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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
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一章7 友達と友達

  翌日。


  もしかして病院って暇じゃねと気がついた僕は、病院を抜け出して学校へ登校することにした。堂々としていれば誰も僕が脱走しているなんて気が付かないものだな。


  ──学園機関。


  僕が通っている学校の名前である。現行の学校ではトップクラスのエリート学校。分類は高等学校だが、ただの学校じゃない。


  この学校は、生徒を企業に売るのだ。


  生徒の教育権を購入し、一人前に仕上げて企業に売る。その売却益で学校を回す歴とした「企業」である。


  ここで教育を受けた生徒は大層優秀になり、企業でもすぐさま活躍が可能になり、将来が十分に期待できる。高収入は約束され、そのまま重要な職に就けることがほとんど。つまりめちゃくちゃ優秀。もっとも未来に近い場所と言われている。


  生徒の待遇は手厚い。僕とか親居ないし収入源ないけど、学校から補助費がめちゃくちゃ出ていて、家賃なり食費なり全部出してくれる。最高だな。


  だが成果主義で、やる気のない生徒なり、無能と判断されるに十分な評価が重なれば退学。悲しいね、競争社会だ。


  入江四季の話では、僕はすでに学園機関から「売却」され、傭兵になったという。一年生の入りたてにも関わらずである。これはあまり珍しいことではないらしい。優秀すぎる人材であればふつーに企業にそのまま引き抜かれるケースもまあ、たまにある。たまに。


  そもそも技術学科なのに傭兵っつードンパチやるとこに行くのかよっつー話だが、金があれば世は全て事も無しという訳だな。やっぱ世の中金か。


  ──ので、もう僕は学園機関の生徒ではないのだが……。まあバレねえだろ。クラスメイトに最後の挨拶ぐらいしとくかっつー気分でうきうきの登校。


  茜谷とか後藤とか、仲良かったし。そのぐらいの人間性は残ってたらしいね、びっくり。


「おはよーございます」


  僕は登校中の生徒に混ざっていた茜谷を見つけて声をかけた。一人だったのが幸いした、友達とかと歩いてたら声かけづらい。


「……え──? うら、なぎ……?」

「よう、お久しぶりだな。元気してた?」


  記憶はないが、一ヶ月ぶりということでそのあたりを意識してみた。おお、茜谷ってばすげー驚いてる。目とか見開いてるし、歩くのを止めて僕を見てる。


「え……。な、なんで……?」

「まま、とりあえず学校行こうぜ。ほら、歩きながらでも──」

「いや、ダメだよ……。浦凪、君はもう、ここの生徒じゃ」


  茜谷はそこまで話してしまったとでも言うように口を閉ざした。


「え? もう知ってんの? 先生から話あったの?」

「え、いや……それは、まだだけど」

「まだ? どゆこと?」

「……。ごめん、ここで話すことじゃないよね。行こ」


  茜谷はまた歩き出した。


  僕は釈然としないながら続く。


「てかさ、君の髪の毛……色凄いよ? 分かってる?」


  ──茜谷はちらりともこちらを見ずに、ともすれば冷たい言い方をした。


  僕は自分の髪の毛を一房取ってみせておどけた。


  ──茶色に染めていた髪は、漂白されたかのように真っ白になっていた。流石に目立つ。


「ああこれね。凄いでしょ」

「凄いでしょ、じゃないでしょ……。何しに来たの」

「いやあ、挨拶とか? もう来なくなると思うからさ、仲の良い奴にはちゃんと会っとこうと思ってさ」

「そう」


  その後もたわいない会話は続いたが、茜谷は終始冷たいままだった。


  ──クラスの中にいると流石に目立つ。一応職員室に顔を出して、挨拶に来たことは伝えてあり、了承は得ているもののなんか行きたくない。僕はそこで茜谷と別れ、別方向へ歩き出した。


  あんまりじろじろ見られるのも趣味じゃない。


  髪の色を誤魔化すために自分のロッカーから作業帽を取り出して被って、自分の作業場に──いや、元自分の作業場に向かってみる。


  授業開始のチャイムが鳴った。学生は授業をこなさなきゃならないが、僕はもう学生じゃないので気楽すぎる。あー嬉しい。


  最後に見たのと同じように散らかったままだ。


  工具やパーツが転がり散っていて、完成品は何一つとしてない。


  さて、僕は果たして何をやろうとしていたのだったか……。


  ──赤い小さな破片を手に取る。


  これはマナリア。レギオンの「核」。現代を支える新エネルギー。


  既存の天然資源とは比較にならないほどの効率、エネルギーの量。少量から驚くほどの動力や電力を得られることから、現代の都市にとっては大動脈に等しい重要性を持つエネルギー源である。


