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3A.M.  作者: 如月 望深
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daydream 02

 翌日、一緒に合コンした男連中と一緒に飯を食いに行ったら、合コンの後の話になった。それぞれ気に入った女の子をお持ち帰りしたはずだ。

「で、お前は、堀口?」

 話を振られて、一瞬口ごもる。俺も一応は気に入った子と二人で帰りはしたのだ。

「いや、俺は、送って帰っただけ」

 ええ~!と奴等は一斉に声を上げた。

「何で、また。お前、何か彼女怒らせるようなことしたのか?」

「お前がお持ち帰りしないなんて、どうかしたのか?」

「体の調子が悪いとか?」

 口々に奴等は俺に質問した。

「いや、そういうことじゃなくて…」

 俺は一拍間を空けた。彼女の笑顔が脳裏をかすめる。

「何となく、そういう気分じゃなかっただけ」


 送っていった女の子の家までは行ったのだ。だけど、まばたきする度思い出す彼女の瞳に後ろめたさを感じて、それどころじゃなかった。


 不満そうな女を部屋に押し込めてじゃあ、と半ば強引に引き上げた。正常なオスとしての機能は働かないわけじゃなかっただろうけど、気分も乗らないのに好きでもない女とそうなるのは面倒だった。

「お前でもそういう時があるんだな」

「人を盛りのついた猫みたいに言うな」

 俺の行動の意外さを素直に口にする悪友たちをじろりと睨んだ。



 その日、俺はいつもより早めに仕事を切り上げてあの店に向かった。あそこへ行けば彼女に会えるなどという確信があったわけじゃない。けれど、それ以外に彼女に会う術はなかった。

 なぜこんなにも彼女のことが気になるんだろう? 一目惚れなんてしたことがない。これがそれだとも思わない。


 だけど、もう一度会いたいと思った。


 店に着くと、もう既に多くの人で賑わっていた。人々が狂ったように踊っているフロアーに一人で行く気にはならなかったのでバーカウンターに座ることにした。

「いらっしゃいませ」

 リヒトというバーテンダーが微笑む。昨日、何となく気まずさに目を逸らした微笑だ。名前はこの店に連れてきた友人に聞いた。女性客の人気はさることながらバーテンダーとしての腕もなかなかで、酒好きからも人気を得ている、とは友人の談だ。

 平然を装ってウイスキーをオーダーした。リヒトは微笑のまま「かしこまりました」と頷いた。何故だかこのリヒトという男は苦手だ。少しして、リヒトは「お待たせしました」と俺にグラスを差し出した。そして他の客に声を掛けられ俺に背を向けた。

 と、隣のスツールに誰かがやって来た。見れば、カウンター席はいっぱいで、俺の隣の席しか空いていなかった。グラスを傾けつつ横目で隣を見遣った俺は、思わずウイスキーを吹き出しそうになった。

 隣に座ったのは昨日の彼女だったのだ。

 驚いて凝視する俺に気付くと彼女は微笑んで小さく頭を下げた。俺のことを覚えているのだろうか? だとすれば、これを運命と呼んでも差し支えないのだろうか?

「あの、昨日、大丈夫でした?」

 チャンスとばかりに声を掛ける。

「大丈夫です。私ったらドジで」

 微笑んで彼女は答えてくれた。

「いや、昨日は俺がよそ見してたから」

 俺の言葉に彼女は更に柔らかな、花のような微笑で返してくれた。同じ微笑でもリヒトのものとは種類が違う。心が和む微笑だ。と俺は勝手に心の中で思った。

 不意に、カウンターの向こうから手が伸びて彼女の前にカクテルグラスが置かれた。

「ありがと、リヒト」

 彼女はリヒトにも可愛い微笑を向けた。

「よく来るの、ここ?」

 何も言わなくてもカクテルが出てきたということは、常連なのだろうかと推測した。

「時々ね」

 彼女はカクテルに口をつけ、目だけ微笑んでこちらを見遣った。


 しばらく世間話をして、少し打ち解けてきたところで名前を訊いた。彼女は「さくら」と答えた。彼女に似合う可愛い名前だ。

 更に取り留めのない話を続けてからさりげなくこの後の展開を期待する言葉を口にした。ところが彼女は気付いていて知らないふりをしたのか、気付いていないのか、何のリアクションもなかった。めげずに何度か遠回しに誘ったが、ことごとくさらりとかわされた。彼女相手にあまりに直接的な言葉で誘うのもどうかと思って、結局今日は引き下がることにした。

