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3A.M.  作者: 如月 望深
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no time this time 01

12月気分でお読みください。

 坊さんも走るというこのクソ忙しい年の瀬に、一体何処のどいつだ? クリスマスなんてイベントを持ってきやがったのは?


 国民の殆どが仏教徒のクセして異教徒のイベントに乗っかって浮かれやがって。


 って、別に俺はクリスマスが嫌いなわけじゃない。

 キリスト教に興味はないけど、このイベントは好きだった。

 子どもの頃はサンタクロースからのプレゼントを心待ちにしていたし、年頃になってからは彼女とロマンチックに過ごしたりしていた。

 割とこのイベントを満喫していたクチだろう。


 だけど、社会人ともなると、事情が違う。


 彼女は「今年こそはイブを一緒に過ごそうね」と言っていたけど、多分無理だろうなぁ。仕事にクリスマスなんて関係ない。イブだろうが何だろうが仕事は仕事だ。この年末の忙しい時期に2年目である俺が早く帰れるはずがない。

 新採だった去年は、その前の年とのあまりの違いに目が回るほどで、結局彼女との約束をすっぽかして、一週間口をきいてもらえないほど怒られた。

 大学3年で付き合い出した年下の彼女はまだ学生で、冬休みの今は暇を持て余している。俺だって学生時代は気楽なもので、のんきにクリスマスに浮かれていた。

 だけど、年末に忙しい職種の今の職場じゃあ、とてもじゃないけど、そんなものにかまけている時間はない。

 年末に向けて仕事は忙しくなる一方で、毎日遅くまで残業して家には寝に帰るだけ。疲れきった体を少しでも休めたいから昼休みは飯食って爆睡。去年は彼女へのプレゼントを買う暇もなくてスネられたから、今年は11月のうちに欲しいものを聞いて買ってある。

 今年も、イブは一緒に過ごせそうもない。

 なのに、クリスマス目前にして未だにそれを言い出せない。だって、彼女はあんなに楽しみにしている。俺だって出来ることなら会いたい。けど、希望と現実の間には大きな溝がある。

 それをどう彼女に言えばいいんだ?



 12月24日、終業のベルが鳴ったところで、誰も帰らない。そりゃそうだ。この忙しい時期にクリスマスを理由に帰る人なんていない。

三田みた、これ総務課に持ってって」

 先輩から書類を渡される。「はい、わかりました」と返事をして席を立ち、総務課へ向かう。その途中で携帯が鳴る。電話に出ると彼女からだった。

将弘まさひろ? 仕事終わった?」

 二つ年下の彼女はまだ大学生だ。一応気を遣って終業時間後に電話をしてきているのだろう。

「まだ。ていうか、多分、夜まで終わらない」

「ええ? 夜までってどれくらい?」

 俺の返答に不満そうに彼女が声を上げた。

「判らない。仕事が終わり次第」

「何それ? そんなアバウトなこと…」

「仕事中だから切るぞ」

 彼女のお説教が始まる前に電話を切った。

 彼女が今日を楽しみにいているのは解る。仕事が終わらないとか、いつ終わるか判らないとか言う俺にがっかりしているのも解る。それで彼女が腹を立てたとしても解る。

 でも、今はそれに付き合っている暇はない。仕事は後から後からやってくるし、明日に回すことなんて出来ない。

 仕事が彼女を待たせる言い訳にならないとしても、仕事をないがしろには出来ない。

「今日はクリスマスなので帰ります」なんて、どの面下げてぺーぺーの俺が言えるというんだ。



 次から次へとやってくる仕事を処理して、慌ただしく時は過ぎていった。気付けば時計は10時を回っている。

「一息入れるか」

 先輩が休憩にとコーヒーを買ってきてくれた。コーヒーをご馳走になりながら訊く。

「本田先輩、彼女いましたよね? イブに会えないんじゃ、怒られません?」

「そうだなー。多分、怒られるだろうな、今年も」

 先輩が溜め息をついた。

「クリスマスが女にとって大切なイベントだってことは解るんだけど、こっちも仕事だからね。まあ、最近は彼女も諦めたみたいで、一応怒られるけど許してくれるかな」

 そうですか、と相槌を打つ。

彼女むこうも社会人だし、仕事を放り出してくるような男だったら引かれるだろうしね」

 そうですよね、と強く同意すると、苦笑して先輩は言った。

「でも、何でも仕事を理由にすれば許されるって訳じゃないから、一応連絡くらいはしとけ」


 先輩のアドバイスを受けて、俺は席を外して彼女に電話した。電話に出るなり彼女は「仕事終わった?」と訊いてきた。「まだ」と答えると、不満そうな彼女の声が聞こえた。

「もう10時過ぎよ? 一体いつまで仕事するつもり?」

 いつまでと訊かれても答えられない。

「早く帰ってきて」

 無理だよ。

 来年、社会人になれば彼女だってきっとわかる。世間のイベントなんて、仕事の進捗には関係ないんだ。

「イブが終わっちゃう」

 いい加減にしてくれよ! 仕事が終わってもいないのに帰れる訳ないだろ? それくらい解るだろ? 解ってくれよ。

 口にすれば彼女と口論になりそうな言葉を全て飲み込んで沈黙している俺に、彼女は溜まった不満を吐き出し始めた。

「ごめん、仕事中だから」

 俺は彼女の愚痴を聞かずに電話を切った。



 結局、やっと仕事が終わったのは次の日になってからだった。もう電車もない。

 俺は始発までの時間を何処で潰そうかと考えながら、クリスマスに浮かれたネオンの繁華街を抜けた。


 ふと、目に入る小さな灯り。

 階段の下の黒いドア。


 ここでいいか、という軽い気持ちでそのドアを開けた。


「ようこそ、いらっしゃいませ」


 天使のような可愛い顔の店員が出迎えた。

2004年初出。

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