  レギオンの残骸から大体指先程度の核が得られる。これの所有権は傭兵団にあり、都市への売却益で傭兵団はめちゃくちゃお金を持っていて、傭兵団は学園機関と並んでこの都市を牛耳る組織となっている。


  そのほかマナリアには全く新しい活用法の期待があって、フィクション染みた未来も目前とされている。


  僕の研究はマナリアの研究で、なんかやべー発見しようと思ってやったのだがまるで成果が出ないまま、マジでこのままだと学園から追い出されるというところ。


  ──赤い水晶は光を受けて輝いた。


  ……うーん。まあ、正直そんな面白いもんじゃなかったし、そもそも僕めっちゃ頭悪いし、どうにもこういうの向いてない気がすんだよな。


  そういう意味じゃ、ある意味で運が良かったというか、まあ運が悪かったからあんなことになったんだろうけど、まあ、うん……。


  作業場には埃が積もっていた。


  うーん。マジで一ヶ月放置されていたらしい。


  作業場は基本的にグループで共有されていて、その中に個人個人のスペースが存在している形だ。僕のとこだけなんか埃っぽい。悲しいな。


「何してるの」


  感傷に浸っていると、背後から声が掛かった。


  びくっとして振り向く。


「茜谷……。びびらせんなよ、怖えよ」


  茜谷が入り口に立っていた。


  ……おかしいな。今頃は教室で座学系のクラスをやってるはずなんだけどな。茜谷がこの時間にここにいるはずがないんだけどな。


  茜谷は無表情で、ともすれば怒っているようにも見える。怖い。入り口に立ったまま、ただこちらを睨んでいる。


「な、なんだよ? お前の作業場はここじゃないだろ」


  茜谷にはすでに専用の作業場が与えられている。入学して一ヶ月経たないうちに成果を上げた茜谷には、専用の個室スペースが与えられ、研究費も結構降りているはず。優秀な生徒には手厚い学園機関の特徴だ。


  茜谷はつかつかと乱暴に僕に詰め寄った。


  身長はさして変わらない、なんなら茜谷の方がちょっと僕より高いので少し見下ろされる形で向かい合う。


「ねえ。浦凪はそれでいいの?」

「それってなんだ? どういう意味だ?」


  聞き返した。突然なんだ?


「私の家が学園機関に関わっていること知ってるでしょ。それで、私は君のことを聞いた。──傭兵になるんだってね。上の方では有名だよ」

「……ああ。そういうことか」


  茜谷の家はそれはもうでっかい家で、権力とか富とか持っているすごい家なのである。いいなあマジ羨ましい。


  そんな金と権力持ちの娘である茜谷には、様々な話が聞こえて来るらしい。


「そうだよ。なるっつーか、もうなってる……らしい。それで?」

「君はそれでいいのって聞いてるの」

「それでいいのって言われてもな。僕がどう、とか関係ないしな。金で売られただけだ」

「──それでいいの、って聞いてるの!」

「いんじゃね? どのみち、僕はここじゃやっていけなかったと思う。頭悪いしなぁ、ここに入れたのだって、別に学力とかで入学出来たわけじゃない、偶然だ」


  大体本心を答えたのだが、茜谷の気には召さなかったようで、茜谷はみるみる不機嫌になっていった。怖え、茜谷って怒らないし温厚だからこういう顔すると怖えんだよな。


「君の意思は、どうでもいいってこと?」

「そうは言ってねえよ。そもそも生きてるだけで御の字だ、何も傭兵になって悪いことばかりじゃない。給料いいらしいし、文句はない」

「……そう。そう、なんだ。じゃあもう、私から話すことは何もないよ。もう──いい。じゃあ」

「おい、茜谷──! って……」


  呼び止める声を無視して茜谷はすたすたと歩き去っていった。


  残されたのは静寂だけ。


「なんだってんだよマジで……」




  *




  その後、作業場に来た顔馴染みや、クラスメイトと一ヶ月ぶりの再会を果たして会話に花を咲かせたりしていた。後藤や木村の様子は変わりなかったものの、僕を心配する様子や、申し訳なさが混ざったりしていた。


  昼。学食で昼飯。


「──で、もう明日からか?」

「ああ。正直何も知らないけどね」

「マジか……。すげえよなー。そんなことってあるんだな」


  後藤、沖島、木村。それに僕。この四人で入学以来つるんでいた。


「しかしあの浦凪がねぇ。顔以外に取り柄がなかった浦凪が今や傭兵とはなぁ……」

「ほんとそれ。あの毎度毎度女の子のフリで説教を切り抜けていた浦凪がなぁ……」

「マジそれな。女子ムーブのコミュ力全振りでそれ以外を捨てた浦凪がなぁ……」


  散々な言い様であるが、だいたい事実なので何も言い返せなかった──のは昔の話だ。今の僕はこんなボンクラの落ちこぼれ共とは違う、傭兵だ──!


