねえ、私のボケを無視しないでくれる? これでも緊張しているのよ? 少しは気を使ってくれないかしら?」
ボケを流されてなお、淡々と天満はそう言い返す。
「うんごめん。緊張してるように思えない。さて、今日はテニスで勝つ秘訣や普段クールと噂なのでそこを聴こうとしたのですが……なんかイメージと違いますね」
「あら、嫌だわ。こんなにもクールでおしとやかな私にイメージが違うなんて」
「天満さんは一度、辞書でおしとやかを調べることをお勧めします」
綾瀬は話を進めようとそう言って締める。
・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、まずオオアリクイの話だったかしら?」
「うん、ごめん。呼んどいてなんだけど、勝手に話さないでくれる? 放送が終わるから」
「なに、私の家族が殺されたのに情報提供を求めさせてくれないのかしら?」
少し声音を強めて、天満が言う。
「あのね、天満さん。そもそもオオアリクイは、名前の通りアリを食べるの。後は果実かな? だから人を襲わないと思うんだけど?」
「そんなこと知っているわよ? ジョークよ、ジョーク。あら、そんなに睨まないで、ホントごめんなさい」
綾瀬が凄い怖い顔で睨み、さすがの天満も本気の声で謝罪する。
「まあ、いいけどさ……テニスを始めたきっかけって、何なのかな?」
ようやく本来のラジオが始まった。
「そうね……憶えてないわ」
「え? じゃぁ、あこがれの選手は?」
あらかじめ用意していた紙を見ながら、綾瀬は質問を続けていく。
「いないわ。自分以外に興味ないもの」
「そんな感じは……あるけど。堂々と言うものじゃないよ?」
「あら、綾瀬さんだってそのパイオツで、男をたぶらかしてますって。自信の表れじゃないのかしらそんなボタンを外して」
「こ、これは制服にサイズがないからで、普段はジャージを着てるのよ?」
早口でそう捲し立てる。
「そうやって見せつけて、襲われたいのかしら? 襲うわよ?」
「いや、男子がいないから脱いだんだけども、そう言われたら着るしかないわね」
そう言って、ジャージの上を羽織る。
「あら、残念。もう少し拝んでいたかったんだけど。これを聞いてる男子どもは、今頃前かがみね」
「あのね、放送されてる自覚があるならそう言うセクハラはやめてくれないかしら? 」
眉間をぴくぴくさせて言う。
「分かったわ。安心して、貴女の下着がく――」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
放送室内に綾瀬なるの悲鳴がこだまする。
「ちょっと、耳が痛いじゃないのやめてくれる?」
「それは、こっちのセリフだよ! 今、一線超えたよ!?」
もはや何の校内放送か分からない者もいそうだが、このまま放送は続いていく。
「はぁ、仕方ないわね。で、何の話をすればいいのかしら?」
「もう、貴女を呼んだことに後悔しかないんだけど……」
「失礼な、戦争をしましょう」
そう言って、天満翔子は何故か文房具を構えた。
「はぁ、わけがわからないよ」
ため息をついて、綾瀬なるは相手にしなかった。
・・・・・・・・・・・・
「あら、もうお昼休みが終わるわね?」
「本当? あと十分か……」
「あら、何で残念そうなのかしら? そうか、私と離れるのが嫌なのね」
「どこまでポジティブなの貴女は。もういいから、後は今後の意気込みをお願いします」
ため息をつきながら、綾瀬なるはそう促す。
「意気込み? そうね……私は、綾瀬なる。貴女が気に入ったわ。だから今後ともよろしくお願いします」
そう言って、深々と頭を下げる。
「いや、テニスだから。気に入ってもらえたのは、ギリギリ嬉しいかな? でも今後はここに来なくていいから」
「あら、そうだったの。でもその前に一つ言わせて、くれないかしら?」
「すっっごく聞きたくないけどなにかな?」
凄くいい笑顔を浮かべて、綾瀬なるは聞く。
「私は今日から放送部と掛け持ちするわ! どうせ部とか言いながら、来てるのは綾瀬さんだけみたいだから」
「うん。それはやめてほしいかな? 部っていっても校内放送だけだから、私一人で済むし」
「よろしくお願いします」
綾瀬の言葉を無視して、天満翔子は頭を下げる。
「うん、もういいわ。貴女とは会話できそうにない、このことは先生に決めてもらいましょう」
「そうね、テニス部やめるって言えば、すぐに通りそうだからそれで良いわ」
「うん、もう逃げ場はないことが分かったわ」
綾瀬なるは、あきらめた。
「では、これから放送部に力を入れるってことで、テニスは片手までも勝てるから」
「そういう事、言わないの! 嫌われるよ?」
「大丈夫よ? だって、私テニス部の子と話したことないから」
凄くさわやかな笑顔でそう告げる。
「はぁ、なら。私と少しずつ人と喋れれるようになりましょう?」
「ありがとう。綾瀬さん」
二人は握手を交わす。
「では皆さん。本日のゲストは、テニス部の孤高のツンドラ姫こと天満翔子さんでした」
「そのあだ名は、初めて聞いたわ。まあ、どうでもいいけど。皆さん次回も会いましょう」
こうして本日の放送は幕を閉じた。
(完)
お読みいただきありがとうございました。
模試続きが見たい、こういう話が読みたい。って、思っていただけましたら、感想とかをお願いします。
連載作品もありますので、よろしければそちらも拝見くださいです。