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3A.M.  作者: 如月 望深
27/106

no time this time 03

『世の中の多くが幸せを感じてる時に、自分も幸せだって実感が欲しいからでしょ』



 ハトリを見やった俺にハトリは視線を返した。

「皆幸せなのに、自分が幸せじゃないと不幸な気がするから、幸せだって確証が欲しいんじゃない?」


『イブは一緒に過ごそうね』


 そう言った彼女の笑顔を思い出した。


 彼女が欲しいのは、俺からのプレゼントじゃなくて、俺と過ごす『幸せ』を実感する時間?



 不意に、ステージのバンドの演奏が止んだ。店の照明が落とされ、ステージにほの明るい光が当たる。キャンドルの灯りが店の所々に灯され、静かな店内にスローテンポのイントロが流れ出す。さっきまでとは打って変わったバラードだ。




  Silent Night Holy Night

  Good Night Baby


  君の頬を濡らす雫は

  悲しみを集めて

  空がこぼした涙


  やがて

  君に降り注ぐ

  白い天使の羽に

  変わるだろう




「ねえ、サンタさん?」

 ハトリのその呼びかけに、付き合って最初のクリスマスを思い出した。


「将弘の三田って苗字、サンタって読めるね」

 イブの夜に彼女が言った。

「そういえば、そうだね」

 そう答える俺に彼女が微笑む。

「じゃあ、将弘は私だけのサンタね」

 彼女を見やると彼女は続けた。

「サンタクロースは子ども達にプレゼントを運ぶだけじゃなくて、すべての人に幸せを運ぶんだって。だから、私に幸せを運んでくれる将弘は私のサンタクロースよ」

「じゃあ、俺のサンタはあゆみってことだね」

 その言葉に微笑んだ彼女は最高に可愛かった。


 今考えれば、バカップルのベッタベタな会話だけど、あの時は本当に幸せな気分だった。




  Silent Night Holy night

  Santa Claus brings us happiness

  Streets are covered with white snow




「今ならまだ間に合うんじゃない?」

 ハトリが提案した。

 今から彼女に会いに行って、彼女は許してくれるだろうか? 俺はその疑問に心の中で首を横に振った。

「こんな時間じゃ、もう遅いよ」

 俺の返答にハトリは俺を覗き込んで言った。

「『今』より早い時なんてないよ?」

 その言葉に後押しされるように俺は席を立った。コートを羽織って早足にドアに向かう。




  Silent Night Holy Night

  I'll take you a present with my love


  I wish you a Merry Christmas




「将弘」

 声を掛けられて振り向くとハトリが何かを投げて寄こした。それを受け取る。リボンのついたシャンパンのボトルだ。

「…危ないだろ!」

 こんな割れ物を投げやがって、と睨むと、ハトリは天使みたいな笑顔を見せた。

「メリークリスマス」

 その笑顔につられるように俺も同じ言葉を返した。

「メリークリスマス」

 そして再びドアへ向かう。

 ドアを開けて地上への階段を上がると、丁度タクシーが通りかかった。タクシーを停めてそれに飛び乗る。

 タクシーが走り出し、ラジオから定番のクリスマスソングが流れてきた。

 怒られるだろうけど、プレゼントは家に置いてきたままだけど、なかなか機嫌を直してくれないだろうけど、このシャンパンを持って、彼女に会いに行こう。

 すべての人に幸せが与えられるなら、俺にも与えられていいはずなのだから。






 クリスマスを祝う人にも祝わない人にも平等にやってくる夜が終わりかけ、空が白み始めた頃、黒いドアの向こうでは理人、風生、羽鳥の三人が閉店後の片づけをしていた。

「彼は無事彼女に許してもらえたでしょうか?」

「さあ? でも、あのシャンパン飲めば大丈夫じゃない?」

 理人の疑問にハトリが答えた。

「いいことしましたね、ハトリ」

 カウンターの中から理人が微笑した。

「クリスマスだからね」

 カウンターの外で羽鳥が笑みを返す。

「クリスマスねぇ。まさに俺たち関係ないじゃん」

 フロアーから戻ってきた風生がピンッと親指でコインを弾いた。フロアー席に置いてあったドリンクチケットだろう。羽鳥が受け取ってカウンターにコインを置く。銀貨を模したそれには、クリスマスリースのような模様が描かれている。

「入口に柊なんか飾られたら、俺たち入れないし?」

 茶化す風生に笑みを返して羽鳥は答えた。

「でも俺、キリストの自己中心的な考え方って結構好き。理解は出来ないけど」

「ああ、自分一人の命で人類すべての罪を贖えるとか思ってたところ?」

 風生の言葉に羽鳥が頷く。

「狂気じみてて面白いじゃん」

「神を信じて救われなかった人間の狂気って、そそりますよね」

 理人の妖艶な笑みに二人は微笑を返した。

「でもリヒト、よかったのか? あのシャンパン、結構するだろ」

「まあ、クリスマスですから」

 質問に答える理人に、風生が珍しいとでも言うように目を向ける。

「僕達には関係ない行事ですけど、世間的には特別な日ですから」

 理人はカウンターにシャンパングラスを三つ置き、シャンパンを注いだ。

「一つそれに乗ってみませんか?」

 シャンパンの注がれたグラスをそれぞれ二人に差し出す。

 風生と羽鳥は一瞬顔を見合わせ、グラスに手を伸ばした。二人がグラスを持つと理人もグラスを取り、三人は乾杯した。

 シャンパンを味わってグラスを置くと、風生は言った。

「ああ、俺にもサンタが幸せをくれないかなぁ」

「いい子にしてたらくれるんじゃないですか?」

 くすりと笑って理人が答えた。

「もういい子って年じゃないよな、俺たち」

 と羽鳥が苦笑する。

「それに、神が僕らを救ってくれるとは思えませんしね」

「信じる者しか救わないケチな奴だしな」

「救ってくれてたら俺たち、今存在してないよな」

 理人の言葉に風生と羽鳥が頷いた。

「でも俺、今の生活結構好き」

 羽鳥がそう言うと、風生と理人も同意した。

「俺も」

「少なくとも、不幸じゃありませんよね」




  Silent Night Holy Night


  夜は更けて


  幸せの積もった街に 朝が来る

クリスマスやキリスト教及びキリストについての云々は、物語上の登場人物の見解であって、作者のものではありません。また、キリスト教を批判するものでもありません。

なお、作者はそれなりにクリスマスを楽しんでおり、毎年ちゃんと浮かれています。

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