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3A.M.  作者: 如月 望深
28/106

bravado 01

 私が強いだなんて誰が決めたのか。


 そんなの、周りが勝手にそう決め付けただけで


 私の自己申告じゃない。




「君は強い人だから」

 聞き飽きた台詞を今日も向けられる。

 そんな理由で私に嫌な役を押し付けるのか思うと腹が立つ。

「大丈夫だよね?」

「はい。ご心配なく」

 虚勢を張って答える私。


 本当に、私はバカなんじゃないかと我ながら思う。


 嫌なことを嫌と言う勇気もないくせに、強い女を気取って、いいことなんて何一つありはしない。


 女の子は可愛い方がいいに決まっている。同僚の奈々子ちゃんみたいに、背が小さくて、目が大きく黒目がちで、か弱くて、甘え上手で。

 奈々子ちゃんは男に媚びたりはしないけど、無意識に甘え上手だ。高い所の物を取る時は無理をせずに近場の男に頼むし、男も奈々子ちゃんが背伸びをしていればすぐに助ける。重い荷物を持っている時もあっさり男の人に頼む。奈々子ちゃんの頼みを断る男なんかいない。

 まあ、私が頼んでも人として助けてはくれるだろうけど。

 でも、私は素直に男の人に頼むことが出来ない。女の弱さを見せたくない。「損な性分だね」と奈々子ちゃんは言う。彼女に言わせれば、「所詮、男と女は違う生き物だから、同じことを求められても出来ない。それなら出来る方が出来ることをすればいい」ということで、自分の出来ないことを頼むことに何の躊躇もないらしいのだ。


 考え方からすれば、奈々子ちゃんの方がよっぽど大人でクールなのだけど、彼女が可愛いことに変わりはない。


 私は同性からカッコイイと言われたことはあるけど、可愛いなんて言葉とは無縁だ。例え言われても、あまりに自分にそぐわない言葉にむず痒い思いをするだけだろう。



 皆、奈々子ちゃんみたいに可愛い女の子の方が好きなくせに、強い女である私を利用してはばからないのだ。


 

 グラスのカクテルを飲み干して、大きな溜め息をついた。時間つぶしと気を紛らわせるために寄った店のカウンターで私は何杯目かのカクテルを飲み終えた。

 店の奥のフロアーで踊っている人達みたいに陽気になる余裕はないけれど、シラフでなんかやっていられない。

「随分と大きな溜め息ですね」

 カウンターの中から綺麗な顔したバーテンダーが言った。

「…別に、何でもないわ」

 二人の店員が忙しそうに動き回るフロアーを眺めながら答えた。まるで心の中の狂気を曝け出すように踊り狂う人達に視線を送る。

 おかわりはと聞かれて同じものをと頼んだ。バーテンダーは微笑して同じカクテルを差し出した。

「ねえ、リヒトさん、聞いて」

 一つ向こうの席に座った女の子がバーテンダー相手に愚痴をこぼし始めた。リヒトは時々頷いて、微笑して彼女の話を聞いている。話し終えると満足したのか彼女は残りのカクテルを飲み干して店を出た。


 …あんな風に、簡単に本音を曝して、楽になってしまえたらどんなにいいだろう…。


「あなたも、強がっていないで本当の自分を曝してしまえばいいのに」


 心の声が聞こえたかのようなタイミングでリヒトが言った。


 憂鬱な気分で歩いていた時に偶然見つけた小さな灯りと黒いドア。ドアを押し開けて店内に入った瞬間、地下の狭さとは反対に押し寄せる開放感に身を委ねそうになったあの感覚が蘇る。

 薄暗くて騒がしいのに何故か開放的なこの店の雰囲気に流されて弱音をこぼしてしまいそうになる。


 けれど、偶然入っただけの店で簡単に弱音なんかこぼせないと強がりな私が答える。

「別に、強がってなんかいないわ」



 私は弱い。


 でも、その弱さを人に見られるのは嫌なのよ。



 リヒトが微笑して私を見つめる。



 ──見透かされる。悟られる。私の弱さを。



「行かなきゃ」

 時計を確認し、自分に言い聞かせるように言って席を立つ。

 もうすぐ約束の時間だ。

2005年初出。

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