Step 01-5 お祈りの言葉
今、読んで頂いてるあなた。ありがとうございます。心より感謝を申し上げます。
この小説は、私の初稿です。私の人生で初めて書いた作品です。
思うがまま、なすがままに、勢いに任せて、キーボードを打ち叩いて書いてます。
読みずらいと思います。分かりづらいと思います。色々とウザイと思います。
ですが、ここまで読んで頂きありがとうございました。
重ねて、心より感謝を申し上げます。
もう余計な事は考えるな。
あるがままを生きよう。
自己など存在しない。
そう無我の境地だ。
意識を開放しろ。
全て受入れろ。
全てを流せ。
全は無だ。
虚無だ。
悟れ。
無。
。
「ではこちらの認識票(IDカード)をご確認の上、首にお掛けください。」
認識票(IDカード)と呼んだ木札を、胸元で両手に携えて、彼女がオレの元に歩み寄る。
すると近づく彼女とともに、芳しい香りが鼻孔をくすぐる。
無理だ。無理。
無理なものは無理。
悟りなんて開けるわけがない。
無我の境地になど辿り着けるものじゃない。
欲にまみれたオレが、そうホイホイ解脱できる訳がない。
それより今はもっと、この芳醇で涼やかな甘い香りを。
ーー胸いっぱい吸いこみたい。
芳醇な香りは今まで飲んできたすべての酒や、たばこの香りをはるかに超えている。
沈香の良質な伽羅も聞く機会もあったが、これほどのものでは無かった。
東大寺あるという蘭麝待や紅沈香は、見たことも聞いたこともないが、これを超えるとは思えない。
生前では、決して味わうことのできない香気、この世ならざる芳香だ。
もっと嗅いでみたい。
嗅ぎたい。
嗅がしてくれ。
肺をこの匂いで限界まで、満たしたい。
だが、オレの体は欲望に従ってはくれない。
息をすることもできないのだ。
わずかな香りが鼻先でくすぐっている。
こんなままならない状況、耐えられたものじゃない。
これは蛇の生殺しだ。
禁酒禁煙を強いられていてた頃、宴会の席に放り込まれたことがあった。
目の前で皆、散々飲み食いしていた。
誰もが美味そうに、楽しいそうに。
オレはそれを指を咥えて見ているしかなかった。
指を咥えていたつもりだったが、気が付けばタバコを咥えていた。
酒も飲んでいた。思う存分飲んでいた。
その後、医者にしこたま叱られたのはご愛敬だ。
オレのお豆腐メンタルを侮ってもらっては困る。
他人に禁止されたぐらいで、止められるなら辞めている。
でなければこんな、くそゲー人生送ってはこなかった。
おあずけならまだいい。
いつかは『よし』と言って貰えるから。
でも彼女は『おあずけ』とは云ってはくれないのだ。
これはSMプレイですらない。
彼女はオレの女王様になるつもりはないようだ。
彼女がオレの女王様でないなら、他に関心を移して、気を紛らわすしかあるまい。
匂い以外にも目を見張るものがある。
彼女が差し出した木札を包み込む、白く輝く手だ。
綺麗な指だ。
10本の指は、清流を漂う白魚が、群れているようだ。
細くもたおやかな一つ一つが輝きを放つようで、眺めていても飽きない。
いつまでも眺めて居たかったが、彼女が差し出した認識票(IDカード)を、勝手にオレの手が受け取ってしまう。
受け取らなければ、いつまでもこの指を、鑑賞していられたものを。
しかも、彼女の手に触れたにも関わらず、感覚が無い。
ーーなんてこった。
きっと柔らかく暖かな感触だったに違いない。
悔やむに悔やみきれない。
あの手でオレの頬を包んでもらいたい。
この木札のように。
受け取った木札には首掛け紐が通してあり、木札には『イの一番』と筆文字で書いてある。
オレは『イの一番』か。
縁起がいい。
自慢じゃないが、オレはクジで一番なんて引いたことがない。
思わず頬ずりをしたくなるが、自分の意志を無視し、体が勝手に認識票(IDカード)を首に掛ける。
もう彼女の言いなりだ。
奴隷と云ってもいい。
ーー奴隷でもいいとも。
もうオレは彼女の虜だ。
体のみならず、魂まで彼女に支配されてしまった。
というかオレは今、魂なのだろうか?
それとも霊体なのであろうか?
「魂でも霊体でもご自由にご判断頂いてかまいません。」
またしても、彼女がオレの疑問に答えてくれた。
些細な疑問だったが、彼女はちゃんと答えた。
女性と話すのは抵抗があったが、こうして疑問に考えたことに答えてもらうのは、なんともうれしい。
いや、気持ちいいとさえ感じる。
こんな楽しい想いをしたのは、どれぐらいぶりだろうか。
「ではこちらにお進みください。」
またもやおれの体は、彼女の言いなりになってしまう。
勝手に立ち上がり、ゆっくりと彼女の前を通り過ぎようとする。
何処へ逝くかはわからない。
輪廻転生すれば、記憶は消えてしまうだろう。
そうすれば、この忌まわしき新たに書き加えられた、黒歴史も消えてくれる。
惜しむらくは、彼女のことを思い返すことが、できないことだ。
それがつくづく惜しい。
冥途の土産として持っていきたい。
いやこの場は『転生の土産』が適してるのか。
二度と思い出すことも、再び見ることもできないのかと考えると、胸が苦しくなる。
輪廻転生しても彼女に会いたい。
心の奥底から願う。
そして、祈る。
ーーもう一度彼女に逢いたい。
「クスッ。」
今、彼女が笑みをこぼした?
微笑んだよね?
思いがけず、彼女の笑顔を見ることができた。
胸と下半身に熱いものが込み上げる。
ーーごめんよ、まだ僕には逝く所があるんだ。
ーーこんなに嬉しいことはない。
ーーわかってくれるよね?
ありがとう絶世の美麗女神様。
「それではあなた様の、今後より一層のご健闘とご活躍を、心よりお祈り申し上げます。」
視界から消えかかる彼女は、最後まで気品と優雅さを感じさせる、美しいお辞儀を深々とする。
だが、注視すべき点はそこじゃあない。
……お祈りされたぞ。
今の不採用通知のお祈りメールの文言だろ。
これから面接だというのに、始まる前からお祈りされた、というのはどういうことだ。
ーー死んだからお祈りされた?
ってわけじゃないだろ。
しかも『より一層』と『心より』の所とか、妙に不穏な感じのアクセントがしていたぞ。
なんで、このタイミングで言うんだ。
言わなかったら言わなかったで、 『サイレント』 になってしまうだろうが。
評価なり、感想なり頂ければ、今後の創作活動の励みになります。
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