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3A.M.  作者: 如月 望深
13/106

step 01

 時間ときが解決してくれるとか、あの男が最低だったとか、そんな慰めは意味がない。


 あんな男を、私は諦めきれずにいる。


 それは恋なのか執着なのか。

 未練なのか意地なのか。

 保身なのか停滞なのか。


 わからない。

 ただ一つ言えるのは、私は前に進めていないということ。


 いつから私の世界はこんなに小さくなってしまったんだろう。

 男はあいつだけじゃないし、恋だけがすべてという人生でもないのに。



「俺達、もう終りにしよう」

 突然あいつからメールでそう言われた。

 私がバイトのことで落ち込んで相談した少し後だった。

 終りが近いことは、うすうす感じていた。私が相談した時、あいつはこう言いやがった。

「俺にどうして欲しいわけ? 俺はお前に癒されたいのに、そんなこと、俺に言われても困る」

 何ソレ?

 自分は私に癒されたいくせに、私を癒す気はさらさらないってこと?

 あんたこそ、私にどうして欲しいわけ?

 怒りと悲しみで、私は余計落ち込んだ。そこから少し這い上がったのは、友達と自分の力だ。

 そして、あいつはメールなんかで別れ話を済まそうとした。納得いかないから、と会って話すことを求めた私を、あいつは着信拒否しやがった。

 別れるのは、この際しょうがない。お互いの考えの相違。結局、合わなかったのだ、私達は。

 だけど、何なの!? 別れ話くらいマトモにしろっつーの! あんな男、こっちから願い下げよ!


 そう思うのに、どうして?

 まだあいつのことを考えている…。



 私を心配した友達に気晴らしにと飲みに連れてこられた。

 人がひしめく暗いフロアーに置かれたテーブル席に座って私達は飲んでいた。店内に流れる音楽や、人のざわめきに負けじと自然と会話の声は大きくなる。

「もうあんな男のこと忘れなって、朋子」

「そうそう。世の中、男はいっぱいいるんだから、あの男よりイイ男はたくさんいるよ」

 口々に友達は言った。私は頷いた。

「ほら、見て、朋子」

 友達はフロアーを指差した。

「イイ男も結構いるでしょ」

「ここで出会いをね!」

 友達の力説に私は軽く頷いた。

「ここの店員だってレベル高いんだから」

 そう言って友達はカウンターを指差した。

「例えばリヒトさん」

 友達の示した先にはバーテンダーの姿があった。

「見た目はクールビューティーで優しい大人の男」

 別の友達がフロアーでトレーを運ぶ店員を指差した。

「プリティビューティーのハトリくん。カワイイ弟タイプ」

「それから」

 もう一人の友達が私の顔の向きを変えた。

「ワイルドビューティーのカザキ」

 丁度目の前を背の高い店員が通り過ぎるところだった。

「タイプの違うキレイどころが三人も揃ってるんだよ」

「あんな男のこと忘れて、他の男に目向けなよ」

 友達に言われて、私は頷いた。

「うん…」

 解っている。

 あんな男に囚われずに次の恋を探した方がいいって。

 あんな男よりイイ男はたくさんいるって。


 なのに、どうして心はそれが理解できないんだろう…?



 暫く友達と飲んでから、明日のバイトが早いからと私は先に店を出た。

 帰り道、友達に言われたことを思い出した。


『あんな男のこと、早く忘れた方がいいよ』


 解っている。なのに…

「どうして諦められないんだろう…?」


「それは、あんたが自分をぶつけなかったからだろう」


 思わず口にした疑問に、思わぬ返答があった。

 振り向くと、さっきの店の店員がいた。カザキと呼ばれていた男だ。


「取り繕ってキレイな自分しか見せないでいたから、今でもあんたは自分を曝け出せない」

 カザキは私を見下ろして言った。

「何言って…」

 痛いところを突かれて私は思わず声を高めた。

「私は自分を見せたわよ。でも、弱いところを見せたら相手は去って行ったわ」

「あんたのキレイなところしか知らなかった相手は引いたのかもしれない。それは、そいつの弱さだ。所詮、器の小さい男だったのかもしれない」

 淡々とした口調でカザキは言った。

「でも、そんな男をあんたは諦めきれずにいる」

 図星だった。

「それは、あんたが今でも自分を曝け出せずに、そいつにきちんとぶつかっていないからだ」

 言い返せなかった。


「本音の自分を曝け出せば、スッキリするのに」


 カザキの目が私を捕らえた。

 私は黙ったままカザキを見上げた。

 何も知らないはずの男にここまで言われて、何を黙っているんだろう、私は。だけど、反論できなかった。

「ああ、そうだ」

 思い出したようにカザキが言った。

「忘れ物」

 カザキは指輪を差し出した。

 あいつから貰った指輪だ。飲んでいる最中に勢いで外したものだ。だけど、本当は心に引っかかっていた。

 それを知ってか知らずか、この男はわざわざ届けに来た。

 私は黙ってそれを受け取った。


「またのご来店をお待ちしてます」


 そう言って、カザキは戻っていった。

2004年初出。

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