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3A.M.  作者: 如月 望深
14/106

step 02

『それは、あんたが自分をぶつけなかったからだろう』


 失礼な男。

 何も知らないくせに知った風な口を利いて。

 ちょっとイイ男だからって、何様のつもりよ!?


 相手に良く思われたいのは当然でしょ?

 恋愛なんて、好印象与えるために多少の嘘は付き物じゃない。

 好きになって欲しくて、努力するのは普通のことよ。


 でも、昨日、言われた言葉が頭から離れない。


『本音の自分を曝け出せば、スッキリするのに』


 私が今でもあんな男を諦めきれずにいるのは、本当の私をぶつけないまま来ちゃったからなのかな?



「…子! 朋子!」

 私はハッとして顔を上げた。

「どうしたの? ボーッとして。授業終わったよ」

 友達のはるかに言われて、ここが学校であることを思い出した。授業中に考え込んでしまっていたのだ。

「昨日、カザキって人に言われたこと考えちゃって」

 私は溜め息をつきながら言った。彼女は昨日私を飲みに連れて行った友達の一人だ。

「カザキと喋ったの?」

「うん。私が店を出た後、この指輪持って追いかけてきた」

 再び左手の薬指に収まった指輪を見せながら私は説明した。

「そういえば、昨日、飲んでる最中に外してたね。でも、朋子がそれ置いてったの、私達も気付かなかったのに、カザキ、よく気付いたね」

 不思議そうに遙は言った。

「何かよくわかんないんだけど、訳知り顔で説教されて。私があいつを忘れられないのは、私がそいつと本音でぶつかってないからだって」

 遙は私の隣の席に座って少し考え込んだ。

「…ま、一理あるかもね」

「そう思う?」

 私は遙に向き直った。

「朋子はマサくんのこと自分から好きになって自分からコクったでしょ?」

 マサくんとは、私のカレシだった男だ。

「だからマサくんに好かれたくて、好みの女になろうと努力してたじゃん」

 私は頷いた。

 髪を伸ばしたのも、メイクもファッションも、みんなマサの好みに近づこうとしてのことだ。

 こっちが向こうを好きなんだし、好きになって欲しいから、多少は自分を可愛く見せようと相手好みに変えることは普通だと思う。

「好みになろうとするのは普通じゃない?」

 確認のため、遙に訊いた。

「そりゃ、そうだけど」

 遙は肯定したけど、すぐに「でもね」と続けた。

「朋子の場合、マサくん好みの、優しくて控えめで、何でも受け入れてくれるコを頑張ってたでしょ。でも、朋子はキャラ違うじゃん。朋子は言うトコはガツンと言うから」

 それがいいところなんだけど、と遙は言ってくれた。

「結局、本当の朋子をマサくんは知らないでしょ?」

 その通り。だけど、本当の自分を見せたら嫌われるかもしれないと思ったら、そんなもの見せられなかった。

 マサは女の子に癒しを求めていると言っていたし、何でも受け入れてくれる母親みたいな存在を求めているのを、私は何となく解っていた。だけど私は母親じゃない。私だってマサに甘えたい時があった。だから弱い自分を見せたのに…。

「…本当の自分を見せようとして、弱い本当の私を見せたらマサは去ってったよ」

「そんなの、マサがその程度のケツの穴の小さい男だったってことよ!」

 遙は勢いよくマサをこき下ろした。

「でも、別れ話くらい、ちゃんとした方がいいよ。バカーッて叫んでぶん殴ってくるだけでも気分違うだろうし」

 何やら過激なことを口にして、遙は私をけしかけた。

 

 でも、確かに、遙の言う通り。

 カザキの言う通り。

 私はマサに何も伝えてないのかもしれない。

 本当の私。本音の私の気持ち。


 …決めた!

 マサに会いに行く!

 会って言ってやる。別れ話くらいマトモにしろって。



 私は学校を後にして、マサのバイト先に向かった。

 バイトを終えて裏口から出てきたマサに声をかけようとした。すると、

「マサくん!」

 私よりも先に声をかけた女の子がいた。マサは私には気付かず、そのコと帰っていった。

「…新しい彼女?」

 好奇心と未練が私の行動力をつついた。私はマサと女の子の後を追った。

 二人が着いた先はマサの家だった。二人は家に入り、女の子はなかなか出て来なかった。三時間後、女の子はマサの家から出てきた。その間、私はマサの家の近くのファーストフードでマサの家を張っていた。まるでドラマの刑事かストーカーだ。