 連絡先も教えてはもらえなかった。この店に来れば会えるだろうと微笑む彼女にそれ以上強引には訊けなかった。



 彼女には、まるでその気がない。



 下手に押しても引かれるだけだ。時間を掛けて口説くしかない。長期戦に切り替えることにした。


 けれど、店に行けば必ず会えるというわけでもない。俺も毎日行けるわけでもない。どれほどの長期戦になるのか。さくらと会えることを期待して寄った店で肩透かしを喰らった俺は、カウンターでウイスキーを傾けた。

 上着のポケットには彼女へのプレゼント。女の子に人気のブランドの限定ネックレスだ。結構値も張るが、これで彼女が落ちるなら痛くはない出費だ。とはいえ、高価なプレゼントというのは彼女には効果はなさそうだった。何度かプレゼントをしたが、一応は喜ぶものの、だからといって俺を好きになるとかそういうことを匂わせる素振りはなかった。

 ままならぬ状況に溜め息をつき、顔を上げるとリヒトと目が合った。

「まるで、手に入らない玩具おもちゃを欲しがる子どものような心境、ですか」

 微笑とともに辛辣な言葉が吐かれる。

「そんなんじゃない!」

 思わず語気を強めて否定した。リヒトは冷たく冴えた微笑を綺麗な顔にひらめかせて俺に背を向けた。他の客に対応するリヒトをちらりと見やる。女に苦労なんてしたことなさそうなあいつは、このカウンターでの俺と彼女のやりとりを全て知っていて、きっと笑っているんだろう。落ちない女にヤキモキする男を見て。


「ケイくん」

 女の声に振り向いた。さくらの声じゃない。見やった先にいたのは、この間の合コンで会った女の子だった。名前は確か…。

「マナちゃん?」

 どうやら合っていたらしい。彼女はにこりと笑って俺の隣に座った。

「最近連絡くれないから、どうしたのかなって思ってたのよ」

「ごめん、忙しくて」

 見え透いた言い訳をした。

「んー、カクテルで許してあげる」

 マナは安い女だ。いや、扱い易いと言うべきか。そこまで俺に執着が強くない分、多少の無理な言い訳も聞き入れてくれる。割り切った付き合いのできる女だと思う。

 マナにカクテルを奢ると、俺は彼女を店の外に誘い出した。それ以上、リヒトの視線に耐えられなかったからだ。何も言わずに時折こちらを見やるリヒトには、他意はなかったのだろう。だけど、いつあの冷ややかな笑みを向けられるかと思うとその場に留まるのは耐えられなかった。

 勢いでマナも一緒に連れて出てしまった。そしてそのまま、マナの誘いに乗った。向こうとしてはこの間放って帰られたプライドがあったのだろう。こっちはこっちで思い通りに行かない現実に苛立って他へぶつけたい気もしてもいた。お互いの利害が一致した。

「君にあげようと思ってたんだ」

 と、あからさまな嘘をついてネックレスを渡した。マナは気にした様子もなく高価な贈り物に素直に喜んだ。女を落とすのなんて、こんなに簡単。金銭的価値の高いプレゼントにあっさり引っかかる。誰だって、自分にどれだけの金銭が使われているかで愛情とやらを量るんだろう?



 他の誰かなら、こんなに簡単。



 口説くのも、プレゼントで落とすのも、触れるのも、唇を重ねるのも、身体を合わせることさえ、痛みの一つも伴わない。ひと時の快楽に本能のままに身を委ねればいい。

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