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現代文明崩壊世界のチート活用方法について  作者: 文部一升
一章 夏と死神の戦争ごっこ
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一章エピローグ 雇われ共の戦争ごっこ

 ──血の染み込んだタバコの箱から、一本を取り出して口に咥える。


 それから手で風を防ぐようにタバコを囲い、ライターで火を着ける。


 すぐに火がつき、僕は煙を吸い込んで吐いた。白い煙が空に溶けて消えた。


 ……だいぶ様になってきたんじゃないか。慣れてきた。


 奈良宮のポケットに入っていたリーパーとライターを拝借して僕は使っていた。血がずいぶん馴染んでいたが、構わず使っている。


 墓場に馴染みはない。親は若葉で死んだし、その後墓が出来たのかも知らない。興味ない。


 だからこそ、墓参りなんて初めて来た。


 作法なんてなに一つとして知らないし、興味もない。だから墓の前まで来て、気持ち的に両手を合わせて拝む。タバコを咥えたまま。


 目を開けて一服吸うと、横に女が居た。僕は舌打ちした。


「タバコやめなさいよ、結弦の臭いがして癪だわ」

「知るかよボケ」


 ──首と両手首に黒いリングを巻いた女が立っていた。フロウだ。今はごく普通の人間が着るような、カジュアルな装いだ。


 こいつは今、その黒いリングでレギオン因子を封じられている。つまり一般人と変わらない……らしい。


 ……沈黙が辺りを包んだ。静寂だが、ちっとも気まずいとは思わない。むしろ早くこいつ居なくなれとずっと願っている。


 ──フロウの処遇は、ひとまず保留だ。


 どうやら、第十二都市若葉にとってこの女は取り戻したいと思うような人間じゃないらしい。どころか若葉からは無能扱いだ。流石に僕でも同情する。傭兵の重要性をわかっていないのか、それともブラフでわざとそう発言しているのかは判断がつかない。


 だが傭兵を蔑ろにするのなら、まあ未来はないだろうな。


 なので、保留。殺すのはいつでもできるから、取り敢えずは無力化しておこうという訳だ。こいつには監視装置がべったりくっついていて、もはや人権はないが、一応の外出権は持っているらしい。ジェイとラックも同様に。


 それでたまたま、墓参りの時間がかぶっちまった。最悪だ。


 しばらく黙ってタバコをふかしていると。


「ねえ」


 僕は無視した。話したくなかったし。


「私は間違っていたと思う?」


 キレそうだったがギリギリ堪えた。僕偉い。


「知るか……。だがお前が間違いじゃないなら、この世に間違いは存在しないだろうが」

「そうよね」

「ハニトラのつもりが、いつのまにかベタ惚れか。アホくせえ、三流ドラマかよ」

「あは、言えてる。第十二都市の上層部はレギオンと戦うはずの部隊にハニートラップをさせるのよ、バカだと思わない?」

「……お前、向こうに戻りたいとか思わないのか?」


 故郷を罵りだしたフロウを奇妙に思って僕は聞いた。


「さあね。結局、私にとって一番大切なのは、家族じゃなくて結弦だったわ。……失ってから気づくのよね。どうして神様は自分にとって一番大切なものを教えてくれないのかしら」

「そりゃあだって、僕たちが神様を毛嫌いして罵るからだろ。教えてくれるはずがない」

「あはははっ! だってそうでしょ、私たちが信じるべきなのは、いつか自分を殺してくれる死神でしょう? 救いを与えてくれるのは死神なのよ」

「じゃあ僕は奈良宮にとっての神様だったってことか。皮肉だな、奈良宮はお前を助けたつもりが、その実救われてたのは奈良宮本人だったって訳だ」


 僕は吐き捨てた。そしてフロウは怒ると思っていたのだが──。


「……そうね。もしかしたら、救われたかったのは結弦かもしれなかったわ。もう私には、何も言う資格なんてないけど」

「──おい。お前まさか、死にたいなんて思っているんじゃねえだろうな」

「何よ、人の勝手でしょう。あの時私を殺してくれれば良かったのに……私はもう疲れたわ。家族のこととか、若葉に残したままの友達のこととか、もう全部どうでもいいの。結弦がいない世界に価値なんてないわ。それともあんたが私の神様にでもなってくれるのかしら」


 フロウは何もかも諦めたような顔で、ふざけたことを真剣に話すものだから当然僕はキレてフロウをぶん殴った。……死なない程度に。フロウは倒れて突っ伏した。


「ふざけんなよ!? てめえ奈良宮が死んだ意味をおじゃんにしてくれるつもりかよ! 散々大切な人なんだの言ってレギオンけしかけて大勢死傷者出した上に、奈良宮に庇われればそんな大切な人なんてどうでもいいし死にてえだと!? てめえ今更都合よく死ねると思ってんのかよ!」

「……何よ。うるさいわね。あんたには、何も関係ないでしょ。熱くなんないでよ、うざったい」

「ッせーなボケ!」


 僕は顔を起こしたフロウを掴み上げて叫んだ。


「てめえの罪はな! 大勢を傷つけて古布里を殺したことじゃねえ! 本当に罪だったのは、それを罪だと思って迷ったことだ! 故郷と奈良宮を天秤に掛けて故郷を選んだ癖にそれを今更後悔してることだ! 一度は殺そうとしたはずの奈良宮に今更死んで欲しくなかっただとッ⁉︎ ふざけんじゃねえッ!」

「何よ、何よ! あんたに何が──」

「分かるかよバカが! てめえのことなんざ何一つ知りやしねえよ! 興味もねえ、これっぽっちだって知りたくもねえよクソが! いいか、てめえの罰は、その償いはな──救われねえことだよ! てめえはその後悔を一生抱えて長生きして最後の最後まで後悔しながらこのクソみてえな世界を生きろ! 死神だっててめえなんぞお断りだ!」

「言ってくれるじゃない……。じゃあ私が未来に希望を持って楽しく生き始めたらどうするのよ?」

「ハッ──」


 僕はリーパーを墓場の塀にすりつぶして火を消した。


「そうなったら僕がお前を殺してやるよ。お望み通り、死神になってやる」

「は──クソね。こんなの生きれたものじゃないわ。どっちに転んでも救いなんてないじゃない。やっぱりあんたクソね。やっぱりあの時殺しておけばよかったわ。いえ──いつか、殺してやるわ」

「てめえみてえな三下には一生無理だ。諦めて絶望してその辺に這いずり回りながら生きてろ」

「はッ、言われなくたって生きてやるわよ! クソみたいな世界でも生きてやるわよ! それでいいんでしょうッ⁉︎」

「はん。だから最初から言ってるだろ──」


 タバコを箱から取り出して、火を付けて墓に一本供える。


 それが、僕が殺したお前への償いでもあるのだから。お前を殺した罪を一生背負って生きていくし、お前が守ったそこのクソ女が僕にとってどれだけ憎いとしても、絶対に死なせない。


 償いというのはそういうことだろう。


 残念ながら、まだ僕たちは生きている。


 死神がいつか僕たちを救ってくれるその日まで──。



一章終了です。

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