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異世界転生をうらはらに  作者: 八仙望
Step 01 最終面接はうらはらに
6/6

Step 01-5 お祈りの言葉

 今、読んで頂いてるあなた。ありがとうございます。心より感謝を申し上げます。

 この小説は、私の初稿です。私の人生で初めて書いた作品です。

 思うがまま、なすがままに、勢いに任せて、キーボードを打ち叩いて書いてます。

 読みずらいと思います。分かりづらいと思います。色々とウザイと思います。

 ですが、ここまで読んで頂きありがとうございました。

 重ねて、心より感謝を申し上げます。


 もう余計な事は考えるな。

 あるがままを生きよう。

 自己など存在しない。

 そう無我の境地だ。

 意識を開放しろ。

 全て受入れろ。

 全てを流せ。

 全は無だ。

 虚無だ。

 悟れ。

 無。

 。

 

 

 「ではこちらの認識票(IDカード)をご確認の上、首にお掛けください。」

 

 

 認識票(IDカード)と呼んだ木札を、胸元で両手に携えて、彼女がオレの元に歩み寄る。

 

 すると近づく彼女とともに、芳しい香りが鼻孔をくすぐる。

 

 無理だ。無理。

 

 無理なものは無理。

 悟りなんて開けるわけがない。

 

 無我の境地になど辿り着けるものじゃない。

 欲にまみれたオレが、そうホイホイ解脱できる訳がない。

 

 それより今はもっと、この芳醇で涼やかな甘い香りを。

 

 ーー胸いっぱい吸いこみたい。

 

 芳醇な香りは今まで飲んできたすべての酒や、たばこの香りをはるかに超えている。

 

 沈香の良質な伽羅(きゃら)も聞く機会もあったが、これほどのものでは無かった。

 東大寺あるという蘭麝待や紅沈香は、見たことも聞いたこともないが、これを超えるとは思えない。

 

 生前では、決して味わうことのできない香気、この世ならざる芳香だ。

 

 もっと嗅いでみたい。

 

 嗅ぎたい。

 嗅がしてくれ。

 肺をこの匂いで限界まで、満たしたい。

 

 だが、オレの体は欲望に従ってはくれない。

 息をすることもできないのだ。

 

 わずかな香りが鼻先でくすぐっている。

 こんなままならない状況、耐えられたものじゃない。

 

 これは蛇の生殺しだ。

 

 禁酒禁煙を強いられていてた頃、宴会の席に放り込まれたことがあった。

 

 目の前で皆、散々飲み食いしていた。

 誰もが美味そうに、楽しいそうに。

 

 オレはそれを指を咥えて見ているしかなかった。

 

 指を咥えていたつもりだったが、気が付けばタバコを咥えていた。

 酒も飲んでいた。思う存分飲んでいた。

 

 その後、医者にしこたま叱られたのはご愛敬だ。

 

 オレのお豆腐メンタルを侮ってもらっては困る。

 

 他人に禁止されたぐらいで、止められるなら辞めている。

 でなければこんな、くそゲー人生送ってはこなかった。

 

 おあずけならまだいい。

 いつかは『よし』と言って貰えるから。

 

 でも彼女は『おあずけ』とは云ってはくれないのだ。

 

 これはSMプレイですらない。

 

 彼女はオレの女王様になるつもりはないようだ。

 

 彼女がオレの女王様でないなら、他に関心を移して、気を紛らわすしかあるまい。

 

 匂い以外にも目を見張るものがある。

 彼女が差し出した木札を包み込む、白く輝く手だ。

 

 綺麗な指だ。

 10本の指は、清流を漂う白魚が、群れているようだ。

 細くもたおやかな一つ一つが輝きを放つようで、眺めていても飽きない。

 

 いつまでも眺めて居たかったが、彼女が差し出した認識票(IDカード)を、勝手にオレの手が受け取ってしまう。

 

 受け取らなければ、いつまでもこの指を、鑑賞していられたものを。

 しかも、彼女の手に触れたにも関わらず、感覚が無い。

 

 ーーなんてこった。

 

 きっと柔らかく暖かな感触だったに違いない。

 

 悔やむに悔やみきれない。

 あの手でオレの頬を包んでもらいたい。

 

 この木札のように。

 

 受け取った木札には首掛け紐が通してあり、木札には『イの一番』と筆文字で書いてある。

 

 オレは『イの一番』か。

 

 縁起がいい。

 自慢じゃないが、オレはクジで一番なんて引いたことがない。

 

 思わず頬ずりをしたくなるが、自分の意志を無視し、体が勝手に認識票(IDカード)を首に掛ける。

 

 もう彼女の言いなりだ。

 奴隷と云ってもいい。

 

 ーー奴隷でもいいとも。

 

 もうオレは彼女の虜だ。

 体のみならず、魂まで彼女に支配されてしまった。

 

 というかオレは今、魂なのだろうか?

 それとも霊体なのであろうか?

 

 

 「魂でも霊体でもご自由にご判断頂いてかまいません。」

 

 

 またしても、彼女がオレの疑問に答えてくれた。

 些細な疑問だったが、彼女はちゃんと答えた。

 

 女性と話すのは抵抗があったが、こうして疑問に考えたことに答えてもらうのは、なんともうれしい。

 

 いや、気持ちいいとさえ感じる。

 こんな楽しい想いをしたのは、どれぐらいぶりだろうか。

 

 「ではこちらにお進みください。」

 

 

 またもやおれの体は、彼女の言いなりになってしまう。

 勝手に立ち上がり、ゆっくりと彼女の前を通り過ぎようとする。

 

 何処へ逝くかはわからない。

 

 輪廻転生すれば、記憶は消えてしまうだろう。

 そうすれば、この忌まわしき新たに書き加えられた、黒歴史も消えてくれる。

 

 惜しむらくは、彼女のことを思い返すことが、できないことだ。

 

 それがつくづく惜しい。

 

 冥途の土産として持っていきたい。

 いやこの場は『転生の土産』が適してるのか。

 

 二度と思い出すことも、再び見ることもできないのかと考えると、胸が苦しくなる。

 

 輪廻転生しても彼女に会いたい。

  

 心の奥底から願う。

 

 そして、祈る。

 

 ーーもう一度彼女に逢いたい。

 

 

 「クスッ。」

 

 

 今、彼女が笑みをこぼした?

 微笑んだよね?

 

 思いがけず、彼女の笑顔を見ることができた。

 胸と下半身に熱いものが込み上げる。

 

 ーーごめんよ、まだ僕には逝く所があるんだ。

 

 ーーこんなに嬉しいことはない。

 

 ーーわかってくれるよね?

 

 ありがとう絶世の美麗女神様。

 

 

 「それではあなた様の、今後より一層(・・・・)のご健闘とご活躍を、心より(・・・)お祈り申し上げます。」

 

 

 視界から消えかかる彼女は、最後まで気品と優雅さを感じさせる、美しいお辞儀を深々とする。

 

 だが、注視すべき点はそこじゃあない。

 

 

 ……お祈りされたぞ。

 

 今の不採用通知のお祈りメールの文言だろ。

 

 これから面接だというのに、始まる前からお祈りされた、というのはどういうことだ。

 

 ーー死んだからお祈りされた?

 

 ってわけじゃないだろ。

 しかも『より一層』と『心より』の所とか、妙に不穏な感じのアクセントがしていたぞ。

 

 なんで、このタイミングで言うんだ。

 

 言わなかったら言わなかったで、 『サイレント』 になってしまうだろうが。


評価なり、感想なり頂ければ、今後の創作活動の励みになります。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

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