「何とでも言えよ。もう僕はここのヒエラルキーを突き抜けた存在、勝ち組なんだよ。お前らとは違うから」

「調子乗ってんな。つか浦凪、お前ほんとに戦えんのか? ひょろひょろじゃん」

「なめんな──」


  ……傭兵には、適正というものが必要なのだ。んで、それを持っていると身体能力がクソ上がってレギオンと戦えるようになる……らしい。だから僕もそうなっているはずなんだが……。


  一向にその兆候も見られない。まるで前と変っちゃいない……。


  実際その不安はある。これマジで大丈夫なのかな……。


  ──そう思いはする。だが僕に適正が存在するのは事実なのだろう。でなければ傭兵団が僕を買い取るはずがない。たぶん大丈夫でしょ。


「それじゃもう明日からは会えねえのか?」

「さあね。正直、詳しい説明は何も受けてないんだけど……まあ、自由度は減るんじゃね」

「でもさ、傭兵ってすげー高級取りなんだろ? めっちゃ奢ってもらえるじゃん」

「は? ぜってぇお前らには奢ってやらねえからな。僕は上級国民になるんだよ」

「浦凪さん〜、頼みますよぉ〜。俺たちロクに成果出せてないから貧乏学生なんですよ〜」

「うっせーなバイトしろ。つか出せてないじゃなくてそもそもやる気がないだけだろ」

「いやだってさ、めんどいじゃん。楽できると思ってめっちゃ頑張ってここ入ったのにこんな大変だと思ってなかったっつーか。それに浦凪だって同じだろ?」

「僕はほら、生きるためだったからノーカン」

「なんだよ生きるためって」


  適当な冗談と受け取られてバカ共は沸いた。こんな奴らでも、中学は相当優秀だったというのだから世の中分からない……。


「てか今日マジで暇なん? 先生言ってたけど、もう移籍した扱いになってるらしいじゃん」

「ああ暇だ。本当なら病院で経過観察なんだけどな、暇すぎてどうしようもなかったから」

「えマジ? やばくね? つかこの一ヶ月何があったん? なんも連絡つかんかったし、先生方も何も知らねえっつってて」

「あー。んー。まぁ……言えない。めんご」


  都市内部でレギオンに襲われた──などという事実が都市に広がれば恐慌だ。そのため、これを広めることは入江四季から止められている。


  レギオンとの戦争が一段落着き、人々は安全という麻薬にどっぷり浸かり切って依存した。レギオン大戦の恐怖は相変わらず根付いたまま、その記憶は都市を守る傭兵達への畏怖にすり替わっている。


  ──もしも、明日自分がレギオンに襲われる可能性があるとすればどうだろうか。絶対に安全である保証が取り除かれればどうなるのか。


  まず傭兵団への信用がガタ落ちする。第三都市に住む人々はレギオンによる命の危険への保証を傭兵団に保ってもらう変わりに、保証料を支払っている。これは生存保証と呼ばれている。この保証は第三都市の全ての人間が加入しているのだ。


  なぜなら第三都市に居住する条件の中に、この保険に加入していることが入っているからだ。都市の序列には、その都市の安全度も関係してくる、そのため、第三都市というのは安全性に関する信用度が高いということでもある。


  ──崩れる。その信用が一瞬で瓦解する。


  第三都市が安全ではないかもしれないという認識は、大きなうねりを生む。最初に想定されるのは他都市への移住、避難。それに第三都市と外部でのビジネス的な取引が最悪の場合全て取り消されたりして、経済への打撃がやべーことになりかねない。最悪、都市そのものが揺らぎかねない事態に──。


「……ま、言えないこともあるか。いきなり生活してて突然適正が現れるなんて、そんなことあるわけねーもんな」

「めっちゃ気になるけどなぁ。人体改造とかされたんじゃねえの?」

「あー。普通に近いものがあるわ。そんな感じとしか言えない」


  何かを察してあまり口を開かせない友人たちに、この時ばかりは感謝した。


「ま、なんにせよ元気でな。死ぬんじゃねえぞ」

「俺はまだ信じられねえけどなぁ。浦凪が傭兵なんて」

「そりゃそうだろ、いきなり過ぎ。もう訳わかんねえ」


  友人たちは好き勝手言いたい放題だ。僕も気持ちはよく分かる。


「ま、頑張れよ。たまには遊ぼうぜ」

「ああ──そうだな。ありがと」


  誰一人として心配なんてしない。止めることもしない。ただ──事実を理解して受け止めるだけ。口を挟まず、ただ認めてくれるだけのその関係は、なかなかに居心地がよかった。



評価オナシャス! なんでもしません!

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