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3A.M.  作者: 如月 望深
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bottom of a glass 02

 友人が嫌いだなんて、とても人前じゃ言えないけど。

 私はあの子が嫌い。


 私に無いものを全て持っているくせに、私の大切なものを奪っていく。

 いつもいつも。

 きっとそう、今回だって…。



浩介こうすけのバカッ!」

 思わず私は叫んだ。

「何だよ、バカって? そんなこと言われる筋合いはない」

 私につられて浩介の口調もきつくなる。

 当然だ。誕生日プレゼントを渡したのに「バカ」なんて言われたら頭にくる。

 それは解っている。だけど──。

「何で私へのプレゼントを悠美ゆみに選ばせるのよ!?」

 目の前のネックレスを指差して詰問する私に、浩介は、何を怒っているのか解らない、という表情で答えた。

「だって柏木はお前の友達だろ? お前の趣味もよく知ってるし…」

「そういう問題じゃないわよ!」

 私は浩介の言葉を遮った。

「悠美に選ばせるくらいなら、一緒に買いに行って私に選ばせて欲しかった」

 浩介は表情を曇らせた。

「プレゼント、気に入らなかった?」

「違うわよ」

 むしろ私の趣味にぴったりよ。だけどそれがムカツク。だって悠美の選んだものでしょ? 悠美は私の趣味をよく知ってる。だから私の好きそうなものを上手く選んだはず。浩介と一緒に!

「私が何で怒ってるのか、わからないの?」

 浩介を睨んで私は訊いた。浩介は頷く。

「私は、浩介が悠美と一緒に私のプレゼント買いに出掛けたことに怒ってるの!」

「え? 何で?」

 本当に解らない。そういう顔をして浩介は私を見た。

「もう、いいわよ! バカ! 鈍感!」

 そう叫んで私は浩介の部屋を飛び出した。


 最低だ、私。

 悠美に嫉妬して、浩介に八つ当たりして。

 

 ああ、でも、どうせ浩介は、また悠美に相談するんだろう。

 そして悠美は優しく慰めるんだろう。

 最低だ、こんな誕生日。


 ケイタイが鳴った。浩介からだ。

「もしもし、香織?」

 無言で電話に出た私に浩介は怪訝な声を掛ける。

「お前、何怒ってんだよ?」

「…わからないなら、いい」

 それだけ言って私は電話を切った。

 少しして、再びケイタイが鳴った。

 電話に出た私に掛けられた声は、聞き慣れた声だった。

「どうしたの、香織?」

 悠美だった。

「浩介から聞いたけど、私がプレゼント選んだの怒ってるんだって? でも、それは香織に喜んで欲しかったから…」

 悠美の話を聞かずに私は電話を切った。

 そして電源をオフにして、歩き出した。ヤケ酒したい気分だった。



 柏木かしわぎ 悠美ゆみは同僚で、美人で仕事が出来て、私の自慢の友達だ。

 だけど、私のコンプレックスの種でもある。

 悠美はスラリと背が高くてスタイルがいい美人。未だに高校生と間違われる私とは大違いだ。そのうえ仕事が出来て人当たりもいいし、会社での評判もいい。

 そんな悠美と友達なのは自慢だけど、隣にいる私は悠美の引き立て役でしかないような、そんな卑屈な気分になる時がある。

「悠美と香織って何で友達かわかんないよね」

 そんな台詞は聞き飽きた。私だって、何で悠美が私の友達なのかわからない。

 悠美は私に無いものを全て持っていた。それが憧れでもあり、コンプレックスでもあった。

 私が好きになった人は、いつだって悠美の方ばかり見ていた。

「大丈夫、私が取り持ってあげる」

 悠美はそう言ったけど、彼は悠美の方を好きになった。


 私が失恋した後に悠美が紹介してくれた浩介は悠美の大学時代の同級生だった。

 何度か会ううちに私達は仲良くなり、私は浩介に惹かれていった。浩介は私が好きだと言ってくれた。そして私達は付き合うことになった。

 だけど、浩介は何かあるとすぐに悠美に相談した。

 浩介と悠美は友達なのだし、私と悠美も友達なのだから、浩介の相談相手としては悠美が適任だろう。悠美も私達を互いに紹介した責任みたいなものがあって相談に乗っているのだろう。

 それは解る。解るけど、私は不満で、不安で仕方がなかった。 

『浩介は本当は悠美が好きなんじゃないの? もし今は好きじゃなくても、そのうち好きになるんじゃないの?』

 私の中にはいつもそんな不安があった。

 なのに、なのに浩介はそんな私の気持ちに気付かない。

 私の誕生日プレゼントを悠美と一緒に買いに行ったりして。そのことを怒ったら、また悠美に相談して。



「悠美じゃなくて私を見て欲しいのに」

 私はバーテンダー相手に愚痴をこぼした。リヒトは黙って私の話を聞いていた。

「もう、最低!」

 私はカウンターに突っ伏した。


 うまくいかない恋人。

 コンプレックスの種の友達。

 すべて すべて、消えてしまえばいい…!


「僕には、すべてを消し去ることはできませんが、その逆なら可能です」


 薄れていく意識の中で、声を聞いた気がした。


「あなたがお望みなら、秘密の魔法を、かけてあげましょう」


 黄金色のカクテルに浮かぶ泡の向こうに、アルカイックスマイルが弾けて消えた。

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