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異世界転生をうらはらに  作者: 八仙望
Step 01 最終面接はうらはらに
4/6

Step 01-3 影なき男

 

 白い床の上にはオレが座っている椅子の影がある。

 

 だけど、オレの影は無い。

 

 足を軽く浮かしてみても下の白い床には影はできない。

 常識ではない得ない事象。

 

 これは夢ではない。

 それはさっき確認した。

 

 多重夢でも明晰夢でもない。

 正夢、逆夢、心理夢、不安夢、願望夢、過去夢、前世夢、刺激夢、予知夢、警告夢、雑夢、吉凶夢、神霊夢、ストレス夢でもない。

 

 あと酔夢だが。

 ベッドで寝るまでの記憶はある。

 

 だが、酒を飲んだ覚えはない。

 そもそも酒を飲める状態ではなかったのだから。

 

 残るは白昼夢。

 

 白昼夢は睡眠中にみる夢ではない。

 (うつつ)でみる幻だ。

 

 ーーいや悪夢だろ、これ。

 

 夢を見ている訳でもなければ、酔っぱらっている訳でもない。

 幻覚でもない。

 

 オレはまともだ。

 まともなはずだ。

 まともだと思う。

 

 正常な認識ができている。

 であれば、世界が異常なのだ。

 異常な世界。

 

 ーー異世界。

 

 いやいや、いくら何でも荒唐無稽すぎる。

 

 異世界なんてそれこそお話の世界だ。

 ご都合主義にもほどがある。

 

 であればオレは、死んじまった、のか?

 

 

 

 ーー人生オワタ\(^o^)/。

 

 オレは死んだ。ご臨終したのだ。

 

 思い当たる節が無い訳でもない。

 

 病院のベットで就寝してから、今までの間の記憶がない。

 

 記憶をよくなくしていたのは深酒をした時だ。

 泥酔して記憶が飛んだのでなければ、記憶をなくす心当たりがない。

 

 おそらく病院のベットで就寝中に、容体が急変するなりして絶命し、ここにいるのだろう。

 

 死んだのであれば、ここは死後の世界だ。

 

 死者しか存在しない黄泉の国。

 獄卒の鬼が見当たらないので、地獄ではないようだ。

 

 雲でできた床の上にいるから天国なのか。

 

 またもや脳裏内(モニター)に同じ選択肢(コマンド)が浮かび上がる。

 

  【はなす】 【しらべる】 【あきらめる】

 

 【あきらめる】を選ぶ。

 

 もうそれしか選びようがない。

 

 死後の世界など、知ら無い。

 (しる)わけが無い。

 

 逝って還ってきたモノなど、神話や物語の世界だけだ。

 

 明確な情報など、皆無だ。

 判断すべき情報がない。

 

 生前の常識や培った知識と経験が、死後の世界でどこまで通用するか想像も及ばない。

 

 生前あれだけあがいたんだ、死んでまであがき続ける、気力も、必要も、ない。

 

 なるほど。だから最初から選択肢(コマンド)に【あきらめる】があったのか。

 

 【あきらめる】以外の選択肢(コマンド)を、選択するのは無意味だったんだ。

 最初から【あきらめる】を選択していれば良かったのだ。

 

 脳裏内(モニター)に表示される最後のメッセージウィンドウ。

 

  ┌ーーーーーーーーーーーーー┐

  │             │

  │   ー END ー   │

  │ ■           │

  └ーーーーーーーーーーーーー┘

 

 無情にもカーソルが点滅している。

 

 オレの三十年の人生が、ゲームオーバーしたのだ。

 

 エンドロールが流れることも、走馬灯が走ることもなかった。

 

 今更ながらにロクな人生ではなかった。

 くそゲーだったから、走馬灯なぞ走らなくていい、まである。

 

 ーー終了のお知らせ。

 

 蛍の光のメロディーが途切れることなく、いつまでも流れる。

 

 

 

 「ご納得頂けたようですね。ご理解ありがとうございます。」

 

 いきなり目の前に、女性が現れた。

 

 驚愕のあまり思わず声が出てしま、うことはなかった。

 

 ……声が出ない。

 

 さっき死ぬ気で、オジサンに声を掛けていたのに声がでない。

 

 思わず口元に手を当てようとしたが、手が動かない。

 それどころか身動き一つできやしない。

 

 足元を掘っていた足も、力の限り踏ん張ろうとしても、力がはいらないのだ。

 

 「ご自身の死を自覚されるまで、お待ちしておりました。」

 

 凛とした透き通るような声が、何処までも届く。

 

 落ち着き払ったその声は、聞いているものすべての心が、安らかになる綺麗な声だ。

 

 いや綺麗なのは声だけではない。

 

 気品と優雅さを纏う美しい淑女が、何処までも白い空白の空間に佇んでいる。

 

