第十二話 シスターの背負うもの
「私は三ヶ月ほど前まで勇者パーティーで活動していたことはご存知ですか?」
「はい、噂ではありますが、、、」
「私は、”広域蘇生”というスキルを持っています。」
「”広域蘇生”?、聞いたことのないスキル名称ですね」
「はい。広範囲いる人間に同じ効力を持つ回復をもたらすと言うものなのですが、
固有特性なんです」
「固有特性!?、」
『固有特性』
そう聞いて驚かない魔術師はいない。
太古の昔から天災を打ち払い、疫病を食い止め、戦争を終わらせてきたのはこれを
持ついわゆる”能力者”だ。この世界で神話や伝説に記されることが度々事実として捉えられる
のは、この存在が大いに関わっている。人類8000年前から今までの間、
ありとあらゆる歴史的事象に能力者が関わっていた。
そんな歴史を変えんともわからないような大人物が、今、一国の学院でシスターをしている。
通常ならあり得ない極めて異例のことだった。
「そんな方が、どうして戦線を離脱なさったんですか?」
「ええ、私は確かに固有特性の所有者でありました。しかし、
三ヶ月ほど前、この力が、呪われていることに気付かされたのです。」
「呪われてる?」
「はい、それに気付かされたのはある出来事が原因で・・・」
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「今日も首尾は上々だな」
「ああ、だがお前のガードがなくちゃ危なかったぜ」
背中に剣を背負った華奢な男は言う。
「何、こうしてHPを気にせずガードに専念できるのもモニカの能力あってこそだよ。
流石に今日ばかりはダメかと思ったのになぁ。」
驚嘆したように盾を持った大柄な男は言った。
「そう言ってもらえて嬉しいです。」
「もう、私のレンジャーは無駄みたいに聞こえるんだけど?」
「わりい、わりぃ、感謝してるよ。お前のおかげで常時攻撃力1.5割増しだからな」
モニカ:ちょうど、私たちは森の中の開けたところを歩いていたんです。
「嘘でしょ、、、」
モニカ:最初に敵に気づいたのはレンジャーのマラでした。
「どうした?」
「敵反応多数、、、どうしてこんな数。。」
「おお、残党狩りか・・悪くない!」
「違う、、、そんな規模じゃない。周囲50メートル、私が探索を使える範囲は全て
魔獣に囲まれてる、、、」
「嘘だろ。。。一つのパーティーがこなすレベルの量じゃないぞ、、、」
「とにかく、この包囲を突破することが最優先だ!ガードのバレンを先頭に雑兵を
俺が片付けつつ、モニカはバレンの後ろで回復を頼む。」
「ああ、任せろ。!」
背中に担いだ巨大な盾をかざし魔力をこめる。
「『絶対防壁』!」
「よし、そのまま突進してマラは、随時ナビを頼む」
「了解!!」
「オリャァァァァァァァァァ」
ギィィィィ!!ガルルルル、カララララ、
モニカ:突進の中でおぞましい数の魔獣のうめき声を耳にし、
何も起きないでと願いながらひたすら回復魔術の詠唱を続けました。
「よしもうすぐ群れを突破するよ!」
「おう!」
モニカ:大量の群れの景色から私たちの乗ってきた馬車が見え、安心し切っていました
ガッ、
モニカ:何かにぶつかる強い衝撃を受け私たちは倒れたのです
「コイツは、、、」
「嘘だろ!?」
「なんで、こんなところに・・・」
「そんな・・・」
モニカ:そこに立っていたのは・・・”龍人”でした。
ゴロロロ、、、ビリ、ビリ、ビリ
白い髪に、紅色の瞳、手と足には蒼色の雷をまとい仁王立ちをしていた。
ふと、恐ろしい姿を横目にバレンとリーダー:ハウの震えが止まっていたのを
モニカは目にしていた。
「マラ、モニカをおぶってギルドにいってくれ。
増援がいる。お前の足なら3時間はかからないだろう」
「はあ?、何言ってんの。一緒に逃げるに決まってんでしょ。それに、さっきの作戦であんた達の
魔力はもうとっくに」
「マラ!!!」
バレンが大声を出す
「行ってくれ。そして必ず増援を呼んでこい。俺たちは必ず生きてるから。。。」
「、、、、わかった。」
「そんな、あんなの嘘に・・」
「うるさい!!さっさと行くわよ!!時間を無駄にする気?」
「ちょ、離してください。私がいなくちゃ回復が、、、」
モニカの意思を無視し、マラは全速力で走り出した。
「ばか、あの回復魔法頼りきりの筋肉バカが、ああ言ったんだよ。
あいつら、はなから持ち堪えられるなんて思っちゃいない。」
「だったらなんで止めないんですか!?」
「止めたいよ!!!」
マラの顔を見ると涙でグチャグチャだった。
「私が、撹乱作戦で最後相手を巻けるって堂々と言えたらって心底思うよ」
「でも、圧倒的な戦力差を前に、うちの主戦力二人が腹くくっちゃった。
一体どう止めればいいのよ」
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「行ったか」
「ちげえねぇ、、、全く、最後の最後までお前に背中預けっぱなしだったな、俺」
「それは、俺も同じさ、ハウ」
龍人:「貴様ら、我の意思に反く行為が何を意味するか知っての行動か?」
「ああ、そうだ、だからなんだ」
龍人:「何と言うことはない。ただ死ぬだけだ」
「はあ、ずいぶん行ってくれるじゃねえの、やってみろよ」
龍人:「イキがるなよ人間!!!」
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「増援を連れて戻るとそこには、傷だらけの龍が死んでいて、腹にはハウの所持品である
魔剣バルトソレオとバレンの所持品の聖盾クロノフィロスが突き刺してありました。
周囲は一面荒地になり、恐らく魔剣の奥義を発動した際、魔力不足で二人は、、、
私が仲間を助けるたびに魔獣を引きつけてしまうスキルが隠れていたことを知ったのは、
その後です。」
「お二人はその後どうしたんですか?」
「マラは今王都を拠点に情報屋をしています。もう会うことはないでしょう。
それから私は安全な王都付近でシスターの職を取ろうと思い赴任しました。」
「このことを知ってるのは?」
「この学校では、多分あなただけです。」
「分かりました。ありがとうございます。お願いを聞いていただいて」
「いいえそんな。それに、近々辞職願を出そうと考えていたところですし。」
「それは困ります。」
「え?」
「学校の華が失われてしまうのは悲しいですからね」
「いや、しかし・・・」
ロキはイタズラっぽくニヤけた。
「いいんですか?私、ここにいても・・・」
モニカの目には涙が浮かぶ。
「ええ、ここにこそいてください。」
「、、、、、ありがとう。」
モニカはこの時、パーティーを抜けて以来、初めて笑ったのだ
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