 アホらしくなって、私は家に帰ることにした。別れを告げられた男に文句を言うつもりで来て、新しい彼女とイチャついてるのを見せられても何も楽しくない。

 むなしい気分で家に帰った。


 次の日、やっぱり気になってマサの家に向かってしまった。今日はマサはバイト休みのはずだ。

 ドアホンを押そうとして、人の足音にビビって思わず非常階段の壁のところに隠れた。別に隠れる必要もなかった気もするけど。

 足音の主は同じ歳くらいの女の子だった。彼女はマサの家の前で立ち止まり、ドアホンを押した。中からマサが出てきた。マサは彼女を家に上げた。


 …って、アレ? 昨日の彼女と違うんですけど…。


 昨日の子が彼女じゃないのか、今の子が彼女じゃないのか、私は混乱した。別に彼女じゃなくても男の家に上がることはあるだろうけど、マサに姉妹はいないし…。

 部屋に入っていった子がすぐに出てくるなら、何かを借りに来たとか返しに来たとか、届けに来たとか、そういうことも考えられるけど。

 

 ───結局、あのコ、夕方まで帰らなかった。

 何で私がそれを知ってるかって言うと、昨日と同様、ずっと張ってたからよ。昨日と同じファーストフードじゃ怪しまれるから、今日はファミレス。長居しても平気な場所があって助かったわ。

 って、私、何であの男を見張ってるの?

 彼女(?)帰ったんだし、今は一人だろうし、会いに行くなら今じゃない! 

 私は慌てて店を出た。


 マサがこっちに歩いて来るのが見えた。

「まさか、バレた!?」

 私は慌てて隣の薬局に逃げ込んだ。

 マサは薬局の前を素通りした。そのまま駅へ入っていった。駅への通り道だっただけみたいだ。

 思わず私はマサの後を追った。


 同じ電車の違う車両に気付かれないように乗る。この沿線に住んでるから、定期のお陰で切符を買わなくても乗れるし、降りる時も定期の範囲内なら大丈夫だ。

 マサは大きなターミナル駅で降りた。 

 電車を降りて、人込みの中を歩くマサを見失わないように追いかけた。人の多い駅構内の広場でマサはキョロキョロしだした。

 バレたか、とまたしてもヒヤッとしたけど、マサは待ち合わせをしているみたいだった。

 マサの視線が固定され、手を軽く上げた。その先で綺麗な女の人が微笑んで手を上げた。マサの待ち合わせの相手みたいだ。これまたこの間の彼女とは違うみたい。

 二人は肩を並べて歩き出した。そして近くのファミレスに入る。私はバレないように近くのファーストフードに入った。ここなら二人が出て行ったらすぐに追いかけられる。

 一時間ほどして二人はファミレスを出てきた。私はその後を人込みに紛れて追った。


「おい」

 急に声を掛けられて、私はビクッとした。

 声を掛けられた方を向く。

「何、挙動不審なことしてんだよ?」

 そこにはカザキが立っていた。

「はぁ~。あんたか。驚かせないでよ」

「何だよ、それ」

 カザキが不審そうに私を見やった。

「いや、別に…あっ!」

 私は急いで振り返った。マサを見失ってしまう。幸い、まだマサと女の人の姿は見えた。

 慌てて追う私の後をカザキがついて来た。

「何やってんだ?」

「いいから放っといて。あんたがいると目立つから!」

 背が高くて顔が綺麗なカザキは目立つ。今だって通りすがりの人の視線が向けられている。こんな目立つ人が一緒にいたんじゃ尾行の邪魔だ。

 …ん? 尾行?

 そっか。私のやってることって、尾行か。

 今更ながらにストーカーまがいの自分の行動を思った。でも、今更やめられない。


 視線の先に色とりどりのネオンが見えてきた。ピンクのが多い。そう、繁華街。てか、ホテル街?

 私は思わず足を止めた。視線の先でマサと女の人がホテルに入っていく。マサは女の人の腰に手なんか回しちゃって、ヤラシイ。

「あれ、カレシ?」

 立ち止まった私にカザキが声をかけた。

「…だった男よ」

「ふうん」

 ニヤリとカザキが笑った。

「尾行ってワケ?」

「ちっ…違っ…!」

 本当はそうだけど、一応否定してみた。

「まあ、そいつの嫌なトコ見て嫌いになれれば儲けモンだな」

 カザキは私の否定の言葉を無視して言う。

「追う?」

 カザキが訊いた。

「追うって、ラブホの中までどうやって追うのよ?」

「隣にこんなイイ男がいるだろ?」

 カザキは自分を指差して言った。

 …確かに、男女カップルで入れば怪しまれない。

 でも…。

「いい」

「何で? 俺、別に手出す気ないけど」

「そうじゃなくて!」

 私は声を少し高めた。

「…ああ、なるほど」

 カザキは私の言う意味がわかったようだ。


 私に触れた手で他の女に触れているのを知りたくない。

 私に囁いたみたいに他の女に囁いているのを聞きたくない。


 独占欲?

 執着?

 未練?


 わからないけど、でも…。


「…じゃあ、明日、店に来いよ」

 突然カザキが言った。何が「じゃあ」なのか、繋がりがいまいちわからない。

「面白いモン見られるから」

 ニヤリと笑うカザキの顔は、何かを企んでるみたいな邪悪な笑みだったけど、ネオンに照らされて何だかとても綺麗だった。

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