 澄み切った夏空を連想させる青いスーツ姿が、彼女の存在を更に際立たせてせる。

 

 一片の雲が夏空にぽつんと浮かんでる風景の、空と雲の互いの色を入れ替えたイメージだ。

 

 鮮やかすぎるコントラストのせいだけで、目が離せないわけではない。

 

 彼女の容姿は月並みな言い方だが、絶世の美女だ。

 

 いや、月並みな言葉ではあまりに失礼だ。

 

 ただの美女ではない。気高く、麗しく、艶やかでいて荘厳。

 

 そう、『絶世の美麗女神』というのはどうだろう。

 

 まあここはあの世で、この世じゃないから、絶世が適切かどうかわからないが。

 

 

 などと空回りしていて、絶世の美麗女神様の言葉の内容を理解していなかった。

 

 つまり自分自身が死んだことを、認識して納得するまで彼女は待っていた。

 

 彼女が現れたのは、ここにいる全員が、状況を理解したから。

 

 協調性のない迷惑なやつだな。誰だそいつは。

 

 「死亡した事実を受け入れられない方が、稀にいらっしゃいますので。」

 

 思わす言いたくなってしまう。

 

 ーー( ゜д゜ )こっち見るな。

 

 スマソ。

 

 申し訳ありません。私ですね。

 私が元凶だったのですね。私が悪うございまいた。

 私の理解が及ばなく、ご迷惑をお掛けしましたことを深く謝罪いたします。どうか平にご容赦ください。

 

 取引先(クライアント)とのトラブルが発生した時は、どのような状況であっても、謝罪が優先すべき事項である。

 

 いかに先方に非があることが、明白な事実であったとしてもだ。

 

 これは生き抜くための知恵である。

 

 いかな時でも、誠意と謝意を示すことは重要だ。

 誠心誠意を示すことで、身をたすくことがあるやもしれん。

 

 死亡している現在、この知恵が必要かどうかは、不明だが。

 

 だが如何に、誠意と謝意があろうとも

 

 ーー焼き土下座は、断る。

 

 思い返してみるとオレ以外、誰も微動だにしていなっかた。

 

 オレ以外の人たちは、ちゃんと自分が死んだことを、既に受け入れていたのか。

 

 だから誰も話すこともせず、悟りを開いてるかのように感じたのだろう。

 

 であれば、すぐにでも現れて説明してくれれば、良かったのではないだろうか。

 

 

 「ご理解頂けない方は、錯乱されて粗暴な行為に及ぶ方が大半ですので、ご納得頂けるまでこの場でお待ち頂いております。」

 

 

 なるぼど暴れるような顧客は客ではない。

 

 不良顧客(クレイマー)が諦めるまで放置する方針か。

 

 理不尽な要求を受け入れてしまうと、新たな要求が次から次に生まれることがある。

 そしてそれは、更にエスカレートしていくのだ。

 

 そうなると、いつまでも理不尽な対応を続けることになる。

 

 だから最初から対応しなければいい、対応しなければいつかは諦める。

 相手は頭に血が上り熱くなるだろうが、脳みそが沸騰しているなら、冷めるまで待つのが無難だ。

 

 しかし、諦めるまでどれほど時間が掛かるかわからない。

 

 どれほど待つつもりだったのだろうか、彼女は。

 

 「ここでは、時間に意味はございませんので。」

 

 生前の常識の範疇外だ。

 

 時間に関するものは宇宙物理学や、量子物理学の基礎となっている一般相対性理論だ。

 一般相対性理論はGPS等の人工衛星の運用において、その理論は実証されているが、時間の進み方が違うだけで、意味が無い訳ではない。

 

 時間を無意味にするものは、タイムトラベルとかタイムリープなどの類になる。

 

 最新の科学研究でも、タイムトラベルは実現不可能だとされている。

 時間は過去から未来に進んでも、過去に戻ることはできない。

 常に未来に向けて一方向にしか流れないからだ。

 

 有名な天才と呼ばれる科学者や数多の優秀な科学者たちが、ワームホールやらループ量子重力理論など、日夜研究を続けていても未だ解明されていない未知の領域だ。

 

 なのに、時間に意味が無いのと断言された。

 

 多少の聞きかじった知識しか持ち合わせていないオレでは、到底理解の及ぶことない事象なのだろう。

 

 訳も分からない状況下で、プレッシャーに押し潰されそうになりながら、必死にオジサンとコミュニケーションをとり、限りある頭髪を犠牲にしてまで床を掘り返していたことは、あの世では意味のないことだったのだ。

 

 明確なのは、無駄な悪あがきだったってことだ。

 

 ここで時間に意味が無いように、オレの無駄な悪あがきも意味が無かったのだ。


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