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七草
「どうする、もう猶予は......」
「分かってるよ、だから急かすような事を言わないで!」
自分の無力さを痛感する場面に立ったとき、人は血が滲み出てしまうほど唇を強く噛むらしい。うっすらと、血の味が鉄の味がした。
世界で誰よりも崇められたり憎まれる実在不詳の神さま。
好かれる事も嫌われる事が世界一の神さま。
この日、神さまは一人の少女を目の前で殺そうとしている。
嗚呼、神さま。こんなにも必死で生き抜こうとする、いたいけな少女を何ゆえ殺めようとするのでしょうか。
あまりにも細く粉雪のように白い手を失いたくなくて、ぎゅっとこの手で握り締める。
その手にはまだ、人間特有の温かさがあった。